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Nazeema Alli(Bill & Melinda Gates財団プログラム准研究員) Rahim Rajan(Bill & Melinda Gates財団プログラム上級研究員) Greg Ratliff(Bill & Melinda Gates財団プログラム上級研究員) |
EDUCAUSE Review, vol. 51, no. 2 (2016年3・4月号) |
本稿は、EDUCAUSEの許可を受けて本協会の事業普及委員会翻訳分科会で翻訳したものです。
原文 | How Personalized Learning Unlocks Student Success |
高等教育においてテクノロジーを用いることは、学生一人ひとりに合わせた学習経験させたり、学業不振の学生が学びの核となる技能を身に付けるのを助けたり、学生の卒業のための学びの過程を評価し、その途中で問題が発生した場合には誘導付き指導案を開発する、などのツールを提供することができる。
過去、数十年の間に、典型的な大学生のプロフィールは劇的に変化した。高等教育も同様に進化する必要がある。今日の大多数の新入生(低所得者層の学生、家庭で初めて大学に進学した第一世代の学生、25歳以上の学生などを含む)は、より個々人向けに開発された学習環境を求めている。すなわち、彼らはそれぞれのニーズと目標にあった学習を必要としているのである。
幸いなことに、高等教育において、テクノロジーを用いることは、学生一人ひとりに合わせた学習経験をさせ、学業不振の学生が、学びの核となる技能を身に付けるのを助け、学生の卒業のための学びの過程を評価し、その途中で問題が発生した場合には、誘導付き指導案を開発する、などのツールを教職員に提供することができる。このようなパーソナルラーニングに必要とされる変化を仕掛けるには、多くのことを行わねばならないが、学生に学業達成をもたらすビジョンや、その実績によって、私たちは一歩前進することができるのである。
学生が成長するのか葛藤するのか、そして米国の経済が成長するのか停滞するのか。その両方にとって、今ほど大学課程を修了することが重要性を帯びている時代はこれまでなかった。大学卒業資格・学位を持った学生は、これまで以上に有益で、雇用され、市民として活躍する可能性が高いからである。彼らが教育の階段を一歩一歩上がるごとに、平均的な収入もそれに応じて増大するのである1。
2020年までに、米国内の仕事の65%で大学卒業資格が求められる。ところが、2013年の段階では、米国の労働生産人口の40%が大学卒業資格を持っているにすぎない2。そのため、大学は学生の定着率と修了率を上げるよう強く迫られているのである。
それと同時に、今日の学生は多様なバックグラウンドをもち、それぞれの課題に直面し、しばしば勉学以外にも、以下のような多様な困難に向き合わなければならない。
このように、学生層がますます多様化したことにより、大学が今日の学生のニーズに応えるために、私たち高等教育に関わる人間が、学生が高等教育を修了するのを手助けするだけでなく、でき得る限りのことを行うことが、これまで以上に重要性を帯びてきている。
大学への入学者数は、過去25年間に50%以上増加した。ところがその一方で、過去20年間に3,100万人以上の米国人(今日の労働人口の15%に相当)が、修了証や学位を取得することなく大学を去っており、さらに100万人を越える学生が毎年ドロップアウトしているのである4。
ACTによれば、1年次・2年次の定着率には幅があり、2年制大学で55%、選抜を行わない4年制大学で64%とされている5。さらにNCES(National Center for Education Statistics)によれば、2010年秋に、初めてフルタイムの学生として勉強を始めた学生のうち、修了証や準学士を取得した率はわずか29%にとどまった。一方、2007年秋に、初めて学士号を目指し、フルタイムの学生として勉強を始めた学生の修了率は59%であった6。これらの統計資料が示すところは深刻であり、この数字が大きく変わらない限り、米国経済は大学教育を受けた就業者の不足に直面することになる。
残念ながら、学生が学位や修了証を取得できるかどうかの最も大きな要因の1つが、知能や試験の成績、あるいはやる気ではなく、家庭の所得なのである7。高等教育とは、彼らに機会を提供し中間層へと導く橋渡しとなる潜在性を秘めながらも、その一方で厳しい現実として大きな障壁にもなってしまうのである。
Bill & Melinda Gates財団の目標は、学生が自立し、コミュニティで活躍し、それぞれの夢を実現するために、大学の教育課程の修了を後押しすることである。財団のパートナーと研究者(補助金受給者)は、どうすれば上述の新たな学生層に対応できるかという問題に取り組んでいる。彼らの研究によれば、パーソナルラーニングが、学生たち、とりわけ成績の芳しくない学生が修了証や学位を取得するのに役立つという。
パーソナルラーニングは、学生に対して単一の教育法を適用するのではなく、学生の事前知識、学習のニーズと目標に特化した、いわばオーダーメードの教育手法を提供することである。学生は、自分をターゲットとし、自分のために用意された教育を受けることで、最も効果的に学習することができる8。学生の学習成果を向上させたパーソナルラーニングの活用事例を以下に紹介しよう。
これまでの研究から、指導者や教育者がどのように学生に教えアドバイスするかについて、強力な新しい教育・学習・アドバイス手法が、学生へのより個別な対応に資することがわかっている9。パーソナルラーニングの手法と環境が学生を引きつけ、タイムリーなフィードバックと堅固な学生支援をもたらしている。このような質の高い教育とアドバイスが、学生の大学定着率を高め、ひいては課程修了率を高めるのである。
学生一人ひとりの学びに合わせたテクノロジーと学習資源を用いて、学生がどこにいても、最も効果的なアダプティブラーニング*を、手頃な学費で受けられるとしよう。もし、全ての高等教育において、一人ひとりの学習者の目標に対応した、アダプティブラーニングによる学習経験に重きをおいた変革を、絶えず進めようとする強い文化があったらどうだろうか。また、パーソナル教育で、新しい革新的なツールが学習効果をもたらすばかりか、経済的にも実現可能なものになったとしたらどうだろうか。
リメディアル教育プログラムと一般教育プログラムが、学生一人ひとりの事前知識、技能、個人的関心に合うように個別化されているとしよう。そうなれば、大学への進学の第一世代と低所得層の多くの学生たちは、大規模な講義形式の授業を履修させられても、常にインタラクティブなブレンディッド・コースに参加することができる。そこでは、改訂された内容・適応シミュレーション・問題設定・評価の恩恵を学生は享受することができるのである10。
学生が円滑に、かつ深く学習できるようになるために、講義ばかりではなく、1対1の個人指導、目標をはっきり定めたグループ学習、ピアサポート等々の方策を増やすことで、高等教育システム全体が学習を助ける時間と関心を割くような状況を想像してみよう。そのような環境下ならば、学習に対する当事者意識を学生がしっかりもち、自らのペースで内容を習得することができるはずである。
学生が自らの進捗状況を把握しつつ、それぞれの目標に到達することができるよう、個々人への対応を可能とする魅力的なツールとアドバイスを与えるアプリケーションがあって、これらを、すべての学生が利用できる状況を想像してみよう。このようなツールは、学生が高等教育の経験を積む道筋で、直面する岐路ごとに、彼らにモチベーションを与え、さらにその道しるべとなる、いわば地図のようなものとして役立つ。一方、教員や指導者にとっては、学生たちがどこで苦労し、どこでうまくいっているのかを、知るためのツールになり、これによって、学生一人ひとりのニーズに基づいて、リアルタイムで調整を行い、重要な学習指導を行い、さらに支援の量や質を変えることも可能になるのである。
脚注)* アダプティブラーニング:個人個人に最適化された学習内容の提供を実現する教育手法
朗報をひとつ。革新的なパーソナルラーニングによる学習指導は既に存在しているのである。その可能性は計り知れず、高等教育機関が採用すれば、多くの学生がパーソナルラーニングを享受でき、彼らの潜在力をフルに引き出すことが可能になる。学生中心の学習経路の開発を促進し、予測分析の手法を使って学生指導の方法を改善し、学習成果を向上させるテクノロジーは、アメリカ全土の高等教育機関で頭角を現しつつある。加えて、新しいテクノロジーを用いて、前例のない規模でパーソナルラーニングを実施できることを示す報告も相次いでいる11。当財団では、こういったテクノロジーの開発を加速させ、学生たちが大学卒業資格取得に向けてより多くの成功をおさめられるように、また、教員や指導者がどのようにこれらのテクノロジーを使えばよいのか理解が深められるように、取り組みを進めている。財団の補助による研究から判明したことは、学業不振の学生が、高品質のブレンディッド・ラーニングによるコース(教室内授業とオンラインコースの組合せ)を受けると、同じ量の学習内容を、従来の半分の時間で修得できる、ということである。さらに、ブレンディッド・コースによって、学業不振の学生の合格率が1/3上昇することもわかっている12。
パーソナルラーニングにおいて、デジタルコースウェアは学生にとってアクセスのしやすさと費用負担のしやすさを高めるための強力な手段である。財団は、パーソナルラーニングを提供するための次世代デジタルコースウェアの採用と促進のため、学習・教育テクノロジー関連組織や大学と連携を行っている。次世代コースウェア「Challenge」13を通じて、学習で戸惑うことの多い、多数が履修する一般教養コースでも、低所得層の学生がうまく乗り切れるよう、財団は高品質コースウェアによるソリューションに助成を行っている14。
アダプティブデジタルコースウェアが学習者にとって良い成果を生み出すことが、これまでの成果から得られている。さらに、学生のコース修了を早める学生の潜在能力を引き出すことで、コースウェアの革新が指導にかかる全体の費用を削減することにも役立つ可能性を示唆している15。また、これまでの研究からは、アダプティブラーニングがどういう場面で、そしてどのような形で最大の効果をもたらすかが明らかになっており(表1参照)、学生たちの学業達成の見込みを向上させるために、大学や政策立案者がその資源を有効に活用することにも役立っている。
表1 学習に対するプラス効果の特徴 1. 広がり 補助的なリソースや早期警報(アラート)システムを開発するよりも、コース全体のデザインを行う、もしくはデザインし直すプロジェクトの方が、効果が大きかった。 2. 活用分野 4年制大学よりも、コミュニティカレッジで実施されるプロジェクトの方が、効果が大きかった。 3. 学習者の準備レベル 適度に、あるいはしっかり準備のできている学生よりも、学習準備に難点のある学生をターゲットにしたプロジェクトの方が、効果が大きかった。 4. 対象領域 数学のコースの方が、他の対象領域に比べてよりプラスの効果があった。 5. 学生と教員の比率 中規模サイズのコースの方が、最小サイズのコース、あるいは最大サイズのコースよりも、大きな効果があった。 6. 進行の度合い コース全体の進捗状況を見て進行する、あるいはコース全体と個人の進捗状況の両方を組み合わせて進行するよりも、学生一人ひとりのペースで進行するコースの方が、効果が大きかった。 7. 学生の主要な役割 オンラインでの時間の多くを読解とビデオレクチャーの聞き取りに割くよりも、問題に取り組んだり、質問に答えたりする役割を学生に与えた方が、効果が大きかった。 8. 個別指導 学生の選択にしたがって個別指導を行うか、まったく個別指導を行わないコースウェアよりも、学生に対する評価を取り込みつつ、一人ひとりの成果に基づいて個別の指導を行うコースウェアの方が、効果が大きかった。 9. 習熟度基盤 習熟度の基準に基づいて、学生が新しい教材に取り組むに適したタイミングを決定できるコースウェアの方が、学生にみずから学習課程を選ばせるコースウェアよりも、学習効果が大きかった。 10. 適応テクノロジ 学習者一人ひとりに合わせて調整のできる学習システムは、学習効果が大きかった。 11. 様式 指導の半分以上がオンラインで行われるブレンディッド・ラーニングの方が、コース全体に大きな効果をもたらす傾向が強かった。
出典: Barbara Means, Vanessa Peters, and Ying Zheng, Lessons from Five Years of Funding Digital Courseware, exhibit 12.
Reprinted with permission.
学生ならびに大学教職員に、大学卒業資格もしくは学士号取得に向けた道筋を描くために必要なデータと情報はもとより、卒業をめざして、大学の課程を継続するために必要な、継続的な評価と忠告を提供する。つまり、iPASSとは、学生が無事に課程を修了できるよう導くための水先案内であり、アドバイス、学位取得計画、警告、学習指導などを組合せたツールなのである。これらのツールは予測分析に基づき、学生が留年もしくはドロップアウトする可能性があるかどうかを、カウンセラーやアドバイザーが事前に判断する手がかりを提供するとともに、学生たちにとっては履修コースを選択する際のガイドにもなる(表2参照)。
脚注)*iPASS:「Integrated Planning and Advising for Student Success」の略称
表2 iPASS 分類表 変更管理 学生と大学のデータ 分析とレポート 学生履修計画ツール 大学ツール 学生サービス 学位審査と履修計画 診断 学習に関する個別指導 転籍条項 警告 指導と助言 チューターと助言者の管理 教育資源の関連づけ
出典: Gates Bryant, “Driving Toward a Degree: The Evolution of Planning and Advising in Higher Education,” Tyton Partners paper, August 28, 2015, p. 9. Reprinted with permission.
複数の研究において、iPASSに代表されるツールが学業達成に与える影響について紹介されている。例えば、“The Effects of Student Coaching in College”(「大学における学生コーチングの効果」)の報告書によると、iPASSのような学習指導により、修了の割合が4ポイント上昇すること、しかも他のタイプの学習指導に比べてより安価であることがわかっている16。また、iPASSによって修了率が11.6ポイント上昇したアリゾナ州立大学のように、早くから改革に取り組んでいる高等教育機関においては、学業達成状況が改善されている17。さらに、iPASSが一巡すると、フルタイム入学生の増加が見られ、副次的な効果として大学間の競争力も生まれることが、研究により示されている18。最後に、iPASSを活用することにより、アドバイザーの関与の度合いが高まり、より質の高いデータに基づき学生の履修計画が組まれ、ひいては学業達成度が高まることもわかっている19。
iPASSの一例として、オースティン・コミュニティカレッジ(ACC)のディグリー・マップを紹介しよう。2011年に、ACCは学生の学習進捗状況を把握しつつ対話を促進するために、紙ベースの指導をデジタルベースの指導(e-advising)システムに切り替えた20。ディグリー・マップを活用することで、学生は学習活動に積極的にコミットし、アドバイザーと実質的な話合いをすることができる。この指導システムにより、学生はその時点の学位取得プランを的確かつ明確に把握でき、学生とアドバイザーの双方が、現時点の学位取得プランとそれとは別の学位を短時間で見比べ、指導のための話合いの質を高めることができる。オースティン・コミュニティカレッジでは、ディグリー・マップを使わなかった学生と比べたとき、履修計画と立てる際に2回以上これを利用した学生の場合、ドロップアウトせず課程にとどまる率が3.3ポイント上昇し、さらに5回以上利用した場合、実に7.3ポイントの上昇があった。
今日、iPASSの市場には100社以上のベンダーがあり、学位の確認と計画、分析と報告、ならびに警告などで構成されるソリューションを提供している21。最も強力なiPASSプログラムは、これらのツールを駆使して、学生、指導者、教職員それぞれに最も効果的な支援を行うものである。本財団はコミュニティカレッジ研究センターとも連携し、テクノロジー関連企業や大学ともパートナーシップを結びつつ、iPASSを通して学生の定着率を改善するためのテクノロジー開発を援助しており、近年では、高等教育における指導方法を変革している24大学に助成金付きの賞を授けた22。
パーソナルラーニングを成功させるためには、トップリーダーから、学生と直接関わっている指導者に到るまで、高等教育機関全体において戦略的な転換が求められる。その結果、大学は学生一人ひとりが学業を修了できるよう持てる資源をうまく配分し、教育を行うことに注力できる。そのためには、大学とそのリーダーたちが、学生を分析する手腕を獲得するとともに、経営手法を変革することが必要となる。
しかしながら、パーソナルラーニングと指導環境を支えるのは、学生一人ひとりの学業達成に向けて組織改善を推進するために、学習者分析を利用することである。そのためには、説明責任を果たす目的で伝統的に利用されてきた静的なデータではなく、リアルタイムで得られる学習・指導データが必要となる。なぜなら、そのようなデータこそが、管理者、学生支援、そして学生たち自身のための意思決定に役立つからである。この種のデータがあって初めて、重要なステークホールダーが確かな情報に基づき実行を伴う決定を行い、学生一人ひとりの学業達成に向け、持てる資源を有効に配分することが可能となるのである。
Norris/Baerフレームワーク(表3を参照)は学業達成のためにデータを使おうとする際に、大学のさまざまな要因が実は相互に依存している点に注目している。多くの大学にとって、変革とは、まずは学生を引き込むことに始まり、次に学生の在籍率を報告し、学習環境を創出し、労働力として社会に出て行く学生を支援するために、諸々の予測データを収集し活用することである。また、Norris/Baerは、大学が分析能力をどのように発展すべきかを判断するために利用できる診断法も提供している。
表3 Norris/Baerフレームワーク:分析を通した学業達成の最適化 項目 解説 例 1.学生経路の管理 学生経路に関する戦略的な受入管理の手法を科学的にアップグレードする
- 新入生の獲得、入学許可、入学者の履修登録の状況を改善し(=数を増やし)、学業達成の見込みを改善するために、データマイニングの手法と予測分析を活用する
- 学業不振の学生の成功率を改善するための方策を得るために、長期的な視点の予測分析法を用いる
2.定着と学業修了を阻む障害要因を取り除く 定着と学業修了を阻む構造的、政策的、プログラム上の各種障害を取り除く
- 包括的な初年次プログラムを支援するための分析手法を活用する
- コース・プログラムの履修を進めていく中で、ボトルネック(障壁)、必須要件・条件の中で合理的とは言えないものを取り除く
- 2年次から最上級年次における定着を高めるための方策と実践方法を具体化するために、予測分析法を活用する
3.学業不振の誘引となる行動に対応するため、動的・予測的分析法を活用する 教員・職員による支援プロセスに分析手法を埋め込み、正課面、および正課と並行して行う活動の両面において、学業不振の原因となる行動に対して、リアルタイムで学生を支援できるようにする
- セメスターの早い段階で学業不振につながる行動を察知するために、動的な予測分析法を用いる
- 種々のプロセスの中に予測分析法を埋め込む
- 正課面および正課と並行して行う活動への学生のコミットの度合いを監視し、是正が可能な学生に支援を行う。
4.学習者関係管理システムを進化させる 学習者の進捗状況を多面的に追跡・管理し、学業不振の可能性がある学生の行動に対応できる追跡システムを構築する
- 顧客関係(CRM)を管理するのと同じ機能をもった学習者版を作り、予測分析法を使って支援する
- 動的な予測分析法を拡大して、学習者関係管理に応用する
5.パーソナルラーニングの環境/学習分析を開発する パーソナルラーニングを、学習管理システムと学習者関係管理システムの中に取り入れる
- 成績予測分析法を埋め込んだパーソナルラーニングモードを開発する
- この分析法に裏打ちされたシステムを用いて学習成果を個別に検討する
- 正課カリキュラムの領域を越える学習経験の場を創出する
6.大規模なデータマイニングを実施する データマイニングの手法を用いて、学業達成への経路を明らかにし、これまで予期できなかった学習の実態を発見する
- データマイニングの手法を利用して、学習過程の予測モデルを走らせる
- 科学捜査的データマイニングの手法を用いて、成功をもたらす要因間の、これまで考えられなかった相関関係を調べる
- 大学横断的な比較や部門横断的な比較を実施する
7.学業修了のコンセプトを拡大して、学習、就業、人生における成功までを含める 学業修了の定義を拡大して、学習、就業、学習から就業への移行、さらに仕事での成功まで、いわば「ゆりかごから就業」に至る、学生一人ひとりのライフサイクル全体を包含する
- 対象を拡大して卒業生の分析まで含める
- 大学、企業、および部門まで対象を広げたデータマイニングを実施する
- 成功への道を明らかにする分析法を開発する
出典: Donald Norris, Linda Baer, et al., A Toolkit for Building Organizational Capacity for Analytics (Strategic Initiatives, 2012), p. 34. Reprinted with permission.
パーソナルラーニングによる教育支援は、組織的戦略と管理手法変更の双方が有機的に結びついて、初めて効果的な活用と運用が可能となる。つまり、戦略的計画と能力開発といった組織的なプロセスを結びつけることが大切なのである。また個別の支援を成功させるべく、リーダー、教員、アドバイザー、その他のスタッフが新しい技術や分析方法を修得するために、相当の時間、能力開発の機会、支援の提供が必要となる。成功するためには、(現在ある環境上の制約に左右されず)学生の学業達成を支援する一方で、新たに利用できるようになったツールを活用して絶えず改善を進める風土を作り上げることで、大学は前へと歩みを進めなければならない。
ここで、クイーンズボロー・コミュニティ・カレッジ(QCC)の例を紹介しよう。QCCでは、Starfish Early AlertとConnectというモジュールを使って、アカデミックリテラシーセンター、キャンパスライティングサンター、カレッジディスカバリーセンター、数学学習センター、それに学習センターを含む全キャンパスに跨る学生支援のネットワークを創り出している23。この学生支援ネットワークには、教員と学生からのリアルタイムのフィードバックが集積され、適切なタイミングで最も有益なリソースへと学生を誘導する。これにより、支援サービスの窓口間、また教員と学生との間にあった、いわば縦割りの弊害を解消することができた。また、このような再設計により、学生のニーズに対して、キャンパス内にある適切な支援リソースを使って、目的に応じて対応できる構図ができあがった。例えばQCCでは、学生への適切なアカデミックチュータリングの実施が、有効な学習支援法の一つとなっている。しかし、その一方で、教員に、このような新しいツールやネットワークを活用してもらうまでには、大きな課題を乗り越えなければならなかった。管理手法変更においてQCCが抱えている現在の課題の一つは、学生がこの支援ネットワークから、より迅速に恩恵を受けることができるようにすることである。
4年制大学で、フルタイムの学生として学位を目指し入学した学生の40%以上が、修了証あるいは学位を取得することなく6年以内に離学しているという現実を前にして、私たちは何も手を打たず、ただ傍観しているわけにはいかない24。今日の学生の大多数が必要としている、柔軟なパーソナルラーニングの学習環境を創出するためには、時代遅れの大学の仕組みを迅速かつ有効に変革していかねばならない。
Benjamin Franklinは、「言われただけでは忘れてしまう。教わったことは覚えられる。参画することで学ぶことができる」と述べたと言われている。パーソナルラーニングによって、学生は自らの成長に参画することができ、学習者としての当事者意識を高めることもできる。体系的かつ個別に対応する学習支援を行うことで、学生たちは学業だけでなく就業後にも成功を収めることができ、明確かつ方向性が定まった進路を思い描くことができる。
ここで述べたようなパーソナルラーニングによるソリューションを、より広くアメリカの高等教育へもたらすためには、システム上の大きな変革と、アメリカ全土の大学からの賛同が必要である。とはいえ、私たちは学生に学業を達成させるために、時間を無駄にするわけにはいかない。学生たちは、その潜在能力をフルに発揮して、高等教育の修了証あるいは学位を取得するのに役立つ環境に接し、支援を受ける権利がある。
論文執筆にあたり、Yvonne Belanger氏、 Julia Gray氏、 Jason Palmer氏およびTracy Sherman氏から協力を仰いだ。