特集 モバイル等を活用したアクティブ・ラーニング

モバイルとPCを活用した
アクティブ・ラーニング環境

宮田 義郎(中京大学 工学部)

1.アクティブ・ラーニングに必要な環境

 教育現場では近年「アクティブ・ラーニング」の重要性が強調されています。アクティブ・ラーニングは「伝統的な教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学習者の能動的な学習への参加を取り入れた教授・学習法の総称。発見学習、問題解決学習、経験学習、調査学習などが含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワークなどを行うことでも取り入れられる。(文科省・学士課程教育の再構築に向けて(用語解説))」とあるように、教室の外と教室内での能動的な学修活動が含まれます。
 そもそも、せいぜい百〜数百年の学校教育の歴史に比べ、人類は、その千倍〜一万倍という長い間、自然環境の中で自然物に直に触れ、社会環境の中で他者と直にやりとりしながら学んできました。私たちの学びの遺伝子は、このようなオーセンティックな現場での活動から学ぶように進化してきたはずです。
 ここで多様な自然物に触れ、社会の多様な他者と関わるオーセンティックな環境での学びと、学校の教室での学びを比較して見ましょう。まず、オーセンティックな環境の特徴は、①生存を支える食やエネルギー、道具などを作り出す過程が見えるため、自ら作り出そうとする挑戦心と好奇心の循環により学びの動機付けが生じやすい。②モノ作りを通じて人間関係が構築され、コミュニティーが人を支え、人がコミュニティーに貢献するという循環があります。
 これに対し教員による一方向的な講義形式の教育での学びの特徴は、①知識を作り出す過程が見えにくい(わかりやすくパターン化された授業や教材、正解の決まった内容、など)ために、自ら知識を構築しようとする挑戦心や好奇心が働きにくい。②知識の探求を通じた人間関係が構築されにくく、地球規模に広がった社会空間と、閉じられた学修空間の間に大きなギャップがあります。
 このように比較すると、教室内での学びだけでは能動的な学修がおきにくく、アクティブ・ラーニングに求められる能動的な学修には、オーセンティックな環境が必要だと言えるでしょう。
 一方でオーセンティックな環境は複雑で多様であり、そこでの体験は断片的にならざるを得ません。断片的な体験を統合し、一貫した意味を構築するには、一定時間集中することのできるクローズドな環境が必要になります。オーセンティックな環境での有機的だが発散的な体験を、クローズドな環境で統合することにより、アクティブ・ラーニングが完結すると言えるでしょう。可動机の教室での、学生相互や学外のゲストとのグループワークや発表会などは、有機的な人間関係がありオーセンティックな環境といえます。

2.モバイルとPCによるアクティブ・ラーニング

 筆者の所属する中京大学工学部メディア工学科では、様々なメディアを用いて制作を行い、何かを表現し、それを他者に伝える活動を行っています。その過程で制作、コラボレーション、発表・評価など幾つかの場面で、前節のような考え方で実践してきた、モバイルとPCを使ったアクティブ・ラーニングの例を紹介します。

(1)制作過程:モノつくりを通して人と関わる

 オーセンティックな環境では、制作を通して、年齢や立場の異なる多くの人たちと関わることで、作ったモノの価値を体験することができます。しかし、活動しながらその体験を記録・共有することは困難なため、その場で終わってしまいがちです。そこでスマートフォンなどのモバイルデバイスを使うと、活動しながら写真を撮影したり、メモを残したりして記録することができます。それらのデータはモバイルデバイスから送信しておけば、後からPCによる編集・共有できます。
 一例として、香港理工大学の学生グループが本学を訪問し、協同授業で環境問題についてのメッセージを伝える作品を制作した事例[1]を紹介します。教室内でのグループ活動では、香港と日本の学生が作品のコンセプトについて討論しました。また、豊田市の里山のオーセンティックな環境での、職人の指導による鍛冶屋や藍染など手作り体験を協同で行ないました。学生達は自発的に多くの写真を撮影しており、これらの写真から選んでlinoitというサービスを用いてウェブ上で共有し、どのような場面だったのかについて説明するテキストをモバイルやPCからのメールで投稿しました。写真とテキストは付箋紙のように画面上で配置をして編集でき、全員でKJ法のように統合してまとめていきました(図1)。

図1 香港理工大との協同授業のlinoitまとめ

 この方法の利点は次のようにまとめられます。

(2)オンラインでの対話

 上の例は、同じ場所を共有するパートナーとの協同学修であり、相手と対面で関わり、濃い体験が生まれやすいですが、遠隔地との協同学修ではどうでしょうか?典型的なのは教室全体を1つのSkypeでつなぎ、全員で一つの画面とカメラ・マイクで対話をする方法ですが、この方法では個人個人の対話は困難であり、一部のメンバーが交代で話し、全体にとって意味のある話に限定され、具体的に深まらずに終わりがちです。
 そこでタブレットなどのモバイルデバイスでSkypeを行うことで、自分の映し出されたタブレットが、分身のように相手の教室を手渡しで回りながら、個人個人と対話できます。図2は、オーストラリアの中学生が制作した作品をSkypeで見ながら一人ひとりにコメントしています。

図2 タブレットによるSkypeで教室を廻る

(3)オンラインコラボレーション

 次に海外のパートナーとのコラボレーション作品制作のために開発したツールを紹介します。筆者らが運営するWorld Museum Project[2]では、世界30箇所以上のパートナーがコラボレーションし、様々なテーマでアニメーションなどの作品を協同制作してきました。主に使用したScratch1)というツールは、①比較的簡単にプログラミングによってアニメーションなどの作品が制作でき、②制作環境は50カ国語以上に対応しており、③作品をウェブで共有し、コメントし合ったりパートナーの作品を編集(リミックス)したりできる、などアクティブ・ラーニングに適しています。
 しかし、Scratchは個人の作品制作環境であり、コラボレーション制作の際は、個人が全員のプログラムを統合する必要がありました。そこでWorld Museum Mapを開発しました。World Environment Projectでは、一人ひとりが紹介したい自然環境を現場でモバイルカメラで撮影し、PC上のScratchに取り込んで制作した地域の環境を紹介するアニメーションを、World Museum MapによってGoogle Map上のその地点に埋め込んで表示しました(図3)。これによって、町、国、地球全体の情報をシームレスに可視化することが可能になりました。

図3 World Museum Mapによるコラボ作品

(4)成果を発表し評価を得る

 アクティブ・ラーニングでは、学生が自ら活動した成果を発表して、オーディエンスからの反応によって評価を得ることができ有効です。学生が制作した作品を学生相互および学外からのゲストに対して発表し評価を得る場面では、「ポスター発表」形式は、多くの発表を同時進行で行い、一つ一つの発表では、少人数で質疑応答を行うために、活発なディスカッションになりやすく、またオーディエンスが入れ替わって、何回も繰り返し発表するのでだんだん発表が上手にまとまってくる、などの利点もあります。しかし、少人数での質疑応答を全体で共有することは困難です。付箋を貼っていき、最後に見ることもできますが、記録・共有は難しく、その場にいない人には伝わりません。
 そこで、Google Formを活用した評価フォーム(図4左)をあらかじめ用意しておけば、発表を一つ見え終えたら、スマホから評価やコメントを入力できます。回答は自動的に集計されて、回答の分布やコメントがリアルタイムで表示される(図4右)ので、すぐに全員で共有でき、オンラインで記録が残るので、発表者も後から見て振り返りができ、その場にいない人とも共有できます。

図4 Google Formによる評価(左)と集計(右)

(5)オンラインでの発表・評価

 海外のパートナーに対し発表して評価を得る場合、時差のためにSkypeなどリアルタイムの対話がしばしば困難です。その場合はVoiceThreadというウェブサービスによって、以下のような活動が可能になります(図5)。

図5 VoiceThreadによる作品とコメント

(6)拡張現実(AR)による作品発表

 ScratchやGoogleMapなどを使ってPCで制作した作品を発表する場合は、そのままではPCでしか閲覧できません。図3のアニメーション作品と、(1)で紹介した香港の学生との協同作品を、PCがない場所でもスマホなどのモバイルデバイスで閲覧してもらえるように、一つひとつのアニメーションを、Zapparというアプリを使い拡張現実(AR: Augmented Reality)として、ポスターサイズの紙に印刷したマップに埋め込むことにより、任意の場所で不特定多数の人が閲覧でき、コメントを送信することもできるようになりました2)

(7)ステージで発信、モバイルでフィードバック

 (4)でポスター発表で対面での発表を聴いた相手からのフィードバックを活用する例を述べましたが、その場にいない相手に対してはUstream、ConcertWindowなどのストリーミングサービスを活用して発表できます。World Peace Song Project[3]では、世界的コーラスグループであるWomen of the Worldと連携し作った平和の歌「World Peace Song」に世界15カ国の参加者がそれぞれの言語で平和を願う歌詞を作り、歌った録音を編集して、コンサートのステージでWomen of the Worldの歌と同時に世界のパートナーの歌声を再生しました。

図6 World Peace Song のステージ(MIT)

 そのパフォーマンスをストリーミング配信し、世界各国のパートナーがそれを観ながらモバイルで送ったメッセージをステージの大スクリーンで世界地図上に表示しました(図6)。

3.自然・社会環境と有機的な環境を構築する

 以上で紹介した事例に使われたツールとその活用のポイントを表1にまとめました。これら以外にも有用なツールは多くありますが、アクティブ・ラーニングにとって最重要なのは、ツール以前に、どのようなオーセンティックな自然・社会環境によってどのような体験を用意するかです。その体験を記録するモバイル、統合し表現するPC、フィードバックするモバイルと、適切なツールの選択と活用によって、自然・社会環境との有機的な関係を構築していくことが可能になります。

表1 主なツールとモバイル・PC活用
表中略語:GF (Google Form), MC (Mobile Camera), MM (Mobile Mail), GS (Google Spreadsheet), VT (VoiceThread), GM(Google Map),ZA(Zappar)

謝辞

 これらの実践は科学研究費補助金(課題番号25350302,及び課題番号22500944)の助成を受けた。

1) ScratchはMIT Media LabのLifelong Kindergartenグループが開発した学習環境で、全世界で2,000万人近くが登録し、毎月70万作品が共有されています。
2) 2017年夏に豊田市中心部の公共施設や繁華街などで閲覧可能になっています。
参考文献
[1] Miyata & Ho, World Connection Project - Hong Kong Youths Meet Nature in Japan -, International Journal for Educational Media and Technology 2017, Vol.11, No. 1, pp.108-115 (2017)
[2] 宮田,亀井,杉浦, ワールドミュージアム - 志を広げる多文化異年齢コラボレーション,日本教育工学会論文誌 37巻3号 pp.299-308 (2013)
[3] Miyata & Kamei, World Peace Song Project, Proceedings for Constructionism 2016, p372-373, Bangkok, Thailand (2016)

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