特集 モバイル等を活用したアクティブ・ラーニング

大人数講義にスマートフォンを活用した
双方向性授業の展望と課題

久保田 裕美(日本大学 生物資源科学部専任講師)

1.はじめに

 本稿では、大学生にとって身近なスマートフォンを活用した授業実践事例をもとに、大人数講義における双方向性授業の課題と展望について検討します。
 これまで講義では、その都度レジメや参考資料を受講者の人数分を印刷し配布していました。受講者が、150名以上ということもあり、資料印刷と配布にかかる時間と労力は膨大でした。さらに、フィードバック用紙を授業時に回収する際、多くの時間を費やしていました。
 授業では、「ロイロノート」という学修支援アプリを使用しています。結論を先に述べると、大人数講義にICTを導入したことで、資料配布に要する時間が短縮でき、また、授業の進行状況に合わせた資料の提示が可能となり、授業進行がスムーズになりました。さらに、ロイロノートでは、学生の意見をリアルタイムで集め共有できる機能があるため、これまでの知識伝達型の授業から、学生の考えや意見によって授業を作っていく双方向授業を展開することができるようになりました。
 これらのことについて、ねらい、具体的な実践内容、学生の声、教育成果について整理し、モバイル端末を活用したアクティブ・ラーニングの展望と課題を考察したいと思います。

2.参加し考える楽しさを経験できる授業に

 ICTの活用にあたっては、大きく3つのねらいがありました。一つは、教員が一方的に話す授業ではなく、教員と学生との間でやり取りをしながら作り上げていく双方向性のある授業にしたいということです。大人数講義では、受講者は受け身になってしまいがちですが、双方向性のある授業の実践を通じて学生には主体的に講義に参加する姿勢(学修意欲)を習得してほしいと思いました。
 二つには、この授業が学生にとって自分で考えることの面白さを知ってもらうきっかけになるようにしたいということです。教えられた知識を丸暗記するのではなく、「どうなっているのか」、「なぜそうなるのか」、といった物事の現状や背景について自分のアンテナを持ち、自分の頭で考える機会を作りたいと思っていました。例えば、正解をすぐに求めるのではなく、なぜそうなったかについての社会的要因を自分の頭で考える力を身に着けることもねらいとしました。
 そして、三つ目として、資料の印刷、配布、回収に要する時間を削減し、効率かつ効果的に授業を行いたいということがありました。

3.具体的な実践内容

 では、具体的にどのような方法で授業を実施したのかについて見ていきます。
 講義では、授業時スライド資料を配布してほしいという学生からの要望が多くあります。ロイロノートは、教員がパソコンやタブレットの画面からカードを送るだけで、学生と共有したい資料を共有したいときに瞬時に共有できます。学生は手元でカラーの資料を確認でき、細かなグラフや統計数字も手元のスマホ画面で拡大して見られるため、講義資料をよく見るようになりました(写真1)。

写真1 細かな統計資料も手元でいつでも確認できる

 「この問題に対して、あなたはどう考えるのか」というように、授業中に学生へ質問します。学生はロイロノートのカードに自分の意見を入力し(写真2)、その場でロイロノートからカードを提出します。回収した意見は、画面に一覧で表示されます(写真3)。受講者は他の学生がどのような考えなのか参照でき、また、自分の考えを客観的に捉えなおすことができます。大勢の前で発言はできないけれど、ロイロノートなら、意見を出しやすいという学生の声も聞かれました。ICTの活用により大人数講義であっても学生が授業に参加できる機会を提供する事ができると思います。

写真2 質問や意見を手元の端末で入力し送信する
写真3 画面上に表示される学生のコメント一覧

4.学生の感想から

 授業に参加した学生の感想を紹介します。

良かった点

悪かった点

5.学生と教員と互いの気づき

 今回のスマートフォンを利用した双方向性のある授業の実践では、まず、学生に大学の講義は自分で考えながら参加することで、とても面白くなるということを、知ってもらいたいというねらいがありました。「4.学生の感想」で紹介したように、「講義に自分で考えながら主体的に参加すると楽しい」ということを、自ら経験し実感してもらえたことは、一つ、大きな教育成果だと思います。
 学生にとって身近なスマートフォンを活用しての授業方法は、これまでの受け身の受講から主体的参加へという学生の意識の変化、さらには、その分野への興味を喚起し、学修意欲が向上するという教育成果が期待できると考えます。
 また、教員にとっては、講義の内容に対して、学生がどのように考え、何を感じているのか、理解度はどうかなどを、リアルタイムに把握することができ、状況に合わせた授業を展開することができます(写真3)。

6.今後の展望と課題

 スマートフォンを利用した双方向性のある授業のあり方を総括するにあたり、最後に、学生の声を2つ紹介したいと思います。
 A学生「デジタル社会の中であるべき講義の姿であるためこれからも多くの講義等で採用されていくべきである。リアルタイムで先生とのやりとりができることで、講義に活気が生まれ学生に講義への意欲が増したと思う。しかし、あまりに画期的で斬新であるため素直に、呑み込むことのできない学生もいるはずである。それでも、このロイロノートを使い続けることが、新たな大学の講義になり将来は当たり前の光景になるはずであるため、諦めずに講義革命を行っていっても面白いのではないだろうか。」
 B学生「双方向授業は良いかもしれませんが、ロイロノート使えずに参加できない人が出るのは良くないと思います。まず、ロイロノート使い辛いです。レジュメ配って欲しいです。ロイロノートやめた方がいいと思います。」
 今回、聞くだけの受け身の授業から自分で考え学ぶことを意識できる授業への転換するために、学生のスマートフォンを利用して双方向性のある授業実践を試みました。
 その結果、上記にあるA学生のようにスマートフォンという身近なモバイル端末や学修支援アプリなどを活用することが、学修意欲の向上において重要な推進力となることが確認できました。その一方で、B学生のように、新しい授業方法やICT技術に対して抵抗感を示す学生がいることも分かりました。
 ICTを活用したアクティブ・ラーニングの推進が期待されるところですが、大人数講義でスマートフォンを利用することに対しては、導入初期の頃と比較すると、以前よりも比較的スムーズに学生に受け入れられるようになってきたと感じています。一方で、変化への対応が困難である学生やデジタルディバイドの視点に立った学修支援の必要性も感じています。

写真4 大人数講義でも双方向性のある授業に

 筆者がスマートフォンを利用した双方向性のある授業の方法を最初に実施したのは2015年度ですが、それ以来、大人数講義において、ICTを活用した授業を実践していく中で、ノウハウも少しずつ蓄積されてきました(写真4)。現在は、導入初期の頃と比べて、学内の通信環境が整い、よりスムーズにスマートフォンを活用した授業を実施することができるようになりました。また、最近では、「Google Classroom」を用いて予習確認テストや授業理解度確認テストをオンラインで実施するなど、新たな試みを行っています。
 スマートフォンを活用した大人数講義における双方向性のある授業のあり方については、日々、反省と試行の繰り返しですが、学生にとって、自分で考えることでいかに学び(授業)が楽しくなるかを経験できるような場となるよう今後も授業を改善していきたいと思います。


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