特集 モバイル等を活用したアクティブ・ラーニング

携帯・スマホクリッカーを利用した
授業運営の展開

杉井 俊夫(中部大学 工学部 都市建設工学科 教授)

1.はじめに

 本学では、授業14週目以降に行う「学生による授業評価」と、開講学期中に授業担当者が自由に作成できるアンケート「授業改善アンケート」を2008年度から実施されてきました。これらの「学生による授業評価」「授業改善アンケート」は共にwebを使ったパソコンのみでありましたが、2010年に、携帯電話やスマホでも使用できるシステムへの改変に伴い、クリッカー機能を利用できるよう、同年9月よりChubu University Mobile Clicker (愛称:Cumoc キューモ, 仏語のようにcを発音しない)の運用が開始されました。また、翌年には、教職員の研修環境でも使用できるCumoc L(愛称:キューモ・エル)も付加されました。本稿では、Cumocを使用した授業運営の実践について報告します。

2.Cumocの特徴と教育効果

 Cumocは、教学システムと連動しており、履修申告により、すぐに使えることが可能です。また、10設問、10選択(択一式)が設定できるようになっており、自由記述も可能になっています。このままでは回答学生を特定できませんが、それぞれの設問で、どの選択肢を選んだかを同一回答者のデータとして回収することは可能です。もし、回答学生を特定したい場合には、自由記述欄に学籍番号や氏名を記述してもらうことにより、運用上で対応できます。

3.記憶定着及び授業外学修を促すための利用法

(1)記憶定着力と学生のやる気

 土木工学分野における専門科目の「土の力学Ⅰ」と「土の力学Ⅱ」という60〜70人の学生数の講義でCumocを使用しています。パワーポイントを使用する授業スタイルで、毎回、ノートをとる形式です(図1)。

図1 Cumoc(学生端末画面)

 当初は、前の時間の復習を目的に始めました。授業の開始に10分ほど時間をとってCumocを毎回使用しています。テキスト、ノートの参照、学生同士の相談を認めず、パワーポイントに提示された問題の選択肢から回答してもらいます。回答の終了後、すぐにパワーポイントを使って正解の解説を行い、最後の設問である「何問正解したか」を聞きます。
 全ての設問が終わったら、Cumocの集計結果をスクリーンに提示します。スマホの電源不足、携帯・スマホを忘れた、パケット契約していない学生などには、予め、自分の選んだ結果をノートに記入するなど伝えておき、記述したものを提出することは求めておりません。テストとして利用するものではなく自分の記憶定着力を測り、理解できていない点を自ら知るという意味で実施しているからです(図2)。

図2 集計後の提示画面

 Cumocの各設問の回答結果をみると、何パーセントの学生が理解しているかがその場で分かり、そこから講義内容に解説を加えたりすることも可能です。実際に、回答結果が2つの選択肢に分かれたことがあり、教え方において誤解を生ませた可能性があると気づいたこともありました(図3)。

図3 設問の正解と解説のパワーポイント資料

 最後の質問、何問正解できたかを集計することは、教員にとっても学生にとっても大きな意味があると考えます。学生は、「他の学生はできているのに、・・」「今度は満点とるぞ・・」と回数を重ねるごとに熱心に取り組むようになって行きます。教員としても、「次回は、○%以上の皆さんが、満点とってくれるように目標にします。」と伝えると、チームワークができたように講義室内の雰囲気が変わったり、毎回授業で感想を書いてもらう「シャトルシート」では、「初めてCumocで満点が取れてよかった。」と嬉しそうに書いてくれる学生も少なくありません。

(2)授業時間外学修

 授業後には、学生が自宅でパソコンからCumocの結果をみることができ、自分が選んだ回答も赤字で表示されるため、いつでも振り返りが可能です。また、本授業の場合には、設問に使ったパワーポイントの資料の一部を、授業科目ごとにホームページにアップできる「ライブラリー(Course Power)」に、授業の後にCumocの設問を含めてアップしており、学生が授業後、何度でも復習することができます。教員はアップした資料に学生がアクセスした回数や時間、参照資料数などを学生の特定を含めて確認することもできます。これをみると現在では、授業外学修のきっかけになっていると考えます。

(3)Cumocを使用する教員の負荷について

 本授業は、普段からパワーポイントを使用しているため、Cumocの授業への導入は非常に容易であります。また、その準備にも、選択肢等の中から「正しいものを一つ選べ」など、共通して使用できる設問にしておくことで、一度作成した設問は登録番号と一緒に記憶されるため、新たな設問を作成する手間も掛かりません。パワーポイントで問題を作りさえすれば、あとは記憶された設問の登録番号を設定するだけです。また、自由記述に学籍番号を入力することで小テスト、資格試験等にも利用できます。本学では、教職員を対象に全学で「キャリアアッププログラム」としてCumocの講習会を年2回実施されており、そこでも教員側の使用方法を学べます。

4.変わっていく考え方を実感させる利用法

(1)大人数ディベート形式の授業

 本学では、全学共通で開講されている地域の防災と安全」という授業が、オムニバス形式(地震学、地盤工学、建築学、地理歴史学、看護学)で実施されています。座学、グループワーク、ディベートと、6名の教員と地元の「春日井市の安全・安心まちづくりボニター」の方々にも入っていただいた贅沢な講義を春学期、秋学期に同内容で定員140名の大人数講義を開講しています。この講義の中で15週目最後の授業に140名のディベートにCumocを使用しています。授業の初めに、本学科の学生らと東北ボランティア活動を行った様子や奇跡の一本松、陸に打ち上げられた船、2階まで鉄骨がむき出しになったホテル、南三陸町防災対策庁舎等の話をした後に、Cumocによる「災害遺産は保存すべきか」の「保存すべき」「保存すべきでない」「わからない」の3つの選択肢の中からをまず回答してもらい、その結果を提示します(図4)。その後、ディスカッションしやすいように、なぜ自分はそのように考えるのか、また、反対の意見に対してどう反論するかを配付した用紙に記入してもらいます。その後、賛成派、反対派の意見を聞き、お互いの主張に対する反論などをフロアから聞いていきます。学生から出される発表内容を、教員がパソコンに打ち込み画面で提示されるようにしながらディベートが進んでいきます。参加する学生は、7学部の学生がいるため、いろいろな意見がだされます。約40分間のディベートの後、再度、Cumocを使って「災害遺産は保存すべきか」を同じ設問で聞き直し、結果を提示します。図5のようにディベート前に回答した割合と逆転する場合も、割合が大きく変わる場合が出てきます。ディベートを通して、学生達の考え方が変わっていくことに、教員を含めて講義参加者全員が気づく瞬間です。

図4 災害に関するミニシンポジウム
図5 ディスカッション前後の回答変化

(2)教育効果

 本授業はオムニバス授業で教員が交替していくので、学生と教員の関係が希薄になりやすいのを避けるため、毎回シャトルシート(15週分記入できる学生の感想と教員の回答や確認印の1枚の表)を使用しています。書かれた学生の反応の中には「他の専門分野の人と討論でき、新たな気づきがあった」「最初の考え方大きく変わった」など高い評価や「自分も発言したかった」などの意見があります。ディベートも前と後で賛成か反対かを聞き、受講者の考え方が遷移していく過程を体感することが、単に意見を述べるのだけでなく、参加したことに達成感を味わっているものと思われます。
 本授業の最後に、授業を受けて「主体性」「奉仕」「発信力」「ストレスコントロール力」「想像力」「責任感」「状況把握力」「課題発見力」「傾聴力」「規律性」「主体性」について身についたと思う力をCumocによって聞いています。2年間4期分の授業で共通して高かったのは、「(主体性)物事に進んで取り組む力」、「(傾聴力)相手の意見を丁寧に聴く力」が4期とも毎回上位に入っています。15週の短い時間で身につくとはいえませんが、ディベートやグループワークを取り入れた教員側の狙いと学生の意識が合致した結果が現れていると思われます(図6)。

図6 学修成果集計結果

5.おわりに

 Cumocの使用は、教員が自分の授業スタイルに合わせやすい方法で取り入れることで意味あるものになると考えます。そして工夫すればいろいろな教育効果を上げることが可能と考えます。そのためにも、教員は失敗を恐れず、チェレンジしてみることが大切です。本学の調査では、魅力ある授業の要因として「理解させるための手段・工夫」が最も高いことを得ており、学生はしっかりとみていることを多くの教員に知っていただければ幸いです。

関連URL
[1] 中部大学大学教育研究センター・ホームページ
https://www.chubu.ac.jp/

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