事業活動報告No.2
本協会では私立大学における職員の職務能力の開発・強化を支援するため、全学的な教育の質的転換及び教学マネジメント体制の整備に向け、職員として情報通信技術(ICT)を駆使した教育改革に主体的に関与できるよう知識理解を深めるため、例年7月中旬に基礎講習コース、12月にICT活用コースの講習会を実施している。
基礎講習コースでは、ICT活用の可能性や工夫について基礎的な理解を深め、大学の管理運営や教育活動の充実に向けて、主体的に取り組む考察力・提案力の獲得を目指して、7月18日〜20日の3日間、加盟校・非加盟校合わせて50の大学・短期大学から95名が参加し、静岡県浜松市の浜名湖ロイヤルホテルで実施した。
参加者の所属部門は、学事・教務部門34%、情報センター部門24%の2部門で約半数を占めているが、学生、就職、広報、総務、会計経理、人事、管財、図書館、企画部門と大学における業務の全部門に亘っている(図1)。また、在職年数別では3年以下が約8割、20歳代が大半を占めており、女性職員の参加が全体の約4割強と高くなっている。
図1 参加者の部署別構成比
プログラムの構成は、参加者各自による事前研修と本研修とし、以下により実施した。
大学を取り巻く環境、社会が大学に求めること、ICTを活用した学修環境などの情報とICT利活用のキーワード等を本協会Webサイトに掲載し、昨年度実施したグループ討議の成果を踏まえて、本研修について情報の共有を図ることにした。また、自大学の事業計画書から大学改革としての問題点を捉えさせる学修を通じて、参加意識を高めるようにした。
本研修では、大学を取り巻く環境、大学教育の質的転換の必要性と教学マネジメント体制の重要性、それらを実現するための基礎環境としてICT活用の意義などについて情報を共有し、課題の共通認識を深めるため、以下のように実施した。
説明者:木村 増夫氏(本研究講習会運営委員長)
大学の経営戦略や教育活動の充実に向けて、職員が大学改革に主体的に取り組むための心構えについて理解の共有が図られた。
主な内容としては、『研修会に臨む上での基本的な姿勢』では、俯瞰して全体像を押さえつつも、分解して考え、参加者の多様な価値観や視点を共有すること。『大学を取り巻く環境』では、文部科学省中央教育審議会等の答申や審議のまとめや、第三期教育振興基本計画の審議動向、大学の将来像を読み取る上で重要となるキーワードなどが紹介された。
これらを通じて、大学職員に求められる姿勢として、継続的な大学改革の推進、新たな価値を創造する能力、小さなことでも常に新しいことに挑戦する態度が大切で、『社会に目を向ける』、『データを活用する』ことの熱いメッセージが参加者に贈られた。
①「ICTの活用と課題」
遠藤 桂一氏(芝浦工業大学情報システム部長、運営委員会副委員長)
大学の業務や教育にどのようにICTが使われているか、なぜ業務改革、教育改革が必要なのか、ICT活用の過去から現在を振り返り、人工知能による業務改革の可能性にふれる中で、例えば、従前から継承している業務だけを行うのではなく、課題は何か、問題は何か、手段はICTが最適なのか、業務改革の課題を深堀して目的を明確化し、そのことにより何を改革しようとしているのか、目的意識を持って各自の業務に取り掛かることが必要ではないか、参加者に問いかけながら課題認識を行った。
②「データの活用と業務の改善」
齋藤 真左樹 氏(日本福祉大学常務理事、副学長)
組織で業務をするためには、まず目的を共有し、その上で目標達成に至る過程(PDCAサイクル)を経ていく必要がある。特に、目標設定を含む計画策定(P)と点検・評価(C)で現状を客観的に分析するため、経年変化や傾向分析、要因分析が必須であり、根拠となるデータを把握することが必要。各種の業務を推進するには、事実を客観的データとしてつくり、他者が理解し易いような方法や表現に可視化していくことが効果的である。そのための環境として、タブレット端末の活用やペーパーレス化の促進が求められる。その実例として、会議のペーパーレス化を図ることを通じて、印刷コスト、機会費用の削減、業務の見直しや職員の意識改革が進みつつある。なお、情報の共有と可視化を普及する手段としてFACTBOOKを作成している。以上の活動は、2016年度に採択された大学教育再生加速プログラム「教職協働による学修データの可視化」の中で取り組んでいる。
③「eポートフォリオの構築と活用」
高島 伸治 氏(金沢工業大学情報処理サービスセンターシステム部長)
学修活動の振り返りと教員による授業の振り返りを通じて、カリキュラムなどの改善につなげるeポートフォリオの構築から仕組み、効果・課題など学生支援に向けた取り組みについて理解の共有を図った。eポートフォリオでは、一週間単位、学期単位、年間単位で学修活動の振り返りをPDCAサイクルを通じて実施している(図2)。特に「達成度評価ポートフォリオ」や「自己評価レポート」は、学生が過去に記入した目標や反省などを振り返ることができて非常に学修効果が高まった。eポートフォリオを継続的に運用していく条件として、特にフィードバック、成果データの公開、大学と教員の意識改革などが明らかになった。また、eポートフォリオのシステムを統合・充実するため、平成26年度「大学教育再生加速プログラム」の中でeシラバスの開発を行い、各種教材の統合管理、課外活動を含む学修活動の把握、学修成果物の集約、学生と教員による授業プロセスの共有、科目単位の学修支援計画書の参照機会の拡大化などに取り組んでいる(図3)。今後の課題として、著作権対応、スマートフォン対応、AIとの連携によるポートフォリオデータの活用を目指している。
図2 ポートフォリオによるPDCA
図3 eシラバスの運用
④「情報セキュリティ」
西松 高史氏(金城学院大学財務部システム 担当課長)
情報処理推進機構から発表されている「情報セキュリティ10大脅威2017」をもとに、組織向けの10大脅威の紹介があり、特に1位の「標的型攻撃による情報流出」、2位の「ランサムウエアによる被害」について事例を踏まえた解説があった。その上で、不正アクセスの被害者にならないための注意事項として、怪しいメールの見分け方、不審メールへの対応、使用しているパスワードに関わるリスクの再確認と解析されにくいパスワードの作り方について説明が行われた。
情報提供について理解度を確認するため、質問や疑問点の洗い出しを行った。また、グループ討議でICTを活用して教育改革及び業務改革に主体的に関与することの重要性について気づきを提供するため、グループ単位で課題の重要性を確認させ、理解の共有を進めた。
大学の管理運営や主体的な学修環境を構築するにあたり、職員各自が果たすべき役割やそれを実現する手段としてICTを活用する意義・重要性について、グループ討議により確認・共有し、教育活動のイノベーションに繋がる大学の管理運営改善策の構想作りを行った。
自らがどのように教育改革や大学改革に関与すべきか、対話と議論により望ましい改善案の提言作りを通じて、主体的な考察力、イノベーションに取り組む姿勢の獲得を目指した。
概ね5〜6名を1グループとし、3グループを1班として、グループ討議を行った。昨年度同様、6班(18グループ)に分かれ、討議のサポート役として、1班に研修運営委員を1名配置した。 また、「グループ討議見える化シート」により討議のポイントを明示することで、限られた時間内で効率よく、実質的な討議が交わされるよう配慮した。
参加者に修得していただきたいスキル(能力)については、下記の6項目を設定し、3段階の自己評価により到達度の確認を図った。
① 課題発見能力
大学が抱える諸問題について、その本質的な課題を探るため、多様な観点から事象を分析しようとする態度を持つ。
② 創造的思考力
課題解決を図るため、積極的にアイデアや意見を述べて創造的な議論を促そうとする態度を持つ。
③ コミュニケーション能力
他のメンバーの意見やアイデアを尊重し、議論を発展させるためにお互いに協調しようとする態度を持つ。
④ スキルを使う姿勢と態度
討議を通じて学んだ成果を認識し、これを常に磨きながら、自身の大学の教育改善に使おうとする態度を持つ。
⑤ プレゼンテーション能力
グループでの討議内容を他のグループに分かりやすく伝えるため、相互に協力しながらスライドを作成する。
⑥ 発展的思考力
質疑応答や他グループの発表から、新たな着眼点や改善点を発見して、それを相互のブラッシュアップにつなげようとする態度を持つ。
ステップ1:気づき、発見の時間
第1部(イントロダクション、情報提供)を受けて、大学改革の必要性、職員に求められる能力、ICTを活用して教育改革及び業務改革に関与することの重要性と主体的な取り組み姿勢について、各自がどのような“気づき”を得ることができたか、グループ内で発表し、共有した。
ステップ2:討議と成果のまとめ
教育活動のイノベーションにつながる提案、大学の管理運営改善に資する提案に向けて、ICTを活用した望ましい改善策の構想作りについて、グループ討議を行った。その際、グループ討議の成果を自己点検・評価できるようにするため、「到達度評価項目」のチェックシート等を用いて確認し、以下のステップを踏んで議論を行った。
* テーマ設定
* 問題点の深堀り
* 解決策の検討
* 討議結果のまとめ
* 発表準備
ステップ3:発表会と意見交換
割り当てられた部屋ごとにグループ討議の成果発表、グループ間での相互評価、意見交換を行った。
ステップ4:省察(アンケート記入)
グループ討議、発表会・意見交換会を踏まえて、各自、省察を行った。
グループ討議の進捗や成果については、それぞれのグループにより異なるが、例えば某グループでの構想結果を以下に紹介する。
■「大学のブランド力を強める〜教職員の意識統一〜」
勤続年数や所属部署が異なる5名で構成されたメンバーで話し合いを進めるため、参加者個々の大学が抱える問題点を洗い出すブレーンストーミングを行った。各メンバーから出された問題点を6つに分類し、投票で「大学のブランディング」をメンバー共通の課題とした。
問題点の深堀り(理想と現状)について、図4に示した内容を検討することにした。
図4 問題点の深堀り(理想と現状)
幾つかあげられた問題を解決するための方策として、「自大学について客観的な分析を行う」、「独自性を出すため、他大学についても分析する」、「教職員誰でも大学の広報ができるように意識統一を図る」、「受験生に伝わりやすい広報を工夫する」ことを前提とした。
その上で、解決策をさらに掘り下げていくために、図5に示したマインドマップで関連する課題を中心に議論を進めた。具体的には、「大学のブランド力を強める」方策として、「教職員の意識統一」を図ることが本質的な問題であることを確認し、そのための解決策を考察することにした。
図5 「大学のブランド力を強める」の検討を進めるためのマインドマップ
最終日に参加者全員にアンケートを提出させた。その代表的なものを紹介する。
全体会としては、「社会の変化に伴い大学の機能・方針を再構築する必要性が確認できた」、「人工知能(AI)技術を代表とした情報技術の発展により、従前までの業務範囲が変わり、職員個々の意識改革が必要である」、「ペーパーレス会議導入により、印刷コスト、機会費用の削減、業務の見直しや職員の意識改革に繋がっていることを再認識できた」等の意見があり、職員が主体的に取り組むための心構えやICTを活用した改善・工夫について理解を促すことができたと言える。
グループ討議としては、「InstagramやLINEを代表とするSNS等の最新技術を利活用した大学広報活動や学生の帰属意識を高める働きかけ等、自大学でも取り入れられるアイデアがあった」等の感想が寄せられた。また、自大学に戻ってからの対応としては、「社会全体を俯瞰して業務につなげることを意識したい」、「主体性がない学生への支援に役立てたい」、「大学のブランディングに貢献したい」、「現在より学生の満足度向上を実現したい」、「教職協働を進めるために新たな情報共有システムを構築したい」等の感想が寄せられた。
参加者個々に、問題意識の大きさは異なるが、本講習会に参加したことにより、大学改革及び業務改革の意識を持ち、主体的に問題に取り組む姿勢を持ち続け、自大学の中核を担っていくことを切に願っている。
それを実現する一つの方法として、教職員一人ひとりに、例えば、学生の自学自習時間、退学率、学生定員充足率など、大学に関するクイズをパソコンのログイン画面に提示し、回答しないと起動できないシステムを構築して運営を行う提案である。
その狙いは、大学のブランド力を高めていく上で他大学の動向や社会の動きに関する市場分析は欠かせないが、職員、教員も時間に追われて自大学や他大学の調査・分析まで行わないことから、このクイズを動機づけとして、大学の市場分析に関心を持つことを習慣化するとともに、教職員全体が協働意識、危機意識を持って大学のブランドを高めるよう組織の一体化による取り組みが期待される。
自らがどのように教育改革や大学改革に関与すべきか、対話と議論により望ましい改善案の提言作りを通じて、主体的な考察力、イノベーションに取り組む姿勢の獲得を目指した結果、「次代を担う人材育成」に向けて全グループが取り組んだ。また、解決策を議論するために、職員の人材育成を扱うグループ、学生支援を扱うグループ、授業改善や教育の仕組みの改善を扱いグループ、教員・大学組織へのアプローチの仕方を扱うグループを形成して何度も振り返りを行い、グループ間での意見交換を重ねる中で構想の可能性について種々考察が行われた。2泊3日の研修の場でできることは限られているが、事前研修を含め、研修で得たことを各自で改革行動に繋げていただくことを切に願っている。
是非、他大学職員間の繋がりを大切にして、今後の業務や情報共有等に役立てていただきたい。
文責:大学職員情報化研究講習会運営委員会