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国立情報学研究所事業案内

学認クラウド導入支援サービス

学術基盤推進部学術基盤課クラウド支援室

1.はじめに

 クラウドは、その迅速性・柔軟性、運用性、経済性といった利点により、ビジネス分野のみならず、学術分野においても情報基盤としての期待が高まっています。例えば、オンプレミス型の計算機システムの導入には数日から大規模システムになると数ヶ月を要しますが、クラウドでは小規模なシステムであれば最短で数分で計算機システムの利用を開始することが可能で、計算機システムを利用する研究や業務をより早く開始することが可能となります。同様に、業務の負荷変動に合わせた柔軟なシステム構成の変更も迅速に行うことができます。
 このようなクラウドの利点が注目され、国内でもいくつかの先駆的な大学が学内の業務系システムの基盤としてクラウドを利用しているほか、海外では、Internet2 NET+のような大学間でクラウドを共同利用するための体制が組織されています[1]。また、2014年には、日本学術会議および文部科学省科学技術・学術審議会学術分科会学術情報委員会から「学術情報基盤としてクラウドを積極的に活用すべき」との意見が示されています[2][3]
 国立情報学研究所(以下「NII」)では、我が国にクラウドを活用した高度な学術情報基盤を整備することを目的として、大学・研究機関におけるクラウド導入・利活用を支援するための活動を進めています。本稿では、その一つである「学認クラウド 導入支援サービス」[4]について紹介します。本サービスでは、大学・研究機関がクラウドを導入する場合の着眼点(信頼性、セキュリティ、契約条件等)をまとめたチェックリストを策定し、本チェックリストに基づくクラウドサービスの検証結果を大学・研究機関間で共有しています。さらに大学・研究機関がクラウドサービスを導入する前、あるいは調査時、仕様検討時に個別相談を受け付けています。その他にも、クラウド利活用に関わる課題解決を目的としたセミナーを開催するなどして、クラウドの導入・利用の促進を図っています。

2.クラウド導入の課題

 クラウドの学術利用への期待が高まる一方で、大学・研究機関ではクラウドの導入・利用に関して多くの課題を抱えています。例えば、2013年度に実施されたアカデミッククラウド環境構築に係るシステム研究「コミュニティで紡ぐ次世代大学ICT環境としてのアカデミッククラウド」[5]における調査では、7割の大学がクラウドの学術利用に興味を持つ一方で、3割の大学がクラウドを利用すべきか判断できないと回答しています。また、多くの大学が、クラウドの利用についてセキュリティや信頼性に不安があると述べています。
 一般に、大学・研究機関では、オンプレミス型の計算機システムの導入や利用についての経験を持ち、知識やノウハウを蓄積しているといえます。しかし、クラウドに関する知識やクラウドのような「サービス」を導入・利用する経験が乏しいため、クラウド導入・利用に関して漠然とした不安感を抱いていることが、これらの調査結果からわかります。
 さらに、大学・研究機関のクラウドサービスの導入・利用における大きな課題として、クラウドを導入する際の仕様策定が困難であることがあげられます。クラウドの導入にあたっては、技術的な機能要件から性能・信頼性などの非機能要件、さらに契約条件など多岐に亘る項目を考慮しなければなりません。クラウドサービスの仕様策定にはこれらの要件・項目について選択基準を明確にし、事業者から提供されている多くのクラウドサービスの中から大学・研究機関の業務のニーズに合うサービスを探し出す必要があります。また、クラウドサービスは「サービス商品」であることから、約款・SLA(Service Level Agreement)などの契約や法務の領域に踏み込んだ検討も必要です。

3.学認クラウド 導入支援サービス

 「学認クラウド 導入支援サービス」では、2にあげた課題を解決するための支援を実施しています。

(1)サービスの概要

 NIIが提供する「学認クラウド 導入支援サービス」は、大学・研究機関がクラウドを選択する際の基準やその導入・活用に関わる情報を整備・流通・共有するしくみです。参加について特に費用は発生しません。
 図1に示す大学・研究機関とクラウド事業者を結ぶ枠組みを作ることにより、クラウド導入の課題を解決し、大学・研究機関における仕様策定や比較検討の負担を減らして、ニーズに合うクラウドを調達できるように支援します。

図1 学認クラウド 導入支援サービス
図1 学認クラウド 導入支援サービス

 以下、(2)項では「学認クラウド 導入支援サービス」参加機関向けのチェックリストを用いたクラウドサービスの情報共有について、(3)項では参加機関向けのその他のサービス、(4)では一般の大学・研究機関が利用できるサービスについて紹介します。

(2)チェックリスト

 チェックリストは、クラウドサービスの信頼性、セキュリティ、契約条件などについて、大学・ 研究機関がクラウドを導入する際の選択基準や考慮点となる項目を一覧表としてまとめたものです。
 NIIが策定したチェックリストVer.2.0[6]は、表1に示すように18の大項目(セキュリティ、信頼性、データ管理など)と116の小項目(第三者認証、サービス稼働率、ログなど)から構成されています。
 チェックリストを用いたクラウドサービスの情報共有は、以下のプロセスで進められます。

1)まずNIIがクラウド導入・選択のためのチェックリストを策定します。

2)クラウド事業者は、自社のサービス商品において、これらの項目に関して何がどのように提供されているかをチェックリストに記入し、NIIに回答します。

3)チェックリストの回答をNIIが検証します。 内容に疑問や不十分な点がある場合は、クラウド事業者に検討・修正を依頼し、疑問や問題点がなくなるまで検証を続けます。最終的にNIIとクラウド事業者双方が合意した回答が大学・研究機関に提供します。

4)大学・研究機関は、チェックリストの情報を活用して、クラウドの導入検討や調達を行うことができます。

表1 チェックリストVer.2.0 の内容
チェック項目(大項目) 小項目数
商品 / サービスの概要 4
運用実績 2
契約申込み 12
学認対応状況 2
信頼性 7
サポート関連 5
ネットワーク・通信機能 9
管理機能 11
動作保証 3
スケーラビリティ 6
データセンター 8
セキュリティ 10
データ管理 10
バックアップ 6
クラウド事業者の信頼性 6
契約条件 6
データの取り扱い 5
データの引継ぎ 5

(3)参加機関向けのサービス

 「学認クラウド 導入支援サービス」の利用には参加申請(参加費無料)が必要です。大学・研究機関は、参加することにより以下のサービスを利用できます。

1)検証済みチェックリスト回答の参照

 参加機関専用のWebサイトにおいて、NIIが検証済みのチェックリスト回答を表形式で参照できます。表示されたチェックリスト回答に対し、以下の操作が可能です。

 チェックリストの回答が提供されているクラウド事業者名は、「学認クラウド 導入支援サービス」のホームページ(https://cloud.gakunin.jp)に掲載されています。

2)個別相談

 クラウドサービスの導入前、調査時、仕様検討時など、様々な場面におけるテーマで参加機関個別に相談できます。また、参加機関専用のWebサイトからクラウド導入の各段階に合わせたFAQを参照できます。

3)情報共有

 参加機関専用のWebサイトにおいて、チェックリストの活用例や、クラウド利活用セミナー((4)項参照)の動画をオンデマンドに視聴することができます。また、参加機関限定のワークショップ等にも参加することができます。2017年6月に開催されたNIIオープンフォーラムでは、クラウドにおけるソフトウェアライセンスに関してベンダを交えて直接質問や意見交換を行うワークショップ[7]を開催しました。

(4)一般の大学・研究機関向けのサービス

 「学認クラウド 導入支援サービス」では、参加機関以外の方々も含めた情報提供として、以下のサービスも実施しています。

1)クラウドスタートアップガイド

 組織の情報基盤としてクラウドの導入を検討または計画している教職員を対象として、クラウドの導入・活用に関わる情報をまとめたガイドライン「クラウドスタートアップガイド」[8]を作成しました。本ガイドラインは、「学認クラウド 導入支援サービス」が提供するチェックリストを活用してクラウドを導入する方法やそのケーススタディを紹介しています。

2)クラウド利活用セミナー

 研究教育や大学業務の現場におけるクラウドの活用方法の提案や、クラウド利活用に対する課題の解決を目的とした「研究教育のためのクラウド利活用セミナー」をシリーズ化して開催しています。

4.おわりに

 NIIでは、本稿で紹介した「学認クラウド 導入支援サービス」のほか、クラウドの利活用支援として「SINETクラウド接続サービス」[9]、「クラウドゲートウェイ」[10]、「オンデマンドクラウド構築サービス」[11]と大学・研究機関のクラウド利活用のライフサイクル全体にわたってサポートします。「学認クラウド 導入支援サービス」では、今後もチェックリストの対象サービス拡大やクラウド導入事例の紹介など、サービスの充実を図り、大学・研究機関のクラウド導入・利用を促進してまいります。

参考文献および関連URL
[1] Internet2 NET+、http://www.internet2.edu/vision-initiatives/initiatives/internet2-netplus/
[2] 日本学術会議 情報学委員会、提言「我が国の学術情報基盤の在り方について―SINETの持続的整備に向けて―、2014年.
[3] 科学技術・学術審議会 学術分科会 学術情報委員会、教育研究の革新的な機能強化とイノベーション創出のための学術情報基盤整備について ―クラウド時代の学術情報ネットワークの在り方― (審議まとめ)、2014年.
[4] 国立情報学研究所 「学認クラウド 導入支援サービス」、http://cloud.gakunin.jp
[5] 国立大学法人九州大学、コミュニティで紡ぐ次世代大学ICT環境としてのアカデミッククラウド、2014年.
[6] 国立情報学研究所 「学認クラウド 導入支援サービス」チェックリストVer.2.0、http://cloud.gakunin.jp/dist/pdf/20160801_02_00_Checklist.pdf
[7] 国立情報学研究所 学術情報基盤オープンフォーラム2017、「学認クラウド 導入支援サービス参加機関向けワークショップ」、http://www.nii.ac.jp/csi/openforum2017/track/day2_3.html
[8] 国立情報学研究所 クラウド支援室、大学・研究機関のためのクラウドスタートアップガイド、http://cloud.gakunin.jp/dist/pdf/startupguide-public-v1.pdf
[9] 国立情報学研究所 「SINETクラウド接続サービス」、https://www.sinet.ad.jp/
[10] 国立情報学研究所 「クラウドゲートウェイ」、http://www.nii.ac.jp/news/release/2017/0703.html
[11] 国立情報学研究所 学術情報基盤オープンフォーラム2017、「オンデマンドクラウド構築サービス」、http://www.nii.ac.jp/csi/openforum2017/track/day2_4.html

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