事業活動報告 No.3

平成29年度 大学職員情報化研究講習会
〜ICT活用コース〜開催報告

 本年度の大学職員情報化研究講習会、ICT活用コースは、「教育・経営改革に向けた大学のデータ活用」をメインテーマとして掲げ、平成29年12月2日(土)、同志社大学寒梅館2階今出川校地室町キャンパス(京都府上京区烏丸通上立売下ル御所八幡町)において開催し、49大学、1短期大学、5賛助会員から82名の参加があった。

−全体会−

 全体会では、会場提供校の同志社大学、横川隆一副学長からのご挨拶の後、本講習会のイントロダクションとして木村増夫運営委員長(上智学院)から、ICT活用コースのねらいについて、大学が掲げる使命・ミッション達成の目的を実現するための「ステークホルダーマネジメント」、「プロジェクトマネジメント」、「コミュニケーションマネジメント」必要性、マネジメントにおける科学的分析のためのデータ活用推進の重要性について説明され認識を深めた。引き続き本日の分科会テーマである「大学のデータ活用」の取り組みとして、関西大学事務局次長の鶴丸憲一氏より「関西大学教学IRプロジェクト〜調査から見た学生の姿〜」、本協会大学情報システム研究委員会委員長、帝塚山大学文学部教授の岩井洋氏より「大学ポートフォリオシステム導入・活用等の参考指針」、大阪府立大学高等教育推進機構教授の星野聡考氏より「eポートフォリオを活用した学修・教育支援の取り組み」の3件の講演があった。

−分科会−

【セッション1】

「人工知能を用いた自己成長支援システム」

金沢工業大学 情報処理サービスセンターシステム部長 島 伸治 氏

 金沢工業大学では、学生一人ひとりにあった成長を支援するために、人工知能型自己成長支援システム実現に向けた取り組みを行っている。ベースはIBM社Watsonで、卒業生10年分(約1万5千人)の成績・就職先等の定型データとポートフォリオ等の非構造データの学習をさせたものであり、学生一人ひとりの夢、目的、目標、計画の確立と「行動」を促すアドバイスをWatsonが自動で行えるようになることを目指している。
 実現のために取り組んだ、①非構造化データと構造化データの結合と文脈に基づいた学生の傾向分析、②機械学習による学生の類似検索と検索結果の可視化、③学生との会話のやり取りを自動化について現状の成果と進捗状況の報告があった。
 今後の展望として、さらなる修学支援の強化に向けた会話型API、アプリの充実および大学固有の辞書整備のためのWatson学習について言及があった。
 参加者からは、「人工知能を使った修学指導は先進的であった」、「AIアプリ導入には膨大なポートフォリオデータの蓄積が不可欠だと感じた」、「蓄積されたポートフォリオに関わる新たな利用可能性について興味深いアプローチだと思う」などの感想が寄せられた。

【セッション2】

「IR活動に必要なデータ分析ツールの導入とその効果」

上智大学 情報システム室兼IR推進室 相生 芳晴 氏

 上智大学でのIR活動とIR活動に必要なデータ分析ツールTableauの導入経緯とその効果が紹介された。IR分析において、大学内のスモールデータの活用が重要であることについての説明があり、IRの推進体制のあり方や学内組織との役割分担について紹介された。IR分析は、IR専門部門のみが行うだけでなく、各部門が分析する必要がある。そのためには、簡単に分析操作できるBIツールの導入は有効である旨デモ等を交えて紹介があった。また、改革を進めるための分析データの活用方法の勘所などわかりやすく説明あり、データのガバナンスや学部からの矛盾する要望への対応等現場での工夫などについて、示唆に富む話もあり参加者の興味を引いていた。
 最後に、IR活動をする上ではIR分析できる利用者を増やすことが重要である旨の説明と、分析ツールのユーザー会等の紹介があった。
 参加者からは、「資料作りが目的でなく組織を動かすための情報提供が本質であり、動くまで提供し続けることが大事との考えを学べた」、「本学の課題を全て洗い出すことができた」、「他大学の状況を聞くことができ、今後情報システムに関わるものとしてできることに少しずつやっていけたら良いと思った」などの感想が寄せられた。

【セッション3】

「ICTを活用した近大流業務改革の取り組み―背景・経緯と展望」

近畿大学 総合情報システム部事務部長 牛島 裕 氏

 近畿大学では、データセンターを核として法人全拠点をネットワークで結び、システム統合を目指した業務改革に取り組んできた。その一環として、教職員ポータルの導入によるスケジュール共有、および同システムのワークフロー機能を活用した決裁電子化などの取り組み等も合わせて報告された。その目的は①法人内の業務標準化による業務効率の向上と迅速化およびサービス向上、②クラウドおよびパッケージの積極利用によるシステム投資の低減・固定化、③収支見える化による財務体質とガバナンスの強化、を実現することにある。
 直近では人事給与・財務会計である基幹業務の領域に対し、平成31年4月の全面稼働を目指してAI搭載型ERPである「HUE」導入を決定したが、その経緯と期待・展望について報告があった。
 参加者からは、「導入されているシステム、使用事例などが具体的にわかり参考にさせていただいた」、「システム選びの重要性、ユーザーのリテラシ向上について再認識することができた。また、先端技術による業務効率化についても進んだ取り組みをされている。」、「AWS活用や業務標準化について強力なリーダーシップが必要であろうことがわかった」などの感想が寄せられた。

【セッション4】

「統合データベースシステムとBIツールを活用した教学IR推進の取り組み」

神戸学院大学 全学教育推進機構教学IR室 藤野 津芳 氏

 神戸学院大学での学生の満足度向上を目指す教学IRの取り組みが紹介された。学生の満足とは何かということと、教学IRの目的について話され、教学IRの体制として、心理学・教育学・社会学の専門家を加えると良いとの示唆があった。自学のことは自学の教職員しかわからない、莫大なコンサル費用が掛かったという2015年度までの反省から、データ統合から分析まで内製化すべく、「統合データベースシステム及びBIツール」を2016年度に導入して、学内のデータを洗い上げ、必要なデータを収集するとともに、学生の声の「集め方」を工夫したとの説明があった。重要なのは分析なので、データ抽出・統合をいかに簡略化するかであり、ローデータに誤りがある可能性などもあるため、どこまでを自動化(効率化)するかが問題である。BIツール導入効果として、グラフ作成等を効率化できることは非常にメリットがあるなど実際の例を紹介しての説明があった。IRの業務は必ずしも研究業務ではないので、難しい分析をしてもそれが伝わらなければ意味がないという問題がある。IRの意義は、教育の改善(学生満足の向上)のための情報を継続して提供することが必要であるとの説明があった。
 最後に神戸学院大学での教学IRの課題(特に人材育成)と展望の話があった。
 参加者からは、「導入までの苦労や現状の苦労が非常に伝わってきた」、「現実をしっかり見られており良い方向に進むと思うが引き継ぐ人材の育成は必要であると感じた」、「自学のことは自学でないとわからない。学内でやってしまおうなど、きわめて実際的な話は示唆に富む内容だった。」などの感想が寄せられた。

−おわりに−

 前年度に引き続き、分科会の参加セッションを事前申請していただき(当日変更も可能)、自分がより興味を持つセッションへの参加を可能とした。各分科会セッションの講演は概ね好評であり、参加者からは「他の分科会の話も聞きたかった」という意見もあった。
 本コースでは、情報提供型の研究講習会として教育・経営改革に向けたデータ活用の重要性について改めて認識を深めることができたと考える。なお、開催の時期や時間設定、開催場所、情報提供別の聴講希望など運営に関する要望については引き続き検討課題としたい。

文責:大学職員情報化研修講習会運営委員会


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