特集 データサイエンス教育を知る
鷲崎 弘宜(早稲田大学グローバルソフトウェアエンジニアリング研究所 所長)
本学は2017年に、データ科学について研究教育を推進するデータ科学総合研究教育センター(所長:理工学術院教授 松嶋敏泰、https://www.waseda.jp/inst/cds/を設置しました。
本学の創立者である大隈重信は、統計の重要性に着目して1881年に統計院(現在の独立行政法人 統計センター)を設立し、日本の統計制度を確立しました。このような歴史的背景のもと本学が得意とする統計およびデータ科学の知見を、理工系・人文社会科学系の専門領域の知見と融合させるとともに、国内外の大学、産業界、政府機関等と大規模なネットワークを形成することで学内外のデータ科学へのニーズに応え、グローバルなデータ駆動型社会をリードすることを狙いとします。
本学ではデータ科学に関する次の二つの人材育成事業が2017年に採択されており、データ科学総合研究教育センターはそれらを取り込んだ包括的な組織として活動しています:大学院生等対象の高度データ関連人材育成プログラムD-DATa、社会人対象のenPiT-Proスマートエスイー。
両事業において企業や大学等機関との間でのコンソーシアムを作り連携を推進し、さらにデータ科学総合研究教育センターでは両コンソーシアムを包摂する大型コンソーシアムを作ることを目指し、各企業との広範な事業連携を加速させます。本稿では以降において各事業の概要を説明します。
本学を代表機関とし、国内外の産官学金融各界から24参画機関、12連携機関で構成する「高度データ人材育成コンソーシアム(D-DATa)」(実施責任者:理工学術院教授 朝日透、https://d-data.jp)が文部科学省データ関連人材育成プログラムに採択されました。
D-DATaでは連携機関の協力のもと、博士課程学生とポスドクのデータ関連スキルを強化しつつ、将来の博士課程学生候補である学部生および修士学生やキャリアモデルとなる社会人も巻き込むカリキュラムを提供しています。
D-DATaにおける育成対象と人材像を図1に示します。理工系・人文社会学系の多様な人材を対象として、データサイエンス力やデータエンジニアリング力、ビジネス力を備えた人材像を目標とし、健康寿命の延伸やフィンテック等の様々な分野で活躍できるように育成することを意図しています。
図1 D-DATaの育成対象と人材像
D-DATaでは、データ科学の入門から、各専門分野における実践・応用までを網羅する以下のカリキュラムを提供しています。
スマートエスイー(事業責任者:理工学術院教授 鷲崎弘宜、https://smartse.jp)は、早稲田大学 理工学術院総合研究所 最先端ICT基盤研究所を中心に14大学、21組織(会員企業5,000社超)の大規模な産学連携ネットワークによりWASEDA NEO(東京コレド日本橋)を拠点にAI・IoT・ビッグデータ技術分野のビジネススクールとして展開する社会人教育プログラムです。文部科学省 成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成enPiT-Proに本学が代表校として申請し採択されました。
受講資格として情報系の実務経験を有し、モバイルコンピューティング推進コンソーシアムIoTシステム技術検定中級相当と設定しています。
目標人材像は図2に示すように、AI・IoT・ビックデータの各技術を深めた上、領域を超えた価値創造をグローバルにリード可能な人材であり、4年間で3,000名育成します。人材の専門分野として、組み込み・IoTプロフェッショナル、システムオブシステムズ・品質アーキテクト、クラウド・ビジネスイノベーター等幅広く想定しています。
スマートエスイーでは以下に示すように、センサからビジネスまでのフルスタックの科目群を領域ごとに用意し、さらには企業における実課題をマンツーマン指導で解決する科目「修了制作」や各科目の実習、PBL科目群を通じて実践性と専門性を養成します。
履修形態として10科目120時間の正規修了コースのほか、科目スポット履修などを用意します。また社会人に配慮して平日の夜や土日開講、それに加え座学の一部はJMOOC認定プラットフォームgacco等を通じてオンライン配信する予定です。
さらに、機械学習やデータ分析を軸として、センサからビジネスまで領域を超えて技術をつなぎ合わせたヘルスケアの共通例題を用意し(図3)、各科目における実習等での利用を予定しています。
図2 スマートエスイーが扱う領域と人物像 図3 共通例題を通じた領域を超えた技術の繋ぎ