特集 データサイエンス教育を知る
小松 太郎(上智大学総合人間科学部教授 グローバル教育センター長 )
現代において企業が直面する経営課題は多様化・複雑化し、変貌する事業環境に合わせていかに速やかに経営資源を再構築し、ビジネスモデルを革新していくかが求められています。特に、情報化の進展に伴い、いわゆるビッグデータと呼ばれる大量の情報を取り扱う機会は増え続けており、そのニーズは今後も様々な分野で高まることから、データサイエンスの素養のある人材の輩出は、大学の担うべき役割の一つと考えられます。
データサイエンスは、日本の高等教育機関では理工学分野での環境整備が進められています。一方で、これからのアナリスト、マーケティング担当者、企画立案者にも、ビッグデータへの質の高い親和性が求められます。ビッグデータが意味するところの本質的理解が不可欠だからです。すなわち、分析と活用の二つの側面からの人材育成が要請されています。
上智大学では、2015年度より株式会社三菱総合研究所と連携して、「データサイエンスプログラム」を開講しています。本プログラムは、グローバル社会で必要となる、データ分析や情報を活用できるデータサイエンティストの育成を目的とし、「基礎」、「応用」、「演習」から成る科目群を通して、経営の視点に立ったデータ活用法を体系的に学修するものです。
データサイエンスプログラムでは、基礎科目として、「データ活用と経営戦略」と「ビジネスデータ分析理論」の2科目を2015年度秋学期から開講しています。
「データ活用と経営戦略」では、企業が直面する様々な経営課題の本質と経営戦略との関係理解を深めながら、データ活用がどのように進化し、経営に貢献しているかについて理解を深めることで、応用講座・演習講座で活用可能なフレームワーク、知識ベースを習得します。
「ビジネスデータ分析理論」は、統計学の基礎となる考え方の理解を得るとともに、企業におけるビッグデータの活用状況を学び、その上で分析を行う上で必要となる最低限の数学的知識及びこれらを基としたマーケティング手法を身につけることを目標としています。
応用科目として、「アナリティックスによる事業戦略」を、演習科目として「ビジネスデータ分析実践」を2016年度春学期から開講しています。
応用科目である「アナリティックスによる事業戦略」は、ビッグデータを実際に活用している最先端の業界の担当者を講師として迎える、ケーススタディを主とした講義です。本科目では、企業が必要な情報を如何にして入手・蓄積・活用し、運営しているかについて学び、知識を深めます。
演習科目である「ビジネスデータ分析実践」は、より実践を意識し、データ分析に基づく事業の仮説・提案能力を高める科目です。「ビジネスデータ分析入門」で学んだ内容を踏まえて、ビジネスにおけるデータ活用について、Tableau、Rなど、実際に統計分析の現場で使われているソフトを利用した実習形式で体得することを目指します。そこからデータ分析に基づく事業の仮説・提案能力を高めるとともに、適切な分析を実施することでビジネスを推進するための価値を提供できる素地を作ります。
2015年度から基礎科目を、2016年度から応用・演習科目を開講し、受講者数は年々増え続けています。これらの科目は、学科による受講制限のない「全学共通科目」として開講されていることから、広く学修の門戸が開かれており、学生は様々な視点を持った他学部他学科の学生とデータサイエンスに関するテーマについて議論することができます。さらに、応用・演習科目については、本学学生のみならず、公開学習センターを通じて社会人の受講も可能とし、学生と社会人が共に学び、刺激し合うことのできる講義となっており、受講者数は年々増え続けています。
現代の機械学習は進化を続け、将来的にプログラマーの仕事はコードを書くことから、必要なデータを集めソフトウェアに学習させることに変わっていくでしょう。つまり、システムエンジニアリングではなく、データサイエンスこそが企業にとって欠かすことができないスキルとなるのです。本プログラムにおいても、株式会社三菱総合研究所から派遣された研究員が講師を務め、データサイエンスが企業戦略にとっていかに重要であるか、またAI技術等の進展に帰依しているかを考察できるように進めてきました。その結果、多くの学生がその存在の重要性を理解し、そのスキルを持つデータサイエンティストという職業に興味関心を示しています。今後の着実な取り組みにより、これからのグローバル化時代に柔軟に対応できる視野・視点を持ち、企業データ活用に必要なスキルを身につけたデータサイエンティストを、継続的に輩出することが期待されています。