事業活動報告 No.2
平成29年度 産学連携事業 実施報告
大学教員の企業現場研修 / 産学連携人材ニーズ交流会
大学教員の企業現場研修
情報系人材の育成に向けた産学連携事業を本格的に実施するため、本協会では平成23年度から賛助企業の協力を得て「大学教員の企業現場研修」の取り組みを進めている。本事業の目的は、「学生に学びの動機付けを行うための現場研修」、「キャリア形成支援の教育力向上に向けた現場研修」、「最新の現場情報・技術・技能等の振り返りの現場研修」の三つとしているが、平成29年度は、賛助会員企業の協力を得て2月と3月に計5回の「大学教員の企業現場研修」を実施した。以下に開催結果を報告する。
第1回 日本電気株式会社
- 1.研修テーマ:
- 社会価値創造企業における人材育成・人財確保を現場で学ぶ
- 2.研修目的:
- 本研修では、社会に貢献し、新たな価値を社会とともに創造していくNECの先端技術開発や、その技術を用いて製品やサービスを提供している事例を紹介するとともに、企業の現場で求められる人材育成の考え方や社員教育制度について紹介します。また、若手社員との交流を通じて大学教育に求められる学びについて考えるきっかけづくりとします。
- 3.研修企業:
- 日本電気株式会社
- 4.開催時期:
- 平成30年2月7日(水)13:00〜17:30
- 5.開催場所:
- NEC本社ビル
〒108-8001 東京都港区芝5-7-1
- 6.参加者数:
- 23名
プログラム
- 13:00
- 事業の概要紹介
-
- 日本電気株式会社の会社概要・事業等について紹介します
- 13:55
- イノベーション人材育成プログラム
-
- 自ら社会の課題を発見し、新たな発想による課題解決策を事業化できる人材の育成を目指した取り組みを紹介します。当初は一部門の個別の活動として始まった取り組みが、5年を経て現在ではNECグループ全体から受講者が集うようになりました。取り組みを開始したきっかけや、その概要について紹介します。
- 14:35
- ICT活用事例の紹介
-
- NECでは、生産性の向上や従業員の多様なニーズに応じた働き方の観点から、在宅勤務制度や裁量労働制度等、様々な新しい制度を導入してきました。今回はその中で、約10年に亘り、EmpoweredOffice(エンパワードオフィス)と称し、ICTを活用したオフィスで働き方の改革に取り組んできたグループ会社(NECネッツエスアイ)の事例を紹介します。
- 15:20
- NECの社員教育制度の紹介
-
- セルフディベロップメント(自らの意思で自らの能力開発をはかるという考え方)を基本に、事業に貢献する人材づくりを目指し、「事業遂行力の強化」「プロフェッショナル人材の育成」「マネジメント人材の育成」を人材開発の3つの柱として、社会にイノベーションをもたらし、常に成長し続ける人材を育成するNECの社員教育制度や、NECグループが常に意識し、大切にしていく「人財哲学」について紹介し、意見交換を行います。
- 16:10
- 若手社員との意見交換(大学での学びについて)
-
- 社会人になってから今までの経験を通じて、大学時代にやっておけば良かったと思うことや大学時代に役立った経験・授業はどの様なことだったのか等について、若手社員から発表し、意見交換を行います。
- 17:30
- 終了
7.実施結果
研修終了後のアンケートでは、本研修を「他の教員にも紹介したい」、「授業に役立つ」が9割程度であった。
〔特徴的な意見〕
- ① 企業が求める人材の方向性がよく分かり、今後の学生指導に大変有益だった。
- ② 企業は人材育成プログラムに想像以上の労力をかけており、教員にもプロフェッショナル認定のような研修が必要ではないかと思った。
- ③ 今後のAIの進展、ワークスタイルの変化に対して、大学教育も変化を迫られる。特に、学生への指導対応が必要なことを考えさせられた。
- ④ 若手社員から、大学でのPBL経験をきっかけに学ぶ意識が高まり「やる気スイッチが入った」との紹介があり、課題発見や解決プロセスを重視したカリキュラムを強化すべきと思った。
第2回 株式会社日立製作所
- 1.研修テーマ:
- 人工知能を中心とした最先端ICT活用事例の紹介
- 2.研修目的:
- 株式会社日立製作所は、社会インフラをはじめとする幅広い領域において、ITの活用と協創で、社会やお客さまが直面している様々な課題を解決する社会イノベーション事業を推進しています。本研修では、当社の取り組み事例の紹介と、社会イノベーション事業推進に求める人財像を紹介します。また、若手社員を交え、大学教育と社会人となってから感じた事を整理し、今後の教育の参考としていただくための意見交換を行います。
- 3.研修企業:
- 株式会社日立製作所
- 4.開催日時:
- 平成30年2月21日(水)13:30〜17:10
- 5.開催場所:
- 株式会社日立製作所 ハーモニアス・コンピテンス・センター
東京都港区港南2-16-1
品川イーストワンタワー13階
- 6.参加者数:
- 19名
プログラム
- 13:30
- 事業領域と事業戦略の紹介/日立が求める人財像の紹介
-
- 日立グループが展開する社会イノベーション事業に関する事業フィールドや事業戦略について紹介します。また、入社後の社員教育までに備えていて欲しいスキルや求める人財像など、採用戦略について紹介します。
- 14:35
- 人工知能を中心とした最先端ICT活用事例の紹介(ショールーム見学)
-
- 日立は OT(Operational Technology)とIT(Information Technology)のノウハウを活用し、お客様との協創を通じて新たな価値の創出を実現するIoT プラットフォーム「Lumada」(ルマーダ)を活用して、次の時代に向けた新しい価値の創出に取り組んでいます。この「Lumada」では人工知能に関するソリューションが活用されており、その事例などを紹介します。
- 16:00
- 若手社員との意見交換(大学での学びについて)
-
- 若手社員より、大学時代に経験しておきたかったことや役立ったことなど、自身の大学生活の振返りと、社会人としての経験から感じた大学教育について、必要と考えられることなどを意見交換します。
- 17:10
- 終了
7.実施結果
研修終了後のアンケートでは、本研修を「他の教員にも紹介したい」、「授業に役立つ」が約8割程度であった。
〔特徴的な意見〕
- ① 若手社員から、社会で通じる幅広い教養の必要性、待ちの姿勢では通用しないこと、学生時代に意欲が高まるきっかけを得たことが紹介され、教養教育が重要なことと、自主性、モチベーションを高められるカリキュラムづくりの必要性を感じた。
- ② 社会イノベーションに向けた取り組みでは、様々な知識が集約されていることが理解できた。大学教育の場でも分野の異なる知識の共創が求められていることが感じられた。
- ③ 企業が求めている人財像が従来と変わってきていることを明確に知ることができた。大学としてもこのような企業の戦略を踏まえて教育目標・内容などを改革していく必要性を感じた。
第3回 日本ヒューレット・パッカード株式会社
- 1.研修テーマ:
- 働き方改革先進企業の現場研修と求められる人材の把握
- 2.研修目的:
- 本研修では、グローパル企業である日本ヒューレット・パッカードにおける働き方について、実際の現場をご覧いただきます。また、企業に求められる人材について紹介し、その上で若手社員と意見交換をしていただくことにより、今後の大学教育のあり方の参考にしていただくことを目的とします。
- 3.研修企業:
- 日本ヒューレット・パッカード株式会社
- 4.開催日時:
- 平成30年2月23日(金)13:30〜17:00
- 5.開催場所:
- 日本ヒューレット・パッカード株式会社 本社 東京都江東区大島2-2-1
- 6.参加者数:
- 36名
プログラム
- 13:30
- 日本ヒューレット・パッカードの働き方改革の紹介とオフィスツアー
-
- 日本ヒューレット・パッカードのワークプレイス変革(働き方改革)について総務、人事、ITの三つ視点から取り組み概要を紹介します。また、年間500社以上のお客様が参加されている「HPE大島オフィスツアー」に参加いただき、実際に執務エリアを含むワークプレイスをご覧いただきます。
- 13:55
- オフィスツアー
-
- 社員の労働環境や、働き方改革を支えるファシリティについて実際の現場を見ていただきながら紹介し、意見交換します。
- 14:30
- 働き方改革の意識、捉え方について
-
- IT観点からの取り組みについて、導入事例を紹介します。
- 15:10
- 社員教育制度の紹介
-
- 日本ヒューレット・パッカードにおける、社員教育制度の考え方と実施内容、求める人材について紹介します。
- 16:00
- 若手社員との意見交換(大学での学びについて)
-
- 入社1〜5年目の社員と、「大学時代の授業・経験が現在役立っていること」や、「大学時代に学習しておくべきだったと思う点」等について、ディスカッションを行います。
- 17:00
- 終了
7.実施結果
研修終了後のアンケートでは、本研修を「他の教員にも紹介したい」、「授業に役立つ」が8〜9割であった。
〔特徴的な意見〕
- ① 若手社員との意見交換のなかで、「社会への興味は1・2年の時に持つべき」、「シラバスの中味の重要性が分からなかった」との反省があり、低学年から社会を知る機会を増やすことと、授業の重要性を理解させる工夫の必要性を感じた。
- ② 若手社員との意見交換を通じて、大学教育でのプレゼン、ディスカッション等による問題発見、課題解決能力を高める教育が役立っていることを聞き、今の取り組みが間違っていないことを確認した。
- ③ 若手社員とのディスカッションは生の声が聞けて参考になった。今後も、このような刺激的な企画を望む。
第4回 株式会社内田洋行
- 1.研修テーマ:
- 情報の価値化と知の協創を目指す人材育成
- 2.研修目的:
- 人口減少などの構造変化を背景に、地方活性化、ダイバーシティの推進、グローバル化など、日本は大きな転換期を迎えており、“生産性向上”や“21世紀型能力開発”に向けて「働き方の変革」「学び方の変革」が求められています。本研修ではICTを活用し具体的な場づくりを実践している「UCHIDAライブオフィス」と「フューチャークラスルーム」を見学・体験いただきます。企業の求める人材像や人材育成プランの共有、IoTを活用した「働き方」「学び方」改革等の取り組みの紹介、ICT構築に関わる管理職と若手社員との交流の中で、大学教育に必要となる具体的な事柄について意見交換を行い、課題を整理します。
- 3.研修企業:
- 株式会社内田洋行
- 4.開催日時:
- 平成30年3月5日(月)
- 5.開催場所:
- 株式会社内田洋行
ユビキタス協創広場CANVAS
東京都中央区新川2-4-7
- 6.参加者数:
- 24名
プログラム
- 13:00
- 会社概要と事業領域の紹介
-
- 株式会社内田洋行の会社概要・事業等について紹介します。
- 13:20
- UCHIDAライブオフィス見学
-
- 働き方と働く場の革新『Change Working』を実践し、高い生産性と躍動的なワークスタイル、省エネルギーの両立に挑戦しているライブオフィスや時代の要請に応じて柔軟化できるICT活用空間などを見学します。また、大学のアクティブ・ラーニングスペースの豊富な事例を紹介するとともに、新たにリニューアルしたフューチャークラスルームを見学・体験します。
- 14:30
- 採用基準と社員教育プログラム等の紹介
-
- 内田洋行の採用基準と社員教育プログラムを通じて、「情報の価値化と知の協創をデザインする企業」を目指して取り組んでいる人材育成の考え方や仕組みを紹介し、意見交換を行います。
- 15:20
- IoTを活用した「働き方」「学び方」変革〜「UCHIDA IoT Model」の現在とこれから〜
-
- 「働き方」、「学び方」を変革させるためにIoTはどのような役割を果たすのか。センサーネットワークとビル統合管理システムが連携し、生産性を向上させる最適な環境とゼロエネルギーを実現する「UCHIDA IoT Model」の紹介と、今後のIoTのあるべき姿について意見交換を行います。
- 16:10
- システムエンジニア・営業業務の紹介と若手社員との意見交換
-
- 一般企業や文教市場のシステムエンジニア及び営業若手社員から業務内容、必要なスキル、ICT企業の最新の課題や実態を発表します。また、管理職から求める人材像、キャリアアップについての考え方などを紹介し、その後で若手社員との意見交換を行います。
- 17:10
- 終了
7.実施結果
研修終了後のアンケートでは、本研修を「他の教員にも紹介したい」、「授業に役立つ」が9割程度であった。
〔特徴的な意見〕
- ① 企業がどのように人財育成を考えているのかを理解することができ、授業改善に向けて考えなければならない課題がいくつも発見できた。
- ② 文系の若手社員がIT企業で活躍している実態を知り、大学でも文理を融合した教育の必要性を強く感じた。
- ③ 大学の授業内容と実社会で必要とされるものが、大きく乖離していることを教員自身が明確に自覚することが必要と感じた。その解決に向けて、FD、アクティブ・ラーニング、キャリアデザインなどへの取り組みを通じて教職員の意識改革を行わなければならないことを感じた。
第5回 富士通株式会社
- 1.研修テーマ:
- ヒューマンセントリックな未来社会実現に向けた先端ICT活用事例
- 2.研修目的:
- AI、ビッグデータ、IoTなど最新技術の進歩が著しい中、いよいよ現場での取り組みも夢物語ではなく、もはや近未来、現実的なものに変化しております。このような激変する社会に於いて、実際に現実の課題を解決しながら活躍できる人材像とICT企業の実態を知る機会とします。また、ICT業界で活躍する人材育成に向けた社員教育制度の紹介や、若手社員との交流を行う中で、企業の求める人材と大学に求められる教育についての意見交換を行い、大学教育について考えるきっかけづくりとします。
- 3.研修企業:
- 富士通株式会社
- 4.開催日時:
- 平成30年3月16日(金)13:00〜17:00
- 5.開催場所:
- デジタル・トランスフォーメーション・センター
(世界貿易センタービル30階)
東京都港区浜松町2-4-1
世界貿易センタービル
- 6.参加者数:
- 31名
プログラム
- 13:00
- 富士通における人材育成への取り組み
-
- 富士通の事業概要をはじめ、社会の変化に対応可能な人材育成体系の紹介と、大学で身につけて欲しい基礎知識、能力等について意見交換を行います。
- 14:10
- 富士通が取り組むICT先進活用事例の紹介
-
- (1) 最先端AI技術が拓く新しい社会の姿、AIとの共創で新たなステージへ
人間中心でAIとの共創から生まれる社会の変化、未来のビジネスについて考え、富士通の最新AIの取り組みについて、ディープラーニングを中心とした事例と共にご紹介します。また、このような新しい社会で活躍する人材について考察します。
-
- (2)IoTが現場をつなぐ、スマートな未来
ものづくり日本を支える製造業の現場、工場では、スマート・ファクトリーへのチャレンジが始まっています。多様なパートナーと協業しつつ、現場は何を目指してどのような取り組みを行っているのか? また、工場を例に現場の視点で考え、多様な現場で変革をおこす人材、ICT企業の役割の変化について紹介します。
- 16:00
- 若手社員との意見交換(大学での学びについて)
-
- 社会人になってから今までの経験を通じて、大学時代に役立った経験・授業はどの様なことだったか、大学に対して望みたいことなどについて発表し、意見交換を行います。
- 17:00
- 終了
7.実施結果
研修終了後のアンケートでは、本研修を「他の教員にも紹介したい」が9割、「授業に役立つ」がほぼ10割であった。
〔特徴的な意見〕
- ① AIの最新動向や実例を知ることで、今後の大学教育で考えなければいけないポイントを認識した。
- ② AIやIoTによる社会の変化と企業戦略を知り、企業が求めている人材のイメージが理解できた。
- ③ 若手社員から「学生に課題を出すのみでなく、フィードバックや課題の意図を理解させるようにして欲しい」との指摘があり、疎かになりがちであることを反省し、大学として学生主体の教育に取り組む必要性を強く感じた。
- ④ 若手社員との意見交換で、企業では、「場」のデザイン力、シナリオプランニング力、コミュニケーション力が求められることを認識し、知識や技能以外に学ぶ力、考える力、行動する力を身に付ける教育の取り組みを強化する必要性を感じた。
産学連携人材ニーズ交流会
現在、IoT、ビッグデータ、人工知能(AI)、ロボットなどの技術革新が、社会や産業にインパクトを与えながら、新しい価値の創造や産業構造の変革が進んでいる。平成29年度の産学連携人材ニーズ交流会では、このような社会の変化に大学教育はいかに対応していくべきかを考え、産学が連携して社会が抱える問題解決に関与できる構想力・問題解決力育成に向けた分野横断型のPBL授業モデルや、データを活用して問題解決や価値の創造につなげられる人材の育成など、大学における教育改革を産学連携で探求する場とした。以下に概要を報告する。
- 開催日時:
- 平成30年3月14日(水)13:00〜17:00
- 開催場所:
- AP市ヶ谷 Learning Space
参加申込者: |
大学関係者 |
69大学 |
114名 |
企業関係者 |
24企業 |
46名 |
全体160名(前年129名) |
Ⅳ.プログラム
1.開会挨拶
向殿 政男 氏(公益社団法人 私立大学情報教育協会会長)
IoT、ビッグデータ、人工知能、ロボットなどの技術革新があらゆる分野に波及してきており、生活やビジネスの質を大きく変えようとしています。言われたことをする仕事から、自分で問題を発見し、解決策に取り組み、価値創造にかかわる仕事へと、質の転換が余儀なくされるのではないかと考えます。市民一人ひとりの多様な「個の力」を組み合わせて、日本全体で新しい価値を創り出していくために、大学教育をどのように変革していくべきか探究する場にしたいと思います。
2.情報提供
(1)データを活用して問題解決や価値の創造につなげられる人材の育成について
須藤 修 氏 (東京大学大学院情報学環 教授)
AIは既に研究開発の段階から、ディープラーニングによる圧倒的なパワーを提供する時代に入っている。米国企業(IBM、マイクロソフト、Google等)がリーダーとなり、医療、交通、製造、教育などのあらゆる業態で革新的な変革が進みつつある。米国のMOOCで世界的に最も人気がある講座はデータサイエンスとディープラーニングとなっている。これまでの職能スキルでは通用しない時代が少なからず来る。しかし、日本では、AIやビッグデータ活用できる人材教育が遅れているので、文系、理系にかかわらず生きたデータを題材に問題解決や価値の創造につなげられる教育を考えていかないと世界の競争に遅れをとり、取り返しがつかなくなることが強調された。
|
※図は分野横断的高度研究アプローチ教育の提案 |
(2)データサイエンスを育成する大学教育の取り組みについて
竹村 彰通 氏(滋賀大学データサイエンス学部長)
ビッグデータによる大規模データを活用することが、これからのグローバルな競争に勝つことになる。しかし、日本はデータを分析する人材の育成がなされておらず、データ自体を外国企業にとられ、活用もされてしまっている。米国統計学会の最近の資料では、統計・データサイエンス関係の学位が年間で修士4,000名、学士3,000名、博士600名となっているが、日本では殆どグラフの横軸を這っている。滋賀大学では日本で初めてのデータサイエンス学部を設立し、21世紀の石油とも言われる「データ」を資源として活用できる人材育成に文理融合で産業界と連携して取り組んでいる。価値創造は講義では教えられないことから、現場のデータを利用した価値創造PBL演習を通じて、企業・自治体等と連携した先進的な取組みを進めていることが強調された。
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※図はデータサイエンス学部における育成人材像 |
(3)産学連携によるフィンテック人材育成の取り組みについて
中妻 照雄 氏(慶應義塾大学経済学部教授)
AIやフィンテック、ブロックチェーンなどで金融サービスが大きく変わりつつあり、事務系の就職先は激減することが考えられ、今までの延長では取り残される。ブロックチェーンなどの技術によって金融取引の分散処理が可能になるとともに、異業種(IT、流通など)からの金融業への新規参入などにより、金融業などをはじめとする企業サービスが激変することに備え、フィンテックセンターを設立し、企業の実務家と連携しフィンテックの理論と実践演習を3年次・4年次に行っている。チームでフィンテック・ビジネス起業提案の報告会を行い、企業による審査で優れた提案を表彰している。大学の教員は自分の専門を教えるだけで、学生の将来を考えた教育をしていないので、意識改革が課題であることが強調された。
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※図はフィンテックの理論と実践の概要 |
(4)構想力・問題解決力の育成に向けた産学連携による分野横断PBL授業モデルの提案
大原 茂之 氏/佐野 典秀 氏(公益社団法人 私立大学情報教育協会 情報専門教育分科会)
様々な領域でICTを活用してイノベーションに関与できる学修の仕組み、教育内容・方法を産学連携で考えるため、「構想力・問題解決力の育成に向けた産学連携による分野横断型PBL授業モデル」について提案が行われ、静岡産業大学の地域連携PBL授業の実践例が紹介された。提案の背景として、大学が社会の課題や技術革新、世界の教育の潮流を把握し、教育改善に取り組まなければ、消滅の危機から脱することはできないことがあげられた。複数の大学、地域社会、企業との連携を必須要件とし、正規授業として取り組むことの必要性が強調され、小規模な取り組みでも良いので分野横断(オープンイノベーション)型PBL授業を進めるべきとの提案が行われた。
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※図は技術革新時代の授業のあり方のイメージ |
3.全体討議
「今後のICT活用人材を考える」をテーマに、三つの視点で意見交流した。
一つは、AI、ビッグデータ、IoTなどが進展することにより、社会の産業構造や仕事の質が変化することについて認識の共有を図った。その中で、AIは正解を答えることができるが、何故正しいのかは説明できない。20年先に仕事で求められる基礎力としては、論理的に説明できる論理構成力、いわゆるクリティカルシンキングが重要であり、そこに大学教育の役割がある。また、AIでビッグデータの処理を行うには、データを処理しやすい形に整えるデータクレンジングが不可欠となるが、日本では人材が育成されておらず、データサイエンス教育による人材育成が急務となっていることが確認された。
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※図は大学・教育の視点でのオープンイノベーションのイメージ |
二つは、オープンイノベーションの重要性と産学連携による分野横断型PBL授業モデルの必要性について認識の共有を図った。その中で、教育におけるオープンイノベーションとしては、縦割りで教員個人に依存する教育から、分野横断で社会や産業界と連携した教育に転換していくPBL授業モデルの必要性が確認された。また、授業を継続していくには、学生の提案が企業に役に立つことが重要である。一つの方法として、PBLの評価をクラウドファンディングを用いることで失敗を経験させるなど、学びに真剣に向かい合うようにすることが有効であることが確認された。
三つは、データサイエンス教育の重要性とこれからの取り組みで、オープンイノベーションの基盤力として、データサイエンス教育への取り組みが、世界からみて日本では非常に遅れていることが確認された。また、産学連携していくには、企業が期待する人材を大学教育に反映できるようにするなど、企業のメリットを考える必要があること。
今後、データサイエンス教育に取り組むに当たって、先進的に取り組んでいる滋賀大学と私立大学が連携できるようにすることが確認された。
4.会場の様子
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話題提供 |
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全体討議 |
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