特集 データサイエンスと教育
中島 伸介(京都産業大学 情報理工学部教授)
近年、進化するAI技術をIoTやロボットに適用すること、ビッグデータ解析に基づいたビジネスを興したり、問題点を効率的に発見し解決したりすることへの期待が高まっています。しかしその一方で、人工知能技術者やデータサイエンティストの人材不足が叫ばれています。
この社会変化の中、本学では2018年4月より情報理工学部を新たに設置しました。情報理工学部では、個別の学問領域に特化した人材育成を行うよりも、様々な社会問題や各種ニーズに柔軟に対応できる人材の育成を目指して、10の履修コースを設けています(図1参照)。この10コースの一つである「データサイエンスコース」では、人工知能技術者、ビッグデータ解析やデータマイニングの技術者、コンサルタントなどデータサイエンティストの養成を目指しています。
図1 情報理工学部10コース
「データサイエンスコース」では、機械学習やビッグデータ解析のための様々な数学をはじめ、データ処理方法とメディアデータやビッグデータの解析・マイニングまでの体系的学びを提供します。そのために、コース要件科目として、微分積分、線形代数、確率と統計、多変量解析の初歩、データ解析の基礎、最適化理論、機械学習入門、パターン認識と機械学習の講義科目を提供しています。加えてコース推奨科目等により、データを科学的に予測、推論、分類、可視化する手法や、これらを人工知能システムとして構築するためのソフトウェア技術を身につけることができます。
なお、本学部の10の履修コースでは、学生がコースを複数重複して選択することで、分野横断的かつ融合的な学びを可能としています。例えば、「データサイエンスコース」と「情報セキュリティコース」の二つを選択した場合の進路先として、IT企業において、通信トラフィックの分析やアクセス解析をもとにサイバー攻撃を検知・分析する技術者などが考えられます。
また、本学部では、「情報理工学の高度な知識・スキル・応用力と情報に関わる高い倫理観を有し、これらを活かして進展著しい情報化社会の最先端領域に立ち、新しい社会の創造に積極的に携わる人材を養成すること」を教育の目標としています。そのために、単なる知識の詰め込み教育ではなく、基礎的概念・知識・原理を理解した上で、実験・演習・特別研究等の実践的な取り組みにより、基礎知識を実際に利活用する能力や、倫理観の涵養を行います。
筆者の研究室でも、特に卒業研究の成果を学生自身が学会で発表することを重視しており、これまでに在籍した学生全員が何らかの学会発表を行っています。新学部でも同様に学会発表などを積極的にとり入れていく予定です。卒業研究の実施において、学外の研究者との議論や連携を行うことで「大学での学びの目的は、単位取得ではなく、社会で生き抜く力を身に付けること」ということを強く意識させることを心掛けています。