特集 データサイエンスと教育

近畿大学におけるデータサイエンス教育の事例紹介

M砂 幸裕(近畿大学 理工学部情報学科講師)

1.はじめに

 少し前までは考えられないことですが、今では、書店で平積みに置かれた書籍の表紙に、データサイエンス、人工知能、機械学習といったフレーズが散りばめられています。線形代数や確率統計の講義で、iPhone XなどのHPを参照しつつ、「こういった製品やサービスに使われている機械学習を理解するには、線形代数や確率統計が不可欠です」と話せば、「どういう勉強が必要ですか」と質問されることが少なくありません。ここでは、本学科のデータサイエンス関連科目の現状と全学横断型研究プロジェクトの一つである先進AIの活動について紹介します。

2.理工学部情報学科の取り組み

 本学科のカリキュラムは情報系のオーソドックスな構成です。そのため、近隣のデータサイエンス学部と比較すると、テキストマイニング、数理統計、時系列解析などの科目は用意されていません。また、多くのデータサイエンス系学部で中心的なPBL活用の科目なども用意されているわけではなく、各科目の担当教員間で緩やかに連携しているのみです。しかしながら、学生の興味関心や社会の需要が年々高まっていることから、科目構成や内容のマイナーチェンジは喫緊の課題と捉え、準備を進めている段階です。

3.先進AIプロジェクトの活動紹介

 本学では、産学連携の取り組みを促進する基盤となる全学横断型研究プロジェクトを形成しています。その一つとして、情報学科の教員を中心とする先進AIプロジェクトがあります。本プロジェクトでは、各自の専門性を生かし、①AIの基礎研究・要素技術の開発、②様々な分野へのAIの活用手法の提案、③情報リテラシーとしてのAI教育の定着などに取り組んでいます。併せて、複数の企業と連携し、セミナーや勉強会も実施しています。さらに2018年度は、先進AIプロフェッショナルシリーズを立ち上げ、学部を問わず意欲のある学生を募集し、各教員の専門分野に関するセミナーを実施しています。筆者が担当した第1回は、「データの価値を引き出す」と題し、分野の全般的な内容について導入を行いました。本学はBYOD(Bring your own device、本来、企業業務で私的PCを利用することを意味する)を推奨していることもあり、Pythonを用いた簡単な実習も予定していましたが、参加者と議論する時間が長くなったため、第1回ではやむなく見送ることとなりました。参加希望者は文系学部と理系学部がちょうど同じくらいであり、分野に関係なく、学生にとっても興味あるトピックであることが伺えます。また、セミナー後のアンケートでは、データサイエンス関連科目がカリキュラムに一切組み込まれていない学部の学生からも、具体的な手法の理論や実装について扱って欲しいという意見が寄せられており、全学的なデータサイエンス教育の必要性を強く認識するに至りました。

4.おわりに

 体系化されたデータサイエンス教育という点で考えると、本学科には課題が山積しています。しかし同時に、本学におけるデータサイエンス教育という旗を掲げるためのチャンスでもあります。どういったスタイルを確立するか、これから手探りで進むことになりますが、社会から期待される人材を継続的に輩出できるよう取り組みたいと考えています。


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