教育・学修支援への取り組み

流通経済大学における
アクティブ・ラーニング教育学修支援情報
環境構築の取り組み

1.はじめに

龍ケ崎キャンパス(茨城県龍ケ崎市)
 
新松戸キャンパス(千葉県松戸市)

 本学は、茨城県龍ケ崎市と千葉県松戸市にキャンパスをもつ、経済、社会、流通情報、法、スポーツ健康科学の5学部内に9学科、さらに5大学院を擁し、在学生総数約5,300名の中規模大学です。
 日本通運株式会社の寄附により、1965年に開校されました。開学時からの基本方針である『実学主義・少人数教育・教養教育』にも後押しされて、早くからコンピュータによる情報教育に力を入れてきました。
 1998年に教職員、学生を含めた学内の情報環境の整備と管理のため、従前の情報処理センターを改組し、総合情報センターという専門部署が発足し、学内の情報環境も一新されることになりました。従来のホスト・コンピュータ・システムからクライアント・サーバー方式にネットワークを再構築するとともに、2000年9月には、情報の教育環境から学習者の情報環境への転換[1]を方針に、学生用PCや教員用研究室のPC約550台を一斉に更新しました。その後も同様に、2004年度には約720台、2007年度には約850台、2011年度には約970台、2015年度には、約940台の規模で定期的に更新し、教育学修支援情報環境を整備してきています。
 一方、iPadやスマートフォンなどのモバイル端末の日常生活での定着やSNSなどのインターネットを介したコミュニケーションツールの拡大と定着といったICTの進歩・活用によって、めまぐるしく変わる世界を捉え、その流れに沿う教育学修支援情報環境整備のニーズが高まりました。
 そこで、高度情報通信社会における学修の様々な場面でICTによる支援をするために情報環境基盤整備として、2012年度より、「インターネット回線の高速化」、「ID統合管理とシングルサインオン環境の実現」、「ネットワークセキュリティ強化」、「クラウド化」、「Wi-Fiなど無線LAN整備」[2][3][4]を重点的に計画し実施しています。
 また、2016年度には、新松戸キャンパス2号館、2017年度には龍ケ崎キャンパス2号館においてアクティブ・ラーニングモデルルームが完成し、授業等に活用されています[5]
 次節において、アクティブ・ラーニング教育学修支援情報環境基盤整備、学修支援システムを具体的に述べます。

2.教育学修支援情報環境基盤整備

(1)基本コンセプト

 図1に総合情報センターとしての中長期計画イメージを示します。これに基づき、より多くの授業科目においてアクティブ・ラーニング(以降、略してALとする)による学生の主体的学びを推進する教育学修支援情報環境を整備しています。

図1 総合情報センターの中長期計画イメージ

(2)無線LAN

 ALを実践するなかで、スマートフォンやタブレットなどモバイルデバイスの活用が拡大してきたことに伴い、2013年9月に無線LAN環境「RKU Wi-Fi」を両キャンパス全域に整備し、キャンパス内のあらゆる場所でスマートフォンやタブレット、ノートPCを使った学修が可能になりました。2014年10月には、国際無線LANローミング「eduroam」にも参加し、他大学での無線LAN利用も可能となったほか、他大学からの来学者も本学内において、無線LANの利用が可能となりました。
 また、「RKU Wi-Fi」の利用は、各自の端末を登録し、年2回(9月と3月)の更新により、再度登録して引き続き利用が可能となっています。半年毎の総登録台数も、年々増加しています(図2参照)。

図2 「RKU Wi-Fi」端末登録台数

(3)統合認証

 2015年度には、システムごとのIDとパスワード管理、入力の複雑性による、忘れや書留の防止等を目的として、シングルサインオン環境を実現する「Ring統合認証システム」の提供を開始しました。同時に、『Extra Console ID Manager』(チエル社)を導入することによりID管理サーバーを統合管理し、シングルサインオン環境とのシームレスな連携ができました[3]。また、Ring統合認証システムは、国立情報学研究所が主導する「学術認証フェデレーション(学認)」に対応しています。

(4)ネットワークセキュリティ強化

 本学では、個人のPC等をネットワークに接続できるようにしています。したがって、セキュリティの低い端末からネットワークがウイルス感染しないように、接続するクライアントにインストールすることを目的として、2017年度より学生・教職員に対しウイルス対策ソフトを無償配布しています。特に教育研究用の有線LANに接続する場合のチェックシステムを今年度中に導入しセキュリティをさらに強化する計画を進めています。

(5)ネットワークの高速化・クラウド化

 2018年度は、増大したトラフィックに対応するために本学−SINET間を20Gbpsに増速、龍ケ崎キャンパスと新松戸キャンパス間も10Gbpsに増速するなど通信回線を増速しました。
 また、本学占有ラックがあるデータセンターの開設や、2017年度からはSINETクラウド接続を利用して、順次サーバー等機器のクラウド化を実施しています(図3参照)。

図3 クラウド化と通信回線の増速

(6)クライアントPC環境

 将来的には学生がノートPCや携帯用情報端末を使っていつでもどこでも学修に取り組めるキャンパスを目指しています。現在はその移行段階としてデスクトップPCが設置された教室数を最適化する一方、ゼミ教室でもPC利用を可能にするため、ノートPCやiPadを(写真1)の貸し出し用ワゴンに収納して必要な授業に貸し出しています[4]

写真1 貸し出し用PCワゴンとiPadワゴン

(7)ソフトウェアの無償配布

 個人用持ち込みPC等端末にインストールできるようウイルス対策ソフトを無償配布することに加えて、学生ニーズの高い、クラウド型ソフトウェアである「Office365ProPlus」を学内外どこででもダウンロード、各自PCにインストールできるよう提供しています。

(8)オンデマンドプリンタ

 「RKUどこでもプリンタ」と称して、オンデマンドプリンタを各キャンパスに導入しています。個人持込みPCからRKU Wi-Fiを介して学内設置プリンタに出力することができます。モノクロ印刷は無料で提供していますが、カラー印刷は有料です。

(9)ALルーム

 ALルームは授業をしやすいように机やイスを可動とし、ガラス張りの明るい教室のなかでも見えるプロジェクター機器を導入し、必要に応じて可動型ラックに入った貸し出しノートPCやiPadを利用して学生が主体的に学べる授業を実施しています(写真2参照)[5]

写真2 ICT活用授業教室の様々なシーン

3.教育学修支援の取り組み

(1)Ringポータル

 6,000人の本学学生と教職員、学生同士を結んだ学内ポータルサイトは、「RKU学習・キャンパスコミュニティ『Ring』ポータル」の名称で提供しています(図4参照)。Ringポータルは、2015年度より学籍システムとして利用している「Campus Square」(新日鉄住金ソリューションズ社)のポータル機能を導入しており、学内のPCからはもちろん、自宅のPCや、各自のタブレット、スマートフォンでも利用できるようになっています。Ringポータルでは、掲示板、授業履修・成績情報、休講・補講・教室変更など、学生一人ひとりの情報が確認できます。また、大学生活にかかわる学内トピックス、就職活動に関するもの、図書館の情報などの様々なコンテンツ、Gmail等の各種システムにリンクしており、学生・教員の様々な連絡・利用機能を一元的に集約する形で提供しています。

図4 Ringポータルサイト

(2)manabaによるAL支援

 授業の事前・事後学修、反転授業などをサポートする授業支援システムとしてmanaba(朝日ネット社)を導入しています。教材配布、掲示板、小テスト、アンケート、レポート提出、ポートフォリオなどの機能を利用することができます。

(3)C-learning出席調査

 C-learning出席調査システム(ディスコ社)は、教育学習支援センターが中心となり、学生すべての授業の出席をモニタし、出席日数の少ない学生へのカウンセリング等のケアを実施することで、退学者の減少を目指すために導入されています。

(4)RKUWEEK情報ガイダンス

 入学式の翌日から授業開始までの1週間はRKUWEEKといって、大学生活の円滑なスタート、学内サービス案内、履修登録などを実施します。Ringの利用方法や様々な情報環境サービス利用紹介、情報ガイダンスを実施しています。

4.おわりに

 本報告では、ALをベースにした授業が展開できるような教育学修支援情報環境整備についての取り組みを、情報基盤整備と利用する学修支援システムを中心に紹介しました。
 今後の取り組みとして、総合情報センターとしての中長期計画イメージでは、BYOD(Bring your own device、本来、企業業務で私的PCを利用することを意味する)対応、すなわち授業を含めて学内で利用するPC等情報端末は各自が持ち込む、ということを目指しています。C-learningによる全学生の全授業での出席入力は、各自のスマートフォンなどでほぼ完全に対応できています。
 一方、ゼミや授業等でPC等を利用する場合は、文書作成や表計算、あるいはプレゼンテーション資料作成などに利用します。しかしその頻度は、全員にノートPC等を大学に持ってきてもらうほどにはなっていません。manaba等を活用して授業で配布される資料の閲覧、あるいは、授業のノート代わりにノートPC等を利用するような授業形態の一層の増加のための学修情報環境整備に取り組む必要があります。また、学生が学びの過程をe-ポートフォリオ等を活用して、ふりかえり、気づきができるような仕組みの構築にあわせて、そのときこそ自然に学生全員ノートPC必携化が実現するものと考えています。
 学修支援システムにおける機能の効率的なデータ連携やシステムの統合、学生・教職員、利用者目線での使いやすさの向上も今後の課題です。

文責: 流通経済大学総合情報センター長 井川 信子
参考文献および参考URL
[1] 情報の教育環境から学習者の情報環境への転換 [ SUMMER 2000 Vol.9 No.1 ] 流通経済大学における情報化の推進,http://www.juce.jp/LINK/journal/0003/04_02.html.
[2] キャンパス全域をカバーする無線LANインフラ敷設へいつでもどこでも簡単に接続できるネットワークインフラの更改を実現〜流通経済大学での活用〜 [2014年度 No.4],アルバネットワークス株式会社, http://www.juce.jp/LINK/journal/1502/09_04.html.
[3] 学内ICT運用管理ソリューション『Extra Console ID Manager』導入でさらなるIT環境の活性化へ〜流通経済大学での取組事例〜 [2016年度 No.1],チエル株式会社, http://www.juce.jp/LINK/journal/1603/09_01.html.
[4] 教育環境の向上を目的に新たなキャンパスネットワークで利用する『タブレット』を整備〜流通経済大学への導入〜 [2014年度 No.3], 東日本電信電話株式会社,http://www.juce.jp/LINK/journal/1501/07_02.html.
[5] ゼネコンの総合力を生かして最新の学修環境を実現!〜学校法人日通学園流通経済大学の事例紹介〜 [2017年度 No.1],清水建設株式会社,http://www.juce.jp/LINK/journal/1704/07_02.html.

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