政府関係機関事業紹介

学認クラウドオンデマンド構築サービス

国立情報学研究所 学術基盤推進部 学術基盤課 クラウド支援室

国立情報学研究所では、大学や研究機関の研究・教育におけるクラウド利活用を推進するために、「学認クラウドオンデマンド構築サービス」の提供を開始します(平成30年10月予定)。本サービスは、利用機関の計算資源やAmazon Web Services (AWS)など商用クラウドプロバイダの計算資源による計算基盤の構築、その上で動作するアプリケーション環境のインストールや設定を容易にするためのサービスです。必要なときに、必要な量の、必要な機能(アプリ)を持つクラウド環境の構築を容易にします。この記事では、本サービスを提供する背景、本サービスの概要などを解説します。

1.研究・教育用計算機システムとクラウド

 現代の研究・教育には計算機システムが不可欠です。このため、全ての大学や研究機関が研究・教育用計算機システムを導入していると言って過言ではないと思います。ここでいう計算機システムの多くは、複数の計算機をネットワークで接続して構成されるクラスタタイプのシステムです。複数の利用者が共同で利用します。このような計算機システムの導入、運用では、ピーク時の必要量を想定した計算機システムを購入する必要があり、設備投資コストが高くなってしまいます。一方で、長期休暇中や研究の進捗状況によって利用率が低くなるのが一般的です。また、GPGPU搭載計算機のように新たな技術を採用した計算機への迅速な対応も難しいという課題があります。
 そこで、近年注目されているのが、クラウドの利用です。商用クラウドプロバイダからは、必要なときに、必要な量の、必要なタイプの計算資源を、必要とする時間分だけ購入することができます。このため、必要最低限の研究・教育用計算機システムを用意しておき、計算機が不足した場合、不足分だけクラウドから購入して利用し、不要になったら削除するという使い方ができるようになります。

2.クラウド利用の難しさ

 このように、クラウドの利用には多くの利点があります。しかし、クラウドの計算資源を本格的に利用するには、いくつかの難しさがあります。ここでは技術的難しさについて説明します。

● 環境設定、環境再現の難しさ

 クラウドの計算資源をあたかも機関内の計算資源と同じように利用するには、それなりの設定を、機関、クラウド双方に施す必要があります。様々な設定があり、使用目的によって設定する項目も異なります。全てを理解して設定するのは、なかなか困難な作業です。また、使用目的によっては何回も同じ計算環境を再構築する必要があり、正確に再現するのにも難しさがあります。

● 複数プロバイダの利用や切替えの難しさ

 商用クラウドプロバイダは非常に多くのタイプの計算資源を用意しています。しかし、利用したい計算資源が現在利用中のプロバイダにあるとは限りません。また、何らかの理由でプロバイダを変更したい場合もあります。プロバイダごとに利用インタフェースが異なるため、利用者は複数の利用インタフェースを習熟する必要があり大変です。

● ネットワーク接続設定の難しさ

 クラウド計算資源を機関内の計算資源と同様に利用するには、クラウドプロバイダとの間の安全なネットワーク接続が必要です。国立情報学研究所が運用している学術ネットワークSINET5のSINETクラウド接続サービスを利用すると、仮想プライベートネットワーク(L2VPN)技術を用いて、機関のネットワークをクラウドプロバイダの計算資源に高速かつ安全に延長することができます。このサービスの利用には、ルーティング設定等が必要になります。また、商用インターネットによる、クラウドプロバイダ計算資源への接続も可能です。この場合、安全な接続を行うには、VPNの設定等が必要となります。

3.学認クラウドオンデマンド構築サービス

 「学認クラウドオンデマンド構築サービス」[1][2]は、これらの問題を軽減します。図に本サービスの利用イメージを示します。利用者がクラウド環境を構築する最小限の操作は、①本サービスにログイン、②構築したいクラウド環境の内容が記述されているテンプレートの選択、③構築の起動、の3ステップだけです。このような簡単な操作で、図左の1つの単一クラウド環境から、図右の複数クラウド環境まで構築できます。

図 学認クラウドオンデマンド構築サービスの利用イメージ

 初めての環境を構築するときには、テンプレートの作成が必要です。基本的な計算環境やいくつかの研究・教育用アプリの実行環境の構築テンプレートは、NIIやコミュニティによって提供される予定です。テンプレート化されているので、必要な設定項目は明確で、各自の環境の値を入れるだけで利用できます。また、テンプレートには構築作業のワークフローが記述されているため、環境の再現も正確です。目的の環境に合致するテンプレートがない場合は、近い環境のテンプレートをコピーし一部を書き換えて利用します。例えば、別のタイプのクラウドの計算資源を1つ追加したい場合、最小では2行追加するだけです。
 次に複数プロバイダの利用や切替えについてです。先ほど述べたように、クラウドプロバイダによって利用インタフェースが異なります。しかし、本サービスがその違いを吸収するため、利用者は本サービスの利用方法を習得するだけで複数のクラウドプロバイダを利用できます。具体的には、テンプレートの計算資源の指定行には、プロバイダ名を指定するようになっています。このため、獲得する計算資源ごとにプロバイダ名を変更するだけで、複数のプロバイダの計算資源を同時利用できます。プロバイダを切り替える場合も同様です。最小の変更は、計算資源の指定行でプロバイダ名を変更するだけです。
 最後にネットワーク接続設定についてです。利用者が希望する接続形態に合わせて、NII担当者が本サービス内の設定を実施します。また、機関側、クラウド側のネットワーク設定は利用機関の作業となりますが、必要に応じNII担当者が設定項目や設定方法の支援を行います。

4.まとめ

 本サービスを提供する背景、本サービスの機能概要を説明しました。クラウド環境はうまく利用すれば非常に効果的です。しかし、構築や設定の難しさが1つのハードルになっています。本サービスはこれを軽減します。今後も研究・教育機関のクラウド活用に役立てるよう改善に努めてまいります。本サービスについてのご質問、ご相談については国立情報学研究所クラウド支援室までご連絡ください(https://cloud.gakunin.jp/)。

参考文献
[1] 学認クラウドオンデマンド構築サービス、https://cloud.gakunin.jp/ocs/
[2] SINETを活用したインタークラウド環境構築システムの開発、電子情報通信学会技術研究報告CPSY2017-17、pp. 7-12、2017年7月。

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