事業活動報告 No.2
本協会では私立大学における職員の職務能力の開発・強化を支援するため、全学的な教育の質的転換及び教学マネジメント体制の整備に向け、職員として情報通信技術(ICT)を駆使した教育改革に主体的に関与できるよう知識理解を深めるとともに、実践力の向上を目的として、例年7月中旬に基礎講習コースを、11月もしくは12月にICT活用コースの講習会を実施している。
本基礎講習コースは、参加者が、ICT活用の可能性や工夫について基礎的な理解を深め、大学の管理運営や教育活動の充実に向けて主体的に取り組む考察力の獲得を目指している。
本年度の本コースは、①ICTの活用が大学の管理運営、教育活動の充実に果たしている役割を認識し、②問題発見・解決プロセスの体験を通じて、自己の業務の改善や職場における課題解決にICTの活用を考え、提案できるようにすることをねらいとして掲げた。そして、7月4日〜6日の3日間、加盟校・非加盟校合わせて55の大学・短期大学から101名(昨年度比6%増:昨年度は95名)の参加者を集め、ダイワロイヤルホテル THE HAMANAKO(旧:浜名湖ロイヤルホテル)で開催した。
参加者の所属部門は、学事・教務部門が34.7%、情報センター部門が27.7%と、この2部門で6割強を占めているが、学生、就職、広報、総務、会計経理、人事、管財、図書館、企画部門と、大学における業務の全部門に亘っている(図1参照)。また、本コースは、主として勤務年数が浅い職員を対象と想定したプログラム構成となっていることから、年齢別では20歳代が75.2%、在職年数別では3年以下が76.2%を占めている。女性職員の参加者は昨年度と同程度(42.6%)であった。
図1 参加者の所属部門構成(実数)
プログラムの構成は、参加者各自による事前研修と本研修とし、以下により実施した。
大学を取り巻く環境、社会が大学に求めること、ICTを活用した学修環境など、研修参加にあたり把握しておくことが望ましい基礎的な情報について、本協会のWebサイト上の大学改革及びICT利活用のキーワードやコンテンツを活用し、事前に学習することにより、理解を深めるものとした。また、今年度は、参加者自身と所属大学に関する情報を所定の様式にまとめて提示する「自己紹介・自大学紹介シート」をあらかじめ作成し、目標設定してもらうことも事前研修として課した。
本研修では、研修を進めるにあたり必要となる、大学を取り巻く環境、大学教育の質的転換の必要性と教学マネジメント体制の重要性、それらを実現するための基礎環境としてICT活用の意義などについて識者から情報を提供して理解を深めるとともに、課題についての認識を共有した。
「研究講習会での学びについて」
木村 増夫 氏(上智学院理事長補佐、運営委員会委員長)
イントロダクションでは、大学の経営戦略や教育活動の充実に向け、職員が大学改革に主体的に取り組むための基本姿勢、心構えについて、参加者の共通認識を醸成した。
まず、「研修会に臨む上での基本的な姿勢」として、俯瞰して全体像を捉えつつも、細かく分解して考えるとともに、参加者の多様で異なる価値観・視点を組み合わせ、共有することを心掛けて、本研修に臨んで欲しいとの要請がなされた。
また、「変化の早い現代社会においては『停滞』は『後退』を意味する。大学職員には、継続的な大学改革の推進、新たなる価値を創造する能力が求められている。理想(目標)を高く掲げ、常にアンテナを張って関心を絶やさず、変化を敏感に感じ取り、小さなことでも良いので、常に新しいことに挑戦する『やってみる』態度が大切である。その上で、「ICTを活用する能力」を身につけることが必要不可欠になってきている。」との熱いメッセージが発信された。
①「ICTの活用と課題」
遠藤 桂一 氏(芝浦工業大学情報システム部長、運営委員会副委員長)
現状の確認として「ICTの活用」が、大学や教育の中でどのように使われているのかについて、参加者に発言させる形式で意識付けを行った。
その後、過去30年近くの間のICTの進展と現在予想されている未来のICT利用の姿が、具体例とともに語られ、現実にICTが業務の効率化や省力化に大いに役立つことが示されるとともに、課題についての認識も提示された。最後に「ICTを使うことで業務改革をした気になっていないか?=ICTの利用が当講習の目的ではない。」ということを参加者に明示し、必要なのは「How」ではなく、「Why」を深掘りすることであり、そのために3日間に亘る合宿形式の意義が紹介された。
②「情報システムの実際と課題」
牛島 裕 氏(近畿大学総合情報システム部事務部長)
大学改革におけるICTの重要性について、理解の共有を図ることを目的として、標準化による業務効率・サービスの向上、クラウドやパッケージ利用による投資の低減・固定化、収支の見える化による財務体質・ガバナンスの強化を目指した業務改革の背景・経緯など、近畿大学の実例を次の4つのパートに区分して紹介された。
※ 全てのICTは「道具」である。
重要なのはデータが引き継がれ、活用されることであって、ICTはそのための道具でしかない。
※ 問題解決に「鉄板」はない。
※ 近畿大学の事例:経費と事情。
※ 近畿大学の取り組み:ICT適用の実際。
ICTが苦手なことに注力するよう向けた結果、近畿大学としての法人ガバナンスの進化と学生・教職員のサービス向上に寄与しているとの事例紹介があった。
システム導入ありきではなく、サービス・ガバナンス向上と人間でなければやれない新たなミッションに人員を振り分けるため、ICTを導入して業務改革を行うとのポリシーに沿ったシステム導入の解説となり、受講者はICT導入の意義を共有した。
③「データの活用と業務の改善」
齋藤 真左樹 氏(日本福祉大学常務理事、副学長)
近年大学におけるデータ(情報)の活用は、運営や改革に関する判断を行う際に有効であることから、大学職員が身に付けておくべきデータ活用の考え方や方法について、3つの項目に分け日本福祉大学の実例を交えて紹介された。
※ 組織で仕事をする基本
組織目標を達成するためには、設定された目標が構成員間で正しく共有され、客観的データに基づく経年変化・傾向の客観的分析が必要となる。そのため大学運営・改革に向けた教職協働を進める中で、様々なデータ収集と分析は重要度を増している。これらデータを有効活用するためには、わかりやすく可視化する必要があるが、紙媒体による情報共有には限界があることから、ICTの活用が有効である。
※ データ(情報)の可視化
「情報を可視化する」とは、真実を客観的なデータで押さえて、わかったことを伝わりやすい方法で表現するということである。例えば、所属大学の特徴を客観的なデータを使って説明すること等の方法がある。
※ ICTの進化と情報活用方法の変化
ICTの有効活用を進める過程で情報環境の整備が必要であり、次代にマッチした活用の可能性を探ることも大切である。なお、日本福祉大学の事例ではIR推進室でデータ収集蓄積分析を行い、FACTBOOKによるデータ可視化等の情報共有を通じて大学運営に活かしている。IRが組織に根付くまで10年はかかると言われているが、その10年目を迎え、本学では既になくてはならない部署となっていることが紹介された。
④「企画立案支援のためのIR活動に必要な基礎知識」
鎌田 浩史 氏(学校法人上智学院IR推進室)
IRは、機関の計画立案、政策形成、意思決定を支援するための情報を提供する調査研究であり、日本の高等教育機関におけるIRの特徴、IRが必要なステージが紹介された。
次に、データに基づいた企画立案のための基礎知識の説明では、①データのハンドリング手法をフェイズにあわせて適切に選んだ後、②データ性質を理解し、③データ分析の方針決定、④データにあったグラフの作成、⑤データを使ったストーリーの作成という手順にしたがって、それぞれの状況にあった選択法や注意点が紹介された。データを使ってストーリーを作るフェイズでは、改めて、論理性を大切に、相手に見える形で伝えるストーリー的な思考が重要であり、職員一人ひとりのスキルとして業務の中で役立ててほしいことが紹介された。
全体討議では、各グループ内で事前研修で得た情報を踏まえつつ、先に行われたイントロダクション及び情報提供を受けて、気づいたこと、特に印象に残ったことなどを話し合い、情報提供の内容の振り返りと深化に取り組んだ。
今年度の本コースのプログラムを策定するにあたり、参加者への獲得能力の一つとして、大学職員としての「意識、視野・視点、姿勢」と「問題・課題発見・解決能力、企画提案力、PDCA運用力、タイムマネジメント等」を獲得するための“気づき”を掲げた。具体的には、2日目に1日かけて実施する「グループ討議」で、1グループ5〜6名で18グループを構成し、3つのグループを一つの班として、各々の班毎にサポートを担う運営委員を配置し、以下のように4つのステップを踏んで議論を進めた。
- ICT環境・データの活用における現状と理想像の共有
- ICT環境・データの活用における問題の背景を考える
- 理想像を実現するための課題を明確化する
- 課題に対する実施策・実行計画を立案する
各ステップの課題と討議の様子は次の通り。なお、グループ討議は、ステップ1で各自の考えを付箋、ホワイトボードに貼り出して発表するように指定したことにより、ステップ2以降の討議で全員が発言する雰囲気が醸成できた。
(1) ステップ1
参加者自身にとって日常の業務を通じて実感している問題を相互に発表し、共有を図った。あらかじめ、事前課題として作成した「自己紹介・自大学紹介シート」に自分の業務の課題や所属大学のICT活用に関する課題を記載していたことや、グループメンバーの多くは同世代であるため共感することも多いことから、闊達な意見交換が行われた。
(2) ステップ2
表面化した問題事象にのみ囚われることなく、その背景について、積極的に意見交換が行われた。また、新たな知見として、1日目の「情報提供」の内容を取り入れ、背景の分析が行われ、より本質的な問題の要因を考えるようにした。
(3) ステップ3
「問題の解消に為すべきこと=課題を見いだす」段階になると、多くのグループで討議に戸惑い・停滞が見受けられるようになった。職務歴の浅い世代であるが故に、「問題は認識できるが、では何をしなければならないか」という実践的な思考いわゆる戦略への取り組みに至らなかった面が見られた。しかし、より本質的な問題と、その解消のための対策(課題)を見いだすことの困難さを体験することができた。
(4) ステップ4
ステップ3の討議において的確な課題の設定に手間取ったこともあり、全般的に抽象的な実施策にとどまった。抽象的な施策の立案に止まってしまったため、自身の行動計画についても抽象的になってしまったが、自分が何をすべきかを意識して討議に参加していることから主体的に問題解消・課題解決を考える体験になったものと思われる。
グループ討議の様子
2日目に1日かけて取り組んだ課題解決策等を3日目に最終報告するため、2日目の夕食後にポスターセッションによる中間発表を行い、他グループからの質問や指摘、アドバイスを得ることにした。
中間発表の様子
3日目は、2日目のグループ討議と中間発表での意見を踏まえ、振り返りを行った上で、2班6グループ合同による最終報告を行った。
当日天候不良による交通機関の運行支障が生じていたことから、発表8分、フィードバックシートへの記入2分の計10分に短縮した。
① 学生との情報共有については「ポータルサイトが利用されていない」ことに対して、学生を交えたシステム開発や、活用促進のために学生の協力を得て推進するものなど、利用者を巻き込んだサービスの提供を提案するものがあった。また、ポータルサイトによらず、学生が利用するSNS等のICTサービスの活用や、スマートフォン利用を前提としたアプリの活用なども提案された。
② 教職員間での情報共有については、サーバー構成などの見直しによる共有フォルダの構築といったハードウェアに関する施策を提案するものがあったが、ここでも単にハードウェアの構築に止まることなく、導入前後の利用者視点での検証や人的サポートについても検討がなされていた。また、情報共有のための様式の統一化などソフト面に着目した提案もなされていた。
今年度は、事後課題として、各自が①グループの討議結果のまとめ、②本コースに参加して得たICTに関する知識・知見、③研修で得たことと今後の行動計画・宣言、④運営に関する要望等の提出を義務付けた。
まず討議結果のまとめを整理したことで、各自があらためて3日間取り組んだことを振り返る機会とすることができたと言える。
ICTに関する知識・知見については、ICTの重要性や必要性を理解するとともに、改善・改革のための手段としてICTを導入すると考えることができたという報告が多数寄せられており、情報提供に際し運営側が伝えたかったことが的確に伝わったと言える。
なお、情報部門以外の職員にとって必要となるICTの基礎知識を身につけるためのプログラムを検討する必要があると思われる。
今後の行動計画・宣言については、「大学職員としての「意識、視野・視点、姿勢」と「能力(問題(課題)発見・解決能力、企画提案力、PDCA運用力、タイムマネジメント等)」を獲得するための気づきを得て大学運営に参画していこうという姿勢が報告されて、こちらの期待に添った研鑽の機会になったことが伺える。
運営への要望等は、研修したことについては前向きに捉えられており、今後も、同様のコース展開をしていくことに問題はないと判断できる。
また、参加者間での交流について、多様な部署の職員との交流だけでなく、同様の部署の職員と交流できる機会の提供が求められている。フリーディスカッションの運営など、仕組みを再考する必要もあろう。
今年度の本コースのプログラムについては、昨年度からいくつかの変更を行った。
まず、本コースのプログラムは、初任者レベルを対象にして、大学職員として求められる様々な能力を獲得していくための意欲を引き出す「きっかけ」になることを意識して設計した。そして、グループ討議の主題設定にあたっては参加者自身にとって身近なもの、自分が主体的に関われるものとした。
事前課題として「自己紹介・所属大学紹介シート」の作成を課し、その作成を通じて自己の課題や目標設定、自分の業務や所属大学のICTに関する課題等をあらかじめ認識し、参加することにした。また、シートをグループ間、参加者間での人的交流ツールとして活用した。
今後も、改善を積み重ねることにより、社会の仕組みを変える力をもつICTを適切に活用する職員の能力増進に向けてプログラムの充実を図って行きたい。
文責:大学職員情報化研究講習会運営委員会