事業活動報告 No.6
平成30年度の本会議は、9月6日にアルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)にて開催された。出席者数は38名であった。平成30年6月に中央教育審議会大学分科会将来構想部会から中間まとめが提出され、秋には答申が提出されることを踏まえ、この会議を担当する文部科学省高等教育局高等教育企画課の江戸朋子課長補佐から「将来構想における短期大学の在り方」に関する報告をいただき、短期大学の在り方についての認識を深めるとともに、地域の産業を支える職業教育機能の充実強化を如何に図っていくかについて議論した。
本会議では、短期大学教育の質的充実を如何に支援するかという観点から、専門職業人材の養成、教養的素養人材の養成、地域コミュニティ人材の養成を充実・強化するためのICT活用を含む連携、大学間連携による教育改革の試みおよび地域拠点としての教育機能の質向上に向けた対策と課題を探求する場とした。詳細は以下の通りである。
2017年3月に、文部科学大臣より出された中央教育審議会への2040年頃を見据えた高等教育の将来構想について総合的に検討する「我が国の高等教育の将来構想について」の諮問内容を踏まえ、2018年6月にとりまとめた「今後の高等教育の将来像の提示に向けた中間まとめ」の内容を報告する。
「我が国の高等教育に関する将来構想について」には、4つの諮問事項があり、
(1)各高等教育機関の機能の強化に向け早急に取り組むべき方策
(2)変化への対応や価値の創造等を実現するための学修の質の向上に向けた制度等の在り方
(3)今後の高等教育全体の規模も視野に入れた、地域における質の高い高等教育機会の確保の在り方
(4)高等教育の改革を支える支援方策の在り方
の4点である。
2040年に向けた高等教育の課題と方向性としては、文系・理系の区別にとらわれない新しいリテラシーにも対応した教育、分野を越えた専門知や技能を組み合わせた教育、個々人の「強み」や卓越した才能を最大限伸長する教育があげられている。高等教育の新たな役割としては、リカレント教育を通じ、世代を越えた「知識の共通基盤」に、国内外に必要な教育を提供(日本の高等教育の国際展開)し、地方創生や地域を支える人材の育成を通じて、日本のこれから、地域のこれからを創るという新たな役割を再構築していくことが必要である。高等教育の将来像を国が示すだけでなく、それぞれの地域で、高等教育機関が産業界や地域を巻き込んで、それぞれの将来像が議論されるべき時代であり、それぞれの「強み」を活かした上での連携・統合や規模の設定を地方創生や人材養成の観点を踏まえて、産業界や地方公共団体との連携の中で検討する必要がある。
また、国公私立の設置者の枠を越えた大学の連携が進まないなどの現状課題があり、「地域連携プラットフォーム(仮称)」において議論すべき事項について「ガイドライン」の策定や、「地域連携プラットフォーム(仮称)」の在り方の一つとして、国公私立の枠を越えた連携を可能とする「大学等連携推進法人(仮称)」の制度の創設を検討している。この「大学等連携推進法人(仮称)」を設立することにより、各大学の強みを活かした連携により、地域における高等教育を強化することができ、参加する大学等の機能の分担及び教育研究や事務の連携を推進することができる。
各高等教育機関の役割として、特に専門職大学、専門職短期大学については、平成31(2019)年度から開設予定であり、理論にも裏付けられた高度な実践力を強みとして専門業務を牽引でき、かつ、変化に対応し新たな価値を創造できる人材を育成するため、産業界と密接に連携して教育を行う新たな高等教育機関として期待できる。また、既存の大学・短期大学が、専門職学部や専門職学科を設置することも可能であり、各大学は自らの人材養成の目的を明確にし、強みや特色を踏まえる中で、その必要に応じて専門職学部等への転換も期待できる。短期大学については、短期であることや地域でのアクセスの容易さといった強みを生かし、高齢者も含めた社会人へのリカレント教育を通じた地域貢献などの役割も期待されるところであり、地域に必要な高等教育機関として振興方策の検討が必要である。2040年に向けては、短期高等教育機関として、大学制度における短期大学の位置付けの再構築について検討が必要である。
答申に向けた検討課題として、諮問事項(1)から(3)までに関するもののうち、進学者数の減少局面を迎え、教育の質を保証しつつ適正な規模を維持していくため、設置基準等の見直しを含む設置認可やその審査の在り方と認証評価制度の改善及び恒常的な情報公表の促進、国公私の設置者別の役割分担やそれを踏まえた規模の在り方、大学院教育の在り方や大学等における研究との関係などの項目などを中心にさらに議論を継続し、また、将来構想部会の下に置かれた「制度・教育改革ワーキンググループ」では、諮問事項のうち、特に制度面に関する事項について議論を進めており、こちらも具体的な提言に向けて更に検討を進める。
地域と連携した、アクティブ・ラーニングとICTを活用した課題解決に取り組む教育活動、地域の生活・文化向上を目指す研究活動、公開・生涯講座による社会貢献活動を組み合わせて地域活性化の担い手の育成につなげる短期大学機能強化の取り組みおよび地域で期待される社会人基礎力の獲得を目指したキャリア教育(「鹿児島発社会人養成プログラム」)の実践に関する事例紹介である。
鹿児島女子短期大学では、鹿児島県の学生のポテンシャルは高いが他県への就職が多いという状況を鑑みて、「地域との密接な連携に基づく実践的教育により、地域活性化の意欲的な担い手の育成」を目指すことを教育目標の一つとしている。また、地域貢献として、文部科学省の地(知)の拠点(COC)事業に関連して、鹿児島市の街づくりに取り組んでいる。
特に、ICTをベースとした学生支援では、教養学科の実践能力養成の一環として、学生にモバイルパソコンを2年間無償で貸与し、学内で開発したキャリア支援のための双方向ネットワークシステムを活用する社会人基礎力要請プログラムを推進している。
具体的な、ICTネットワーク化による合理化・迅速化・データ化・地域貢献のための学修支援内容は次のように6項目におよんでいる。
① 学生支援システム:学生は携帯電話とパソコンを活用して、最新の就職情報を入手(就職情報検索システム)することができる。また、教員・企業とのコミュニケーションを活性化し、教員による文書添削などのきめの細やかなサポートを受けることができる。
② インターンシップ:鹿児島県の組織するインターンシップに関する連絡会に学内ネットワークのインターンシップサイト(インターンシップ・キャンパスウェブ)を連携させて、学生と企業のマッチングに活用している。
③ 就職先企業への意思決定支援シート:卒業後の進路を決めかねている学生を支援するもので、特に広範な業種を就職先とする教養学科の学生に多いこの悩みを解決することが目的である。
④ 地域貢献への評価:教育プログラム認定証を発行することにより、学生の地域貢献などのエビデンスとする仕組みである。
⑤ 卒業生在籍事業所へのニーズ調査:卒業生の在籍するインターンシップ先への教員の訪問時にアンケート・インタビュー調査を行って、結果を集計・分析・視覚化している。
⑥ ICT活用による「鹿児島の地域リソース発信」(計画中):鹿児島の地域リソースについて、観光客の求めているものと、地域が提供しようとしているもののギャップを解消させるためのプラットフォームづくりの企画である。
地域で活躍できる人材の育成を目指し、短期大学の知的資源と学生の活力を核として、サービスラーニング型教育体系、課題解決型教育体系などの学びを通して地域貢献を行い、実践力を高めていく地域と一体となった新カリキュラム導入について紹介する。また、この取り組みを通じて市民意識の高揚に貢献するための、短期大学教育の改善充実・強化の展望と課題を紹介する。
聖徳大学短期大学部(千葉県松戸市)は保育科と総合文化学科からなり、文部科学省の進める「地(知)の拠点整備事業」に携わって、自治体と連携して全学的に地域を志向した教育・研究・社会貢献を進めている。
具体的には、「信頼と共感でつなぐ“ふるさと松戸”づくり−多主体間協働で−」に取り組み、地場産業の活性化、既存商店街の活性化、地域の子育て力の向上、地域意識の高揚を取組みの4つの柱としている。この取り組みを人材育成につなげる必修の地域志向科目として、「社会貢献の理論と実践」と「地域貢献活動の実践」がある。これらの地域志向科目の進め方は次のとおりである。
① 地域の現状と課題を知る(学内授業):松戸市長、市役所員、地元商店会やNPO、保育者、子育て中の保護者などを講師として、松戸、小金の地域に関する講演を聴講。
② フィールドワーク:保育科では松戸市役所、市内の幼稚園、保育所などとの連携による子育て支援活動を実践。総合文化学科では、松戸まつり、小金宿ぶらり市などに参加して活動報告を作成(1年生)、グループに分かれた調査取材を実践(2年生)。
③ 新聞作り(総合文化科):②の報告、取材に基づく新聞を作成、聖徳祭で発表して地域交流を促進。
④ 学習成果の発表:保育科では、「私たちにできる子育て支援」をテーマに毎年12月に「学生フォーラム」を開催して、学生がグループごとに成果を発表。地域の幼稚園、保育所などの関係者の評価を受けている。総合文化学科では、「地域貢献活動発表会」を開催。学生がグループごとに成果を発表し、地域の商店会や自治会の関係者の評価・助言を受けている。
また、「信頼と共感でつなぐ“ふるさと松戸”づくり−多主体間協働で−」の活動では、地域活性化の課題を4分野に分けて取り組んでおり、具体的な取り組みは、以下のとおりである。
① 地場産業の活性化:特産品の食材からのレシピづくり。枝豆の「湯上り娘」、あじさいねぎの「あじさいクッキー」などがある。
② 既存商店街の活性化:松戸のいろいろな店の菓子を同時に試食できる「和カフェ」を松戸まつりで開店、地元のお店の紹介冊子の作成など。
③ 地域の子育て力向上:保育科では、「松戸子育てカレッジ」を開設。PBLや松戸市における子育て支援の課題にアプローチする時間と機会を確保し、子育て広場やコンサートなどの学生による子育てへの支援を実践している。
④ 地域意識の高揚:学生が題材を集めた絵本やカルタなどの作成。このほか、松戸を舞台にしたライトノベルの執筆で、新聞の取材も受けている。
以上の活動に対する学生の自己評価としては、身についた力として、企画力、聴く力、プレゼンテーション力、コミュニケーション力などがあがっており、総合評価としては、8割の学生が、とても満足、あるいは、やや満足しているという結果となっている。また、地域に関する学生の意識が向上しており、自立性、コミュニケーション力、情報活用力などのコンピテンシー(社会人基礎力)の向上が見られる。教員の観点では、学生たちは全体として逞しくなったという印象を受けている。
今後の課題としては、時間(多忙な授業時間を縫って、地域貢献活動にどう時間をあてるか)、経費(交通費、活動費、特に前者は学生の自前)、消極的な学生への対応、教育と地域貢献のバランス、活動の発信(効果が見えにくい)、次世代への継続がある。
課題提起:「地域の発展にICTで情報発信力を高めるにはどうすればよいか」
はじめに三田薫氏が「地域の発展にICTで情報発信力を高めるにはどうすればよいか」について問題提起を行った。短大生には若さ(4大生より2年若いゆえの活力)、素直さ(良い意味で世間知らず)、献身的姿勢(人の役に立ちたいと思える気持ち)があること、このような特徴を持つ短大生に対し、1)短期的目標設定、2)細かな役割分担、3)少し背伸びした課題を提示することで、意外な能力を発揮して結果を出すことがあることが紹介された。こうした特徴を持つ短大生の地域活動の目指すべきところは、大学生が4年間かけてやり遂げるほどのハードな内容ではなく、また専門技能の習得で忙しい専門学校生には取り組む余力がない部分から、学生が地域と連携して社会人基礎力を高められる活動を選ぶことが提案された。
次に同氏が地域活動を短大の課外活動として2年半行ってきた経験を通じて、活動内容を一定以上拡大しようとするとき、その運営にはICTツールの活用が不可欠であることが紹介された。ICTツールとしては、一般に利用可能なもの、学内で提供されているもので十分であるが、1)情報共有のツール、2)案内・広報のツール、3)申し込み受付のツール、4)活動紹介動画制作のツール、5)活動の評価ツールを使い分けることにより、運営がスムーズになったことが紹介された。
一方、明らかになった課題として、1)関わる教職員の慢性的負担、2)地域連携先確保の難しさをあげ、その結果として学内で活動が広がらないという問題が指摘された。
それらの問題を克服し、2年という限られた期間にコミュニケーション能力を高める地域活動に多くの学生を参加させるため、全国の短大の教職員有志が連携してICT活用地域支援事業を進めていくことが提案された。
支援事業を実現するためには、ICTの専門家、異世代間コミュニケーションの専門家、個人情報保護の専門家、ビジネス・経営の専門家などの人的リソースの確保、また短大生も高齢者も安心して利用できるよう、セキュリティの確保された基盤整備が必要となる。乗り越えなければならない課題は多いが、高等教育機関の中で今こそ短期大学のプレゼンスを高めていくために、全国の短期大学の有志でコンソーシアムを立ち上げ事業を推進するという、敢えて大胆な提案にするという趣旨のものであった。
[質問1]
コンソーシアムを立ち上げるのであれば、各短大の地域連携の試みや事例集のデータベースを用意していただきたい。ICTで学生と高齢者をつなげる場合、異なる地域の高齢者ともつながるということになるが、これまでの地域連携とどう関係してくるか。
[回答:三田]
今回の提案内容は、高齢者の話を聞くことをオンラインで30分に限定することにより、学生も高齢者も参加しやすくなることを目指している。しかしこの聞き取り経験を重ねて傾聴の技術を学生が習得することで、実際に地元地域で活動するという発展につながる。
[質問2]
カナダには、テクノバディという取り組みがある。高校生がボランティアで図書館に行き、高齢者にパソコンの使い方を教えるというものである。高校生はボランティアを行った証明が得られ、高齢者は、自分の孫くらいの若者に教えてもらうことに抵抗がないため、ウィンウィンの関係が築けている。地域密着型で高齢者と触れ合う場ということであれば、図書館など公共の場も使える。
[回答:委員長]
地元地域から活動を始めるにしても、情報活用能力が必要になる。地域活動のためにどういった能力が必要かについてもコンソーシアムを通して考えていけるとよい。
[質問3]
本学はURと包括連携協定を結び、団地の高齢者、特に男性の高齢者の孤立を防ぐために、多世代交流を促進する活動を始めて3年目になる。女性は積極的に参加してくれるが、男性はめったに現れない。オンラインで高齢者の話を聞いて本にまとめるといった事例は、本学でも参考にしたい。また短大コンソーシアムについては、その議論に参加したい。
[回答:三田]
オンラインで学生と高齢者をつなげる発想に至った1つの理由は、短大教員が多忙で、地域に出向く余裕がないということだ。オンラインでの申し込み、受付の組織化などができれば、どの地域の短大生も参加できることになる。
[意見:委員長]
地域活動についてコンソーシアムを作って各短大が協力しながら地域活動を進めていくということにご賛同いただけるとありがたい。ご賛同いただける方は挙手をお願いします。
有り難うございます。ここで多くの方にご賛同いただいたので、我々としても設置を考えていきたい。
[質問4]
地域を超えて短大生が交流できる仕組みが欲しい。学生は他学科の学生と一緒になると競争心などが芽生えて頑張ろうという気持ちになる。ネット上のコミュニケーションでも学生同士の交流の機会があるとよい。
[回答:委員長]
ICTがあれば実現できることであるので、検討したい。
[質問5]
学生も教職員も、長期的な継続のためには様々な障害がある。それらの障害を克服するヒントがあれば教えてほしい。
[回答:大重]
システムよりも、むしろシャイで表に出たがらない学生とどう付き合っていくかが難しい。そうした学生に寄り添い、また小さな目標を与えて、達成したら褒めるという姿勢が必要だ。
[回答:蓑輪]
モチベーションの低い学生の扱いが難しい。地域で頑張っている人たち、あるいは同級生で熱心に活動している学生を見せることで、やる気を引き出せることがある。
[回答:三田]
教員の負担を減らす方法として、参加学生をグループに分け、リーダーと連絡担当を重要なポジションとして位置づけ、その他に細かく担当を決めていくようにした。
[質問6]
本学ではチューター制を取り入れ、2年生が1年生を指導する体制を作ることで、地域活動継続の役に立っている。スカイプで学生と高齢者をつなげるためには、インフラの整備が必要であると思うが、それをどのように確保しようとしているのか。
[回答:委員長]
そういった課題もコンソーシアムを立ち上げて考えていきたい。
[質問7]
地域活動において、地域から信用されるようになるには時間がかかる。長年地域コミュニティとやり取りしている先生がいたら、どのように取り組んでいるか教えてほしい。
[回答:蓑輪]
地域との信頼関係を作るのは難しい。学内の教員に地域住民がいると活動しやすくなる。
[意見:事務局長]
2019年には専門職大学が立ち上がる中、今こそ短期大学のプレゼンスを高めるラッパを吹かなければならない。短大卒業生が地域で活躍している中、短大を閉鎖するようなことがあってはならない。教員は研究を実践活動に繋げる貢献、学生は自ら持っている感性を生かした貢献を行い、学生と教員が共同作業で進めないとうまくいかない。
資金的問題、物理的問題は、コンソーシアムを通じて乗り越える合理的な最適解を見つけるしかない。クラウドファンディングも、その中から出てきた1つのテーマである。九州のある大学は、すでに授業の中でクラウドファンディングを行っている。まずは教員と学生の有志で活動を開始してみればどうか。その輪がSNSなどを通じて広がっていく。来年この場でお会いできるように構想していきたい。
[まとめ:委員長]
4年制大学は地域よりも会社と連携する例が多い。地域に根差しているのは短期大学の方である。短期大学の地域活動への支援を私情協としてぜひ続けていきたい。