事業活動報告 2
平成30年8月2日(木) 午後1時、早稲田大学国際会議場を会場に57大学3短期大学より、理事長、学長、副理事長・理事、副学長・学長補佐、教務部長、短期大学学科長等の関係者が参集して「新時代(第4次産業革命)を展望した人材育成とICT活用を考える」をテーマに開催した。
開会にあたり、向殿政男会長(明治大学)より、「これまでの教育に加えて、社会の実践知を訓練する教育の導入に向けて、自前教育から脱却した教育のオープンイノベーションについて認識を共有するとともに、多様な分野と連携する中で価値の創造に繋げられる人材育成の課題等について理解を深める機会にしたい」との挨拶があった。
次いで、会場校を代表して、早稲田大学の鎌田薫総長より、「高等教育政策、大学改革の先頭に立って時代を切り拓いていらっしゃる先駆的学識経験者の先生方が、新時代に必要な問題発見・解決能力を育むために、今後、特に求められる重要なスキルの一つでありますデータサイエンス、フィンテックなどの活用について、高度な知見をご披露され、またそれに基づく全般的な意見交換が行われるものと大いに期待をしています。また、早稲田大学が取り組んでいる教育改革の方向性やICT活用を含む新たな教育手法が理にかなっているのかを点検させていただく、あるいは気づかなかった新たな知見を得させていただく、そうした点で大変良い機会になると喜んでおります。」との挨拶が行われた後、プログラムに入った。
文部科学省高等教育課企画官(併)高等教育政策室長 石橋 晶 氏
中央教育審議会(以下中教審)で、高等教育の将来像という議論をしており、中間まとめの内容を説明いたします。中教審の将来構想部会は、この中間まとめに至る前、2017年3月に、諮問を文部科学大臣から受けています。その内容が4つで、一つは高等教育機関の機能の強化に向け早急に取り組むべき方策、二つは学修の質の向上、三つは規模を視野に入れた地域における質の高い高等教育機会の確保の在り方、四つは改革を支える支援方策です。2017年12月に論点整理を取りまとめ、2018年6月28日に中間まとめを取りまとめ、2018年秋頃に答申の予定ということで、議論を進めています。
2040年にどういう形の変化が起こるかを考えると、「Society5.0」「第4次産業革命」「SDGs(持続可能な開発のための目標)」「人生100年時代」「グローバル化」「地方創生」がキーワードとなるかと思います。現時点では想像もつかない仕事に従事したり、幅広い知識をもとに新しいアイデアや構想を生み出せる力が高等教育に期待されてきます。
高等教育の課題と方向性について考えてみますと、「何を学び、身に付けることができるのか」を忠実に捉えなおすことが大事になってきます。特に高等教育の在り方としては、文・理融合、文系、理系の区別にとらわれない新しいリテラシーにも対応した教育、分野を越えた専門知や技能を組み合わせた教育、個々人の強みや卓越した才能を最大限伸長する教育という形に転換をしていく必要があると思います。勿論、初等中等教育からの接続がとても大事にはなってくるのですが、加えて、新たな役割として、リカレント教育、留学生、また、海外展開、そして地方創生が新たな役割として大きくなってくると考えています。
高等教育と社会というものに関しては、いろいろな形で連結、連携し、ある意味どうお互いに関わりあえるか、やはりこれからは、高等教育機関自らが、「強み」と「特色」をどのように分かりやすく発信していくか、それが当然、質保証を伴ったものであること、やはり社会、特に産業界との連携は非常に重要になってくると考えています。このICTの世界においても投資がとても大事になってきますが、公的な支援、それから社会への還元と社会からの支援の好循環をどう作って行くかも大事になってくると思います。
少子高齢化と言われる中、中教審で推計をやってみました。大学進学者数に関しては、推定値でだいたい12万人くらい減ってしまいます。それは、決して高等教育の規模が縮小するということではなくて、この段階においては、リカレント、留学生など、当然学生として入ってくる訳で、これだけ少ない18歳人口の中でどれだけの力を付けて、社会に出て行ってもらうかが、まさに重要になってくると考えています。
これを具体的にどういう政策でやっていくのか、中間まとめ段階でとりまとめた方向性について説明します。一つは、社会の変化に対応できる人材、その成長の場となる高等教育ということです。「何を教えたか」ということから、「何を学び、身に付けることができたか」への転換が必要であること、学修者が自ら学んで身に付けたことを説明できる体系的な教育課程、学修の達成状況の一層の可視化、常に学び続けられる・生涯学び続けられる体系、リカレント教育への移行、学生や教員の多様性の確保、「個」に応じたプログラム、多様性を確保するためのガバナンス改革、こういうことが大事になってくると考えています。その際、OECDのコンピテンシーにもあるように、社会の変化に対応するために獲得すべき能力として、論理性、批判的思考力、コミュニケーション能力などのスキルやリテラシーもありますが、文・理横断的なカリキュラムをどう作って行くのか、新しいリテラシー、特に「Society5.0」に向けた人材育成、数理・データサイエンス等の基礎的な素養を持ち、正しく多量のデータを扱い、新たな価値を創造する人材育成が急務ということも加えています。
教育の質の保証と情報公表については、中教審で長年議論をしてきたところです。この集大成という形で、大きな柱は三つで、一つが「教学マネジメントの確立」で、皆さんがよく知って取り組んでいることをいかに一つの体系として整理し、学内で実施していくかです。それと、「学修成果の可視化と情報公表」で、「情報公表」はすでに義務付け項目があり、各大学ともホームページにあげていますが、もう少しそれを進めてはどうかということです。「学修成果の可視化」は、ポートフォリオで学生が学年が上がっていくたびに自分の能力がどれくらい成長してきたのかを理解していくような示し方と、どういう形で学修の成果が大学全体として反映されてきているのかを示すことも必要と思います。この辺りは、産業界から採用に当たって、どう評価したらいいのかということを、大学側、高等教育機関側として明らかにしていくことが必要になります。それに基づいて学生も自分で何を学べたかということを、きちんと説明ができるようにする。それが当然就職、その後の能力開発が進んでいく中できちんと評価されていく、そういう「社会の接続構造」にして行かなければならないと思います。
高等教育機関の教育研究体制がどうあるべきか、これはキーワードを多様性ということで整理しています。まず、「自前主義」という言葉がいろいろな受け止め方があるかも知れませんが、社会のいろいろな方々にも大学に入っていただき、皆で学生を教育していく形ができないかと、18歳で入学する従来モデルから脱却して、多様な方々、多様なニーズを持った学生の教育体制の整備が必要と考えています。整理すると「多様な教員」、「多様な学生」、「多様で質の高い教育プログラム」、「多様性を受止めるガバナンス」、そして「大学の多様な強みの強化」の5点になります。新しい時代、まさに「Society5.0」に対応していく時の大学というものが非常に多様な場所であり、いろいろな方々がそこに集まり、新たな価値が生み出される、ある意味一つの社会の縮図のような形で大学の知識基盤というプラットフォームがあることはすごく大事だと思います。それを実現するため、教員の多様性、特に実務家の方、若手の方、女性の方、外国籍の方、それから学生の多様性、リカレント、留学生というところです。こういう方々が本当に多くいる中で、学生が教育されていくことが必要ではないか。
日本の高等教育の仕組みを考えますと、どうしても学部とか研究科の組織の枠の中でやることになっていますが、そうなってくると、今回のような「Society5.0」「第4次産業革命」対応で考える新たな学問分野、文・理融合というのは、なかなか教育プログラムとして作りづらいところがあります。文部科学省の方で設置基準の改正も含めて、組織の枠を超えた教育プログラムをどう作っていただけるかを検討したいと思います。大学の方で卒業単位を全部準備ください、単位互換をするにしても、必ず、大学側にその科目がなければ駄目ですと「自前主義」をとることになっています。そういう考え方を作っているわけです。これから、いろいろな方々が大学に入ってきて教えていただく、多様なニーズに応えていくことを考えますと、今ある大学の資源だけでやっていくというのはなかなか難しいところもあり、このシェアリングという考え方を大学の仕組みの中にも、どのように入れていくのかを考えたいと思います。ガバナンスの方は、規模の縮小を行おうとしているのではないかと受け止められがちですが、我々としては、さらに強化をしていくことを考えていく上での「連携」、場合によっては「統合」という考え方があるのではないかということを示させていただいています。
ガバナンスは規模の縮小というように思われるが、強化をしていく上での連携、場合によっては統合という考え方があるのではないかということで示させていただいています。特に国立大学は、一法人複数大学制度の導入の方向を模索していくことにより、強みの掛け合わせを考えています。また、非常に緩やかな連携として、国・公・私立の枠組みを越えた連携なども地域によっては模索していく必要があるのではないかと考えています。地域にどれだけ高等教育が実際残っていけるのかというのは、地方創生の議論においても重要なポイントと考えています。今は、地域で高等教育についてどうあるべきか、という議論がなかなかおこらない。例えば、都道府県の中で高等教育のためのプランニングをもっている県は非常に少ない。どの地域でも高等教育がどうあるべきか、という議論をしていただきたい。まず、この地域連携プラットフォームを作っていただきたい。さらに発展があれば、国・公・私立の緩やかな連携推進法人もあるのではないかと考えています。国が提示する将来像と地域で描く将来像を一緒にして議論していく必要があると考えており、プラットフォームを作って行くということを推奨していきたいと思っているところです。
中教審の議論は、高等教育のそれぞれの役割ということで、新しく制度化された専門職大学やそれ以外、これまでの伝統的な短期大学、高等専門学校、専門学校、大学院等についての役割、在り方についても議論しています。
答申に向けての議論の中では、この中間まとめにおいては、上から3つについて議論を進めてきていますが、財政は、この後に、中教審の将来構想部会で議論をすることになっています。また、その諮問事項の(1)から(3)においても、質保証システムの今後のあり方、規模、国・公・私の役割分担、それから特に大学院教育の在り方については、さらに議論をすることになっています。このような形で議論しますと、だいたい11月の末を目途で、中央教育審議会から答申をいただくことになると思います。
「Society5.0」「第4次産業革命」が起こってくるときに、高等教育はどうあるべきか、それは10年もしくは20年というかなり長いスパンにはなりますが、今、議論を始め、変わっていかなければいけないのではというところが大きな主眼になっています。加えて、18歳人口減になってくることを考えますと、そこにおける規模はどうなのか、それから、人生100年の構想会議でも議論があり、奨学金の拡充をしていく、一部ですけれども無償化をしていくという議論になってきた時に、高等教育の質、高等教育で提供されている学びというものが、国全体で支えて行けるものになっているのか、という点検をしなければいけない、そういうことが、この議論のそもそもの出発点だったと思っています。やはり20年先という、ある意味予測不可能なことだという時代だからこそ、やはり自由に、もう少し発想の枠を越えて、発想の幅を狭めずにいろいろな議論をしなければいけない。今日、議論いただくような文・理融合、新しい学びの方法、それから新しい学問分野というものをできるだけ幅広いイメージを持ちながら議論をしなければならないと思います。私も、参加させていただき、学ぶ機会にさせていただければと思います。
日本学術振興会顧問、学術情報分析センター所長、文部科学省高大接続改革リーダー、本協会副会長 安西 祐一郎 氏
教育の仕組み、これから特に私立大学の仕組みがどうなっていくのか、またAIがどうなっていくのか、こういうことは勿論、大事ですが、学生が問題を発見し解決していくというのは、一体どういうことなのか、問題発見・解決人材を養成していかなければいけないけれど、ではどういう人材を養成すれば、そういうことになるのか、考えてみたい。
OECDのPISAの2003年の調査で、日本は問題解決力、読解力などちょっと落ちても世界で7番とか8番とか、そのくらいまで落ちるだけでトップレベルにある。ところが、自由記述式では無答率がOECD平均より5%以上高い。多種選択式はできるけれども、自由記述はなかなかできないという結果となっている。
18歳人口がピーク時から半分以下になってくると、大学にとって一番大事なのは、卒業生が社会で活躍していくことだと思う。そのためには、どうしてもポテンシャルのある学生を獲得していかなければならない。就活とか協定とかを越えて、獲得競争になってくると思う。高校生の進路意識の多くは、したいことが見つけられない、何をしていいか分からない。これは、個人のいわゆる主体性に関わる問題で、大学に入ってからいきなり育てようと思っても、大学の間にできるとは考えにくい。子供の時から自分で何かをして、自分で何かをつかんできた、そういう子供達が大学どこに行こうかと思った時に、こういう大学に行きたいと思う、それを主体性と言うのであり、その主体性が活かせるような大学入学選抜に変えていくべきで、高大接続改革、入試改革の一番基本である。それには大学に主体性のスイッチが求められているが、なかなかそうなっていない。一番困るのは、世界の舞台で暮らしていくことが求められるようになっていく、大学に入る学生達だと思う。
世界では、経済・雇用、社会・政治・安全保障・科学技術・医療等への観点が20世紀とは全く異なる時代が開けている。国内では若年人口の急減、労働生産性の低下が起り、しかも産業構造・雇用構造の転換にはほとんど対応できていない。今の若い世代、子供達、これから生まれてくる子供達が幸せに生きていくことのできる「未来社会と教育の構図」を描かねばならない。
課題としては、十分な知識・技能をもち、それを活用できる思考力・判断力・表現力を臨機応変に発揮でき、主体性を持って多様な人々と協力して学び働く力が身につく教育の機会をすべての子供達が持てるようにする。それに向けて、2021年度入学者からセンター入試が変わる。それから、2020年4月の小学校1年生から学習指導要領が変わる。2021年度から中学校の学習指導要領が変わる。2022年度から2024年度にかけて高等学校の学習指導要領が年次で変わる。主体的な学び、対話的な学び、深い学びへと変わっていく。そして社会に題材をとって学んでいくということが、おそらく新しい学習指導要領では多くなっていくと思われる。
では、それに対して大学はどうしたらいいのか。本来は、高等学校までに自分で何をしたいのか、こういうことを勉強してみたい、あるいは実践してきた高校生が、大学に行き本格的に勉強することを想定していた。ところが、今の改革はどちらかというと、大学に行ってからアクティブ・ラーニングをすることになっている。日本の場合はしかたないと思うが、高等学校と大学の両方で、アクティブに学んでいく場をもっともっと作って行かなければいけない。
研究開発におけるイノベーションの在り方は、本当に大きく変わりつつある。基礎研究のなかった時代のスキル・イノベーション、第一次産業革命とかその前とかで開発のテーマを決めていた時代のリニア・イノベーション、特定の基礎研究をもとに応用、多様な基礎研究を総合的にデザインし、マネージメントする時代のデザイン・イノベーション、そして今は、オープン・イノベーションへと変化してきた。あるビジネスモデルで世の中に製品を広めていきたい、サービスを広げていきたい。その時に必要な要素について、世界で一番得意でやっている企業はどこか、あるいは大学はどこか、小さくてもいい、そこと連携、あるいはM&Aなどを全部組み合わせ、スピード感をもって市場に対応してきている。
教育は、着実に積み上げてゆっくり対応していかなければいけない。一つの大学の中でカリキュラムを変えながら、来年の改善はこうしよう、10年後の教育の姿を目指していこうとするが、自大学だけでやって行くことはとてもできない。一つの大学の中でやろうとしても、無理がある。お互いにとって本当に必要な人達がスピード感をもって組む。一番大事なことは、学生にとってベストなプラクティスを、どういう組み合わせでできるのかを、迅速にやっていく必要が出てきている。「自前主義」を脱して、大学の発展に資することであれば、形式や組織の在り方にとらわれずに連携・統合し、時代に合った教育モデルを実践する時代、いわゆる教育のオープン・イノベーションがこれから進むと思う。
高校生、あるいは大学生にとって大事だと思われることは、自分で目標を立てることができるかだ。目標を創り出すのは大変だ、目標を立てれば、その目標が達成され易いように、記憶の機能が働く。生物学的に人間の記憶のシステムは、目標をきちんとしっかり立てれば、自動的にその目標が達成され易いように働く。次にイメージを思い浮かべる機能では、記憶と思考の中間にあり、想像力の源泉になる。記憶の機能は、実は因果関係に非常に大きな関係がある。因果関係のネットワークは、因果推論、帰属推論、目標−手段の推論など、多様な推論に用いることができる。問題発見するというのは、自由に目標を創り出すことができる機能が本当に充分に発揮されれば、目標の発見を通じて、記憶、思考、問題解決、感情、社会性、言語の機能はお互いに連携しあって発達する。この機能を持つことを「主体性を持つ」と呼ぶ。
問題を発見して解決していく過程というのを振り返ってみると、目標を自分で創り出すのが、簡単なように見えて簡単ではなく、思ったより複雑だ。「願望の生成」、「現状の理解」、「未来像の構成」、「歴史的経緯の理解」などについて、事前にプランしていなければ、「目標」が立てられない。例えば、1年くらい海外に留学してみたいは、「願望」であって目標ではない。留学するとすれば、どこで何をするのか、今いる大学を1年間休学することで単位の取得はどうするのか、お金はどうするのか、今、自分はどういう状況にあるのかの現状の理解、1年後の自分の姿を未来像としてどのように構成するのか、今まで他の学生が留学して歴史的にどのようなことがあったのかなど、目標を立てることのトレーニングができていないと、目標を立てることはできない。また、留学の目標が達成されたら、本当に将来役に立つのかどうか、将来の予測が必要になるが、正解があると思って暮らしているのではなかなかできない。データを基にして予測値を出すことはできるが、自分にとって将来どうなるのかと言われると、分からないということがある。
目標が達成されれば、また、さらに目標ができてくる。日本の学生、生徒について見ると、やはり言われたことを鵜呑みにして覚えていくということは随分やっているけれども、一番大事なのは主体性だと思われる。では、主体性を身に付けるための標準的な方法は、いわゆる生徒・学生がアクティブに学ぶアクティブ・ラーニングである。つまり、学生が自分から何かをしたいということ、そこをどうやって植え付けるか、植え付けることができさえすれば、あとは人間の心と脳のメカニズムが、働いてくれる。
主体性を持って問題発見・解決するには、5つの手段がある。
一つは、目標を発見する方法を知る。つまり問題発見というのは一体どういうことなのか、簡単ではないことを理解する。
二つは、情報収集の方法とその限界を知る。何をやるのであっても、締め切りまでにきちんと相手に対して伝えられるような中身を作る。そのために、情報の収集の仕方としてのスキルを身に付ける。
三つは、経験的知識と合理的思考の役割を知る。合理的思考は論理的思考とは違い、ラショナルシンキングといわれており、クリティカルシンキング、批判的思考と似ている。
四つは、問題「として」の理解と表現の方法を知る。解きやすいように表現することで、解きやすいように表現できなかったら理解しているとは言えない。
五つは、チームワーク、メタ認知の役割を知る。自分一人だったら気が付かないような、思考の弱点・考えを持つということで、チームのメンバーの心を感じることができないと、チームで目標を持つことはできない。その上で特定領域の知識の獲得と合体して、5つの手段を実践することがとても大事になる。
そういう中で、主体的に自分が学んでいくということはどういうことかを、自分で目標を立て、情報収集していくのは、本格的に取り組んでいる文系のゼミに近いと思う。ただ3年生、4年生のゼミで実施するのであれば遅い。本当は高等学校の頃からトレーニングを繰り返し、ポテンシャルがある生徒が大学に選抜されて、自分で主体的に本を読み、古典を読み、理論でも何でも勉強し、世の中での経験も積みながら、将来を考えていく姿が真っ当ではないかと見ている。
日本の学生にこれからの時代にもっとも要求されると思われるのは、「論旨明確に考える力」が大事になる。論旨を明確にまとめて、相手の立場を考慮しながら、論旨明確に表現していくスキル、力が求められていくと思う。理系の卒業研究、文系のゼミでやっておられると思うが、先進国の同世代と並べてみた時に、書く力、話す力が弱い。論旨明確に相手の立場を考えながら、相手が本当に気持ちよく理解できるように、表現をするコミュニケーションの能力として、書く力と話す力を身につけていく必要があり、日本の学生にとってかなり弱点と一般的に言われている。
それには「ことばの力」を鍛える必要がある。熱意、主体性を持ってリズムをもって話す、読み手の呼吸に合わせた書き方ができるか、とても大事なことだと思う。さらに、「情報を鵜呑みにしない力」を鍛える。言われたことをそのまま本当だと思って受けてしまうことは多い。1回反すうして正しいかどうか吟味し、自分の立場で情報を使い、考え直さないといけない。また、「歴史的思考力」を鍛えることが大事である。歴史等々の授業では事実を覚えるということはやるけれども、歴史について思考の仕方を教えることはあまりやってこなかったように見受けられる。2022年から高等学校のカリキュラムが変わり、歴史総合という科目で歴史の見方、考え方をディスカッションベースで学ぶようになると聞いている。そして「推論の力」を鍛える。原因から結果を推論する因果推論、結果から原因を推論する帰属推論、類似性から推論する類推推論の方法を身につけて、思考力を鍛える必要があると思っている。
文部科学省の協力も得て内閣府で戦略的イノベーション創造プログラムが始まっており、「ビッグデータ・AIを活用したサイバー空間基盤技術」プログラムディレクターを私、安西が担当している。ビッグデータ・AIを活用して何をするのかというと、人とAIの高度な協調の有効性を検証するために「介護」と「教育」を対象に公募を行うことにしている。先端的なAI技術を使ってテーラーメードの学習支援技術がどこまでできるのか、実験的にやっていく予定にしている。教育のビッグデータ分析をする、そのための個人情報保護をどうするかとか議論を続けている。
一言で申しあげると、今文部科学省の高大接続改革担当の参与を仰せつかっており、そういう目から見て今後2030年、40年にかけて、例えば、文と理が融合していくだろうと考えられるし、ITももちろん入って来るし、入試も変わって来る。そういう中、大事なのは、学生一人ひとりが本当の意味での主体性を身につけるということは、どうやったらできるかということになるだろう。大学生だけでなく、高校生までにある程度それを備えているような教育ができていくか、ということにかかっているのではないかと思っている。
国立大学法人滋賀大学データサイエンス学部長 竹村 彰通 氏
情報の流れが、最近ずいぶん大きく変わってきて、例えば、学生も本を読まずにネットで勉強するとか、そういうふうな変化が起きている。データは情報通信技術の発展で、沢山採れるようになり、そこから新たな知識を引き出し、価値を創造することができるようになってきた。典型的な成功例は、amazonとかgoogleとか、データから価値を引き出して成功した企業が出てきている。その背景としては人々がスマートフォンを使ったり、交通カードを使ったり、そういうことから、どんどんデータが採れるようになって、一人の行動履歴がデータとして採れるようになった。非常に大きな社会的な変化で、データを利用して価値を創造していくことが、データサイエンスと考えている。
技術的な基礎としては、データサイエンスは、データ収集・加工・処理(データエンジニアリング)、データ分析・解析(データアナリシス)、価値の発見・創造(価値創造)から成っており、情報学、統計学、価値創造が構成要素となっている。人々の行動がデータとして直接とれるようになったことは非常に大きく、それがデータサイエンスというものが重要になっている理由でもあるので、どちらかと言えば文系的と思う。コンピュータも使わなければいけない、統計もできなければいけない、そのためには数学も一定程度はできないといけないということで、スキルとしては、理系的な分野が重要で、データサイエンスは文・理融合分野だと考えている。ただ、ここで文系とか理系とか言うこと自体あまり意味がなく、データがとれるようになったことで、有効に活用分析することかと思う。
これはデータサイエンスを示す図としてネットに出ているものを翻訳したもので、情報学とコンピュータ、数学および統計学、実際に応用する時の応用分野としての領域知識と、それぞれの領域での価値創造が要素となっている。この3つを併せ持つような分野として、「統計+コンピュータ+領域知識」とやや広めにデータサイエンスを捉えています。
最近は「データが21世紀の石油」と言われることがあり、データという新たな資源を生かしたものが競争的優位に立っている。しかし、データだけあっても、分析できなければ宝の持ち腐れなので、データを分析する人材の確保が必至となっているが、日本ではそういう人材を育成するところで遅れている。
インターネットの仕組みとしては、平等というか分散的だが、一方では、サービス提供では非常に独占力が働くような状況で、特に、こういう巨大な企業がそのデータをどんどん集めており、独占という傾向がある。ヨーロッパの方では、今、GDPRという規制の制度が始り、ともかく、データの規制を考えながら、データを流通させることも大事となっている。日本では、個人情報の保護ということで、より積極的に情報、個人情報を含めて流通させようという法律も出てきており、政府もデータの流通を後押ししている。さらに、データ流通しても、データがあっても分析する人材がいない。
統計学に関して、アメリカでは主要の大学には統計学部・学科がある。韓国、中国でも基本的にはアメリカの教育制度を模範にしており沢山ある。その中で日本はゼロとなっており、特異的な状況に置かれている。アメリカの場合、修士、学士の伸びが非常に大きく、10年くらい右肩上がりで伸びている。日本で統計の修士は基本的にはゼロというか、研究サイドで統計を研究されているところがあり、そういうところで修士は出ているが、統計という学位はないのでゼロという感じになっている。最近、政府の文書では、AI、ビッグデータ、IoTの重要性が言われ、データ分析する人材の育成が言われるようになった。
そういう中で、滋賀大学は日本で初のデータサイエンス学部を2017年4月に設置した。定員は1学年100名、2019年4月には社会人のスキルアップの需要に対応するため、定員20名程度の修士課程を計画しており、現在、文部科学省に申請を行っている。学部2年目の出願状況は、前期3.1倍、後期7倍となっており、2期生108名の分布は男子8割、女子2割となっている。文・理融合を標榜しており、理系6割、文系4割となっており、文系の学生もかなりいる。数学で難しいと感じられる文系出身の学生もいるが、データサイエンティストとして活躍する分野は、必ずしも数学ができれば活躍できると言うわけでもなく、文系的なセンスも非常に重要だから頑張りなさいと、学生には説明している。滋賀大学は、2016年12月に文部科学省において「数理・データサイエンス教育に係わる教育強化」の6つの拠点大学(北海道大学、東京大学、滋賀大学、京都大学、大阪大学、九州大学)の一つに選定され、一つのモデルとしてデータサイエンス教育の全学・全国への展開を目指して、様々な活動を展開している。
データサイエンス学部で育成する人材像は、文理融合の逆Π型人材を目指している。最初に横串としてコンピュータと統計を勉強してデータサイエンスの専門知識とスキルを身につけ、その後で縦串として複数の応用分野でデータを用いて価値創造の経験とノウハウを学ぶというカリキュラムを設けている。1年生で統計とコンピュータ、数学を集中的に勉強し、2年生でも続けてデータサイエンスの専門知識とスキルとして、データアナリシス(大規模データの分析・解析)、データエンジニアリング(大規模データを加工・研磨・処理)を勉強し、理系的なスキルを先に身につける方針にしている。その後、3、4年生で多様な分野のデータを分析・解析などを応用してみる。ビジネス分野のデータが多いので文系的になっている。学生は特定分野のデータだけ扱うということではなく、マーケティングデータ、環境のデータなど、複数分野に亘るデータ分析を経験する。文・理融合は入試の現状からすると、進路指導の高校の先生には、敬遠されるという現状がある。日本の高校では、文系・理系を早く分けて受験勉強に有利になるよう、準備する傾向が強いことがうかがえる。
カリキュラムはデータサイエンスに特化しており、コンピュータ科学、統計学が少し厚い感じになっている。価値創造は講義で教えられるものではないので、現場のデータを利用した価値創造PBL演習での成功体験を重視している。演習では自分で分析し、それを発表し、経験を積んで企業に就職していくので、そのために企業連携、地方公共団体等との連携を進めている。2019年設置を計画している修士課程のカリキュラムは、機械学習、AI、最近の手法をざっと勉強するようなプログラムを考えている。企業で働いている方の再教育としての需要が強く、様々な企業がデータサイエンスに関して有望な人材を派遣していただくことで、異業種交流、例えば、金融の方、製造業の方など多分野の方が来られるので、オープンイノベーションの場として考えている。
企業は、課題、データを持っているが、分析の仕方は分からないところがある。滋賀大学が提供できるのは、データサイエンスとしてのいろいろな手法である。下図の通り、将来データ予測のための時系列解析、多くの要因の関係を分析する多変量解析、因果関係を分析する因果分析、機械学習、重要なものを自動的に抽出するスパースモデリング、深層学習など研究しているので、相談していただければお答えできるという形で、企業と交渉したりしている。
その時に、以上の様々な手法があるが、データサイエンスという分野で特に注目されているのは、機械学習が非常に強力になっている。特に、最近の人工知能はデータがあると、そのモデルを自動で作ってくれるので、データからいろいろなことが自動的に分かる。余りバラ色のことを言うと、期待を煽るみたいなところもあるが、重要なのは、データである。例えば、工場のラインで熟練した方が良品か不良品をチェックし、不良品をはねている現場があるが、本人に説明を聞いても必ずしも他の人には理解できない。その時に、熟練した人の判断のどれが良くて、どれが悪いか、というデータが沢山あると、モデルをコンピュータが自動的に作ってくれる。そういうことから、データサイエンスが注目されている。大事なのは、良質の問題と答えのビッグデータを大量に用意することで、複雑な関数が利用可能になり、深層学習(ディープラーニング)が進化する。このようなことから、データを採れば採るほど有利になり、計算資源もどんどん投入していけるので、また性能が上がるということが、巨大な独占的企業を生み出している一つの背景になっているが、必ず何らかの規制がかかってくると思う。
(1)ビッグデータの特性
ビッグデータは、観察データであり、実験データではない。相関はとれるが、因果的な結論は出しにくい。製造の例で、良品か不良品かを判定するのは、相関関係で判定していくので、その要因をこう変えれば良品が増える、ということにはならない。相関はとれるが、因果的な結論は出していない。また、採りやすいデータに偏ったバイアスがある。例えば、インターネット調査ではインターネットを使用している人からのデータしかとれないとか、採りやすいデータが採れてしまうというバイアスがある。レベルを確定するには使いづらいが、あることに注目が集まっているとか、変化量を見るには即時性があるし、どの地域でどういうことが起こっている、というようなデータが採れる利点があると思う。伝統的な調査統計と組み合わせて活用することが必要ではないか。技術的には、欠測データの解析手法を用いることで、バイアスに対応することもできる。今年の3月から提供されるようになった「消費動向指数」も遅いとか、即時性がない、単身者の動向が採られていないなど、批判されているので、今後、統計調査とコンビニのPOSデータを採り入れ、組み合わせてさらに改良していきましょうという報告書が出ている。POSデータは速報性があり、地理的に詳しいデータが採れるという利点があるので、ビッグデータもそういう特性を分析していかないといけないことがあると思う。
(2)データサイエンスとAI(人工知能)
AIは、例えば画像認識、病気の診断などでは非常に役に立つことが分かってきているが、仕事を奪うという議論は行き過ぎではないかと思う。ロボットが人間を置き換えるということではなく、ロボットを使える人間を育てればいいので、人間にとって競争するものではない。しかし、予測モデルの発展が非常に著しく、深層学習の発展で画像認識の精度が実用的なレベルになり、車の自動運転などの実用化も視野に入ってきた。しかし、現状のAIはビッグデータから得られる相関の情報に基づく予測であり、因果を示してくれるわけではない。深層学習のモデルは、「ブラックボックス」であることが多く、予測性能は良いものの、どうしてそういうモデルになっているか「説明」はしづらい。相関の中から因果が分からないということで、研究レベルでは相関から因果の情報も取り出そうという技術も発展しており、乗り越えられていく可能性があると思うが、現状では相関と因果は違うことと、予測モデルは基本的に相関をベースとしていることを理解しておく必要があるかと思う。ブラックボックスの一例として、自動運転でも認知能力の低下した老人と比較して、本当に人が歩いているのに、人だと思わないみたいなことがあり得る。性能がよくても、間違えた時に間違えた理由が人間には分からず、説明は不得手である。
ビッグデータの時代は、携帯通信の新しい規格が出て、データがどんどん採れる時代に進んで行く。データが新たな経済資源として活用されていく、ある意味世界との競争ということでも非常に重要である。データを分析する手法も進歩していき、人間が要らないか、というとそうではなく、AIを使える人材が必要だと思う。データサイエンスを用いた意思決定には、ビッグデータのいろいろな側面も考慮していかないといけない。
【質問】大学の学部、研究科にデータサイエンスを作り、企業との連携が世界中でも普通になっているが、滋賀大学の場合、運営する予算の中で企業からの委託金が占める割合というのは大きいか。
【回答】今まで、経済学部と教育学部だけで、工学部はなかったので、外部資金ほとんどなく、大学の規模が小さいこともあって、それなりの額がある。こちらの知名度もあって、大きな案件を最近は依頼されることもあり、増えている。
【話題提供】
「構想力・問題解決力の育成に向けた産学連携による分野横断型PBL授業モデルの提案」
情報教育研究委員会情報専門教育分科会主査 大原 茂之 氏
18歳人口が年々減っており、大学を取り巻く環境は、これ以上よくはならない。悪化の一途を辿って行く。第4次産業革命で、学生の就職環境がかなり大きく変化していく。そういう中で、学生を送り出す教育機関側として、的確な就職指導はできるだろうか。もう一つ、現在、第4次産業革命、世界的な革命が起きているが、日本の多くの大学は、その蚊帳の外にいて、何がどう起きていて、それが自分たちにどう関わっているのか、それをしっかりと理解して学生指導をしているだろうか。この様な変化にどう対応したらよいのか、一つの授業モデルとして分科会で、分野横断型PBL授業を考えてみた。
18歳未満人口が減り、高齢者が増えて行くとGDPは明らかに減っていく。これでは経済はそんなに伸びていくことは考えられない。生産性という面で考えれば、人に頼るのではなく人材育成のシステムを使って、この少子高齢化の対応策を考えないといけない。少子高齢化で日本の人口そのものが減ってきて、自治体の消滅危機がある。2040年まで後20年に全国で896市町村が消滅するであろうと言われている。これだけの市町村が消えていくと、そこの市町村に関係する大学も実は危ない。これは大学だけではなく、小学校、中学校、高校がさらに消えていく可能性がある。
IoT、AI、ロボット、ビッグデータが登場してきており、創造的破壊型イノベーションが身近な変化として起きている。肉体的、知的労働の補助や代替(自動運転、医療診断など)、それから物の「所有」から物の「シェアリングサービス化」で、物を持つ、買うというのではなく、利用し合う(車、衣服など)ことが常態化してきている。卒業先の社会も、目まぐるしく変化し、こういった革命を背景に想定外の職種や企業が続々と誕生する。今までの経験則や専門性もまったく通じない世界になりつつある。多くの職種、昔ながらの企業は消滅の危機を迎える。こういった中で学生教育をどうするのか。学生に今の世の中は不確実な世界で、大企業に行ったからといって、決して安心はできないことを、しっかりと認識させておく必要がある。その様な時代の中どうするか。イノベーションに振り回されるのではなくて、イノベーションを踏み出して推進する力が必要である。では、具体的にどうやってその力を育成できるのか。
これは、スキルマネジメント協会で、企業の人たちと一緒に作ったモデルで、この内側が、シュンペーターが言うイノベーション、外側がキャズム理論で、マーケットに関わる人達が変化していくことを表している。イノベーションを推進するには、新しい品質の商品、サービス、新しい生産方式、販路の開拓を総合的に取り組んでいくと、初めてイノベーションが起きる。イノベーションは日常茶飯事に起きるものだとシュンペーターは言っている。今まで日本が改善・改良で取り組んできたことは、実はイノベーションを起こしてきているので、取り組んできた時の日本はどんどん伸びて行った。こういったものを結びつけて、はじめて強いイノベーションが起きていく訳で、これをシュンペーターは、新結合と言っている。改善・改良は、大学教育の中でできる訳で、イノベーション能力というのは教育可能ということを認識しなければいけない。ただし、新結合するには、一つの専門性の中に閉じこもり、学生にこれだけ教えれば私の仕事は終わり、という蛸壺教育は捨てなければいけない。蛸壺を壊して、オープンマインドな教育を行うことが大事と思う。
ここにIoT空間がある。大学で座学で講義を受けている学生は、携帯を使い、あるいはiPadを使っている。その感覚で、大学へ行き教室に座って授業を受ける。彼らにとっては時代遅れとなっている。その感覚の世界に、教員側が行かなければいけない。そのためには、教える場、学ぶ場をIoT空間の中に持っていく必要がある。ここに持ってくればAIであろうが、あるいはデータ処理の話であろうが、そのままできる。さらに、他のいろいろな世界もドメイン空間もアクセスして、多様な知識を獲得することができる。ところが、今までの授業形態はIoT空間の外側にあることから、この大学は時代遅れだという感覚を学生に与えることになる。学生の方が遥かに進んでいる。そこに合わせる授業を実現しなければいけない。
それでは、IoT空間でどのような能力を目指す授業を行うのか。具体的には、ここに①の観察力・発想力、②の仮説立案・モデル化力、③の問題発見・課題設定力、④の問題解決・検証力、⑤の見直し・改善力まであるが、一番重要なポイントは、①の観察する力を身に付ける。きちんと観察すれば良い点、悪い点も見えてくる。観察する力が無くて、良い点、悪い点を無理やり考えさせても駄目で、そこからいろいろ発想力が出てくる。重要なのは観察する力、仮説を立てたりモデルを作ったりする力で、この①、②が身に付けば、教育の60%から70%が終わったと考えても良いと思う。ここは、余り、今までの教育では力が入っていなかったところだ。この中心に学生を置く必要がある。具体的には、学生のグループが、何かいきなりテーマと言っても難しいので、自分たちで興味があるものを見つけさせ、見つけたらそれをよく観察し、アドバイザーのチームから、いろいろ意見を聞くようにして、自主的に学んでいく。具体的な評価は最終的には単位にしなければいけないので、いろいろな視点の専門家が、その立場で評価していく、多次元での評価を行う。これをできる様にすれば変わっていくし、実際にこのモデルを使って教育している。
纏めとしては、若年層の減少、こういった危機がある中で、どの様にしてイノベーションの教育を行うかである。こうした厳しい時代の中での学生教育は、コミュニケーション能力、創造力、いま言ったような流れで展開していくことが一つの解決策になると考えている。
【話題提供】
「データサイエンスに求められる能力とICT活用教育」
慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科教授・放送大学客員教授 渡辺 美智子 氏
未来投資会議において今年を第4次産業革命元年にするとしている。第4次産業革命が拓く新しい社会「Society5.0」は、実世界とデータで構造化されるサイバー空間との相互連関(Cyber Physical System)が社会のあらゆる領域に実装され、大きな社会的価値を生み出していく「データ駆動型社会」で、ヒトを中心とした全体最適化のサービスが実現される社会である。図のCyber Physical Systemでは、最初に現実社会を反映するデータが収集され、諸種の具体的な対象が多次元のデジタル要素としてプロファイル(集約)される。プロファイルされた対象の大量観察からビッグデータが構築され、現実社会の数理モデルを通して関連性の解析が進み、社会課題の解決に資する智慧や戦略、アルゴリズムが創出され超スマートサービスとして現実世界にフィードバックされる。データ×数理×エンジニアリングの共創でデータ駆動型の超スマートな社会デザインの構築が進みつつある。例えば、1人暮らしの老人が家の中でどのように活動しているのか、センサー(ウェラブル)で簡単に分かるので、異常を検知したらデータが掛かりつけの病院に送信され、自動運転車が老人を迎えに来るというように、データがいろいろなフィールドを繋いでいく社会が想定されている。既に実現化するデータサイエンス技術はあるので、その技術を使って何ができるのか、社会変革を発想し創造する人材が今、大学でも求められている。
平成30年5月17日の林文部科学大臣提出の資料では、「Society5.0」に向けて、AIやデータの力を最大限に活用しながら、新たな社会を牽引する人材の育成や、文系・理系を問わずすべての人に共通して求められる力について検討が進められているとある。当面の取り組みとして、「Society5.0」を担う専門人材の育成、社会人の学び直しの抜本的充実や初等中等教育、大学等高等教育における情報活用能力の育成を図るとしている。
新学習指導要領では、プログラミング教育、統計教育の充実として、小学1年生から算数の中で「データの活用」という領域が新設される。高校では「情報Ⅰ」という科目が共通必履修化され、「データを収集・整理・分析する方法(データ活用)」の単元、「情報Ⅱ」には「データサイエンス」の単元が入っており、AI基盤技術である統計的機械学習も解説に出てくる。そのため、高校で指導する教諭の養成・確保については、各県の教育委員会に配るテキストが作られ、来年の4月から一斉に教員研修が始まる。また、「情報Ⅰ」が大学入学共通テストの科目となり、各大学の判断で活用できるよう検討するとされており、これを機に高校教育も変わることになる。また、大学、大学院も数理・データサイエンス教育の強化ということで変わっていく。社会人のリカレント教育、特に行政職員に関しては、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)の教育という政府のガイドラインもあり、研修も始まっており、社会人のリカレント教育をするような大学を文科省もGPで選定するという方向も起こっている。
数理・統計学、情報学の知識や技能のみが求められているのではなく、数理的・統計的な思考力・分析力があること、データを実際にコンピュータで処理する経験をもっていること、データの背景にある現象への経験知があることがデータサイエンスの3要素として重要である。
データサイエンティストのプロフェッショナル集団があるが、その人達が全ての領域の分野をカバーできるのではなく、官庁データサイエンティスト、ヘルスデータサイエンティスト、スポーツデータサイエンティスト、ビジネスデータサイエンティストなど、いろいろな業務に携わっている人達がデータサイエンス力を持つことで、あらゆる領域で多様な品質と価値が創造され、業務の最適化と変革が達成される。
データサイエンスとして最も重要なスキルはストリーテリング(storytelling)であると、グーグルのデータサイエンティストが本を刊行している。この能力開発には、データを中心におき統計的な思考で、現実の指標と指標との関連性を因果でとらえる仮説を構築し、どれだけエビデンスを高められるか、リアルデータ、リアルプロブレム、リアルラーニングで能力を開発していく、専門的な知識のみを目指すのではなく、どの領域にも転用できる力をどのように大学教育で身に付けていくのかが大事な視点となる。問題解決の成否は、データの分析ができる、高度な分析手法を持っているというよりは、現象に対する設計図を書けるかどうかが非常に重要ではないかと思う。分析の前段階で、現実のプロセスをどのような設計図で捉えるのか、そこにデータ化をどこまで持ち込むのか、その時に情報を他者と共有して、一人ひとりの経験価値を結合して共創できる力が大事である。日本の統計グラフコンクールは一人の作品が多いが、国際統計グラフ・コンペティション(統計的問題解決ポスター)では2人から5人と協働が前提条件となっている。
“If you tell me, I will forget; if you show me, I may remember; if you involve me, I will remember.”は孔子も言葉とされている。教えてもらったことはすぐに忘れる、やってみせてもらったことは覚えるかもしれない、しかし、経験したことは忘れない。グローバルでは早くから21世紀型教育モデルとしてこの言葉を引用し、学生の主体的活動が重視されている。21世紀型のTeacherは、単なる学生同士の議論や活動のファシリテーター、モデラーであり、逆に21世紀型の学修者はティーチャーで、学生同士で知識の水平展開ができることと言われている。教えてもらうというChild Learningから自ら学び教え合うAdult Learningへの変革を通して、協働的問題解決力が育成される。データサイエンスという領域横断型の価値創造を意図する新領域の人材育成教育では、この観点が重要になる。
自身の所属する健康マネジメント研究科で、プロジェクトベースドラーニングを実践する科目として、「クオリティマネジメント」、「サービスデータサイエンス」、「多変量因果解析」を担当し、学生自らの課題設計におけるクオリティー(価値)創造のためのデータ活用演習、サイエンスとしてのヘルスデータ、サービスデータの活用演習、最後に、多次元の確率的現象の構造のモデル化と因果のルール構築・検証、その活用演習を指導している。
その際、学生の創造力を向上させていくことに主眼を置き、最初に統計数理的な説明、プログラミング技法等の説明を多くすることを避け、目的達成の過程で必要に応じて教える、または、学び合わせることにしている。動機付けと学習意欲の継続、具体的な文脈でのデータサイエンスの経験学習が大切と考えている。
【話題提供】
「金融とITを融合したフィンテック人材育成の取り組み」
慶應義塾大学経済学部経済研究所FinTEKセンター長 中妻 照雄 氏
ブロックチェーンの技術によって金融取引が、オープンに分散的に処理ができるようになってきた。メインフレーム、パソコン、スマホというプラットフォームが変わり、至る所で情報処理が行われ、位置情報、SNS投稿履歴、購買履歴などが常時収集することが技術的に可能になった。さらに、日本銀行による量的緩和とマイナス金利による収益性の悪化、人口減と長寿化による借入需要の減退、IT、流通など、異業種から金融業への新規参入による競争が激化してきた。このような背景から、従来型金融ビジネスモデルが行き詰り、金融業務の効率化と高度化が喫緊の課題となってきた。例えば、モバイル機器の普及とIoTの発展により、従来型の支店は不要になってきた。従来の閉じた銀行間で安全なデータ連携を可能にするシステム(オープンAPI)から、異業種企業、ベンチャーなどが参加しやすいように接続をオープンにすることで、金融機関の「土管」にお金が流れてしまうことになり、専業の金融機関はかなり厳しい状況に追い込まれる。そういう流れの中で従来の雇用が確保できるのか、AIを利用した業務の自動化(RPA)が進められている。
従来のようなやり方で教育を進めていくと、金融業界にはもう就職できなくなる。メガバンクでは大規模な人員削減が始まっている。文系私立大学の就活が減るのは、必然的になるのではないかと思う。今は売り手市場で内定を多く得ている学生もいるが、いつまで続くのか分からない。そうするとどうしても文系の学生には、AI、データサイエンス、サイバーセキュリティなどのICT教育が必要となる。それから、学生も企業も新卒一斉採用の呪縛から逃れられないので、起業を奨励するような教育プログラムが必要になると思っている。
学生、大学、企業が「三位一体」となった教育を進めていきたい。学生が企業に入ることで実務の実態に触れさせる。大学の教員が企業と一緒に教育プログラムを作ることで、実務に即した教育が可能になる。企業が積極的に大学教育に関与できる仕組みを用意することで、学生が最初から仕事を始められるようにしたい。日本の就活に対する一つのアンチテーゼと考えている。学生も業界調査とかするが、実務の内容を知らずに就職を決めている。大学の教員は自分の専門を教えるだけで、学生の将来を考えた教育をしていない。企業は大学教育に全く期待していない。本当によくない状況なので、それを何とか変えていきたい。
一つは、プロダクトを開発していく能力として、クリエイティブな部分にビジネスチャンスを逃さずアイデアを出せることと、AI、IoT、ビッグデータ、ブロックチェーンの理解・対応ができること。二つは、企業の設立・運営のための技能として、ベンチャー育成という問題意識も含め、会社を作り運営していくためのマーケティング、ブランディング、資金調達、ガバナンス問題への対応が求められること。三つは、仮想通貨取引所によるコインチェック事件などもあり、サイバーセキュリティの徹底が求められること。四つは、コンプライアンスの徹底が求められ、以上のことを学生に教育していかなければいけない。
経済学部が提供しているプログラムは、本格的には今年度より以下の科目を開講している。「フィンテックとソーシャル・インストラクチュア」を春学期、秋学期の通年授業としている。また、「フィンテックの理論と実践a」を春学期科目、「フィンテックの理論と実践b」を秋学期科目としており、これらは独立している。秋学期は未だ始まっていないが、英語によるAI・機械学習の教育として、「人工知能入門」の科目も試験的に始める。
履修状況は、200名から300名とかなり沢山の学生が初年度から履修している。アクティブ・ラーニングに非常に近い「フィンテックの理論と実践b」は、2017年度いきなり始めてみた。学生達でフィンテックのベンチャーを立ち上げるつもりで、ビジネスモデルを提案し、プロトタイピング(試作品作成)の実践を経験させている。4つの分野の一つを選んで、4から5名のチームでプロトタイプを行う。学生だけではできないので、企業実務家のメンターをつけて指導を受けるようにしている。プロトタイピングを行った後、最終報告会で20チームが開発したプロダクトのプレゼンテーションを行い、フィンテックのベンチャー企業等で働いている経営者が審査員となり、優秀チームの選考と表彰を行っている。優秀チームの提案としては、例えば、投資運用AIプラットフォーム、スマホによる決済、コンテンツビジネスにおける仮想通貨を使った資金調達プラン、農業支援プラットフォームが開発された。
現状は3・4年生向けの教育が中心なので、1・2年生向けの教育プログラム(Python)の整備をはじめている。また、プログラムを整備していく上で、理工学部、湘南藤沢キャンパスの環境情報学部、総合政策学部との連携が必要で学生も参加して欲しい。それから、アジアから学生を呼ばなくてはいけないので、英語でのフィンテック教育の推進が必要と思っている。
最後に、教育充実を妨げる要因としては、プログラミング、データサイエンス、ベンチャーの実態を教えられる教員が不足している。学生・企業・大学の意識が「昭和」のままで、大企業志向、国内志向が依然として強いく、ベンチャーに対して親の理解がない。学生による起業のための支援体制が不十分である。
【全体討議】
向殿会長を座長に、角田常務理事(芝浦工業大学)、話題提供者の情報教育研究委員会情報専門教育分科会主査の大原氏、慶應大学の渡辺氏、慶應大学の中妻氏、井端事務局長を交えて意見交換した。以下に主な内容を掲載する。
[論点Ⅰ:向殿]
20年後の社会は決まりきったことをする仕事から,仕事の質が大きく変わってくる。そうなると、大学教育も知識・技能の修得を中心とする教育から、知識・技能を応用して問題発見・解決、新しい価値を創出する実践的な教育へと転換していくことが不可欠となってくるのではないかと思う。
実践知を組み入れた多元的な教育を推進していくには、大学に所属する教員だけで教育を用意するいわゆる「自前主義」から脱却して、他大学教員や産業界、地域社会など多様な知を組み合わせた教育のオープンイノベーションが避けて通れないのではないかと考えることについて意見を求めた。
[意見:角田]
イノベーション能力の育成という点では、同じ専門の学生同士による課題解決では十分ではない。専門の異なる学生同士、言語の異なる学生同士によるPBLが当然必要になってくるので、当然、オープンイノベーションは避けられなくなってくると感じた。他大学と協力して進めていくことは必要かと思う。教学のマネジメントを強力にそちらの方向に牽引していただくことも必要なのかなと感じた。
[意見:大原]
イノベーションという時代を考えた時に、今まで各大学で指導方法を一種の契約として作ってきたが、それで対応できるだろうか、カリキュラムの在り方を再検討すべきだろうと思う。
[意見:渡辺]
価値創造は、社会課題をどれだけ持ってこられるかが重要で、産業界、行政、地域の課題を大学教育に入れていくことが重要になると思う。カリキュラムの観点からは、数学や情報や統計のカリキュラムを点検し、これだけを履修したらデータサイエンスのエキスパートの修了を出すというような形で、枠を超えた何か修了要件が必要になってくると思う。
[意見:中妻氏]
教育充実の妨げとなる要因として適性を持っている教員が不足している。私達の場合は有料のオンライン講習を学生に受講させた。教育をオープンに最適化していくとすると、教員人事の要件(学位、教育暦、論文など)が大きな障壁になる。柔軟で機動的にしないと、適性を持つ教員が確保できない。
[論点Ⅰの認識について確認]
以上の意見を踏まえて座長から、これからは他の大学、地域、企業の方と一緒になり、教育のオープンイノベーションを考えていくことが大事な課題であることについて、挙手を求めたところ、大半の先生方から賛同があった。
[論点Ⅱ:向殿]
実践知を高めるには、縦割りの授業だけでは知識・技能の関連付けや、組み合わせは難しいと思う。多様な知を組み合わせるには、教員、学生、社会の有識者などが学びに参加できるよう、ICTを活用した分野横断型の演習授業を導入する研究が私情協ですすめられていることについて、角田担当理事に説明を求めた。
[意見:角田]
本協会では、ICTを活用した分野横断型のPBL演習授業について、3つのグループで研究を進めている。
一つは、法律分野において、批判的、創造的な思考力の獲得を目指すために、法律と他の分野が絡む社会の問題を取り上げ、ネット上に複数の分野の教員、専門家、一般市民が参加してフォーラムを形成して最適な解を発見する授業を研究している。「ネット上での議論」と「対面での授業」を組み合わせて、委員校の一部の方と始めている。なお、複数大学教員との連携は今後の計画としている。
二つは、医学・歯学・薬学・栄養学・看護学、社会福祉学の6分野において、健康長寿社会に活躍できる人材の育成を目指して、ネット上で多分野によるチームを編成し、有識者によるビデオ、Web情報などを教材にして、知識の関連付けを行い、批判的・合理的な思考力、判断力を獲得するPBL授業の研究を進めている。「ネット上での学び合い」と、「自己学修を組み合わせ」ることで、参加した各学生が20年後における自職種の役割・使命といった姿を考えることにしており、今年の11月に6大学12名で行う予定にしている。
三つは、会計学分野において、ビッグデータや人工知能の出現による組織の成長や発展に貢献する経済活動活性化の支援を目指して、ネット上でファイナンス、経営、会計、経済、心理学、情報システムなどの知識を組み合わせ、社会人が大学で学び直しができる分野横断型の授業モデルのデザインを研究しており、構想の具体化について検討を進めている。
何れにしても、ICTを活用し、大学あるいは学部を越えて、議論・考察するオープンな授業が、今後は必然的に取り入れられていくようになると考えている。
[論点Ⅱの認識について確認]
座長から、考える力を訓練する授業への転換には、縦割りの授業に加え、共通のテーマを設けて横割りの授業を考えることの必要性について、挙手を求めたところ、大半に近い賛同があった。
[論点Ⅲ:向殿]
横串の授業に必要なリテラシーとして、データを活用した問題解決や、価値の創造につなげるデータサイエンスの教育を共通教育として、取り入れることが課題となるが、教職員の意識を転換していくには、どのような点に留意てしていくことが必要か、滋賀大学の竹村氏に説明を求めた。
[意見:竹村]
文部科学省では、全国の大学でかつ全学的にデータサイエンス教育を進めるという政策が考えられており、その6拠点の一つに本学が選ばれ、今コンテンツの開発をしている。実際には、どの大学でも教える人がいない、コンテンツがないなど様々な難しい点があると思うが、コンテンツに関してはオンラインのコンテンツも増え、学会等でも整備されていく。しかし、大事なのは教員側の意識ではないかと思う。データサイエンス的なものというのは、ビジネスとして非常に必要で、産業の競争力にも通じる。日本は遅れているので絶対必要だが、今まで通り何十年も教えていたやり方になってしまうので、そこをどうしていいかということがある。
[論点Ⅳ:向殿]
教員の意識がなかなか変わらなくて、難しいところがあるというのは現実的な問題と考えることについて井端事務局長に意見を求めた。
[意見:井端]
大学の教員は、大学を退官された後も人材を育成するという立場から、ICTを用いて教育をファシリテイトできるのではないか。多様な知恵や実践知をお持ちの退官教員の方々が、ネットを通じて学生の学修を支援していく、オープンな人材育成がこれからできるのではないかと思う。
[質問Ⅰ]
オープンイノベーションということになると、自分の学問では時代の変化に対応できない状況になっている。それを進めていくと、実は大学の教授会自体が壊れてしまうという危機に瀕することになるで、学内ではそう簡単に動かない点どのようにお考えなのか、お聞きしたい。
それから少子化の問題と絡んで、基本的に先を見てわれわれは改革をしようとしているわけだが、実は日本の文化を作ってきた過去に蓄積されたレジェンドがあるわけで、それを守る人に対しても、我々は何らかの対応をしておかないといけない。そういう意味では実践知だけではなくて、歴史的な知恵を繋いでいく人をどのように育ていくかということも重要な課題だと思う。
[回答:中妻]
経済学では、人的手法がはっきり陳腐化してしまっている。大学教員に限らず、新しい第4次産業革命が起こしている問題で、すぐその能力が陳腐化してしまうので、それをどうするかだと思う。解決策は多分リカレント教育しかない。陳腐化していくのが分かっているので、絶えず自分の人的資本を更新しなければいけない。そういう意味では、嫌がる先生多いが、FD(ファカルティ・ディベロップメント)をしっかりやるしかない。ICTの技術も定期的に勉強するとか、英語で教えるようにするとか、そういうことを押していくしかない。2番目の課題は、アカデミックの部分は置いておくべきだと考える。ただ、リソースは限られているので、全体的に予算も含めて、新しい方に行ってしまうので、ソース配分を大学の中でやっていくしかないのではないかと思う。
[質問Ⅱ]
一つは、大学だけでやるのではなく、中・高、大学も連携して情報共有してやっていくと非常に人材が豊富なので、かなり将来有望かなと、この連携をどう考えるか。もう一つは、入試も「情報」がなかった、「統計」も入試になっていなかったと思う。大学だけでなくそこを連携して考えるのが上手くできたら、かなり日本は行くのではないかなと思うが、どうしたらできるか。
[回答:渡辺]
小・中・高の教育は本当に学校の先生方熱心で、子供達も非常に優秀なので、ベクトルが思考力、プログラミングに行けば変わると思う。大学に今、一番望まれているのは、入試問題に取り入れていくことだと思う。公式を覚えたらできるような問題ではない入試を考える必要がある。適切な問題を作っていただければ、高校の先生方は反応されるし、中学校も反応されると思うので、是非、入試を改革していただければと思う。
[質問Ⅲ]
横串の授業について疑問に思っているのは、学生たちを見てみると、他の大学も含めていろいろな科目がとれるということは良いかも知れないが、何をとっていいか分からない。一つひとつの授業はいいと思うが、何故これが在るのかがまったく分からない。大学として学修のコーディネートというか、何をしたらいいのかということを教えるキャリア教育をした方がいいのかなと思ったので、それについてご意見いただければ。
[回答:井端]
3つのポリシーが大学に法律で義務付けられ、ゴールとして何を身につけて卒業させるか、必要な能力を身につけるためにはどういう授業をプログラムしようかということになるが、授業の多くが縦割りになっていて、横串の授業が少ない。それには、知識を提供する授業に演習授業を組み込んだアクティブ・ラーニングを積極化することで、学生達が学んだことがどこまで通用するのかが見えてくる。教員の方々も、担当している授業で、何ができて何が足りないのかを学生達にファシリテイトする義務がある。他の科目とどのように連携をとるのか、それぞれの学識の中で説明していただければと思う。
[質問Ⅳ]
数理データサイエンス教育を文・理を問わずリテラシーとして行うことは是非必要だと思う。データサイエンスで大事なのは、モデルをきちんと構築する、論理的に考えて因果関係を作るようなモデルをきちんと作るのが大事だと思うが、教える側がツール使えばいい、何か出てきたらAIが言った答えだからというような教え方をしてしまうと、非常に逆効果になってしまうということを若干危惧している。何かアイデアがあれば。
[回答:大原]
一番重要なのは、モチベーションを持たせることだと思う。学生がモチベーションをもてれば、後は自分で勉強していく。大学はその環境を与えればいい。ある意味では手抜きだが、別な意味ではオープンイノベーション、そういうようなことを企業が今考えてくれているので、一緒に教育を実施していくと、かなり有益な結果が出てくるのではないか。
[総括:向殿]
これまでの議論では、今後、課題探求型の授業、問題解決型を目指した授業が避けて通れないことを認識いただいた。今後の課題は、学内教員が多元的な教育について連携していくための理解促進、学外の人を組み入れたICT活用による学びのプラットフォーム作りなど、ICTによる環境整備を急がねばならないと考える。しかし、大学の財政は極めて逼迫しており、情報環境の整備に国からの力強い財政支援がどうしても必要である。私情協はその役割を担っていて、私立大学団体連合会の鎌田会長を通じて文部科学省に要望している。是非とも、各大学におかれても補助事業実施について、声を上げていただくようお願いしたい。
若者一人ひとりが主体的に社会に参画し活躍できるよう、我々、大学関係者は、自己犠牲をいとわず、最良の授業を提供できるよう、学生を支えていくことが使命ではないかと考える。毎年学生が社会に巣立っていくことを考えると、待ったなしの感が否めない。どうかここにお集まりの大学の先生方、教育革新の連携を深めていただき、新しい時代を生きる若者に「希望」と「自信」を持たせられるよう、その実現を目指して、今日の会を閉じさせていただく。
関連情報の提供
(1)提案の背景
学修到達度の測定・評価は、これまで知識の修得を中心とした傾向が多く、結果としてその場しのぎの試験対策に終始した学修を誘発してきた。他方、大学にディプロマ・ポリシー、カリキュラムポリシー、アドミッションポリシーの明示が法律で義務づけられたことで、学修成果の質保証について、社会から信頼される客観的で通用性のある評価方法が喫緊の課題となっている。
知識・技能の評価は、各学問分野で範囲や水準が整理又は標準化されていることもあり、授業担当者の判断で客観的に学修到達度を判定することができるが、考える力や表現する力の評価は一様ではないことから、社会的な信頼性を確保する方法として、外部の第三者による評価が不可欠となる。
(2)評価モデルの仕組み
① 外部評価組織の構築
分野別又は分野合同の外部評価コンソーシアムを大学又は関係団体等に設置し、学外有識者を交えた外部評価検討組織を構成して、学修成果到達度の測定評価基準及び評価問題作成方針の策定、応募された評価問題の厳選、評価者の適格性基準の策定、外部評価クラウドの運営などを行う。他方、社会的な課題、世界的な課題など分野を横断する学修成果の外部評価には、多分野の評価者で構成する外部評価クラウドが必要となり、比較可能な評価方法を別途考えることが必要になる。
② 外部評価の方法
変化が激しい社会では、答えが定まらない課題に自ら主体的に取り組み、自分の考えを論旨明解に伝える・表現する力が求められており、対話・議論の中で意見や考えを論理的・批判的・合理的な文脈に沿って、分かりやすく説明する力が要請されている。
それには、各学問分野で学修した知識・技能を実践的な課題に活用・応用して、問題解決につなげる思考力、判断力、表現力の訓練が不可欠であることに鑑み、口頭試問に替えて短時間で論旨明解な文脈で説明する訓練として、ビデオ試問による到達度の把握を考案した。
大学教員、社会の有識者による協力を得て作成した評価問題(例えば、動画、シミュレーションの図などを提示した試問)を、ビデオ試問として外部評価クラウドに掲載しておき、教室で学生がヘッドフォンを付けてパソコンから問題を聞き取り、記述式でクラウドに回答する。評価は、問題を作成した評価者と複数の評価者で一次評価を行い、その結果を踏まえて、授業担当教員が到達度評価の方針に基づき総合判定する。
③ ビデオ試問の狙い
知識の量や質を測定する従来の内部評価に加えて、論理の展開力、知識・情報を関連付けて多面的・多角的に考察する力、客観的・科学的に分析し最適解を見出す批判的な思考力、新たな価値を見出す創造力、論旨明確な表現力の到達状況の測定を外部の第三者に求めることで、知識・技能の詰め込みでない、問題の本質に真剣に向き合う学修が可能になる。
(3)外部評価モデルの活用
評価モデルは、成績評価のためではなく、生涯に亘って、学生が身に付けておくべき能力を訓練することを第一義としている。他方、大学は学修成果として獲得した能力要素を、社会に説明する責任があることから、モデルの導入に際しては、学年進行の中で評価経験を積む訓練を行い、最終学年での評価を活用することが適切と考える。活用方法は、評価の対象・内容により異なるので、適切でない分野も考えられる。例えば、美術・デザイン系分野では、社会で求められる能力要素として、作品自体の表現技法・独創性、社会貢献の価値などが重要となることから、ネット上で一部の評価者が評価することは必らずしも適切とは言えない。また、実技・実演・実習などの分野でも、本モデルの活用は必ずしも適切とは言えない。
※ 以下の報告は、8月に報告した中間結果から、追加の回答校を加え、9月に最終集計した結果で報告している。
加盟校における収支決算に基づく情報化投資額の調査を毎年実施している。加盟209大学、58短期大学に調査したところ、172大学、43短期大学から回答を得た。回答率は大学82%、短期大学74%であった。
大学の教育研究部門における物件費の情報化投資額は、中央値で大学全体では、1校当たり約2億5千3百万円と、平成28年度より5.6ポイント増加している。短期大学では1,500万円で、前年度より2.2ポイント減少している。
クラウドの利用状況は、大学の利用率が28年度とほぼ同じで8割となっている。短期大学は28年度の6割5分から7割に上がった。クラウドの利用経費は、中央値で大学が454万円から558万円と22%の増となっている。その内、1千万円以上の大学は28年度の47校より1校増の48校、1億円以上は前年度より2校増え6校、最大は3.9億円であった。5百万円以上の短期大学は前年度の2校と同じであり、最大で1千万円であった。
クラウドの経費が情報化投資額に占める割合は、大学で平均2.5%、短期大学で平均2.9%となっている。特に、大学では、入学定員2千人以上3千人未満の複数学部大学4.0%、自然科学系単科大学4.7%、人文科学系単科大学4.0%、その他系単科大学3.7%と情報投資額全体に占めるクラウド利用が増加している。
他方、単純加算平均による費目別の推移を見てみると、29年度は情報関係の施設・装置関係、サーバー等情報関係設備に対する直接的な補助がなかったこともあり、大学の設備関係費は減少した。一方、ソフトウエア関係費、外部データセンター等費、工事関係費、保守・管理費は増加した。短期大学は、1校が2億円規模の施設・設備の更新を行ったことで、設備関係費、ソフトウエア関係費が増加したが、保守・管理費、工事関係費が減少した。
大学の規模・種別の教育研究部門の情報化投資額の結果を下表に示す。
※平成29年度大学規模別 教育研究部門の情報化投資額 (単位:万円)
4部構成のベンチマーク評価結果の一部を紹介する。
物件費の中で、情報セキュリティ対策に予算を設けている大学の割合は、全く予算化していない大学が1割程度、3%以下の大学が4割、4%から6%が2割、7%から9%が1割弱、1割以上が1割となっており、9割が予算化している。
情報セキュリティ対策の費用のかけ方は、9割以上の大学がウイルス対策ソフト、ファイアウォールに、8割がVLANネットワーク関連に、6割から5割がフィルタリングソフト、侵入検知システムに支出しているが、USB、SDカード、DVDなどの書き込み制御ソフトに支出している大学は2割、暗号化対策、セキュリティ監視サービスに支出している大学は3割となっており、7割以上が対応していないことが判明した。情報を搾取されても使えないようにする暗号化対策や、重要な情報資産の情報漏洩による事故を減少させるためにも、書き込み制御ソフトの対応は緊急を要する課題である。
その際、どのような情報資産を守るのか、金融資産情報を含む重要な情報資産の目録作成状況を点検したところ、毎年情報資産の目録を見直ししている大学は1割強、見直ししている不定期の大学が2割となっており、4割の大学は検討中、3割弱は目録を作成しておらず、7割の大学が守るべき情報資産の内容を把握していないにもかかわらず、9割の大学が情報セキュリティ対策を予算化しているという、矛盾が浮き彫りになった。課題としては、情報資産の重要度に応じて情報化投資をしていくことが望まれる。
重要な情報資産をどのように守るかについては、大学経営執行部による危機意識の共有化が前提となる。
「経営執行部の情報セキュリティに対する取組み」についてベンチマークしたところ、執行部が中心となって危機意識の共有化に努めている大学は1割に留まっており、6割の大学は情報センター等部門を通じて危機意識の共有化に努めており、2割は検討中、1割弱は危機意識の共有化はしていない。このことから、経営執行部が中心となって、情報セキュリティ対策に取り組んでいくことの重要性が浮き彫りになった。
また、情報セキュリティポリシー、情報セキュリティ学内の管理に関する学内ルールへの関与については、経営執行部の方針により学内ルールを策定・周知徹底している大学は2割5分、情報センター等部門で策定・周知徹底している大学は2割、経営執行部の方針又は部門で策定しているが周知徹底していない大学は4割、検討中・策定していないが1割強となっており、学内ルールの周知徹底が課題となっている。
その上で、「学内ルールの周知徹底と遵守の確認」をみてみると、6割の大学がWebサイトや学内文書による定期的な情報提供に留まっており、学内外研修会の参加義務付け、教授会・職員会議などでの定期的な情報提供などに関与している大学は少ない。大学全体としての対策強化に、経営執行部の関与が望まれる。