事業活動報告 3

平成30年度 大学職員情報化研究講習会
〜ICT活用コース〜 開催報告

 本年度の大学職員情報化研究講習会、ICT活用コースは、「教育改革に向けたIRへの取り組み」をメインテーマとして掲げ、平成30年12月13日(木)、近畿大学東大阪キャンパス(大阪府東大阪市小若江3−4−1)において開催し、55大学、1短期大学、5賛助会員から91名の参加があった。

−全体会−

 全体会では、会場提供校の近畿大学、井口信和 総合情報基盤センター長からご挨拶の後、本講習会のイントロダクションとして木村増夫運営委員長(上智学院)から、ICT活用コースのねらいについて説明があり、先に中央教育審議会より出された「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」をふまえた社会の中で、高等教育のあり方、特に私立大学における情報公開の重要性について話があり、日本私立大学協会が策定した「ガバナンスコード」の紹介があった。各大学が自主的に幅広い情報公開を実施していくことが社会から求められ、一方で客観的な自学のデータを把握し分析・検証・評価し教育改革を進めていくことの必要性が説明され、認識を深めた後、本日の各プログラムに沿って、取り組みの紹介があった。

【プログラム1】

「総合学生カルテ」とポートフォリオによる学びの質保証の取り組み」

日本福祉大学 全学教育センター長 中村 信次 氏

 日本福祉大学では、2003年の教育GPに始まり、これまで様々な形で教育改革に取り組んできている。この中で大学教育における評価視点が、「学生に何を教育したか」から「学生が何をできるようになったか」かに変化したことで、卒業時における質保証が重要となり、AP事業の取り組みとして「教育の質保証システム」を縦軸、「教育の質の充実」を横軸とした質保証全体の取り組み像が作成された。その内容は、①正課内外の学びを集約する学修ポートフォリオ/統合学生カルテの構築、②4年間の学びを可視化する学修到達レポート(ディプロマサプリメント)、③教育/学修の適切な評価を可能とするアセスメントポリシー、④学生の学びの下支えをするリメディアル/基礎リテラシー教育⑤質の高い卒業生を輩出するための専門職養成支援となっている。
 2018年度より稼働しているポートフォリオは、正課内外の学生活動をアーカイブし、項目の追加削除や閲覧権限を付与できる等柔軟なシステムとなっており、ここから情報抽出することでディプロマサプリメントの作成ができる。「質」保障をするために必要な情報とは何かがまだ確定されていないため、全てのデータを蓄積し、蓄積されたデータから学修到達レポートを自動作成している。
 参加者からは、「質保証の取り組みを自動車産業に例えた説明が分かり易かった」「学修成果の可視化する学修到達レポートとしてディプロマサプリメントを活用している事例は参考になった」などの感想が寄せられた。

【プログラム2】

「教育改革の推進に向けた学修成果の可視化にもとづくIR戦略の取り組み」

東京都市大学 教育開発機構副機構長 永江 総宜 氏

 東京都市大学で実施されているeポートフォリオ「TCU-FORCE」(FOR Career Enrollment)及びIR戦略としてのディプロマサプリメントについて紹介された。
 「TCU-FORCE」は、学生が正課や正課外などの活動で培った経験を登録していくことで、学生の持つ様々な力を可視化し、教職員の支援を受けながら「自己理解と成長」を促す学修支援システムであり、①レーダーチャートによる定量情報の表示、②承認されたアピールポイントの定性情報の表示、③キャリアガイダンスで目標設定⇒振返り⇒再目標設定(PDCAを習慣化)、Cキャリアポートフォリオ機能で日々の活動を記録、という4つの機能を持っている。このシステムにより卒業時のディプロマサプリメントだけでなく、各年次でのプレ・ディプロマサプリメントの発行も可能となっている。教員・学生だけでなく企業からの期待や意見も聴いてシステムを改善し、現在の6学部7学科での活用から、来年度は全18学科の新入生に「TCU-FORCE」が導入される。
 参加者からは、「様々な学生データを取得しディプロマサプリメントとして活用している事例は参考になった」「教員が学生のポートフォリオにコメントすることの大切さも良くわかりました」などの感想が寄せられた。

【プログラム3】

「総合データベースを用いてデータの集計・マッピング・可視化を行うIR実践の支援」

富士通 文京ビジネス推進統括部ソリューション 推進部 高村 智代香 氏

 富士通株式会社では、これまで大学と各種システム(インフラ整備、学事システム、法人システム、図書館システムなど)の開発・運用実績があり、大学の取り巻く課題やコストに関する相談を色々と受けた経験の中で、富士通が考える大学における課題を、「大学の独自性の確保」・「求められる人物像の変化」・「学生の質保証」・「教育効果をどのように測るのか」などと考え、これらの課題解決にIRを用い、客観的なデータを「横串を刺し」分析し、ニーズに対する傾向を分析することが重要であると考えている。同じデータであってもデータの見方により、例えば高大連携、入試、教育の可視化、研究の可視化、経営判断の材料への活用など様々なことに活用が可能であり、既存の大学で保有しているデータや新たに発生するデータを日々集めていくことが重要となる。これらのデータから、IRによって経営や教育効果の可視化をすることにより、主観や憶測でなく、客観的データに基づいた改善策を、仮説からエビデンスを得て実証し、対策を講じることができると考えている。
 具体例として、富士通「Unified-One統合データベース」と大学での利用が多いデータ分析ソフト「tableau」により、簡単な操作でデータを可視化する実演が行われた。

【プログラム4】

「クラウドを活用した全学ICTサービスの展開事例」

早稲田大学 情報企画部情報企画課 インフラグループリーダー 江夏 志門 氏

 早稲田大学で導入されている、オンラインストレージサービス「Box」について、「Box」の導入背景、システムの選定理由、活用方法、そして今後の情報化推進の方向性が説明された。導入前には、システムの運用面、サービスの向上面、インシデント対応面等々に課題があり、これらを解決するためにシステムの検討を実施、同時に情報資産管理ガイドラインの制定も行っている。制定された情報資産管理ガイドラインの説明と、検討したシステム要件のポイントについて解説があり、情報資産管理ルールに則った「Box」の活用方法について説明があった。また、システム的な対策では難しい点などについて話があり、システム的な対策と業務上の注意点に等の説明があった。最後に、早稲田大学の情報化戦略について、基本方針、達成すべき目標、情報化のミッション等の紹介があった。
 参加者からは、「オンラインストレージサービスの導入を検討しており、とても参考になった」「早稲田における情報資産管理ルールを聞いて自大学の遅れをあらためて感じた」などの感想が寄せられた。

【プログラム5】

「クラウド導入の情報提供・相談〜国立情報学研究所の学認クラウド導入支援サービス」

国立情報学研究所 クラウド基盤研究開発センター 特任教授 吉田 浩 氏

 国立情報学研究所で実施している「学認クラウド導入支援サービス」についての紹介があり、大学のクラウド移行にあたっての課題解決をサポートする国立情報学研究所の取り組みについて説明がなされた。
 導入支援サービスの中核である、大学がクラウドを導入する際に確認すべきチェックリストや、参加しているクラウド事業者、スタートアップガイド等のサービスについて説明があった。このサービスの中の一般公開サービスと参加機関向けサービスの違いについて説明があり、一般公開サービスとしては、クラウド利活用セミナー、情報提供といったものがあり、チェックリストと調達作業の関係や一般動向等の説明があった。参加機関向けサービスとしては、チェックリスト(検証済事業者回答)の参照、個別相談の依頼、ワークショップ参加等が可能になり、その概要と利用事例の紹介があった。最後に、学認クラウドゲートウェイサービスと学認クラウドオンデマンド構築サービスの紹介があった。

−おわりに−

 今年度は前年度より、若干参加者・参加校が増加した。各プログラムの講演は概ね好評とのことであり、特に各大学の具体的取り組みの事例発表は、非常に参考になったという意見が多く寄せられた。
 本コースでは、情報提供型の研究講習会として、教育改革に向けたIRへの取り組みについて、理解を深めることができたと考えています。なお、開催の時期や時間設定、開催場所、など運営に関する要望もいくつか寄せられたが、これらについては引き続き検討課題として次年度の参考としたい。
 最後に、本講習会プログラム開始前に実施された「近畿大学アカデミックシアター」施設の自由見学には、多くの参加者があり、「先進的な施設を見学できて良かった」、「今後もこういった施設見学を実施していただきたい」などの声が寄せられた。
 快く見学を許可いただいた近畿大学様に、この紙面をお借りして、あらためて感謝の意を表します。

文責:大学職員情報化研修講習会運営委員会


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