巻頭言

リベラルアーツ×AIで人生の構想力を磨く

郭 洋春(立教大学 総長)

 立教大学は、145年前の1874年にアメリカ聖公会の命を受けたチャニング・ムーア・ウィリアムズ主教が、築地の外国人居留地に「聖書」と「英学」を教える私塾として創設された。その教育の特徴は、リベラルアーツである。それは当時の日本社会が功利主義、実利主義的価値観に傾斜していくことに危機感を持ったウィリアムズが、このような流れとは一線を画し、西洋の伝統的な教育であるリベラルアーツ教育を教えようとしたことに始まる。
 現在本学が力を入れている教育は、「人生100年時代を生き抜く力=人生の構想力を磨く力」である。そのため本学では「立教時間」と呼ばれる学修システムを取り入れている。これは従来のカリキュラムが学年進行であったのに対し、4年間を「導入期」、「形成期」、「完成期」ととらえ、卒業までの目標を明確化した上で、正課内外の学びを自発的、自在に組み立て、学び、振り返ることを繰り返しながら、自らのビジョンに沿って成長することができる学修スタイル・学びのことである。
 その学びを支える仕組みがeポートフォリオシステム=立教時間だ。学生は立教時間を利用することにより、正課だけでなく、ボランティア、語学試験のスコア、インターンシップなど4年間のあらゆる学びを蓄積し、振り返り、「なりたい自分」の実現に役立てることができ、自らの能力を客観視することができるようになる。
 本学は来る2024年の創立150周年に向け、教育改革に着手している。その大きな柱の一つがAI人材の育成だ。21世紀は知識創造型社会だ。その時、AIは社会の隅々にまで浸透しているだろう。したがって、いかにAIを活用し、社会を発展させるために利用するのかという視点が重要だ。そのために日本の大学には、AI技術を理解し使いこなせる人材養成が求められている。特に、文系学部が圧倒的に多い日本の大学こそ、AIの理解はもちろん技術の修得が必要だ。本学は、2020年4月にAIに特化した人工知能科学研究科を開設するが、早い段階ですべての学部学生にもAIを学ぶ機会を提供しようと考えている。日本政府が年間25万人のAI人材を輩出することを大学に求めているが、本学は2万人すべての学生にそのような機会を与える予定だ。
 このAIに従来のリベラルアーツを融合することで、21世紀の経済社会の課題に応えうる人材、人生100年時代を構想できる人材を育成・輩出したいと考えている。言い換えるならば、これからの本学の教育は、AI×リベラルアーツ=21世紀の経済社会をリードする「グローバルリーダー」を育成することで、社会の発展に貢献し続ける大学としてありたいと考えている。
 AI研究科の特徴は以下の4つだ。一つは、機械学習・ディープラーニングの本格的な学修である。機械学習を中心に人工知能やデータサイエンス分野、ディープラーニングを本格的に学修し先端的研究をする。二つは、「社会科学×AI」による革新的な研究と人材育成である。社会科学の専門知識とAIによるデータ解析を展開し、分野横断的に活躍できる力を育成する。三つは、産学連携による「社会実装」の本格展開である。企業でAI研究・事業に携わっている人材を教員として登用し、最先端のAI技術を習得させる。また提携企業との共同研究の成果も教育に還元することで、社会に生かせる実践的な力を身につけ、社会が求めるAI人材を育成する。四つは、昼夜間開講により社会人にも学びやすい環境を提供する。現在多くの企業でAI人材が不足していると言われている。彼らが働きながら人工知能科学の学位を得られるように、平日の夜間と土曜日に科目を集中的に配置する。
 グローバル化社会に必要なのは、変わらぬ建学の精神、教育理念と21世紀を見通す洞察力だ。本学はその手段としてAIを大いに活用し、時代の半歩先を行く大学へと変貌する。将来に後悔を残さないために。


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