特集 イノベーションの担い手を育成する起業教育−1
寺本 大修(近畿大学 アカデミックシアター事務室主任)
本学では東大阪キャンパス大規模整備計画「超近大プロジェクト」を実施しており、その第一期工事が完了し、2017年4月6日に新たな学術拠点「ACADEMIC THEATER(アカデミックシアター)」が誕生しました。アカデミックシアターは本学の「実学教育」の拠点として、医学から芸術まで、多様な専門性を兼ね備えた14学部48学科と短期大学部のすべての学びが融合する中核施設として企画、運営されています。
「偏差値では計ることのできない次元の違う独自性を持った大学になる」これは本学の掲げる新たな大学としての姿勢の一つであり、私たち教職員が一丸となって取り組むテーマです。アカデミックシアターはまさにこの独自性を発揮する象徴的な施設になるべきであると考えています。では、偏差値では計ることのできない価値と何か。この問いに向かい合った時、答えとして導き出したのが、不確実な世の中において、答えのない問題に真正面から立ち向かうことのできる人材を輩出することでした。つまり、これまでにない価値を創造する「起業家的人材の育成」です。アカデミックシアターでは、学部での専門的な学問をベースとしつつも、ビジネスとして領域横断的に物事にチャレンジできる「インキュベーションファクトリー」というプロジェクトを立ち上げ課外講座として学生にプログラムを提供しています。そして、この取組みを通じて多くの起業家を輩出する仕組みを作ることこそが本学が学生に、そして世の中に必要とされる「偏差値では計れない価値」になると考えています。
インキュベーションファクトリーの中核プログラムとして3つの活動を展開しています。一つ目は、Lean LaunchPadプログラムです。これは、スタンフォード大学で教鞭をとるシリアルアントレプレナーでもあるSteve Blank氏が提唱する起業家育成プログラムで、アイデア発想からビジネスモデル、そして仮説検証までを理論的に学ぶことのできる講座です。次に二つ目が、STARTUP ACADEMY KINDAIです。この講座では特にビジネスを実践することが求められており、講座受講生は社長として、実際に商品を販売し、利益を得るという実践経験をします。学生は、上記二つの講座を軸に「理論」を学修し、「実践」する力を身につけます。そして最後の三つ目は、本当に起業家として立ち上がる後押しを実施する「OKonomi(おこのみ)」というプログラムです。このプログラムは2019年7月から新たにスタートした仕組みで、VC(ベンチャーキャピタル)、起業家による審査会を月一回ペースで実施し、合格チームには30万円の法人設立準備金と1年間の事業成長メンタリングを提供するというものです。7月から開始し、10月時点で11チームが審査会に挑戦し、すでに4チームが法人設立(準備中含む)しました。今年度は合計10件の法人立ち上げを目指しており、さらに5年間で合計100件の法人立ち上げを目指し、起業家を育む土壌を作っていきます。
東大阪に本部キャンパスを構える本学としての“らしさ”を築いていきたいと考えています。それは、本格的な実践のノウハウに浪速商人らしい泥臭さをミックスした本学ならではの多様な、なんでもアリの起業家です。学生と話をすると、よく耳にする起業家のイメージがあります。それは、世の中を革新するイノベーティブな価値を創ることこそが起業家であるという大きな理想です。しかし、その理想への一歩目は、もっと身近で、今できる何か、でいいのではないか。その一歩目を踏み出す勇気と機会を与えることが重要ではないかと思っています。学生の挑戦を肯定し、後押しする仕組みを作ることで、「学生起業家数NO.1と言えば、近大」を目指します。