特集 イノベーションの担い手を育成する起業教育−1
藥袋 貴久(みない たかひさ)(昭和女子大学 グローバルビジネス学部ビジネスデザイン学科准教授)
本学は、2013年度に経営・経済を学ぶグローバルビジネス学部ビジネスデザイン学科を創設しました。毎年多くの学生がこの分野に関心を抱いて入学しており、従来の女子大学のイメージを刷新する新たな領域を開拓できたのではないかと考えています。
近年、女性活躍社会の実現が掲げられていますが、残念ながら課題は山積しています。ジェンダー不平等状況を示す「ジェンダー・ギャップ指数2018(世界経済フォーラム)」によると、日本は149ヵ国中110位という低い水準に留まりました。この指数は、政治的参加度、経済的参加度、教育達成度、健康及び生存の4指標によって構成されますが、我が国の特徴は、教育・健康面で世界トップクラスでありながら、政治・経済面での実績がその地位を引き下げているというギャップの大きさにあります。
現実問題として女性が社会で実務に携わると、ライフステージの途上で、あるいは異なるコーホートとの関係において様々な障害に接することになりますが、人材としてのポテンシャルが高ければ、そこで抱くアンビバレントな葛藤は一層深刻となります。そうした壁をどのように乗り越えて、ビジネスという価値創造の場面で、自律した個として自らのキャリアを如何に形作っていくかを示していくことも、女子大学の重要な使命と言えるでしょう。
ビジネスデザイン学科では、価値創造の源泉を顧客づくり、組織づくり、経営資源づくり、視野づくり、経済学的思考からなる「ビジネス5つの知」と捉え、科目間の関係性を意識したカリキュラムを提供しています。また、グローバルな視野の獲得に不可欠な英語力を養うため、英語科目は習熟度別とし、本年度に本学キャンパスに移転したテンプル大学日本校を含む協定校への留学も推奨しています。1年次には「ビジネス5つの知」の基礎と英語力を磨き、2年次前期には全員が本学の海外キャンパスである昭和ボストンに留学します。
大学生活の後半では、学生が、卒業後の進路を念頭に3つの集中領域(トラック)からひとつを選び、所属ゼミナールの専門性と連動させつつ、トラック内の科目群を集中的に履修選択することで、理論と実践の両輪で知識習得を自らデザインする仕組みを提供しています。3つの集中領域とは、英語力とリーダーシップを獲得して協定校留学に挑戦し、グローバルなビジネスシーンで共感力をもって活躍できる人材輩出を目指す「グローバルビジネス」、創造性と革新性をテーマに、情報通信技術を使いこなして新たな市場創造を担う人材輩出を目指す「ICTイノベーション」、論理的思考を身につけ、構想力と現場力をもって課題解決に取組み、顧客志向の事業開拓を牽引する人材輩出を目指す「ビジネスデザイン」の科目体系をさします。
特に、新機軸となる「ICTイノベーション」では、すぐにWebサービスを展開できるようなプログラミング学修や数的処理能力を高めるデータ解析、インターネット協会加盟企業と連携したIoT時代の分野横断型人材育成プログラムなど、ベンチャーや起業にも焦点を当てたユニークな講義を展開しています。卒業後のキャリアとして自ら業を起こすことも選択肢のひとつでしょう。起業には、資金調達、会計、租税の知識が不可欠ですが、学生は、会計ファイナンス学科(2018年度設置)開設科目の一部も履修することができます。
マーケティングを専門とする筆者のゼミでは、プロジェクトと称して企業の方々にご協力いただき、商品・サービスの開発、販売促進や店づくりの提案など現場の課題解決の一端を、現在進行形で経験できるよう工夫しています。ビジネス開発に必要なビジョンを自ら描く力を育成するために、学んだ知識を現場に活かすだけでなく、現場で必要とされる知識も学ぶことが重要で、そうした実践的な学びのサイクルを身につけてもらうことが目的です。
女子大学で教鞭をとっていますと、グループワークにおける凝集性の高さ(まとまりの良さ)に瞠目する場面があります。大学生活において女性がリーダーを務める機会は、共学校と比べて格段に多いと言えるでしょう。私達は、これらを学科の特色と捉え、ビジネスコンテスト参加や政策提言など各ゼミの専門性に沿ったプロジェクト学修を積極的に導入し、実社会との接点において学生達の活動成果が日々積み上げられています。こうした「シスターフッド」の醸成は、未来の経済社会を彩り豊かにするための重要な要件となると考えているのです。