特集 イノベーションの担い手を育成する起業教育−1

山形大学における「次世代アントレプレナー育成」
〜地域活性化を体現する尖った人材の育成〜

小野寺 忠司(山形大学 国際事業化研究センター長)

1.はじめに

 昨今、社会問題である「人口減少」、「少子高齢化」の波が急速に押し寄せています。地方においては特に顕著であり、生産年齢人口の減少が大きな課題になっています。本学では、将来の事業の担い手となる若者に対し、イノベーションを起こし地方活性化を自らが体現するための教育を地域教育機関として積極的に取組んでいます。

2.人材育成教育EDGE-NEXTとは

 本学は、平成29年度より早稲田大学を主幹機関としたEDGE-NEXTコンソーシアムに、東京理科大学、滋賀医科大学、多摩美術大学とともに参画しています。EDGE-NEXT(Exploration and Development of Global Entrepreneurship for NEXT generation)とは、文部科学省の「次世代アントレプレナー育成事業」プログラムであり、次世代のアントレプレナー(起業家)の育成を大学が中心となり促進する5年間の事業です。
 本学でも独自のプログラムを開発し、平成30年度から授業を開講しています。この事業で最も重要なのは「起業家精神を有する人材の育成=尖った人間の育成」です。求められる人材とは、“自分の挑戦目標に対しリスクを恐れず実行する人材”、“独創的なアイデアを持つ人材”です。参加者のレベル・目的に応じて主に3つのプログラムを有し、教育しています。

 地域連携起業家育成教育プログラムでは、地域課題をテーマに、行政・地域企業・学生が課題解決に向けたプロジェクトを立ち上げ、解決策をコミットし確実に地域に実装していきます。
 飯豊町のケースでは、地元酒造と連携し、地元に自生するヒメサユリから採取した酵母を使った日本酒造りに取り組んでいます。ラベルデザイン、販売戦略提案やイベント企画を実施し、新しい日本酒で地域活性化を目指しています。
 起業家育成教育プログラム(基礎編)は、大学生、一般社会人を対象に、前期8回、後期8回を土曜日に開催しています。20名を超す業界で著名な外部講師を招き、講義・講演、グループディスカッション、チーム発表を通し、起業家精神(マインドセット)と起業に必要な知識(スキルセット)を自分の事業イメージを育てながら、習得させていきます。昨年度の受講生の中から、5件が事業化されました。その中の一つ、本学工学部の学生が設立した、起業したい学生を支援するベンチャー企業「インキュベーションポートやまがた株式会社(iPY)」は、学生の事業アイデアを育成し、資金面での支援を行い、事業の実現化を目指しています。新事業が軌道に乗れば、会社設立を行い独立(船出)させていく母港の役目を果たします。
 起業家育成教育プログラム(実践編)は、山形県の委託事業である「山形県ものづくりベンチャー創出支援事業」を本学国際事業化研究センターで事業採択し実践編として実施しています。企業、研修者、学生が持つ具体的なシーズ技術や事業アイデアを事業化するために、1年目はハンズオンで顧客価値策定及びビジネスプラン策定を行い、2年目は資金調達を支援し事業化、事業拡大を目指します。現在までに40チームほどを支援しており、2年目に支援した企業は、10億円近い補助金や投資を獲得しています。

 他にもグローバル人材に必要な英会話の教育や、データ関連人材の発掘・育成のためにプログラミングスクールを実施しています。

3.本学人材育成プログラムの特徴

 本学がHUB(ハブ)となり、本学の学生はもとより、県内および隣県の大学生、また企業に対してもオープンにプログラムを提供しており、さらに今年度からは、県内の中高生向けにも教育を拡大しました。加えて、山形県・市町村、教育機関や報道機関とも連携し、関係機関一丸となった人材育成を実施しています。実例として、東北地方の学生及びベンチャーを対象にした「みちのくイノベーションキャンプ」を2泊3日の合宿形式で開催、延べ417名の参加がありました。また、大学が主体となり、行政、報道と連携し県内中高生対象の「やまがたイノベーションキャンプ」を3泊4日の合宿形式で開催、県内の中学・高校生30チーム(83名)が参加しました。
 このEDGE-NEXTプログラムを通して、若者の起業に対する意識や意欲の変化を非常に感じており、起業家精神のさらなる醸成に努め、「山形県から日本、そして世界をリードできる人材」を育てていきたいと考えております。


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