事業活動報告 No.3

2019年度
ICT利用による教育改善研究発表会開催報告

 本発表会は、全国の国公立大学・短期大学教員を対象に、教育改善のためのICT利用によるFD活動の振興普及を促進・奨励し、その成果の公表を通じて大学教育の質的向上を図ることを目的としている。今年度は令和元年8月9日(金)に東京理科大学(森戸記念館)において開催した。一般参加者は138名(81大学、7短大、賛助会員4社)で、発表会は第1次選考も兼ねて45件の研究発表が行われた。当日の発表内容は以下の通りである。その後、第2次選考を9月21日(土)に実施し、11月27日(水)の本協会の第26回臨時総会冒頭に表彰式を行った(詳細は次号に掲載)。

※以下の発表者名は発表代表者のみ掲載

Aグループ

A-1 ICTを使用した卒業論文執筆指導の実践
日本大学   野呂 有子

 ICTで提出された電子媒体の提出物を、授業中に、そのまま全員に提示しながら訂正作業や説明を行うことで、学生全員が実際に目の前で、自身の提出物を教材として、生きた形で学修でき、また、提出物をスマホさえあれば、いつでも、どこでも、自由に閲覧可能であり、何度でも見直しができる等々で、授業への参加意欲は各段に上がること。また、互いの発表にコメントをつけ合うことで協学の精神が涵養された旨の報告があった。

A-2 タブレット端末を用いた双方向教育による学生同士の多様性理解と相互的学びへの展開
立正大学   土屋 衛治郎

 立正大学APアクティブ・ラーニングの主要な取組みであるタブレットPCを利用した双方向教育の学習実態と学習成果についての全学部生アンケート結果から、教員−学生間の双方向性の確保を目的とする双方向教育については、学生同士が考え方の多様性を理解することにつながっていることが分かった。また、学生同士で刺激し、考えを比較し合い、知識を広げ、深め、新しい観点に気づくという学生相互的な学びにつながる可能性が示唆された旨の報告があった。

A-3 TV会議システムを利用した体験授業の試み
国際基督教大学   岡野 健

 日本の大学教育の一般的なスタイルであった一方向授業を打開するため、ICTを活用した双方向授業を実現するための試みとして「TV会議システムを有効利用」した。また、これまでは研究用途でしか利用されなかった大型研究設備を、教育にも有効利用できるような共通プラットホームの開発を試みた。これらのことで、研究設備の教育現場への有効利用を促進し、小・中学生にはより多くの「学ぶチャンス」を、大学生には実践的な「教えるチャンス」を提供できた旨の報告があった。

A-4 反転授業による必修科目での学修効果改善
東洋大学   児玉 俊介

 典型的な私立文系大学の大規模必修科目で、ICTを活用した反転授業を実施したときの学修効果を検討した。学修効果の第1は出席率向上であり、第2は反転授業を実施しなかった年度と比較した成績向上である。成績向上をもたらした要因としては、LMSを利用した事前学習プリントと授業内課題の提出率の向上があげられる。勤勉かつ真摯にレポートに対応した学生は、学修の内化と外化を進め成績を向上できたが、レポートに不適切に対応した学生は成績を僅かにしか向上できなかった旨の報告があった。

A-5 大学初年次におけるリーダーシップ教育の効果性検証と授業改善
立教大学   田中 聡

 立教大学経営学部では、大学初年次におけるリーダーシップ教育の効果を検証するために、ICTを活用した統合データベースを構築し、その分析に基づく授業改善と教学IRの実践に取組んでおられるとのこと。その分析結果からは、座学が中心となる授業開始初期では授業内容に対する理解を促す介入が有効であること、またグループワークが中心となる授業中盤以降は、グループメンバー間の相互理解を促しグループの関係性の質を高める介入が学習成果の向上に有効であることが示唆された旨の報告があった。

A-6 ソーシャル・デザイン教育におけるPV制作を通じたPBLと協調学修の成果
東京工科大学   飯沼 瑞穂

 学生の社会課題に関する理解促進と主体的な姿勢を養うことは、講義形式の科目においては困難が伴った。本研究では、持続可能な社会の実現に向けた問題発見・解決力の向上を目的としたソーシャル・デザイン教育の講義科目にICTを活用した協調学修を導入し、さらにPV制作をPBLの一環として取り入れられた。事前・事後アンケートを行った結果、課題解決に対して積極的に対応する意欲が向上し、グループで話合うことに対する意識が向上したことが分かった。更に、問題に対して前向きな態度で対応したいという意欲が増したことが示唆された旨の報告があった。

A-7

発表中止

A-8 初等会計科目における反転授業の教育効果―WEBテストの活用―
関西学院大学   木本 圭一

 初等会計科目を対象とした反転授業の実践報告。反転授業によって、財務諸表に関する知識の定着・活用、財務諸表分析における判断力の獲得、学修過程及び学習成果の可視化による成長支援そして質を伴った学習時間の増加を目的とした。6年に及ぶ実践経験を踏まえて、Web学習ソフトの導入結果が報告された。教室外学修時間の著しい増加を通じ、明らかな教育効果の向上が認められた旨の報告があった。

A-9 課題発表におけるインタラクティブプレゼンテーションの汎用的手法の確立
近畿大学   大野 司郎

 学生が意欲的に課題発表を行い、得られた相互評価に基づいてブラッシュアップされた課題発表を行うインタラクティブプレゼンテーションの汎用的手法に関する報告。課題発表を動画にして相互評価を行うことを通じて、受講生全員と教員が発表内容についてインタラクティブに議論することが可能となる点に汎用性を見出している。発表後の振り返りを経て最終発表物を用意できることで、授業内容の深い理解に繋げられる利点が認められた旨の報告があった。

A-10 キャリア意識を向上させるオンライン高大連携―Zoomでインタビューの意義―
成安造形大学   筒井 洋一

 無料のテレビ会議Zoomを用いた高大連携授業の報告。通常の高大連携授業は対面で行われ、物理的な移動等の障害があるが、Zoomを用いることを通じて、これを克服することが可能であることを示した。また、この手法を用いて、大学生が高校生にインタビューを行うことを通じ、キャリア教育に関する高大連携授業を展開し、技術面、キャリア教育、オンライン高大連携授業等の観点から考察を行った旨の報告があった。

A-11 LMSを用いたニュース時事能力検定合格を目指した事前・事後学修サポートの分析
追手門学院大学   杤尾 真一

 キャリア教育の一環としてニュース時事能力検定試験の受験を授業内容に組み入れ、この受験対策としてLMSを導入した分析報告。事前・事後学修教材をLMSに掲載し、学修記録のデータを利用して、クラスター分析を行った。分析結果として、LMSの利用、即ち事前・事後学修用の教材をLMS上に提供して学修を促すことが、受講生に必要な目標を与え、成績評価に含めることを通じて学びのインセンティブにもなっている旨の報告があった。

A-12 ICTを活用した大人数講義における多方向型アクティブラーニング
大阪大学   家島 明彦

 全学共通教育(教養教育)・キャリア教育科目の授業で実践している「学生の主体的・対話的で深い学びを促す仕掛け」について報告。ICTの活用を通じ、大人数講義において多方向型アクティブラーニングを実現し、学生の学習意欲を引き出すことが可能であること、学生にとって「負荷が高い」授業(毎回のグループワーク、課題の提出が多い等)であるにもかかわらず、知識の定着や高い授業評価が得られたこと、定員を大幅に上回る受講希望の授業となった旨の報告があった。

A-13 ICTを活用した課題による、長期学外学修授業における学生の成長促進への試み
武蔵野大学   宮崎 雄基

 学外学修の重要性が高まってきているが、その効果の測定についての本格的な取り組みは途上であるとの問題意識から、2017年度の取組みについての反省(効果の測定では、ICTを活用した課題(動画作成)が高度なためか、混乱や衝突が生じた)を踏まえ、2018年度は平易なWebページの作成に変更したところ、10カ月後のインタビュー調査で学生が成長実感を抱くようになった旨の報告があった。

A-14

発表中止

A-15 学習成果の可視化と学生の学習の振り返りを促進するweb授業アンケート
福岡大学   須長 一幸

 福岡大学Web授業アンケート(FURIKA)を活用した学習成果の可視化の試みである。具体的な課題としては、1)ジェネリック・スキル(社会人基礎力)の可視化、2)教育プログラム全体を可視化、に対してどのように測定し評価するかを主題としている。この課題に対してFURIKAは、ICTを活用して授業アンケートを授業の一環として「授業への埋め込み」を可能とし、授業の到達度や学生自らによる自己評価の精度も向上することができた旨の報告があった。

A-16 STEM教育におけるクラウドコンテンツ導入に学修改善
金沢工業大学   田中 忠芳

 学びに対する意識変換は学生自らがその必要性に気づき、学修に対する自己肯定感や達成感を得られるようにするところに意義があるとし、STEM教育(理工系人材の確保を目指した新しい教育システム)が提唱する新しい教育方法を活用した実践報告である。具体的には、「線形代数Ⅰ」等の講義を動画作成しYouTubeにアップロードし、学生の活用状況をデータ化し成果の確認を行った旨の報告があった。

Bグループ

B-1 工学教育における科学の利用と生涯学習能力
東京都市大学   小林 志好

 公式のみに関心を示す傾向のある工学系の学生に対し、材料力学への科学と数学の利活用方法の修得および自発的学習の習慣付けに向けて、教材改良に加えてLMSを利用した振返りを導入し、授業の進展に応じた到達度確認を行った試みが述べられた。その結果、科学と数学の利用の重要性を認識する学生が増加し、科学や数学を自発的に利用する習慣の獲得にこの試みが有用であると推測される旨の報告があった。

B-2 実習におけるマネジメントサイクルの理解と実践能力の修得を目的としたLMSの活用
日本女子大学   松月 弘恵

 栄養学の給食経営管理実習をPDCAサイクルの流れに沿ってLMSを活用したチーム基盤型の双方向授業に改革することを試みた報告である。「成功の秘訣サイト」の設置によって学生間で情報と成功体験の共有・継承、振り返りが効果的に行えるようになり、PDCAサイクルを取り入れた給食経営管理への理解が深まった旨の報告があった。

B-3 LMSを活用した大学卒業生組織との連携ゼミナール授業
明治大学   小池 裕也

 卒業生の組織と連携してLMSを活用したゼミナール形式の科目「応用化学概論 2」を開講し、社会で活躍する先輩たちに学び、思考力を育むなかで見えてくる将来進むべき道について考える機会の提供を図った報告である。LMSの活用によって卒業生組織との連携が容易となったことで、学生自身が化学研究の未来や将来の進路について考える場を提供するという授業目的を概ね実現できた旨の報告があった。

B-4 図学への反転授業の適用とその効果およびアクティブ・ラーニングに向けた提言
帝京大学   森 一俊

 図学に反転授業を導入したが、初年度は学習効果が低下した。そこでその原因を精査し、事前学修へのルーブリック評価の導入、グループ学修の強化、振返りを兼ねた個人記録表の交換日誌化等の施策を導入して改善を図った報告である。平均点の低下は下げ止まり、不合格率もやや低下したが、従来型授業での到達度に回復するまでには至っていないため、綿密な見直しによって改善を図りつつある旨の報告があった。

B-5 Eラーニング課題を導入した全学必修科学技術者倫理教育
金沢工業大学   栃内 文彦

 大人数(1,800人規模)の技術者倫理教育にeラーニングシステムを導入し、事例の構造化分析の後、倫理的に適切な行動を設計する訓練を実施した報告である。事例構造化分析の課題をeラーニングとすることで学生の負荷軽減とともに学習効果の向上が図られ、あわせてルーブリック評価が可能・容易となったことでTAの評価参加が可能となって教員の負荷も軽減した旨の報告があった。

B-6 学生実験におけるレポート作成技術向上を目指した総括的システムの構築
日本大学   遠藤 拓

 電気電子工学基礎実験にICTを導入し、LMSを用いた基本事項の反復学習に加えてタブレットPCとLMSを用いた実験レポートの対面でのチェック・添削やeポートフォリオの活用による学生の到達度の可視化等を図った報告である。学生と教員との間で密なコミュニケーションとデータ共有を実現できことで、実験レポートの質向上に加えて、学生の未到達点把握やモチベーションの向上にも有用であった旨の報告があった。

B-7 チームによるムービー製作過程が分析機器の原理の理解度向上に及ぼす影響
神奈川工科大学   清水 秀信

 バイオ分析機器を扱う実験系授業において、分析機器の原理や理論を理解させるために4名のチームによる5分間のショートムービーを制作させ、授業の最後にムービー上映会を実施した取り組みについての報告である。アンケートと期末試験の結果から、分析機器に関連する実験を行いレポート作成により学修させる従来の手法に比べ、基盤となる学力が十分身につかない学生にとって本手法が有用である旨の報告があった。

B-8 LMS活用による反転学習・事前事後学習を導入した獣医生理学実習教育
麻布大学   松井 久実

 実験系の獣医生理学実習の課題に対して、全ての実習項目に事前説明の反転授業化と予習復習テストによる事前事後学習を導入した取組みの報告である。不公平感のない実習班編成、ディスカッション時間の確保、TA不足感の軽減などの効果が報告された.また復習テストで教員は個々の学生の実験理解度を即時把握でき、事前事後学習の平均受験率は高く、学生はこの授業方式を有効と受け止めた旨の報告があった。

B-9 体験型サイバーセキュリティ演習システムを用いた人材育成の取り組みと成果
明治大学   齋藤 孝道

 サイバーセキュリティのインシデントレスポンス能力の育成を目的として、クラウド上でのシステム操作を通して学習する実習システムの構築に関する報告である。それぞれ最大10時間の標的型攻撃を学ぶ演習とSQLインジェクション攻撃を学ぶ演習について、前知識の学習、実践トレーニング、振り返り学修で構成されている。演習の事前事後の理解度テストの結果の推移より理解度が大きく向上している旨の報告があった。

B-10 LMSを用いた理系文章作成能力向上のためのPDCAサイクル構築の試み
南山大学   金山 知俊

 理工系学部の学生に求められる理系文章作成能力の向上を目的として、ソフトウェア開発とそのレポート作成の実践を通じて理系文章作成能力を向上させる仕組みの構築に関する報告である。最大4名チームでレポートの相互評価と自己評価を行い、他者からの評価を確認して自分のレポートを見直し自己評価することで、レポートの問題点や改善点に気付き、次のレポート作成に繋げる効果がある旨の報告があった。

B-11 診療参加型臨床実習のための臨床教育支援ICTシステムの開発と運用
福井大学   安倍 博

 臨床教育における学修レベルと教員の教育レベルの向上や臨床教育をシステム化・可視化して実質的なPDCAサイクルを回す目的で開発された、診療参加型臨床実習に特化した臨床教育支援システム(CESS)の報告である。5年次の附属病院における40週の実習で使用し、コミュニケーション件数や学生アンケートの検証結果から、臨床実習改革におけるCESS導入は一定の成果が得られた旨の報告があった。

B-12 ICTを活用した多職種連携PBL:課題作成型創造的PBLの取り組み
日本医科大学   藤倉 輝道

 学習支援システム(LMS)と電子黒板を連携させ、医学部のPBL(正規授業)に、他大学の薬学部大学院生が課外授業として遠隔的に参加する多職種連携PBLの報告である。PBLの課題を作成するという取組みを通じ、電子黒板上の臨場感に満ちた議事録をLMSに載せ、両大学の学生が会議室機能を用いて協働し、課題を作る教育者側の立場と他の学部学生のキャリア基盤という新要素に触れる多職種連携PBLの効果が得られた旨の報告があった。

B-13 学修成果と相対順位の可視化による学生個々人の自己省察と学生同士の切磋琢磨の促進
朝日大学   杉山 明子

 学生の学修成果を可視化するため、総合成績学修ポートフォリオ作成ソフトウェアを開発した。このソフトウェアを用い、各学生の科目別成績をレーダーチャートで表し、GPAおよび総合得点による学年順位や階層別分布人数をヒストグラムで可視化した学修ポートフォリオを作成し、学生指導や三者面談時の資料として利用した。アンケート調査により、この総合成績学修ポートフォリオの有用性が示された旨の報告があった。

B-14 ICTを活用した物理化学の反転授業による学習パフォーマンスの向上
崇城大学   宮本 秀一

 薬学専門科目の物理化学Ⅱにおいて、反転授業形式によるアクティブ・ラーニングを実施している。学生による授業アンケートの結果から、ほとんどの調査項目において改善が認められ、質を伴った学修時間の増加と問題発見・解決能力の大いなる醸成が明らかとなった。また、物理化学に関する薬剤師模擬試験結果を分析することにより、学生の学習パフォーマンスが著しく改善したことが明らかとなった旨の報告があった。

B-15 クラウド活用による同僚間アンケート調査を取り入れた問題発見課題解決型協働学修
北海道医療大学   西牧 可織

 学生が互いに実験者や被験者となる同僚間アンケート調査を取り入れることにより、問題発見課題解決型協働学修の教育改善を実践した。アンケート調査ではクラウド型オンライン電子フォームを使って学生自身が質問紙を設計できるようにし、アンケート結果を分析するプロセスではオンライン電子ボードを使うことで討議の活性化が図られた。これらの取り組みの結果、学生の課題解決能力が高まった旨の報告があった。

Cグループ

C-1 クラウド型のグラフィカルサマリーを利用した授業時間外の自律的能動的学修の促進
武蔵野大学   中村 太戯留

 授業のまとめは学修内容の理解促進を図る重要なプロセスであるが、授業時間外に復習を促しても、なかなか取組まないのが現状である。そこで、授業の最後の15分を利用して、授業で学修した要素同士の関係を1枚の図としてまとめるグラフィカルサマリーを、クラウド型の授業支援サービス上で毎週実施し、翌週まで更新可能という条件を設定した。学生アンケートでは9割がこの方法を支持し、授業時間外の更新も確認され、方法の有効性が確認された旨の報告があった。

C-2 情報系学部におけるBYOD利用の試み
中央大学   飯尾 淳

 学生所有PCのBYOD利用によるプログラミング関連授業の実施報告。一定性能を持つMAC及びWindowsの学生所有PCをBYODの対象として、VirtulBoxを介してUbuntuLinaxを導入しプログラミング授業環境を構築した。初期設定に多少の問題はあるものの、授業に支障を来たす程ではなく、むしろ、LMSとの親和性やVirtualBoxの機能活用もあって、BYODによるプログラミング関連授業の実現は成功したと言える。プログラミング以外でも、数学、データ分析等の授業においてもBYOD活用が進められて旨の報告があった。

C-3 LMSによるプログラミング教育のための事前・事後学修支援と双方向授業
東京理科大学   亀田 裕介

 初学者へのプログラミング言語教育に散見される学修意欲不足、教室外学修時間不足、授業進行速度や受講生とのコミュニケーションの問題を改善し、学修成果の可視化による成長支援や主体的・協働的姿勢の獲得を実現するため、事前事後学修支援のための自動採点課題、双方向型授業のためのアンケート、そして理解困難項目についてのICT教材をLMSにより作成した。これらの改善により、プログラミングの知識と技能の定着と教室外学修時間の増加が確認できた旨の報告があった。

C-4 ユーザビリティの高い資格試験対策サイトの構築
拓殖大学   永江 貴子

 中国語検定試験過去問題・解答Web(中検Web)によるe-Learningの活用は試験対策に有効である。中検Webは中国語検定試験合格者の多くが活用しており、学生の自律性を促すものと言える。今回、さらなる有効活用のため、学生からの要望を受けてユーザビリティのより高い資格試験対策サイトを構築した。具体的には、携帯対応、リスニング問題の頭出し、単語・文法の補足説明等。この学修支援サイトの活用により、学生の理解が深まり、また学習の自律学習が推進された旨の報告があった。

C-5 課題解決型中国語教材のICT活用による教育効果
関東学院大学   山田 留里子

 中国語コミュニケーション力の向上とチーム力・課題解決力の育成を目標としたICT教材活用による教育効果についての報告。SDGsを題材に、PBL科目で実践可能な課題解決型中国語教材を開発した。その主なる構成と目的は、SDGsの課題背景の事前学習、イラストによる課題解決案、課題解決のための中国語コミュニケーション力獲得である。この教材により、中国語検定試験の受験率向上、高度な中国語コミュニケーションの獲得、チーム力と学習意欲の向上等が確認された旨の報告があった。

C-6 演習の活性化を目的とした演習支援システムの開発
九州産業大学   神屋 郁子

 演習形式講義におけるクラス全体と各学生のリアルタイムな進捗状況の把握、それに基づく講義進行と学生のフォロー、これらを目的として独自に開発した授業支援ツールについての報告。このツールにより、学生と教員はPCやタブレットを介して質問・点検依頼とその対応が行え、質問・点検内容をデータベースに登録することによりクラス全体・個別の進捗状況がリアルタイムに把握できるようになった。担当教員と学生のアンケートからは上記目的の達成が確認できた旨の報告があった。

C-7 ビデオによるライティングの添削指導:ICTで一斉指導でも個別指導を実現できる!
弘前大学   佐藤 剛

 英語教育の4技能の育成において、リーディングやリスニング能力と比べて、ライティング能力の向上を図ることは比較的困難である。この発表は、ライティング初級の授業における英文の添削に焦点をあてたものである。具体的には、学生が作成した英文を添削する作業を動画で撮影してクラウド上で学生と共有するという添削の可視化により、学生ひとり一人に応じた英語作文の指導のあり方を提案したものであり、学生の主体的な学びを育成するものである。教育効果として、英作文の変容の様子を計量的な指標を用いて分析し、英文の量および語彙の豊かさの点で有意な向上が確認されている旨の報告があった。

C-8 初修中国語ブレンディッドラーニングのためのスマートフォン利用復習システムの構築
東北大学   趙 秀敏

 大学初修中国語教育における授業時間数の制約、発音や文型習得の困難さ、学修意欲不足などの問題に対応するため、対面授業と授業後のe-Learningによる復習を組み合わせたブレンディッドラーニングの実践に関する発表である。また、e-LearningをPC利用からスマートフォン利用へ転換し、スマートフォン利用復習システムを構築した点でも特徴がある。この手法により、ユビキタス教育環境本来の、どこでも、いつでも、自分のペースで学修できる環境を整えている。その結果、学習意欲の向上と継続、授業後自習、特に音声面を重視した自習の促進などの効果が確認されている旨の報告があった。

C-9 VR(仮想現実)画像を使った中国語教育の試み
沖縄国際大学   小渡 悟

 中国語の運用練習に臨場感のあるVR(仮想現実)映像を活用することで、学生を言語景観に没入させて授業への参加意識を高める教育方法に関する発表である。具体的には、位置情報や存現文を使う練習には静止画、動詞の変化態や完了態、結果補語などを使う練習には時間変化のあるVR動画を利用している。VR映像を活用して、受講者の興味関心を高め、発話のためのモチベーションの向上につなげている。また、実際の言語景観を使うため、言語の習得だけではなく、間接的ではあるものの言語習得のための文化背景などの情報もVR空間を活用して獲得させている旨の報告があった。

C-10 IT教室の特性と音声認識ソフトを活かした英語リスニング・スピーキング活動の可視化
神戸学院大学   中西 のりこ

 e-Learningシステムを活用した「英語会話」の教育改善の試みについての報告である。英語での音声指導上の一般的な問題点のうち「音声を記録に残すことの難しさ」「日本語モノリンガル環境において英語でやり取りをする難しさ」の2点を克服させるため、「音声言語の可視化」「授業単元のモジュール化」に取り組んだ授業実践発表である。具体的には、学生ひとり一人のiPadやPCを使った音声活動を自動音声認識を活用してモジュール化して記録することにより活動内容を可視化させ、e-Learningシステム上に提示して学修履歴を一覧できるようにした。その結果、受講生の聞く力・話す力が入学後の3ヶ月で飛躍的に伸び、2年次前期には9割以上の受講生がCEFR A2以上に到達したことが外部テスト結果により確認された旨の報告があった。

C-11 ICTを活用した主体的な英語コミュニケーション力の向上をはかる
東北福祉大学   橋 加寿子

 小学校の英語教科化にともなう小学校教員を目指す学生に対する英語教育方法に関する発表である。LMSを利用したオープンな学習環境を実現することにより、授業外でも学生同士が互いに学び合い、問題を主体的に解決していく方法を提案している。具体的には、反転学修のために「ディスカッション」というサイトを設け、授業の予習復習だけでなく、学生同士の情報のやり取りや一定のトピックについてパートナーの意見を参考に自分の意見を構築したりするのに活用させ、英語に触れる機会を増やすことにより授業外学修でも効果をあげている。TOEIC対応型テスト結果において、かなりの伸びが確認された旨の報告があった。

C-12 初年次英語科目における反転授業の効果測定―学修習慣の観点から―
環太平洋大学   井上 聡

 初年次教育の「実践英文法」の授業をデジタル教材を活用して能動的学修に転換させ、時間外学修の質を高めることを目指した発表である。ベースライン期には教材の演習と答え合わせまでを事前に課し、授業は質疑応答、共同学修による演習と解説という構成にし、その後の処遇期においてはデジタル教材を本格的に活用した反転型学修に切り替えている。その結果、「何度でも繰り返して解説を聞くことができる」「短期間で学習の質を向上させることが可能」という点で、デジタル教材を活用した反転型予習の有効性が確認されている。今後はデジタル教材の中に双方向性を担保するとともに、デジタル教材を授業設計の中に明確に位置付けることが重要である旨の報告があった。

C-13 数理科目における反転授業のための授業ビデオ配信とその教育効果
金沢工業大学   西 誠

 平成30年度数理基礎教育課程の科目で14名の教員の協力を得て、教材ビデオを学生に配信した。合計で113338のコンテンツの視聴があり、月別傾向では、授業が進むにつれて視聴数が増加する傾向にあった。学生へのアンケートからは、授業ビデオは学習にとって有効なコンテンツであることがわかった。さらに、反転授業では通常授業よりビデオ視聴が増加するとともに、時間外の学習時間が増加し学習効果が高くなることも確認された旨の報告があった。

C-14 LMSを活用した新たな読書法と質問づくりの実践とその応用
摂南大学   大怐@正人

 主体的・対話的で深い学びを拓く事を目的として、LMSと、新しい読書手法であるアクティブ・ブック・ダイアログ及び新しい質問出しの手法であるクエスチョン・フォーメーション・テクニックという2つのアクティブ・ラーニング的手法を融合した。授業ではグループごとのリレープレゼンテーションや質問出しなどを行う。そのための資料の配布や学生のアウトプットの回収は、LMSを使用することで非常に効率的になった旨の報告があった。

C-15 数理的記述式、自動採点方式、かつ反復受験に対応したオンラインテストの実践
山陽小野田市立山口東京理科大学   亀田 真澄

 理工系初年次を対象にした線形代数の講義において、対面授業に融合させたe-Learning環境を提供した。期末試験は、学生所有のノートパソコンを活用してオンラインで実施した。この試験システムは、ランダム出題、数式入力可能、Maximaによる数式処理を使用した自動採点、反復受験可能といった特徴がある。また、期末試験のエビデンスとして、試験終了後に計算用紙のデジタル画像をアップロードさせている旨の報告があった。

C-16 学習活動を支える研究倫理教育:大学初年次で導入するeラーニングコンテンツの可能性
大阪女学院大学   善積 実希

 これまで、大学初年次教育の一環として情報倫理教育を実施してきたが、学生の日常生活における情報倫理の理解と大学での学びにおける研究倫理の理解の一般化が不十分であるようだった。そこで、インターネットやSNS上のいじめから、学術的記述方法にいたるまでの初年次の学生も理解できる研究倫理eラーニングコンテンツを開発した。選択式問題だけでなく記述式問題も設けることで、学生と教員のコミュニケーションを図っている旨の報告があった。


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