事業活動報告 No.6
本年9月6日にアルカディア市ヶ谷(東京 私学会館)にて、「短期大学の地域貢献活動教育の必要性」をテーマに開催し、16短期大学、4大学、3自治体の総勢34名が参集した。
本会議の開催趣旨は、短期大学生の社会人基礎力の強化、短期大学のプレゼンス向上を促進するため、短期大学と地域が接続した教育のオープンイノベーションについて認識を共有し、地域市民の生活向上、地域価値の掘り起こし、地域創生・活性化の提案など地域社会の課題解決に、ICTによるプラットホームを活用した地域貢献支援事業の在り方について、本協会が構想する具体的な提案のニーズ及び実現可能性について協議することにした。以下にプログラムに沿って詳細を報告する。
「地域の活性化を促進・発展する短期大学の地域貢献活動教育の必要性」
意見発表者:
はじめに日野市から、日野市は高齢化課題の最大化地域、人口減少地域という課題を背負っており、生活、環境、産業などの変化に備えるため、これまで接点をもっていなかった企業、大学と社会課題をテーマに、共通価値の創造を目指して民間企業と対話を通じて社会課題を見出していく「リビング・ラボ」の活動を始めた。また、本年7月には政府からSDGs未来都市に選定され、リビング・ラボを展開しながら、社会課題解決型イノベーションとしてプラスチックの削減、ゴミゼロ化を進めている。その中でSDGsのセミナーを募集したところ、高校から協力依頼があり、社会と接点を持ったアクティブ・ラーニングとして、高校生が高齢者が集うサロンに行き、地域課題が何であるかを見出し、発表している。
2030年時点の社会の担い手である高校生、大学生が社会の全体像を俯瞰して、問題を見出し、解決に取組めるようにすることが、今の教育に求められているのではないか。本日のテーマについても行政として非常に関心を持っており、ぜひ連携・協調させていただきたいとの要請が行われた。
続いて、実践女子大学短期大学の三田氏から、より質の高い教育を提供していくには、教室だけの授業に限界がある。社会が複雑化して、大きな変化が想定される時に、教員の権限だけで教室の中だけで教育が完結しているようでは、短期大学の存続も危ぶまれる。地域社会と短期大学が接続する地域貢献活動の重要性を益々感じている。しかし、教室外で課外活動を行うには、協力する教員が少なく苦慮している。教員に限界があるので職員との協力体制が如何にできるかが重要と思うとの意見があった。
これを受けて、大学のガバナンスからの感想として、実践女子大学・短期大学部の城島学長から、これからの社会では、1人ひとりが社会の中でどのように社会貢献、生きていくべきか、大学、短期大学の時から考える必要があるという意味で、地域貢献活動の教育となっている。教育、研究、社会貢献はそれぞれ繋がっている。学生の成長に繋がる地域貢献、社会貢献を継続していくには、教員の活動時間、交通費などの資金、サポート体制などの仕組みを考えるとともに、地域と大学・短期大学が相互にメリットのある制度を作っていく必要があることが指摘された。
ここで、鹿児島市と別府市から現状の取組みについてうかがった。
鹿児島市では、SDGs、人口減少も喫緊の課題となっている。本市では地方創生の総合戦略というのを策定しており、その中の重点戦略の一つに大学との連携強化と、ふるさと教育の推進を掲げ、市内の2つの短期大学を含む6つの大学と鹿児島市で連携協定を結んでいる。連携事業として、昨年度130を越える事業を行った。例えば、長期課題解決型インターシップの一環で、上町地区活性化のため、「よかまちかんまちプロジェクト」のイベントを11月に実施した。街歩きをし、地元住民の話を聞き、留学生と地元住民の交流を深めるイベントを行った。このイベントのために、短期大学生がロゴをデザインした。また市の職員が大学に赴き話をしたり、連携講座を行うなど多くの分野で事業を進めている。
別府市では、近年大学等との連携が積極的に行われるようになった。行政改革で支出を減らしてしまえば市民サービスが低下してしまうため、市民と共同でサービスの低下を補う活動を始めている。「地域応援隊」を結成し、今現在160名の職員が祭りや草刈り等の手伝いをしている。大学とも連携したいが、以前ある教員から、ボランティアの使い倒しは勘弁してもらいたいという指摘を受けた。皆勤賞のような、学生の就職活動で有利になるような仕組みが必要とのことであった。大学と地域の連携は別府市の総合政策課が窓口になっているが、窓口を通さずに現場同士で行っているケースもある。例えば腎臓病の予防のために、減塩の屋台を設置して、試食をしてもらう手伝いを別府大学の食物栄養科の4年生にお願いしている。企画の段階から支援できるように、ICT等を利用して、大学からアドバイスしていただくといった仕組みができたらよいと考えていえる。
次いで、参加者を交えて、以下のような意見交流があった。
ここで座長から、短期大学は学修期間が短いため、学生の社会貢献活動を単なるボランティア活動としてではなく、短期大学で学んだことを実践し、振り返りを行う中で深化させる教育の一環という位置づけをする必要があるので、全体討議でご意見をいただきたいとの発言があり、次の事例紹介に移った。
「ICT活用による世代を超えた交流活動」
発表者:
オンラインのシステムを活用し、学生が物理的に離れた高齢者とコミュニケーションする機会を提供することにより、学生自身が課題を発見し、他学生・教職員・専門家・自治体と協力して課題解決を目指すシステム作りの試みである。
本試みを考えた背景として、少ない人数で上の世代を支える少子化時代、人工知能で職業など変化が予想される時代に生きていくには、学生達に社会との接点を学ぶ特別な教育プログラムが必要と考えた。他方、時間的に余裕がある高齢者の増加に伴う生きがいを見出せる環境作り、社会的に孤立しがちな高齢者の増加に容易に他者とつながれる場の提供が必要となると考え、自治体と共に高齢者支援のヒントを得るオープンイノベーションの可能性を探った。
2019年6月に本学が教員対象に実施する「教育プロジェクト」で採択されたことを機に、本学日野キャンパスに健康増進活動で参加の3名の高齢者(女性2名、男性1名)の参加を得て、渋谷キャンパスの2年生の短期大学生との間で、ネットを活用してオンラインで会話する活動を始めた。日野キャンパスでは実践女子大学の3年生・4年生からICT利用の支援を受けるとともに、大学職員からスカイプによる音声・動画を介してオンライン会話に協力いただいた。
会話時間は話が盛り上がり30分になることもあったが、20分で以外と交流ができることがわかった。会話の内容は、人生経験豊富だから人生経験を語ってくださいとしたが、そんな大げさなことではないとのことで、実際は世間話や困っていることなどから始め、学生はほぼ事前の準備なく参加することができ、次のようなスケジュールで実施した。
4回の様子は動画情報として、この事例紹介の中で紹介された。スカイプによるオンライン会話は、PC画面から相手の様子を把握しながら普通に話せるため、日野と渋谷といった距離を感じることなく、円滑に会話を行うことができた。
以下に会話内容から得たこと、感じたことが報告された。女性の高齢者からは、これからのこと、食や料理、学生の就活、チャレンジなど多様な考え方を聞くことができ、男性からは専門的な知識を聞くことができた。話しているうちに年齢相応という意識が薄れ、その様子を聞いた日野市の方からは、元気なアクティブシニアが増えているという印象を聞くことができた。また、食生活化学科の学生は高齢の女性から栄養について多く質問を受けたことについて、日野市の方から「高齢者にとって学生から栄養の知識を得ることはフレイル(食が細くなり筋力が弱まって老い衰える状態)の予防に繋がる」と本試みの効果の一端が見えた。
学生にとっては、面識のない相手とのコミュニケーションや会話の掴み方の訓練となり、就職活動にも活かせる有用な経験となった。この活動を就職試験の面接での自己アピールの一つとして述べて、内定を獲得した学生もある。また、学生はボランティアなど事前の準備が必要な社会活動に比べ、高齢者との会話は準備がほとんど必要ないにもかかわらず、社会を知る有用な経験を得る機会ととらえている。
この試みによる、オンラインが作り出す緩やかな絆から、学生が見ず知らずの人と話すこと自体が、コミュニケーション力の向上につながること、短期大学生の一見頼りないところ、素直さが高齢者との会話を豊かなものにする効果があること、学内の授業に較べ、人生経験豊富な人からのアドバイスが、より説得力があると感じていることが確認できた。
本試みで利用したICTは、スカイプ搭載のPC、撮影するビデオカメラ、撮影した動画を配信するメールなどであった。
今後の計画としては、2019年後期に渋谷と札幌を結ぶ異世代交流や子育て世代とのオンライン会話の実現を検討している。また、現在は単位とならない課外活動としているが、今後は単年度ではなく継続的な活動としていく必要がある。さらに、今後はAIアシスタントのALEXAなど可能性のある技術の利用法を検討する予定でいる。
余談となるが、7月にたまたまロンドンの学会で本試みの紹介のポスト発表を行った。反響は驚くほど高く、例えばオーストラリアとイギリスのロンドンの先生からは、「これは本当に自分たちの国では問題になっていて、もっと高齢者と次世代の交流を作れる方法を改革していきたい」との意見をいただくなど、今後の展開の可能性に手ごたえを感じている。
「卒業時における質保証の強化の取組み」〜大学教育再生加速プログラム採択事業PROPERTIES〜
発表者:
学修成果を学内・学外で評価する仕組み、学修成果を3回見える形で提示していく仕組みを開発整備し、これらを活かして、学生の主体的な学びの促進や学修時間の増加、教育活動の改善を図り、卒業時の質保証を強化するというプロジェクトで、「社会に貢献しうる力」の獲得を目指している。具体的には4つの視点で進めている。
一つは、ディプロマ・ポリシー(DP)をROPERTIESの3要素(専門的知識、専門的実践力、総合的人間力)に対応さている。二つは、3要素の学修成果を学内の・学内部評価、学外の外部評価で評価する。三つは、eラーニングが可能なタブレット端末、学修支援システムを導入する。四つは、学修成果を社会に提示するためのレーダーチャートを作ることを中心に、2016年から2019年の採択事業として進めている。
学修成果の学内評価は各科目のGPAで評価している。外部評価は「専門的知識」、「専門的実践力」、「総合的人間力」の3つの柱で実施している。
「専門的知識」は、外部の資格試験を活用している。パティシエコースは毎年11月の製菓衛生師国家試験、栄養士コースは栄養士実力認定試験を適用している。保育科は国家試験の保育試験に準拠した試験を新設し、国家試験の合格率と同じ6割で評価している。
「専門的実践力」は、各コースで直接外部専門家による実践力の試験を新設した。パティシエコースは、3人の学外専門家で独創性、視覚性など5つの評価視点で審査している。栄養士コースは、2月の昼食献立の作成と調理を3人の学外専門家で10の視点で審査している。保育科は、2年次の実習期間中の取組みを学外者(実習園の教員)から、保育における気づきの早さ、的確さなどの3視点で審査を行っている。年2回、学外助言評価委員会を開催し、外部者からの助言・意見を公的な場で発言いただくことで、教育改善に反映するようにしている。
「総合的人間力」は、18項目で定義し、入学時・卒業時に自己評価しきた結果を踏まえて、「地域に貢献していきたい」というボランティアを推進することを重視し、学外機関と協働して「ボランティア・パスポート」を開発し、学外に示すツールとして活用することにした。イメージは、活動記録にどこへ行き、いつ何時間活動したか、自分のボランティア活動の内容を感想文にして自己評価し、主催者にサインをもらうようにしている。
本年3月の卒業生活動状況では、全学生235名、延べ活動数は1,000を越えており、平均活動数は4.5で平均活動時間は約30時間となっている。ボランティア・パスポートを集計したところ、2年間でだいたい20時間活動している。
以上、専門的実践力を導入することで、学生にとって卒業前に評価されることにより、自信を持って社会に踏み出せる、又は弱点を知って社会に踏み出していくことになる。教員にとって、地域社会で求められる学修成果を確認でき、教育改善へ繋がることを信じている。
最後タブレット端末を導入し、学外で授業外学修時間を伸ばすために導入している。授業外学修時間の取組みが30年度10時間、今年は20時間を目指しているが無理かもしれない。
学修成果を分かりやすく可視化することを目的に、学修成果レーダーチャート(学修成果報告書)を開発し、就職先に提示するよう30年度卒業生に配付した。内容は、資格、卒業レポートのテーマ、学修時間のデータ、卒ゼミの担任の総括、GPAと外部試験の結果、ボランティア活動の詳細などとしている。
専門的知識、外部試験、実践力外部試験、学外助言評価委員会、ボランティア・パスポート、レーダーチャートは卒業時に質保証をすることになる。
今後の課題として、今年初めて地域社会に提示したレーダーチャートについて、学生、就職先への認知を浸透させることにしている。
「短期大学と地域接続による地域貢献活動の具体的な構想案について」
はじめに運営委員会から、「短期大学による地域貢献支援事業の構想案」の説明が行われた。
以上の構想案説明の後、意見交流に入り、討議した。全体的に構想案については否定する意見は見られなかったが、それぞれの短期大学に相応しい仕組みを考えるなかで、コンソーシアムとして展開していくことができるよう、今後も検討を重ねる必要を感じた。以下に主な意見や反応などを紹介する。