特集 ICTで業務改革

ロボット(RPA)を中心とした
デジタルトランスフォーメーションへの取組み

神馬 豊彦(じんま とよひこ)(早稲田大学 人事部業務構造改革担当副部長兼情報企画部マネージャー)

1.はじめに

 DX(デジタルトランスフォーメーション)とは何かについて、Amazonを例にとって考えてみたいと思います。その出発点は「本の通販業者」でした。デジタル技術を活用して多品種少量販売に焦点をあて、巨大倉庫に多数の蔵書を用意してロボットによる自動化を追求し、現在も大きく成長を続けています。
 このようなデジタル技術を使った大きなビジネス変革がまさにDXの典型ですが、本質的な点は、規模の大小によらず自分たちの強みをデジタル技術で抜本的に伸ばしていくことにあります。
 大学については、教員の研究活動時間割合は減少傾向が続く一方、社会および学生・保護者などステークホルダーからの大学に対する要請が高まる中、教員の研究・教育時間を確保し、グローバルレベルでの競争力を向上するため、大学職員の業務は高度化、複雑化しています。
 本稿では、本学が2018年度より取組んでいるRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)やAI、OCR等を活用した業務生産性向上と職員業務構造の変革(トランスフォーメーション)への取組みについて紹介したいと思います。

図1 大学等教員の職務活動時間減少割合の推移
出典:「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」(令和元年6月26日文部科学省)

2.RPAとは

 RPAは、これまで人間が行ってきた表計算やメール、業務システムなどを利用した定型的なPC上の業務を、ソフトウェアのロボットにより自動化するものです。単なる工数削減だけでなく、正確性向上や不正防止などの効果とともに、システム化が難しい、開発コストがROI(投資収益率)に見合わないなどの観点からシステム化が見送られてきた手作業を、比較的低コストかつ短期間で実装できます。
 RPAツールには、デスクトップ型とサーバ型の2種類が存在します。その他の製品としてクラウド型もありますが、今回はPC上の様々なソフトウェアを対象とした自動化が可能な、デスクトップ型とサーバ型について紹介します。
 初期導入段階では導入のしやすさからデスクトップ型が選択されることが多いようですが、デスクトップ型はツールがインストールされているPC上でのみ自動化シナリオが動くため、複数業務や他部門への展開が難しいと言えます。
 これに対しサーバ型は、サーバを用意する必要があることがハードルにはなるものの、複数部門で1台のサーバを共有することができ、様々な業務の自動化を統合的に実施可能なため、将来的な全学展開対応が可能です。

図2 RPAツールの違い

 とは言え、現在はデスクトップ型のツールでも管理サーバを追加導入することによりサーバ型として利用できるとともに、サーバ型のツールもクラウド上のサービスを利用することができるようになりつつあります。
 利用料については、多くが年間の利用ライセンスであり、本格利用するには開発ツール、実行ロボ、管理サーバの3種類が必要です。開発ツール、実行ロボはインストール数もしくは同時起動する数分のライセンスが必要など、考え方はツール毎に異なります。また、開発者が誰なのかを左右する開発のしやすさ、RPAに操作させたい業務(アプリケーション)に対する得意不得意もありますので、自分たちの利用状況を想定しつつ選定を進めることが必要です。無償で利用できるライセンスも提供されていますので、実際に試したうえで選定するとよいでしょう。
 そして、RPAツールそのものは新しい製品ですが、市場の注目と競争の激化により新たな機能が次々と提供されています。2019年10月にUiPath社が、これまでの一般的なRPAツールがカバーしていた開発ツール(開発)、実行ロボ(実行)、管理サーバ(管理)の領域に加え、新たに「計画」、「協働」、「測定」といった領域のツール提供を発表しました。
 「計画」の領域では、プロセスマイニング(システムやPCのログをもとにどのような操作が行われているのかを可視化する技術)を使用して自動化効果の高い業務プロセスの提案を行う機能が、「協働」の領域では、ロボットが処理結果をもとに担当者に判断を求め、担当者の判断結果によりロボットが継続して処理を行うフォーム機能の提供などが発表されています。
 また、日本市場においては利用部門による開発が重視されていることから各社ともに開発容易性を高めること、AIによる画面項目認識機能の組み込み、自然言語処理や音声認識などのAI機能との連携などの取組みが進められていますので、一旦ツールを導入したとしても、他のツールの動向は注視しておく必要があります。
 本学でもUiPathに加え、実行ロボのライセンスのみで開発ツールや管理サーバに費用がかからないこと、開発チームが部品を提供し利用部門がワークフローを組み立てるといった役割分担のしやすさを期待して、BluePrismの部分的な導入を進めています。

図3 RPAツールの進化
※2019年10月30日 UiPath Japan発表資料より抜粋

3.本学におけるRPA導入経緯

 本学では、2018年4月に研究力・財務体質強化と戦略的大学経営の実現に向けた改革を目的として、新研究支援・財務システムを稼働しました。
 RPA検討のきっかけは、新システムの稼働と並行して経理処理の集約対象拡大を進めると、処理量が新システムの業務効率化効果を上回り、最終的に全学で20名程度の増員が必要となるとのシミュレーション結果がでたことでした。
 そこで、2017年7月からRPAの適用可能性の検討と効果のシミュレーションを行い、10月からはKPMGコンサルティング株式会社(以下、「KPMG」)の協力を得て、導入に向けたトライアルに着手しました。
 トライアルでは、最初に実際にロボットの作り方や動きを確認しながらツールの選定を行いました。50程の選定基準の中で重視したのは、開発したロボットが管理不能な状況にならないように管理できること、処理対象となるシステムの画面項目を精度高く認識できること、そして業務用のデータベースに直接接続して各種チェック等に利用できることでした。担当者の異動に伴ってメンテナンスできないAccessが多数発生する状況に対し、RPAの導入にあたってはその轍を踏まないようにしたいということ、既存の業務システムや業務用データベースはそのまま活用したいといった事情が大きく影響しました。
 ツールの選定を終えると現状の業務フローとロボット導入後の新業務フローの分析を行いました。ターゲット業務が明確だったこともあり、開発担当2名で環境準備、業務設計、パイロット版開発、テストまでを5週間で行い、2017年12月中旬にはトライアル版を完成することができました。このスピード感で設計からテストまでを完了させることのできる開発生産性の高さには驚きました。そして、完成したトライアルロボットをもとに業務効率化効果のシミュレーションを実施した結果、1伝票あたり17分の処理時間が8.4分(削減率50.6%)、年間22.5万件の伝票で32,250時間の工数削減効果を見込むことができました。

図4 RPA適用前後の業務フロー

 実装の中では、いくつかの業務プロセスの見直しも行っています。ひとつはこれまで利用部門がExcelに起票し紙で提出してきた支払請求入力用紙を、紙の提出はそのままに、Excelもファイルサーバに提出させるように変更したことです。また、伝票のエラーチェックについても従来、紙の伝票を担当者がチェックしたうえでシステムに入力していましたが、利用部門で伝票を作成するときにExcel上でエラーをチェックするようにし、エラーがなくなった伝票をロボットがそのままシステム入力することにしました。これにより、担当者は請求書等と伝票の一致や勘定科目の確認といった論理的なチェックのみを行うこととなり、業務負担を軽減することができました。新業務フローの構築の中でのこれらの工夫・経験は、現在の全学展開でもビジネスプロセスの見直しや改革の基本的な考え方につながっています。
 トライアルロボット完成後の2018年1月からは、ロボットのブラッシュアップとして性能向上と耐久試験を行いました。最大で1日に3,000件の伝票が投入されるのに対し、何台のロボットを並列で動かす必要があるのか、そしてその連続運転に耐えられるのかといったことを事前に検証したのです。
 結果、処理速度は当初の倍に、耐久試験で判明した「50伝票ほど連続投入するとブラウザの応答時間が極端に遅くなる」といった事象も、処理の都度ブラウザを再起動することで連続投入に耐えられる環境を手に入れることができました。
 また、並行して実際に伝票をRPAに投入できる環境を整え、現場に業務のシミュレーションとマニュアル作成に時間をかけてもらいました。
 現場による業務シミュレーションは非常に重要でした。当初は既存業務手順への固執やロボットに対する心理的な抵抗などにより、導入に否定的な声もありましたが、時間をかけて業務への適応を現場自身で行ってもらうことで、スムーズなスタートを切ることができました。
 こういった準備を行ったうえで迎えた2018年4月の本稼働でしたが、稼働当初は利用者が不慣れなこともあり、利用者のミスによるエラーと、ロボットに起因するエラーの双方を合わせたエラー率は10%以上と高く、運用負荷が心配されました。しかしながら、利用部門への丁寧なエラー原因のフィードバックと運用状況のヒアリング、システムを安定稼働させるための日々の細かい修正を重ねたことで、稼働1カ月でエラー率は低減し、現在はユーザ起因エラーが4%程度、システム起因エラーは1%弱で推移しています。

表1 経理処理業務改善効果(派遣スタッフ)
  2017(実績) 2018(想定) 2018(実績) 2019(想定)
就業時間 25,014 32,518 19,947 21,761
年間処理件数 122,811 160,000 162,123 193,000
就業人数 12 16 11 12
処理件数/人 10,234 10,000 14,738 16,083
※早稲田キャンパスのみの実績集計結果

 そして、1伝票あたりの担当者の工数が当初想定の8.4分から6分に削減できたことから、導入効果は50.6%から64.7%に、年間創出時間は想定から24%増の40,048時間となりました。
 また、この創出効果により、派遣スタッフ一人あたりの処理件数は前年比1.5倍を達成し、予定どおり要員増なしで処理対象の拡大を実現しただけでなく、就業時間についても約20%削減するなど、大きく生産性を向上させることができました。

4.RPA全学展開

 新システムとともに業務効率化のために導入したRPAですが、その導入成果を踏まえ、全学の業務にRPAを展開する方向性を確認し、2018年度より全学展開を進めています。
 当初は管理不能なロボットの発生を防ぐため、ロボットの開発は専門部隊が担う前提で考えていましたが、業務担当者がロボットの開発を行うことが業務見直しのきっかけになることを期待し、利用部門でもロボットの開発を可能とする体制・ルールを整備することにしました。
 実際にロボットが担う業務は、担当者の手元にある細かな業務も多く、それらへの適用を考えた場合にそのすべてを専門部隊が開発を担うことは現実的ではなかったという理由もあります。
 本格的な全学展開にあたっては、KPMGの協力を得てRPAの運用管理体制の構築と標準的な構築プロセス・ルールの方針を策定しました。
 このようなガバナンス・ガイドラインの検討には時間がかかりますが、2019年10月にUiPathとPwCあらたが共著で発行した「RPAガバナンス構築のためのガイドライン」と「RPAガバナンスハンドブック」が、特定のRPA製品に依存しない内容として一般公開されていますので、ご参考いただければと思います。

表2 RPA全学展開方針検討観点
要素 観点
組織 全学展開に耐えうる推進上の組織体制・役割分担の定義
パフォーマンス 推進の実効性評価指標の定義
ガバナンス RPA推進に必要な規程や基準の整備
プロセス 推進・高度化およびガバナンスに必要なプロセスの定義
人材・スキル 推進を担う人材の確保とスキル育成
テクノロジー 推進体制を効率的に実現するためのITツール、基盤の定義
※KPMGコンサルティング株式会社のフレームワークをもとに検討

 「組織」について考えたことは、RPAを推進する専門組織をどのように立ち上げるかということです。中でも重要なのは情報部門の立ち位置と、RPAの開発を専門部隊が実施するのかあるいは利用部門に任せるのかという点です。本学では、人事、総務、経営企画、情報企画の4者による推進事務局を立ち上げ、開発運用は関連子会社である株式会社早稲田大学アカデミックソリューション(以下「WAS」)の専門部隊と利用部門が実施するハイブリッドの体制としました。
 情報部門の立ち位置が重要なのは、全学展開では管理サーバなどのインフラが必要になるだけでなく、業務システムは言うに及ばず、Excel、PDF作成ソフト、メールやファイルサーバ、オンラインストレージ、プリンタなど、PC上で操作可能なありとあらゆるソフトウェア、ハードウェアがロボットの操作対象となるため、その利用にあたってのIDや権限の考え方、システム的な制約とのすり合わせが必要となるためです。一般企業の事例でも、情報部門がそのまま推進役を担っているケースが多く、次いで業務部門もしくはRPA専門組織の順となっているようです。
 「パフォーマンス」については、派遣スタッフを中心とするノンコア業務の効率化・正確性向上と、専任職員が抱える業務の効率化の2点を念頭に進めています。
 専任職員が抱える業務は非常に多岐にわたりますが、その内訳は煩雑なルーチンワークを内包するノンコア業務にかなりの割合を占められています。これらの業務を効率化することで、個々の業務の効率化効果は小さくても、ストレスを取除き働き手のモチベーションを向上させ、効率化によって生まれた時間に本来やるべき業務に注力してもらいたいという期待をもっています。
 実際にロボットが稼働した後で、創出時間に何ができるようになったのかヒアリングしていますが、「従来一部しか担当していなかった業務全体を把握し、その改善に時間をさけるようになった」、「自分がやっていた業務を派遣スタッフに実施してもらえるよう標準化を進めている」等、期待どおりの効果が出ていると評価しています。
 「ガバナンス」、「プロセス」については、三つの方針を定めました。まずは、ロボットを利用者自身の責任において利用・運用するということです。ロボットには人間のような柔軟性はないため、ちょっとしたことで停止してしまいます。例えば、締め日にシステムの応答時間が遅くなる。人間であれば今日は遅いなという程度ですが、ロボットはうまく画面項目を取得できずに停止してしまうことがあります。それをシステム部門に問い合わせするのではなく、利用者自身が状況を確認し、ロボットを再度起動する、どうしてもだめなら手作業で対応してしまうといったロボット利用者の柔軟な対応が必要です。そのため、ロボット停止時のリカバリー方法を利用前にきちんと利用者に定めてもらうこととしています。
 続いて、リスクを勘案してロボット化してはいけない業務を決めています。
 本学では、ロボットの持つ権限は人に付与する権限の範囲を超えないことを前提として、ロボットにIDや権限を付与しています。また、利用部門開発においては、開発者本人のIDおよび権限でロボットが動作する前提で開発を進めています。例えば、担当者の権限で誤ってすべてのファイルを削除するような操作をファイルサーバ上でロボットが行うと、データがすべて消えてしまう大きなインシデントに発展する可能性があります。そのようなケースも想定し、RPA化するかどうかの査定を行っています。

図5 利用部門開発ロボットの認定基準

 さらに、管理不能なロボットを許容しない統制ルールを定めています。ロボットの開発ツールは通常使用しているPCにはインストールしていません。利用者からの申請を個別にヒアリングしたうえで査定し、承認されてはじめて開発ツールがインストールされた部門別の共有PCにログインできる権限が付与されます。また、開発が終了すると本稼働申請を行うことで、実行ロボがインストールされている別の部門別の共有PCが割り当てられます。そして、担当者が人事異動した際には開発用ツール、実行ロボがインストールされた共有PCからユーザを削除し、継続利用する場合には別の担当者が研修を受講したうえで本稼働申請を提出する流れとしています。
 厳しいと思われるかもしれませんが、RPAは利便性が高くデスクトップ型であれば導入容易性も高い一方、十分な管理体制や管理ルールを定めないままRPAを導入することは、不正なデータ操作や管理不能なロボットによる業務データの破壊、ロボット専用IDの不正利用など、大きなリスクを抱えることにつながります。実際、本学においても専任の開発担当者による開発の中で、先に述べたファイルサーバのファイル誤削除のインシデントが発生しました。強力なツールであるからこそ、管理統制のためのガバナンス・ルールが必要であることを再認識させられる事故でした。

図6 ロボットのライフサイクル
 「人材・スキル」については、担当者自身が業務分析・開発・運用できる体制を構築することを目的として、ロボットの利用・開発に意欲のある担当者に開発・運用させること、利用する担当者全員にロボットの利用のために必要となるオンライン研修(2時間)と、開発者に向けてはロボット開発のハンズオン研修(5時間)の受講を義務付けています。
 オンライン研修では、先に説明したロボットの開発・利用に関わる申請や廃止に関わるガバナンスに加え、業務手順の可視化の方法やロボット化に適している処理の判定方法、ロボット導入と並行した業務改善の手法について説明しています。
 業務手順の可視化というと時間がかかると思われるかもしれませんが、ロボットの対象業務は小粒なため、業務手順は単純な箇条書きとなります。このタイミングで「誰が」、「どの程度の時間をかけて」業務を実施しているのかを明らかにすることで、ロボット化した際の効果を可視化することができます。
 「テクノロジー」については、学内では学生や教員との間で個別の文書をやりとりする業務が多数存在するため、それらの業務の共通部分に対応する業務共通ロボットを用意することとしました。

図7 実際に担当者が作成した業務手順の例
図8 業務共通ロボット

 本学の事務組織ではメールへのファイル添付を原則禁止とし、オンラインストレージのBoxにファイルを保管したうえでメール送信しています。
 業務共通ロボットでは、メール送信対象者リストと送信対象者毎のファイル、メール本文等を用意しておくことで、Box上へのファイルアップロード、メール本文への宛先やBoxファイルURLの挿入を行い、メール送信を間違いなく行うことができます。例えば奨学金の決定通知、学生寮の契約内容の確認など、これまで紙で実施してきた各種通知業務に利用されています。
 ここまで説明してきた展開方針のもと、2018年度は14業務へのRPAの適用(うち2業務が利用部門開発)により41,449時間の創出効果を得ることができました。2019年度は52業務を対象として開発チームが開発を進めるとともに、利用部門開発として16業務、学生スタッフによる開発1業務のほか、既存ロボットが35業務で利用が開始されています。
 なお、紹介したガバナンスに則ったライフサイクル運用、ロボット開発、利用部門開発のサポート、研修実施については、WASがすべてを担っています。WASは事業会社として他大学の導入支援も行っていますので、もしご要望があればお声がけください。

5.AIの活用

 RPAには3段階の自動化レベルがあると言われています。これまで紹介してきた本学の取組みは「Class 1」ですが、「Class 2」ではAIにより読取精度を向上させたAI OCRとRPAを併用することで、手書きも含む帳票に記載されている内容のデータ化を行い、読取データをもとにRPAに処理を行わせること、各種システム内の大量データをもとに機械学習を行って結果を類推するモデルを構築し、RPAと組み合わせることでさらなる自動化を行うことなどが可能となります。
 そして、「Class 3」はまだ実現されてはいませんが、RPAと連携したAIがロボットの動作のデータなどを学習し、より精度を向上させるなど、RPAはこれまで人間のみが対応可能と想定されていた作業など、より高度な作業を人間に代替して実施できるようになるといわれており、2025年までに事務的業務の1/3がRPAに置き換わるともいわれています。
 本学においてもClass 2の取組みとして、財務システム上の支払データをもとに支払伝票作成時に勘定科目の類推を行うAIモデルを構築し、2019年10月より稼働しています。

表3 RPAのクラス
クラス 主な業務範囲等
Class 1(RPA) Robotic Process Automation
●情報取得や入力作業・検証作業などの定型業務の自動化
Class 2(EPA) Enhanced Process Automation
●RPAとAIの技術を用いることによる一部非定型業務の自動化
●画像解析、音声解析、自然言語解析、機械学習技術の搭載
●非構造データの読取や知識ベースの活用
Class 3(CA) Cognitive Automation
●プロセスの分析や改善、意思決定までを自動化するとともに意思決定
●ディープラーニングや自然言語処理
※2018.5.15 総務省メールマガジン M-ICTナウ vol.21 2018年5月第2号より

 このAIモデルの構築にあたっては、専門家の支援を受けつつ、並行して大学側でデータの傾向を分析しました。これにより、同じような事業のデータを学習したAIモデルを個別に用意すること、部門ごとの勘定科目の利用傾向を考慮できるようにすることなどを提案、組み込みの結果、類推制度は95.4%を達成することができました。
 2020年度に向け、取引の多い大学生協から売掛データを日次で受け取り、勘定科目の類推AIとの組合せにより年間数万件の伝票を自動生成することによる省力化を見込んでいます。

図9 構築したAIモデルの特長

6.まとめ

 RPAはAI OCR、ルールエンジン、AIなどと連携して使用することで、業務範囲がさらに広がることもわかってきました。

ルールエンジンとは
ルールエンジンは、業務を遂行する上で判断・行動していくための基準(ルール)をあらかじめ定義・蓄積しておき、RPAや業務アプリケーションから判定の前提情報を入力することで、ルールに沿っているかどうかの判定や処理結果を出力する仕組みです。

 AI OCRを使えば証憑の種類を振り分け、記載されている内容をデータ化することもできます。経理に特化したAI OCRであれば、請求書や領収書の記載内容について明細と合計の計算が一致しているかのチェックや、取引先マスタとの突合せによる認識精度の向上が可能です。
 また、ルールエンジンでは、業務ルールをわかりやすい日本語の表形式で記述することが可能となり、RPAと連携することで複雑なルールチェックが可能となります。例えば証憑と伝票との突合など、人間でなければできなかった業務がAI OCRとルールエンジンを組み合わせることで、ロボットに行わせることができるようになるのです。
 そして、AIのモデル構築についても機械学習のモデル構築自動化サービスがサービスインしています。データをアップロードして類推したい項目を選ぶだけでモデルを自動的に構築し、最適なものから順に提案してくれるのです。現場担当者がこのようなサービスを活用することで、AI利用を一気に広げる可能性があります。
 RPAの開発プロジェクトの中で、現場担当者がRPAや関連技術に触れ、その導入を主体的に進めるトランスフォーメーションを目の当たりにしてきました。デジタルに何ができるのかを理解し、活用することで自身の業務をトランスフォームし、その経験を持つ担当者が大学そのもののトランスフォーメーションの中で活躍することを大いに期待し、引き続き取組んでいきたいと思います。


【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】