事業活動報告 4
大学職員情報化研究講習のICT活用コースは、「学修成果の可視化と業務改革」をメインテーマとして掲げ、2019年12月16日(月)、同志社大学今出川キャンパス良心館において開催し、65大学、2賛助会員から115名の参加があった。
冒頭に、会場提供校の同志社大学、横川 隆一副学長から挨拶の後、木村増夫運営委員長(上智学院)から本講習会のイントロダクションがあり、プログラムに入った。
文部科学省 高等教育局高等教育企画課 課長補佐 奥井 雅博 氏
文部科学省が進めている「教育の質の保証と情報公表」に関して、「高等教育を取り巻く状況」、「教学マネジメント確立に向けた指針の検討」、「全国的な学生調査による教育の可視化」、その他として「業務改善・効率化について」の説明があった。
高等教育を取り巻く状況は、「Society5.0」に対応した大学の教育研究改革、学修者本位の教育へ転換、学生自身が学修成果を実感できる教育が求められており、教育の質保証ができないところは社会から厳しい評価を受けることになる。また、教学マネジメント指針の検討状況として、特色あるディプロマ・ポリシーを作成すること、授業数が多すぎて深い学びに至らない現状を踏まえて教育課程を見直すこと、教育課程を修めることによりどのような能力が身に付くかを可視化すること、といった重要なポイントが示され、社会に対して幅広くかつ積極的に説明責任を果たしていくことが必要であり、情報を伝える相手・伝え方等情報公表のあり方について検討する必要があるとの示唆があった。全国学生調査の実施は、学生目線で調査を実施することで、学修状況等の学びの実態を把握するために試行しており、調査結果を大学へフィードバックするので、学生へのフィードバックにつながるよう活用して欲しい旨の要望があった。最後に、AIやRPAといったICT技術で業務改善・効率化を行う手法の紹介があった。
関西国際大学 評価センター長、経営学部 教授 藤木 清 氏
関西国際大学における学修成果可視化の取組みとして「KUIS学修ベンチマーク」とIRの活用事例が紹介された。
「KUIS学修ベンチマーク」は学修成果の評価ツールの一つであり、ディプロマ・ポリシーに掲げる「自律的で主体的な態度」、「社会の能動的に貢献する姿勢」、「多様な文化やその背景を理解し受け容れる能力」の3つと、「問題発見・解決力」、「コミュニケーションスキル」の2つと、専門分野ごとの「専門的知識・技能の活用力」を評価項目としている。その到達度を確認するため、レベル別に4段階の到達基準が示され、8割の学生がレベル3に達成することを目標として設計されている。2016年度からはアセスメント科目「評価と実践Ⅰ・Ⅱ」を導入し、学生個人がどの程度成長したかを定期的に振り返る機会を設けている。また、IRの活用事例として、評価センターで取り纏めたデータをFD研修会に情報提供し、教員に全学的施策や方向づけの理解、課題の把握へ繋げている。学生支援におけるIRの活用については、過去のデータからシグナルを読み取ることで早い対応や支援対策の検討が可能となっている。
進研アド株式会社 Between編集課 編集長 中村 浩二 氏
進研アドの情報誌「Between」2019年度7―8月号で特集された内容を中心に、取材時のエピソードを交えて紹介された。
なぜ今、学修成果の可視化なのか、学修者本位の教育への転換に向け、学びの質保証の再構築を行い、「目に見える形」での人材育成が求められている。また、学修成果の可視化のコツは、全ては可視化できない前提に立つこと、可視化(評価)を教育力向上手段として考えることで、評価のための評価になってはいけない。学修成果の可視化は、ディプロマ・ポリシーの達成度を示し、学生や大学が進むべき方向を見出すことを目的にPDCAサイクルを回し、全学的な教学マネジメントとして確立することが重要である。社会から大学への注目度が高まっている今、大学が社会と積極的にコミュニケーションを行い、それぞれの大学ならではの教育力を伝えていくことが大切である。
早稲田大学 人事部業務改造改革担当 副部長兼情報企画部マネージャー 神馬 豊彦 氏
早稲田大学では、130部門で分散処理していた「支払請求伝票」の入力処理や研究資金の経理処理などの適正運用、効率化、集中化などを目指し業務改善がおこなわれており、その一環として2017年度から着手してきたRPA(Robotic Process Automation)導入の取組みが紹介された。
RPAとは、難しい判断を必要としないPC上の定型作業を自動化するツールで、人的作業の工数を軽減するだけでなく、生産性向上による高度化・働き方改革・情報漏洩リスクの防止、データ照合の確実化などのメリットがある。
運用実績としては、1件処理当たりの処理時間が導入前に比べ10分短縮され、その結果、4万時間が新たに創出できた。そこで、一部門で導入したRPAを全学の業務で推進することになり、コンサル会社と共同してRPA運営推進モデルを構築した。
2018年度は、14業務に適用し、41,449時間の創出効果があった。2019年度には、さらに60以上の業務で適用を進めている。
RPA導入の目的は、時間削減による人員の削減ではなく、短縮されて新たに創出された時間を教育研究及び学生支援等の向上を図るために有効に活用することが肝要であることが強調された。
立命館大学 情報システム部業務改善企画課 課長 岡 潤也 氏
業務基盤高度化に向けたノンプログラミングとクラウドによる申請システム構築の取組みが紹介された。
2018年4月に、2030年中期計画や将来的な財政課題を検討する中で、業務適正化・効率化について抜本的な取組みの必要性が示され、経営資源の適正配分の一環として事務の電子化が進められ、この中で、学生や教員からの申請書類の転記や二重入力を行わない発生源入力の実現を目指した。
また、保守や移行開発に終始していた以前の学内システムの考え方を改め、独自開発・ロングライフ化の考え方でシステムを導入することに方針を切り替え、この新しい方針に基づき採用されたシステムがWebで動くクラウド型ワークフローシステムのSmartDBであり、電子申請や文書・情報管理ができること、プログラミングが不要な点が特徴となっている。現在は各部課と協議し、導入効果の高いものからシステム構築が進められており、稟議書1万件、申請書2万件のペーパーレス化が見込まれている。
システム構築で苦労した点は、不慣れな職員に配慮して要件定義は求めず、パイロットモデルを作成し、導入の合意形成、製品理解に一定の労力がかかることと、仕様開発・開発標準の策定がある。
参加者からは、「具体的な事例をまじえて説明があったので、理解しやすかった」、「先駆的な内容でとても勉強になった」、「RPAを導入するメリットがよく理解できた」、「学内申請のペーパーレス化について導入検討している中で勉強になった」「大変分かりやすく、本学でも取り入れたいと思った」などの感想が寄せられた。
今年度は前年度より参加者・参加校が増え大勢の方に参加していただけた。文部科学省奥井様の講演やその他各プログラムの講演は好評であり、特に各大学の具体的取組みの事例発表は非常に参考になったという感想が多く寄せられた。
本コースでは、情報提供型の研究講習会として、教育改革に向けた学修成果の可視化とIRの取組みや業務改革について、理解を深めることができたと考える。なお、開催の時期や時間設定、開催場所などについての要望・ご意見もいくつか寄せられた。これらについては次年度開催の参考にさせていただきたい。
文責:大学職員情報化研修講習会運営委員会 |