特集 対面授業からオンライン授業切り替えの取組み

関西大学のオンラインを活用した授業の取組みと課題

山本 敏幸(関西大学 教育推進部教育開発支援センター教授)
岩ア 千晶(関西大学 教育推進部教育開発支援センター准教授)
柴田  一(関西大学 文学部教授・ITセンター所長 本協会常務理事)

1.はじめに

 毎年3月には恒例の卒業式風景もなく、4月恒例の入学式も実施されない形で2020年度が始まりました。大学に通って通常の授業が受けられないという非常事態における授業運営の対応策として、最先端のICTツールや既存の学内ICTサービスを駆使し、授業担当教員と受講生を繋いで大学教育の持続可能性を担保しようという動きが各大学で始まっています。
 そういった取組みの中で一例として、大規模私立大学である本学の取組み(3月から5月前半までの2ヶ月半の期間)をふりかえり、報告いたします。各大学で現在も非常時の授業展開で試行錯誤されている教職員の参考になればと執筆しました。
 学内の各部署が協力し合い、オンライン授業化を進めている状況で、すべてにおいてうまくいっている訳ではありません。非常時の対策として時間をかけ議論し企画したことが、意図した方向性とは異なる受け取られ方をされたり、混乱を招いたり、間違った情報が広まったりして、仕切り直しをしたりすることも多々あり、支援を担う各部署の連携がうまくいかないこともありました。非常事態の緊急措置の発案から、実施のプロセスで想定されるであろうことがらをできる限り共有したいと思います。

2.オンライン授業を実施する授業規模と期間

 本学は13学部からなり、全学生数30,452人、教員(専任教員:802人、非常勤:1,486人)により、一学年度1万8千ほどの科目をカリキュラムとして教育展開しています。データ資料は(https://www.kansai-u.ac.jp/global/guide/)、(https://www.kansai-u.ac.jp/data/)によります。
 その他、非常事態宣言以前の状況について記しておきます。学内にはインフォメーションシステム(ポータル)を通して、学内各部署からのお知らせ、教務情報、シラバス情報、履修情報、時間割情報、授業情報等のサービスをPCおよびスマートフォン対応で提供していました。教員と受講生の間の連絡には、インフォメーションシステム内の講義連絡サービスおよび関大LMS内のタイムライン(メッセージ機能)により授業についての情報が伝わる仕組みが稼働していました。例年講義連絡サービスの教員利用率はほぼ100%ですが、関大LMSを活用した授業展開については、8割程度の教員がログインはしているものの実質的な授業での併用利用率は2、3割程度でありました。また、2019年度より全学でBYODを推奨し、各学部のDP-CPを反映したICT化による教育の質保証、eユニバーシティー構想による「学の実化」を展開しつつありました。新入生の新規のPC購入率は、2割程度の留まっています(既に高校生の頃からPCを所有している、自宅にあるといった学生は除きます)。
 3月の半ば頃を過ぎて、予定していた入学式行事が中止になることを受け、4月からの授業展開について企画を始めました。新学期開始から2週間は全学で休講とし、オンラインでの授業開始を4月20日からに設定しました。4月1日からのオンライン授業化にむけての教員研修開始ができるように、3月中は他大学のオンライン化にむけての進捗情報の収集や研修プログラム内容の決定、研修資料の作成、研修講師陣との摺り合わせ、ICTツールごとの役割分担等を行いました。
 当初は50名収容の会議室に数カ所の臨時窓口を設定し、直接面接型で対応していましたが、研修参加者が益々増加したことと非常事態宣言により学内への入構禁止となり、Zoomによるオンライン研修に変更して研修を行いました。毎週3回程度の頻度でオンライン授業化研修を続け、4月末には受講する先生方も大分減ってきましたが、ゴールデンウィークに入って春学期はすべてオンライン授業で行う決定がなされ、オンライン授業の実施と並行して、オンライン授業化研修を継続することになりました。この変更により、教室内で行う筆記式の定期試験が一切できなくなり、授業シラバス内の授業評価方法の変更が必要になりました。オンライン授業化の経緯の詳細については、下記の4.(2)をご覧下さい。

3.オンライン授業の内容と実施状況

(1)講義中心の授業をオンライン化

 本学は5月1日に春学期は原則オンライン授業となることを正式に決定しました(本学では遠隔授業としていますが、本稿ではオンライン授業と表記します)。オンライン授業では単に印刷資料の送付だけで授業を完結させるのではなく、毎回のフィードバックを行うことが求められます。
 具体的には、図1のように、「①リアルタイムのオンライン授業:Web会議システム(Zoom等)を活用し、配信される講義や双方向の議論をとおして学び、小テストや課題提出による理解度確認や質疑応答、学生同士の意見交換等を行う授業」(同期型)、「②オンデマンド配信の授業:学生は講義動画やナレーション付き講義資料を視聴し、小テストや課題提出による理解度確認や質疑応答、学生同士の意見交換等を行う授業」(非同期型)、「③教材提示による授業:スライド資料など教材として学び、小テストや課題提出による理解度確認や質疑応答、学生同士の意見交換等を行う授業」(非同期型)という3つの型が提示されました。
 これらは組み合わせて実施することもでき、大学からは一方向的な授業にならないよう配慮するようにとの指針が出されました[1](図2参照)。

図1 オンライン授業の分類
図2 同期型・非同期型の組み合わせ例

 本節では実際にどういった形でオンライン授業が実施されたのかについて以下に事例を示します。

●講義科目におけるオンライン化

 例として、メディア教育論(担当岩ア千晶)を取り上げます。メディア教育論では、オンデマンド配信の授業とリアルタイム配信の授業を組み合わせた授業を実施しています。受講生が約40名いるため、第1〜5回までの授業はシステムエラーを避けるために、Zoomのレコーディング機能を活用し、講義映像とPowerPointをあわせて視聴できる映像を制作し、オンデマンド配信をしました。また視聴した内容に関する課題としてミニレポートや掲示板での意見交換を課しました。例えば、第3回目の授業では、ICT教育の基礎や教員に求められるICT指導力についての講義を実施し、「ICTを活用すれば教育が良くなるのか」や、これまでに受講したICTを活用した授業」について意見を提示する課題を示しました。教員やTAは掲示板に寄せられた意見に対するフィードバックを適宜行いました。学生から寄せられた掲示板の意見に対し、教員は翌週の講義映像でフィードバックをしました。しかし、この方法だけでは学生の顔が見えてこず、レポート課題や掲示板での意見交換だけで学生が十分に理解や満足をしており、きめ細かな学修支援ができているのかについて担当教員として疑問がわきました。また、掲示板に質問を書くように伝えても、数多くは寄せられませんでした。
 そこで、第6回目からはZoomを活用したリアルタイムでのオンライン授業を適宜導入していく予定にしています(図3参照)。

図3 オンライン授業の要、コミュニケーション

 これまでの授業に対する質問、学生同士の意見交換をする機会を設け、共に学び合う機会を構築したいと考えています。このようにオンデマンド配信を実施し、それに対するフィードバックや意見交換をリアルタイムの授業で実施するという方法を組み合わせることで、教員による一方向的な授業ではなく、学生が主体的に考える授業実践の場を確保する授業を実践しています。図4にポイントをまとめてみました。

図4 主体的な授業実践の場

●実験・実習のオンライン化

 理工系の学部科目での実験・実習は、オンライン授業化で一番苦戦するところです。学内の実験・実習施設を使った実験・実習の授業は、実験室内での実験器材や実験器具を使って身につけた専門知識を基盤として五感を使い、メタ認知能力を育成しながら知識や経験を豊かにするための学修の大事な局面となります。ただし、大学側が入構禁止にしている以上は学内の実験室や実習室は使えないことになります。実験・実習担当者は代替案を期待していますが、現状では不可能に近い状態です。ICT技術的にはテレメディシン(遠隔医療)やバーチャルシミュレーションによる外科手術実習のような医療用ICT環境も存在しますが、非常時になったからといって即座に理工系の実験・実習プログラムのために開発し、導入できる訳ではありません。このような事情から、本学では、コロナウィルスが終息して学生が大学に通って授業が受けられるようになるまでは当面の間、実験・実習は延期という措置が敷かれています。春学期の後半部分で実施できないかという案が出ていますが、未だ検討中です。
 学外で行う実習では、地域社会でのフィールドワーク、フィールドスタディが伴うため、中止しています。フィールドとなる地域社会に既にネットワークがある場合には、現地で協力者に依頼し、オンラインでのヒアリング調査等の質的調査が可能となります。これには担当教員によるこれまでの信頼関係の構築が前提となり、事前準備が必要になってきます。新規で実施するフィールドワークやフィールドスタディのオンライン化は困難であると言えるでしょう。
 また、体育(スポーツ実技)の授業は、基本的には、実技中心からビデオ視聴を含めたオンラインでの講義形式の授業に変更して開講していくことになっています。

●グループ討議のオンライン化

 アクティブラーニングの導入が推奨され、グループワークを取り入れる授業は増加しています。例えば、初年次教育では学生同士にグループを組ませて、グループで調査学修をし、プレゼンテーションをすることやディベート等が実施されています。
 ここでは全学共通教養科目として開講されている初年次教育「スタディスキルゼミ(プレゼンテーション)(担当教員:岩ア千晶)」を事例に詳述します。本授業ではスピーチをしたり、グループで調査活動をし、その結果を発表したりします。授業では、まず関大LMSに慣れるために、会議室機能を使って自己紹介をし、ライティングラボのオンライン講座を受講するようにしてZoomへの接続や利用方法を確認しておくよう事前課題を出しました。
 遠隔講義が決定されてからは、Zoomを使ってリアルタイムで授業をしています。はじめてのリアルタイムでの授業ではZoomの接続を確認するために授業開始10分前からZoomのミーティングルームをあけ、授業が始まるとZoomの音声を確認するために出席をとりました。その際、グループで学ぶことの重要性や相手の顔を見て話し合うことの大切さについて述べ、ビデオカメラに顔を出すことについて理解を得ました。比較的受講生が24名定員と限られた人数での演習であったため、全員が映像を公開する形で授業を始めました。その後、簡単な自己紹介や近況を報告しあいました。
 オリエンテーション後は、2分間スピーチの原稿作成を始めました。例年、本授業ではスピーチのイメージを掴むために、学生スタッフであるLA(Learning Assistant)が実際にスピーチを行います。今回もLAを共同ホストに設定し、スピーチを披露し、授業を終えました。授業後の課題は関大LMSに提示されたワークシートに基づき、2分間スピーチの原稿を考え、関大LMSの掲示板に投稿することでした。
 翌週の授業では、2分間スピーチの寄せられた原稿をグループに分かれてコメントをしあうピアレビューを行いました。これはZoomのブレイクアウトルーム機能を利用しました。Zoomの機能を使えば自動的にグループの割り振りをしてくれます。初めて会う学生同士ですから、場の雰囲気を和ませるために、アイスブレイクをしてから、ピアレビューを行うようにしました。ピアレビューに関しても、「相手の原稿を見てどの部分が主張、理由、根拠・具体例、再主張なのかを確認すること」と、「自分が気がついたことを述べる」ように指示しました。具体的にコメントする内容を提示することと、学生自身の気づきを大切にするように配慮しました。学生たちは、関大LMSに掲載されている2分間スピーチの原稿にコメントをしあいました。グループワークを終えた後は、また一斉に授業を受けるのですが、その際に「どこがよかったのか、どこを改善すべきか」について数名が発表しました。
 授業終わりの10分間は質問時間としました。普段は隣席に座っている友人に聞けばすぐに済む問題が今回はそうはいきません。特に本講義は初年次生を中心としているため、聞きたいことがあっても聞く友人や機会がないのです。そこで最後の10分間は再びグループで質問を出し合い、各自で解決し合うようにしています。それでもわからなかったことがあれば、教員に質問するよう指示しています。
 また受講生は自分で原稿を完成させると、ライティングラボでオンラインチュータリングを受けて、原稿をよりよくするための学修支援に取組むことになっています。何度も原稿を見直すことでよりよい論理的なスピーチやプレゼンテーションができることを目指します。このようにオンラインの討議に加えて、オンラインチュータリングなども取り入れ、初年次生のアカデミックスキルの育成に取組んでいます。

●ゼミのオンライン化

 ゼミ形式の授業は担当教員とゼミの学生、および、ゼミ学生間のディスカッションによるインタラクションが極めて高い集中度の授業形態です。非常時のゼミ形式の授業では、同期・非同期の学修環境下で、いつでもゼミ員が同じページで学び・研究を進めているという意識づくりが肝心となります。
 同期の学修環境では、Zoom等のウェビナーツールを使うことで、ゼミ担当教員からのe-Lectureやディスカッションが可能です。ゼミ学生が多い場合には、ブレイクアウトルーム機能を使い、テーマごとにグループ分けをしてディスカッションを行い、その後、全体で共有、まとめをすることもできます。録画機能もあるので、やむを得ず欠席したゼミ学生も時間差はあるものの、ビデオを視聴することでゼミに参加が可能になります。Zoomのようなウェビナーツールはスマートフォンからでも参加が可能です。ゼミ授業の前後の時間帯では、ゼミ学生同士がLINE等のSNSサービスでグループを作り、容易にビデオ会議もできます。
 非同期の学修環境下では、LMS内の掲示板(ディスカッション)機能やWiki機能を使い、研究テーマごとに議論もできますし、ポートフォリオ機能を使い、卒業論文作成までのプロセスと成果物を可視化することもできます。クラウドサービスでも様々なサービスがありますが、ゼミ員一人ひとりの学びと成長のプロセスの情報をゼミ学生と担当教員しかアクセスできないLMSのような安全なところに一元管理しておくことに注意しています。

4.オンライン授業の環境と支援体制

 質の高いオンライン授業を実施するためには、ハード面としてのICT環境に加えて、教員や学生を対象としたソフト面での支援体制が求められます。本節では、ハード面・ソフト面での支援に関して本学の取組みを具体的に提示します。

(1)LMS、Zoom、Office365等を活用したオンライン授業におけるハード面の整備

 本学はLMS、Office365、Dropbox、講義映像配信システムを授業のサポートツールとして従来より導入していましたので、ICTのシステム環境は概ね整備されていたと言えます。4月20日以降オンライン授業を実施する際は、原則として関大LMSを活用した授業を実施することになりましたが、双方向・リアルタイムで授業をするツールは導入されておりませんでした。そこで、Zoom Education Siteライセンスを法人契約し、現在は全教員がアカウントを保有し、リアルタイムで遠隔講義を実施する環境を構築しました。
 遠隔講義で主に利用されている関大LMSは資料提示、テスト、掲示板、レポート提出等の基本的な機能を備えています。しかし、映像を添付する容量は限られているため、Dropbox(50M)やOffice365のOneDrive(1T)に映像をアップロードし、ダウンロードができないような設定を施し、関大LMSにそのリンクを掲載する形で映像を公開しました。
 このように「①リアルタイムのオンライン授業」や「②オンデマンド配信授業」に関してはZoomや撮影した映像を関大LMSに提示する方法を使って授業が実施されています。そして「③教材提示による授業」に関しては、関大LMSやDropboxに資料を提示するなどして授業を実施する必要があります。「3.オンライン授業の内容と実施状況」で提示した通り、教員はいくつかのシステムを組み合わせた授業デザインを行っています。

(2)教員の教材作成環境の整備と支援体制

 3月中旬以降、4月以降の授業はオンラインで実施される可能性が高まってきたため、教育推進部教育開発支援センターの教員を中心にFDセミナーを企画し、教員がオンライン授業を設計する際の支援計画を立て始めました。もちろん、従来より関大LMS等のシステムは導入されていたため、その利用セミナーは実施していました。しかし、あくまでもこれらのシステムは授業の補助ツールという認識であったために、多くの教員が操作方法に精通しているとは言い切れませんでした。そこで、4月1日から関大LMSを利用するにあたってのFD相談会を開催しました。
 まず1週目(4月1日〜7日)は「教員の不安を取り除く」をテーマに個別相談会とセミナー(担当:山本敏幸、岩ア千晶、多田泰紘)を対面で実施しました。教員3名、職員2名体制で対応しました。最初の2日間は個別相談の体制をとっていましたが、相談数が急増したため、Zoomによるセミナー形式と個別相談のセッションを設ける形に変更しました。セミナーでは、「オンライン授業設計の基礎基本」、「関大のシステムを使ったオンライン授業の設計」、「関大のシステムの操作方法」の3つをテーマに講演をしました。セミナーは録画し、ホームぺージで配信を行い、個別相談では、セミナーを視聴した人が参加できるようにしました。この際、外国人教師にも対応するため、English Sessionも設けました。English Sessionには本学商学部や国際部の教員も参加し、外国人教員をサポートしました。
 2週目(4月8日から4月12日)は「教員の不安を把握し、解決策を準備する」をテーマに、Zoomを使った授業の体験会の準備、教員対象のアンケート調査を実施しました。アンケート調査は第3週に企画されていたFDセミナーの出欠を尋ねる目的に加えて、教員からの質問をあらかじめ収集し、FDセミナーで迅速に対応する目的がありました。
 並行して、相談会において教員から寄せられた質問事項で必要性が高いもの(例えば、録画配信の仕方、著作権、資料のダウンロードを禁じる方法、Zoom等のシステムの基本的な利用方法等)に関しては、事務職員がQ&A集やシステムの利用画面をキャプチャーした操作マニュアルを作成し、教員が自ら資料を確認して、授業を実施できるように配慮しました。また職員のアイデアで教員が自分でZoomへの接続を確認できる場を準備しました。このように2週目は1週目で収集した教員からの質問に対して、資料作成やシステムの利用を確認できる場づくりの準備期間となりました。
 3週目(4月13日から4月18日)は「教員が考える授業を実現するための支援」を実施しました。この時期はすでに対面でのFDが難しい状況になっていたため、すべてZoomで実施しました。まず「オンライン授業に関するセミナー(講師:山本敏幸」(40分)を実施し、個別の相談・質疑応答の場を設けました(講師:岩ア千晶・多田泰紘)。13日は260名程度の参加、15日(English Session)は70名程度の参加、17日は100名程度の参加がありました。18日には15日に解決しなかった教員向けのEnglish Sessionが行われました。17、18日にZoomでグループワークをするためのブレイクアウトルーム機能を実際に体験するワークも導入して開催しました。
 4週目(4月20日から25日)は「レベルに分けた課題解決と学生へのサポートの開始」をテーマに行いました。初めてLMSを活用する教員向けの初級・初心者コース、LMSを利用した授業をした経験がある教員を対象にした中級コースに分けてFD相談会を週4回実施しました。参加者は各回約30〜70名程度でした。4週目はある程度参加者の数が減少し、質問される内容も共通化してきました。リピーターとして何度も出席される一部の教員から複雑な操作に関する質問が寄せられましたが、第4週目ということもあり、教員からの問い合わせは落ち着いてきました。
 また20日から本格的にオンライン授業が開始されましたので、学生向けのセミナーも実施(担当講師:関大LMS三浦、Zoom藤田)しました。次の(3)で詳述します。
 5〜7週目(4月27日〜5月16日)も継続して、初心者・初級、中級にコース分けをしたFD相談会を実施しました。4週目で教員からの質問が落ち着いてきたこともあり、時間を短縮して1時間で実施しました。
 これまでのFDセミナー・相談会は、ICTシステムの操作や、オンラインを活用した授業設計の中でも教育方法についての相談が主流でした。しかし、8〜9週目(5月18日〜30日)は「評価方法について焦点を当てたFD」を実施する予定にしています。春学期は原則オンライン授業で実施することが正式に決定されると、大学で定期試験をすることができなくなり、授業によっては評価の方法を変更しなければならない科目も出てくることが想定されました。これらの評価方法についてどのように対応することが望ましいのかについて、話し合う場を設ける必要があると教育開発支援センター長が判断し、FDセミナー・相談会を予定しています。
 このように、大学から提示された①2週間休講(3/27提示)、②当面の間オンライン授業を実施(4/8提示)、③春学期はすべてオンライン授業(5/1提示)を実施という3回におよぶ指針に基づいて、それぞれの状況に応じた形で教員の教材作成環境の整備と支援体制を実施するようにしました。

(3)学生が使用するディバイス・通信環境や学生支援の体制

 先述した通り、本学は2019年度よりBYODを推奨しています。そのため、2019、2020年度に入学した学生にはあらかじめノートPCやタブレット等を準備しておくことが推奨されており、生協では1年生向けにノートPCの販売体制が整備されていました。しかし、納品が間に合わなかった事例や個人的な事情もあり、スマホを活用して授業を受けている学生もいます。また大学からはオンライン授業の受講にあたり、各自で必要な機材やインターネット環境を準備しておくように依頼していますが、環境を整えることができなかった学生もいます。そこで、本学ではノートPCの貸出やモバイルWi-Fiルーターの提供を実施し始めています。ノートPCは200台準備して学生の負担軽減を図っています。モバイルWi-Fiルーターは300台用意されており、学生の個人負担は月額2,000円(月間データ容量20GB)となっています。
 さらに学生へのソフト面に関する学修支援としては、オンライン授業の開始に先立って、4月6日から16日まで毎日30分全23回のライティングラボによる「Zoomで学ぶワンポイント講座(講師:多田泰紘、藤田里実、岩ア千晶)」を開講しました[2]。大学は3月27日の時点で、新学期の最初2週間の完全休講を決定したため、休講期間の間に学生たちが学べる場を提供するために実施しました。また本講座はZoomで講義配信をするため、学生にZoomを練習する機会を提供すること、ならびに教員が講座を視聴できるようにし、Zoomでの授業がどのようなものであるのかに関するイメージを持ってもらう狙いもありました。
 本学のライティングラボは、学修支援を担う組織で、①訓練を受けたチューターが学生のレポート・プレゼン等の個別相談に応じること(1回40分)、②アカデミックスキルに関するワンポイント講座を実施すること、③大学の授業で、出張講義をすることを主に実施しています(関西大学ライティングラボ2020)[2]。今回は②のアカデミックスキルに関するワンポイント講座をオンラインでいち早く配信しました。扱ったテーマは、1・2年生向け「レポートの書き方」、理工系1年生向け「理工系実験レポートの書き方」、3・4年生向け「卒論の書き方・プレゼンテーションの実施」です。
 1・2年生向け「レポートの書き方」は初年次教育の心構えから始め、基礎的なレポートの書き方を学ぶことができるコースとしました(表1参照)。

表1 文系1・2年生向けワンポイント講座の内容
講座内容
第1回 初年次教育の心構え
第2回 ノートテイキング
第3回 レポートを書き始める前に
第4回 テーマを決めよう
第5回 レポートの構成
第6回 口頭発表の手法
第7回 スライド資料の作り方
第8回 レポートにふさわしい表現
第9回 引用と参考文献
第10回 ライティングラボの活用−文章をよりよくするために−

 理工系1年生向け「理工系実験レポートの書き方」では実験ノートや実験レポートの書き方、並びに口頭発表の手法について取り扱いました。3・4年生向け「卒論の書き方・プレゼンテーションの実施」は、卒論執筆の予定を立てるところからスタートし、テーマを考える、アウトラインを作る、卒論の書き方を扱いました。最後に口頭発表の仕方やスライド資料の作成方法にも触れました。
 このセミナーの実施当時はZoomの包括契約が実施されておりませんでしたが、無償プランを利用して最大500名まで同時視聴できるようにしました。文系の1・2年生向けの講座は午前に、理工系の1・2年生、卒論講座は午後に実施しましたが、毎日100名程度の参加がありました。これらの講座はレコーディングされ、現在はYouTubeやPDFをライティングラボのホームページで公開し、他大学からも利用いただけるようにしています。
 さらに、4月20日から本格的にオンライン授業を実施することが決定されてからは関大LMSやZoomの操作で戸惑う学生を支援するため、ライティングラボが新たに「Zoom・関大LMSを学ぶセミナー(担当講師:三浦真琴、藤田里美)」を合計4回実施しました(5月2週目まで)。いずれも100名以上の参加がありました。
 講座に加えて、ライティングラボではeラーニング教材や電子教科書「レポートの書き方ガイド」も関大LMSやDropboxで提供しています。eラーニング教材は、動画(5分程度)、資料、小テストで構成されており、全部で29レッスン公開されています。これらの教材は、本学の一部の初年次教育でも活用されています。
 以上のような学修支援に加えて、経済的な負担に対して総額5億円の経済支援に取組んでいくことが決定されております。具体的には、一人暮らしの学生に対して5万円の一律金を支給すること、ならびに関西大学家計急変者給付奨学金制度を拡充することが決定されています。

5.オンライン授業で期待されると思われる効果と今後の課題

 まず明確にしておかなければならないのは、非常時のオンライン授業化と平常時のオンライン授業化の区別です。非常時では、オンライン授業は、平常時の授業形態の緊急代替案にしか過ぎず、教員側はオンライン授業化に向けた心の準備、効果的なオンライン授業展開の計画的な工夫、オンライン授業で活用する教育用ICTツールの操作スキルなどがほぼないまま開始されます。使える教育用ICTツールも既存のシステム、設備、即座に購入可能なクラウドサービスに限られます。
 一方、平常時のオンライン授業は、これまでの遠隔教育、e-Learning、面接型授業とオンライン授業を組み合わせたブレンディッド・ラーニングなどの取組み、教育理論、学修理論等の成果を基盤とした人財の育成をミッションとする教育形態の有力な教育方法と言えます。十分に計画を練って準備ができ、教育機関のミッションやそれを反映したカリキュラムを通した教育の質保証を担保する教育方法に組み込むことができます。また、そこでは教員間および受講生間での利用できるICT機器の不平等さについて日頃から対処しておくゆとりもあります。
 今回のコロナ対策でのオンライン授業化の経験を通して学んだことは、これまでの教室内での直接面接型の授業形態で行ってきた教育の質保証の仕組みが非常時にはうまく機能しないということです。非常時だから当然のことかもしれませんが、今後はさらに自然災害等でも想定される非常時のことも考慮した教育体制についても準備することが必要だと考えます。
 また、今回のオンライン授業化のプロセスを通して、これまで教室内での直接面接型の授業しかしてこなかった教員の間にICTを活用した教育形態でも教育の質向上の工夫ができるのではないかという意識が芽生えてきたことです。さらに、同じ学部や学科にいても、これまであまり話すこともなかった教員間に横の繋がりができ、助け合う、共にオンライン授業化について話し合う、考えるという意識が育まれてきたことです。ごく一部の非常勤の先生方でオンライン授業化の負担が大きいため辞退された方もいましたが、これはやむを得ないことです。
 オンライン授業化の今後の課題としてあげられることは、学生がオンライン授業を受けながら主体的なアクティブ・ラーニングのスキルを身につけていけるような学修環境を提供するようにMS Teamsの利用がオンライン授業化の準備段階で含められていなかったことです。4月当初から始めたオンライン授業化に向けた研修はあくまで教員が対象で、既存の学内のICT環境を利用して、平常時の授業をオンラインで同期型で再現しようとするZoomの機能説明や操作方法、Dropbox(クラウド型ストレージ)や関大LMSで講義ビデオ、授業資料等を共有する方法についての説明が中心となりました。4月20日からオンライン授業が始まり、教員に対するオンライン授業化に向けた研修が一旦落ち着くと、そこでやっと学生のためのZoomを使ったオンライン授業の受け方、インフォメーションシステム(学内ポータル)を使った学内情報の入手方法、関大LMSを使った受講方法について学生対象の研修が始まりました。
 今回の非常時の対応のプロセスを振り返ってみると、学生のための主体的なアクティブ・ラーニングを涵養するオンライン型の授業での学修環境の提供といった考慮が十分になされていませんでした。学内の教員、職員はオンライン授業化に向けての準備で必死になっていましたが、残念ながら受講生が担当教員やクラスメイトと一度も顔を合わせることなく戸惑いながらオンライン授業で学ぶという心の準備に対して十分な対応ができませんでした。今後は大学のミッションに掲げた未来社会の人財育成のミッションを達成するために、教室内での直接面接型の授業でも、オンライン授業で受講生の主体的な学びを涵養できる学修環境の提供について、授業形態に偏らない教育の質保証を教員の間でFD活動としてやっていかなければならないと考えます。

6.教員の情報技術支援研修の有無と今後の考え方(私情協による研修希望など)

 ここでは、コロナ対策以前の教員への情報技術支援研修について述べます。本学ではインフォメーションシステム(ポータル)を活用し、授業担当教員から受講生への講義連絡、休講・補講連絡が学内のメールシステムと連携して稼働しており、ほとんどの教員が利用していました。関大LMSも2016年度の導入以来、講習会を開催し、講習会を収録したビデオはオンディマンドで視聴できるようになっています。ここ数年間は各学期に最低1回程度教員向けの授業でのICT活用を促進するためのセミナーを開催してきました。コロナ対策以前の授業形態は大半が教室での直接面接型の授業によるものでした。言い換えると、ほとんどの教員にとっては、コロナ対策のためのオンライン授業化は、オンライン授業のために必要なICTスキルも十分ではなく、また、オンライン授業での効率的な教授方法もなく、なんの心の準備もないままにスタートしたものでした。
 幸いにも、2月26〜27日の2日間、筆者は追手門学院大学、総持寺キャンパスで行われた公益社団法人私立大学情報教育協会、FD情報技術講習会運営委員会から2019年度のFDのための情報技術研究講習会に参加する機会を得ました。これは、平常時のアクティブ・ラーニングを涵養するためのICTを活用した学修環境構築に向けて、他大学や社会の有識者達と協働で考えていこうという趣旨の講習会でした。様々なハンズオンのワークショップを通して、Google FormやGoogle Classroomを活用した授業展開、クラウドサービスによる様々な学修用ICTツール、モバイルによる教材作成、PCを用いた動画教材の作成、学修評価のためのルーブリック作成、LMSを授業で活かす工夫などを学ぶ機会を得ました。
 本学では4月1日からオンライン授業化にむけてのFD相談会が全学の教員対象に行われる予定になりましたので、オンライン授業化に向けての研修資料作成にはとても参考になりました。今後は平常時のアクティブ・ラーニングのためのICT活用だけではなく、災害時や非常時におけるICTによる学修環境の構築・授業展開をテーマとした研究講習会があってもいいかと思いました。今回のコロナ対策のためのオンライン授業化で様々な問題点や課題点を克服されてこられた教育関係者の経験と知恵を集結して、未来の非常事態でも惑わず効率良く授業運営ができるようなシンクタンクを備えることができればと考えます。

7.コロナ対策終了後におけるオンライン授業の継続拡大について

 本稿で紹介した本学での授業のオンライン化の事例は、あくまでもコロナ対策の一連の取組みであり、災害時や非常時の取組みに他なりません。これまでに平常時の教育を基にして研究と開発を重ねてきた通信教育、遠隔教育、e-Learning等の体制は、今回のような緊急時には多くの教員のオンライン授業化に対する心の準備とICTツールの操作の不安が残り、あまり効力を発揮できませんでした。事実、インストラクショナルデザイン理論に基づいてコンテンツを準備するには、多くの専門家の手と労力が要ります。このようなやり方では緊急時には間に合いません。また、これまでの遠隔教育も平常時に時間的距離・地理的な距離を克服するために学修者に平等に学ぶ機会を担保するものでした。コロナ対策としての授業のオンライン化は、大学側の授業運営についての緊急事態下の判断で、4月時点では、コロナ終息までに時間がかからないであろうという期待と、学内の既存のICT資源とインフラを活用すれば平常時の教室での授業運営にしか慣れていない、ICTを十分に活用していない教職員でも乗り切れるという考えであったからと推測されます。
 今回のコロナ対策でのオンライン授業の仕組みづくりの経験を通して様々なことが教訓となりました。非常時には、平常時の教育体制でルーチン化した授業運営手順、教務手順、業務手順、および、それに基づいたICTインフラが十分に機能しないことが見えてきました。いくら教室にWi-Fiを設置しても、学内への入構禁止時には教室すら使えないのです。
 また、コロナ対策終了後には、大きく二つの観点からこれからのオンライン授業の展開について考えていかねばなりません。高等教育の大事なミッションが教育を通した未来社会に向けての人財育成とその涵養である以上、欠かせない観点だと思います。
 一つは、今回のような非常事態が再度訪れた際に備えた教育体制の工夫・改善があげられます。今回のコロナ対策では、クラウドサービス(Zoom、MS Teams等)、オンプレミス型LMSシステム等を折衷案的に活用して、平常時の授業運営を仮想的に再現できました。足りないクラウドサービスのICT利用ライセンスは臨時購入でなんとか対応ができました。しかし、一方で平常時の筆記試験や定期試験は教室での密集を避けるために止めざるを得ませんでした。自宅にWi-FiやPCを持たない非常勤教職員は手持ちのスマートフォンでオンライン授業の準備をするしかありませんでした。
 ICTは常に進化していきます。数年後にまた非常事態が起きたとしても通用するような教育体制の改善に向けた準備態勢を備えておく必要があります。現時点のICT技術を前提とした非常事態の備えでは、未来の非常事態ではそれは使いものになりません。今回の非常事態の中のオンライン授業化の経験を活かして、これから先に起こるかも知れない非常事態でもきちんと対応ができるようなSOP(標準となる対策運営手順)について、大学でICTを活用した教育の質保証と持続可能性とその担保に関わるCIO層は考えておかねばなりません。
 二つは、教育者としての学生の心のケアについてです。今回のコロナ対策下のオンライン授業化では学生の身になって状況を見るという余裕がなく、学生の心のケアが置き去りになっていたことです。大学側は教員も含めて、平常時と同様な授業運営をオンライン化授業で如何にして実現するかということで精一杯でした。それが、学生にとっても一番の教育の質保証に違いないとみんなが信じていました。多くの教員は、オンライン授業のためのICTスキルアップのため、研修に参加してZoomを使った同期型授業展開やLMSを活用した非同期型授業展開について学び、スキルを身につけることができました。しかし、Zoomを使って授業をすることは、受講生にとっては平常時の時間割通りに自宅という授業外の生活空間でヘッドセットをつけてパソコンのスクリーンに向かっているということを意味します。不要不急の外出を控え、限られた生活空間に縛られた状態が続きます。非常時の授業形態であると頭では分かっていても、新入生にとっては実感がありません。就職活動をしている学生にとっては授業単位がちゃんと取得できて卒業できるのだろうかという不安が付きまといます。
 コロナ対策が終了して数年が過ぎ、平常な授業体制に戻った時に、学生の大学時代の記憶として何が残っているでしょうか。学生の記憶にオンライン授業期間中の様々なストレスや不安、不満といったネガティブな記憶ばかりが残らないようになればと願います。学生の目線にたって、親身になって学生の未来を考慮した情報発信が大学からタイムリーにしかも分かりやすくなされていれば、不安やいらいらが多少は解消され、大学時代のネガティブな記憶は緩和されていくのではないでしょうか。
 今回のコロナ対策の期間中は、先生方の中には自分自身が担当する授業だけのオンライン授業化の準備をするだけではなく、時間を惜しまず、学内の教員の仲間達に頻繁にICTツール操作や授業運営の勉強会を開催し、参加した先生方は教育の持続可能性という目標で繋がり、情報共有や相談ができるようなコミュニティーが自然にできあがりました。みんなで助け合って非常時を乗り切ろうとする草の根的なFD気質が溢れていました。
 最後に、緊急時の大学側からの情報発信のチャンネルが分かりやすく且つ明確に確保されていること、そのチャンネルを使って、タイムリーに大学側の意向が伝えられることが、大学の主たるステークホルダーである大学生と大学側のコミュニケーションを通した信頼関係の構築・継続ではないでしょうか。平常時でも緊急時でも、社会人になる前の最後の登竜門としての大学生活の中で、大学側がミッションに掲げる人財像育成を目指し、大学生に社会人としてのお手本(ロールモデル)として示すことが欠けていてはならないと思います。

謝辞

 FDセミナーを担当された講師である三浦真琴先生、多田泰紘先生、藤田里実先生、ならびにそのサポートをしてくださった関口理久子センター長、授業支援グループの皆様に感謝します。また外国語教員へのオンライン授業化にむけたFDをサポートくださった、商学部Curtis Kelly先生、国際部・IIGEの池田佳子先生、Elvita Wiasih先生、外国語教育に携わる先生方で組織するオンライン化支援コミュニティ、DWOT(Designing Workable Online Teaching)の先生方に感謝します。
 また今回、このようなオンライン授業化についての執筆の機会を与えていただいたことに感謝の意を表します。

参考文献および関連URL
[1] 関西大学(2020)【教員向け】新型コロナウィルスに伴う春学期からの授業実施に関して http://www.kansai-u.ac.jp/ctl/news/post_42.html (Accessed 2020.05.01)
[2] 関西大学ライティングラボ(2020)Zoomによるワンポイント講座 http://www.kansai-u.ac.jp/ctl/labo/onepoint-advice/index.html(Accessed 2020.05.01)

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