特集 対面授業からオンライン授業切り替えの取組み

北海道医療大学のライブ配信による遠隔授業の取組みと課題

二瓶 裕之(北海道医療大学 薬学部教授・情報センター長)
門  貴司(北海道医療大学 歯学部准教授 )
西牧 可織(北海道医療大学 心理科学部助教)

1.はじめに

 新型コロナウイルス感染症が拡大している状況で、政府、北海道および札幌市等の対応を踏まえ、北海道医療大学(以下、本学)でも感染拡大の防止対応を行うこととなりました。防止対応の1つが学生の登校禁止でありましたが、その一方で、学生の学びの機会を最大限に提供することに鑑み、本学では、全学の授業を遠隔方式(ライブ配信・オンデマンド配信)により実施することとしました。
 遠隔授業の方針が打ち出された背景には、本学が今まで取組んでいたICTを活用した2つの教育改善があります。両者はともに、公益社団法人私立大学情報教育協会(以下、私情協)における活動の一環として行っていたものです。
 一つが、昭和大学の片岡竜太教授によるICT活用による分野横断型授業の取組みです[1]。この授業は、健康長寿社会に活躍できる人材の育成を目指して、多分野の人たちとともに主体的な学びの能力を身につけさせることを目的としています。そのために、保健、医療、福祉介護、栄養の学生グループがICTシステムを活用して、分野横断して社会の問題に取組み、健康長寿社会の実現を考えられるようにしています。ここで活用しているICTシステムがテレビ会議システムであるZoom (Zoom Video Communications)であり、これを、本学でのライブ配信型の遠隔授業を支える基盤技術として利用することとなりました。
 もう一つが、私情協主催の2019年度の「ICT活用による教育改善研究発表会」で報告した「クラウド活用による同僚間アンケート調査を取り入れた問題発見課題解決型協働学修」[2]です。この取組みでは、学生が互いに実験者や被験者となる同僚間アンケート調査を取り入れることで問題発見課題解決型協働学修の教育改善を図りました。アンケート調査ではGoogleフォームを使って学生自身が質問紙を設計できるようにし、さらに、Googleスライドの共同編集機能を使うことでグループ討議の活性化を図りました。GoogleフォームやGoogleスライドはオンライン型のアプリケーションであり、これらを本学では、ライブ配信型の遠隔授業での確認テストやオンデマンド配信型の遠隔授業を支える基盤技術として利用しました。
 今回、私情協における活動を背景として計画することができた本学の遠隔授業について報告します。この報告を通して、様々な大学や施設における遠隔授業の整備促進や教育支援の推進に寄与することができればと思います。

2.本学における遠隔授業の実施について

 1974年、知育、徳育、体育の三位一体教育を建学の理念として創立された本学は「新医療人育成の北の拠点」として地域医療へ貢献する専門職業人を育成することを社会的使命とする医療系総合大学です。現在、薬学部、歯学部、看護福祉学部、心理科学部、リハビリテーション科学部、医療技術学部の6学部および5つの大学院研究科さらに歯学部附属歯科衛生士専門学校から構成されています。
 キャンパスは、当別町、札幌市あいの里地区ならびに札幌市中央区アスティ45(ACU)内のサテライトキャンパスの3箇所がありますが、学生の多くは、当別町にあるキャンパスに通っており、札幌市内などに住居のある学生は、札幌駅からJR北海道で通学に40分程度の時間がかかります。このように、学生の多くがJRを利用して通学をしていることも、遠隔授業の実施が計画された理由の1つであったと考えます。
 遠隔授業の実施期間は、前期授業開講日とした5月11日から、当面は5月中としています(2020年5月1日現在の計画)。また、遠隔授業の対象としたのは、6学部および歯学部附属歯科衛生士専門学校のすべての講義や一部の実習科目となりました。

3.遠隔授業の仕組み

 図1には、本学で構築をした遠隔授業の仕組みを示しました。本学では、遠隔授業は、基本的には、ライブ配信(リアルタイム配信)形式で行うものとしましたが、それに加えて、ライブ配信の遠隔授業を補完するオンデマンド配信形式での遠隔授業も実施できるようにしました。本学で実施した遠隔授業のポイントは、より円滑に授業を実施できるように、できるだけ今までの通常の大学生活と同じ仕組みや手順で授業を実施できるようにしたことです。つまり、授業は予定されていた時間割にしたがって実施することとし、時間割に記載されている教室で教員が授業をして、それを学生が受講する、という仕組みです。この仕組みを支える基盤としたのが2つのクラウド型のアプリケーションであるZoomとGoogle for Educationです。
 ここで、ライブ配信のために利用したのがZoomです。Zoomはクラウド型のテレビ会議システムであり、会議の参加者は、会議の主催者(ホスト)から招待URLまたは、ミーティングIDを受け取ることで会議に参加できます。この仕組みを利用して、例えば、図1のように、教員がPCに表示したスライドや動画をライブ配信したり、もしくは、Webカメラで撮影した黒板や教員の映像をライブ配信したりすることで、遠隔授業を実施できるようになります[1]
 一方、主に、オンデマンド配信のために利用したのがGoogle for Educationです。Google for Educationもクラウド技術に基づいており、教育機関向けに作られた無料のアプリケーションです。これらのGoogleアプリケーションの中には、ドライブ、メール、ドキュメント、スプレッドシート、スライドなどがあります。その特徴が、クラウド空間内での多様な共有機能や共同編集機能を持つことです。例えば、図1のように、Googleドライブに講義に関する動画や資料などのコンテンツを保存することで、オンデマンド配信で授業前後の学びを支援することができます。また、講義形式のみならず、共同編集機能を使うことで演習形式やグループワーク形式など、様々な形式の授業に沿った利用ができるようにもなります[2]
 さらに、これらのクラウド型のアプリケーションを本学の教育スタイルに調和させて、学生が、円滑に遠隔授業を受講できるようにするために、本学では独自にライブ配信授業ポータルサイトを開発しました。これにより、学生は、時間割に記載されている教室からライブ配信されている遠隔授業を受講できるなど、今までの通常の大学生活と同じような仕組みや手順で遠隔授業を受講できるようにしました。

図1 遠隔授業の仕組み
図1 遠隔授業の仕組み

4.ライブ配信型の遠隔授業

 次に、ライブ配信型の遠隔授業の実施方法について、その方法を構築した経緯とともに、説明します。まず、2020年5月1日現在においては、今回の遠隔授業では、通常の大学生活と同じ仕組みになるように、基本的には、教員は大学キャンパス内の教室を利用することを想定しています(なお、今後の情勢により変化することも想定しています)。これらの各教室の教卓には、かねてより、PC(以下、教卓PC)が設置されていましたが、ライブ配信型の遠隔授業に欠かせないWebカメラやマイクは設置されていませんでした。
 そこで、まずは、授業に使用されている全教室(約50教室)の教卓PCにマイク機能の付いたWebカメラを設置して、遠隔授業のための機器整備を行うこととしました。Webカメラは、3月から4月にかけて設置をしましたが、すでに、家電量販店などにはWebカメラの在庫がない状況となっていました。そのため、Webカメラを所有する教職員に声がけをして一時的に借り入れるなどの措置を取りながら、全教卓PCへのWebカメラの設置を進めました。
 Webカメラの設置後、全教室の教卓PCからZoomのミーティングを開始できるように、各教卓PCに固有のZoomプロアカウントを設定しました。また、Zoomミーティングや教卓PCの管理をリモートから一括操作・一括管理できる瞬快(富士通株式会社)を使うことで、情報センターが、全ての教卓PCをリモートから制御できるようにしました。このように、より安定的に、かつ、円滑に全学の各教室から授業をライブ配信できるようにしました。
 一方、大学キャンパス内の教室を使用せずに、在宅勤務の教員が自身のPCを利用して遠隔授業をする場合も、できるだけ同じ仕組みで学生が受講できるように、在宅勤務の教員も教卓PCのZoomに参加するなどして、教室から授業を実施しているのと同じ仕組みが使えるようにもしています。また、写真1のように、安全性を確保する観点からも、CALL教室から遠隔授業をモニタリングできる環境を整えて、トラブルが発生した時に迅速に対応できる体制を作るようにしました。
 さらに、ライブ配信形式の遠隔授業における教員と学生との双方向性を担保するために、Googleフォームなどを使って確認テストを組み込むなどして、学生の質問や疑問にこたえられるようにしました。また、一部の授業科目では、Googleスライドの共同編集機能を使って、簡単なグループワークも実施できるようにしました。

写真1 遠隔授業のモニタリング:全教室から同一ビデオの再生をした実験の風景
写真1 遠隔授業のモニタリング:全教室から同一ビデオの再生をした実験の風景

5.オンデマンド配信型の遠隔授業

 オンデマンド配信型の遠隔授業については、2020年5月1日現在においては、主に、ライブ配信型の学びを補完するために利用することとなっています。オンデマンド配信型では、主に、Google for Educationを利用しながらビデオ教材の配信や確認テストを実施できるようにしました。例えば、Google共有ドライブに、授業資料(動画、文書、スライド、確認テストなど)を教員が保存して、閲覧権限を持つ学生が視聴や利用ができるようにしました。また、ライブ配信の映像をクラウドレコーディングすることで、通信トラブルなどで映像を視聴できなかった学生に対して、オンデマンドで遠隔授業を視聴できるようにするための準備も進めています。
 この他にも、Glexa(株式会社VERSION2)やmanaba(株式会社朝日ネット)などの市販のLearning Management System(LMS)を利用したり、情報センターで独自に開発していた教育支援システム[3]を利用したりなど、予てより活用しているLMSも、オンデマンド配信型の授業教材の1つとして利用できるようにしました。

6.ライブ配信授業ポータルサイト

 さらに、学生が遠隔授業を受講するときに利用できるようにしたのが、ライブ配信授業ポータルサイトです。これは、今回、情報センターが独自に開発したLMSの1つであり、学生が今までの通常の大学生活と同じ仕組みや手順で円滑にライブ配信型の遠隔授業を受けられるようにしたものです。
 ライブ配信授業ポータルサイトを使って遠隔授業を受講するためには、学生は、まず、大学のホームページ、もしくは、自宅に郵送された時間割から、自分が受講すべき授業科目が実施される教室番号を確認することとなります。次に、学生は、ライブ配信授業ポータルサイトにログインをします。ログインをすると、画面には、図2のように、授業に使用されている全教室の番号が、キャンパスの棟ごとに一覧表示されます。ここで、学生が受講する教室番号を選択すると、履修者名簿との照らし合わせがされたうえで、その教室で開講され、かつ、履修者として確認された授業科目の一覧が表示されます。最後に、授業科目名を選択することで、学生はライブ配信型の授業を受講することができます。
 このようにして、授業は予定されていた時間割にしたがって実施され、時間割に記載されている教室で教員が授業をして、それを学生が受講する、という仕組みを作ることで、今までの通常の大学生活と同じ手順で学生が遠隔授業を受けられるようにしました。
 なお、在宅勤務の教員の場合、自身のPCで、かつ、自身のZoomアカウントを利用して遠隔授業を実施した場合には、教員自身から履修者へ遠隔授業を実施する通知をするなど、様々な遠隔授業の実施形態にも対応ができる準備も整えつつあります。

図2 ライブ配信授業ポータルサイト
図2 ライブ配信授業ポータルサイト

7.教員への支援体制

 最後に、遠隔授業を実施するために行った教員への支援体制について、遠隔授業を実施するまでのプロセスとあわせて紹介します。まず、本学で遠隔授業の実施が計画されたのは、2020年3月の本学メディア委員会(情報センター主催)でした。ここで、本学で実施可能な遠隔授業の形態についての議論がされました。
 その後、遠隔授業の必要性を鑑みて、先行して試験的に遠隔授業を実施していた歯学部、予てよりPC必携教育を実施していた心理科学部などの経験を参考にしながら、様々なFDセミナーや研修会を実施することとなりました。
 学部主催のFDセミナーとして最初に開催したのが心理科学部FDセミナー「Zoomを活用した授業実践の方法と諸課題」です。セミナーはZoomを使ったライブ配信方式で実施され、参加者は85名で、Zoomについての概要、オンライン授業の注意点、オンライン授業の実施方法、学生・教員間での双方向性を担保する方法などについての研修が行われました。
 引き続き、看護福祉学部FDセミナー「はじめて遠隔授業を行う教員のためのメディア活用術(基礎編)課題」を開催しました。このセミナーもZoomで実施され、参加者は138名であり、Zoomを使ったライブ配信型の遠隔授業やGoogle for Educationを使ったオンデマンド配信型の遠隔授業における教材の作成方法などを紹介しました。
 さらに、全学的に遠隔授業の実施が決定されてから、各学部からサポーター教員として合わせて60名の先生が選任されました。サポーター教員は、遠隔授業を実施する上での技術的・教育的な支援をする役割を持ち、これにより、教員への個別の支援体制を全学的に整えることができました。今回の遠隔授業の取組みの中では、特に、サポーター教員の先生の支援をいただくことができたこと、また、それが全学的体制の中で作られたことが、重要であったと考えています。
 また、サポーター教員の先生の支援が始まりました時期には、遠隔授業を実施するための詳細な手順も決定され、それを受け、遠隔授業の実施方法についての全学研修会をZoomによるライブ配信形式で2日間にわたって実施しました。Zoomによる参加者は、延べで500名を超え、ライブ配信授業を実施する際の教卓PCの使い方など、より具体的な遠隔授業の実施手順についての研修を行いました。
 研修会後には、設定を終えた教室の教卓PCを使って、授業担当教員が自由に遠隔授業の試験をできる期間として2週間程度を設定しました。また、すべての教員から遠隔授業を実施するために不可欠となる操作(ミュート設定や画面共有の方法)ができるのかを、図3のチェックシート形式で回答をお願いしました。学生に対しても、本学ホームページから、オンデマンドビデオによる遠隔授業の解説、遠隔授業を受講するにあたっての各種FAQの提供などを行いました。
 また、教室から遠隔授業を実施したときのネットワーク負荷やデータ通信量を計測するために、キャンパス内の館内放送を使ってすべての教職員に協力をお願いしながら全学一斉配信テストを実施するなど、全学が一致して遠隔授業を実施するための準備を進めました。

図3 チェックシート
図3 チェックシート

8.むすび

 新型コロナウイルス感染症拡大の防止対応として実施した本学の遠隔授業の取組みについて報告しました。本学の遠隔授業では、Zoomを利用したライブ配信とGoogle for Educationを利用したオンデマンド配信の2つの形式を柱としました。さらに、学生が、円滑に遠隔授業を受講できるように、独自にライブ配信授業ポータルサイトを開発しました。これにより、学生は、時間割に記載されている教室からライブ配信されている遠隔授業を受講できるなど、今までの通常の大学生活と同じような仕組みや手順で遠隔授業を受講できるようにしました。
 また、教員の支援体制として、FDセミナーなどの研修会を繰り返し開催したり、授業担当教員が自由に遠隔授業の試験をできる環境などを構築しました。さらに、鍵となったのが、遠隔授業を実施する上での技術的・教育的な支援を担っていただくこととなったサポーター教員の先生の力添えでありました。なお、今回報告した取組みの内容については、2020年5月1日現在におけるものであり、今後の情勢により変化することもあります。
 遠隔授業における大きな課題の1つが、遠隔授業と対面式授業との間での教育効果の違いを検証することである考えます。遠隔授業による教育効果については、今後も検証を重ねる予定です。その中で、今回、遠隔授業で期待される効果の1つが、ICTを活用したコミュニケーションを行う上で問われてくる能力の醸成です。今回の遠隔授業を通して、学生はICTの可能性と、さらに、その限界までを自らの実体験をもとに感じることができると考えています。特に、本学が医療系総合大学であることを踏まえると、将来、学生が医療の現場で医療人として情報を発信する側の立場になったときに、ICTを活用したコミュニケーションの必要性や重要性を認識した上で、医療の現場で利用するときに何をどのように気をつけなければならないのかを一人ひとりが考えることができる力が養われることを期待します。
 また、本学の遠隔授業は、私情協での取組みを背景としており、今後も、教員の情報技術支援研修の拡充、特に、オンライン研修会の拡充を期待しています。また、各種の発表会や講演会のオンライン化の拡充も期待しますが、例えば、従来型の発表会でもよく行われるような、講演者と質問者とが名刺交換をしながら意見交換を深めるなどの懇親の場もオンラインの環境で提供していただけることを期待いたします。

謝辞

 60名のサポーター教員の先生に深く感謝を申し上げます。また、本学情報推進課や教務課をはじめとした職員の方に深謝します。本報告の中で一部紹介をしたGoogle for Educationの共有機能や共同編集機能を利用した確認テストやグループワークの取組みはJSPS科研費19K03089と19K14325の助成を受けたものです。

参考文献および関連URL
[1] 片岡竜太, “ICTを活用した分野横断型の課題発見・解決型教育の提案”, 平成30年度分野連携アクティブ・ラーニング対話集会(栄養学・薬学・医学・歯学・看護学グループ), 2019, http://www.juce.jp/senmon/active/pdf_2018/eiya_03.pdf
[2] 西牧可織, 二瓶裕之, “クラウド活用による同僚間アンケート調査を取り入れた問題発見課題解決型協働学修”, ICT利用による教育改善研究発表会論文, pp. 113-116, 2019, http://www.juce.jp/archives/ronbun_2019/01.pdf
[3] 二瓶 裕之, 和田 啓爾, 小田 和明, “学際的チーム体制により開発した薬学6年制教育支援システムと主体的な学習時間の確保”, ICT活用教育方法研究 15(1), pp. 7 -12, 2012, http://www.juce.jp/archives/ronbun_2012/02.pdf

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