事業活動報告 2

2019年度 産学連携事業実施報告(大学教員の企業現場研修/社会スタディ)

大学教員の企業現場研修

 本協会では、教員の教育力向上を支援するため、賛助会員の全面的な協力を得て、情報産業における事業戦 略の動向、最新の技術動向、社員教育制度の紹介、若手社員を交えた大学での学びに対する要望などの意見交換を通じて、授業改善に向けた気づきを提供する取組みを進めている。10月から12月にかけて協力いただく企業と調整を行い、令和2年2月から3月に4社で大学教員の企業現場研修を実施した結果、67名の大学教員が参加した。以下に実施結果の概要を示す。

第1回 日本電気株式会社

  1. 研修テーマ:社会価値創造企業における人材育成・人財確保を現場で学ぶ
  2. 研修目的:本研修では、社会に貢献し、新たな価値を社会とともに創造していくNECの技術開発や、それを支える人財育成について紹介します。また、若手社員との交流を通じて大学教育に求められる学びについて考えるきっかけづくりとします。
  3. 研修企業:日本電気株式会社
  4. 開催時期:令和2年2月18日(火)13:30〜17:30
  5. 開催場所:NEC本社ビル
  6. 参加者数:23名(内、情報交換会参加15名)

プログラム

13:30 事業の概要紹介
日本電気株式会社の会社概要・事業等について
13:55 ICT活用事例の紹介
顔認証や群衆行動解析を始めとする生体認証、行動検知・解析技術を中心とした ICT の利活用により、世界最大のイベントにおける厳重かつスムーズな安全・安心対策について
社員教育制度の紹介
 「Code of Values」をベースとしたNECの社員育成制度について
若手社員との意見交換(大学での学びについて)
 社会人になってから今までの経験を通じて、大学時代にやっておけば良かったと思うことや大学時代に役立った経験・授業はどの様なことだったのか等について若手社員から発表し、意見交換。
17:30 終了
17:30 情報交換会
  1. 実施結果
    〔若手社員との意見交換〕
     入社2年から4年目の4名の若手社員が、社会人として必要と感じたことや大学時代の学びを振り返り発表した。
    〔大学教員のアンケート結果〕
     参加者の殆どが「他の教員にも紹介したい」、「授業に役立つ」と回答している。以下に特徴的な意見を紹介する。

第2回 株式会社日立製作所

  1. 研修テーマ:私たちの生活を支えるデジタルソリューション活用事例の紹介
  2. 研修目的:IoTの急速な普及や先進的なデジタル技術により、一人ひとりのQoL(クオリティ・オブ・ライフ)や幸福度を高める新しいサービスが生み出されています。本研修では、日立のIoTに対する取組みが、私たちの生活にどのように関わっているか、事例を用いて紹介します。また、日立の求める人財像と、社員教育制度を紹介するとともに、若手社員を交え、社会人としての視点から、大学教育に求められることを整理し、今後の教育の参考としていただくための意見交換を行います。
  3. 研修企業:株式会社日立製作所
  4. 開催日時:令和2年2月25日(火)13:30〜17:00
  5. 開催場所:株式会社日立製作所 ハーモニアス・コンピテンス・センター
  6. 参加者数:16名(新型コロナウィルスの感染防止のため情報交換会は中止)

プログラム

13:30 事業の概要紹介・人材育成の取組み
 日立グループが展開する社会イノベーション事業に関する事業フィールドや事業戦略、求める人財像の紹介、採用面での取組み、入社後の人材育成など、採用・育成戦略について
14:30 若手社員との意見交換(大学での学びについて)
 若手社員より、大学時代に経験したかったことや役立ったことなどを説明し、社会人としての経験を通じて、大学教育に求めたいことや必要だと考えられることについて意見交換
15:30 最先端ICT活用事例の紹介(ショールーム見学)
 日立の最先端のIT(Information Technology)とOT(Operational Technology)を組み合わせたデジタルソリューションを提供し、社会が抱える課題を解決することで、人々のQoL(クオリティ・オブ・ライフ)の向上を目指し、私たちの生活の中で日立のデジタルソリューションがどのように関わっているか、事例やデモンストレーションを交えて紹介。
17:00 終了
  1. 実施結果
    〔若手社員との意見交換〕
     入社1年目と7年目の社員が、社会人として必要と感じたことや大学時代の学びを振り返り発表した。
    〔大学教員のアンケート結果〕
     8割程度が「他の教員にも紹介したい」、9割以上が「授業に役立つ」と回答している。以下に特徴的な意見を紹介する。

第3回 株式会社内田洋行

  1. 研修テーマ:Society5.0に向けた情報の価値創造とICT人材の育成
  2. 研修目的:今回の研修では、「Society5.0」時代の教育で求められる「ICTの先進技術」と「教育ビックデータ」活用の可能性について当社の取組みと事例を交え紹介致します。併せて、企業の求める人材像を共有するため、ICTのシステム構築に関わる若手社員との意見交換を行い、これからの大学教育に求められる具体的な事柄について課題を整理します。
  3. 研修企業:株式会社内田洋行
  4. 開催日時:令和2年3月4日(水)13:00〜16:30
  5. 開催場所:株式会社内田洋行 ユビキタス協創広場 CANVAS
  6. 参加者数:14名(新型コロナウィルスの感染防止のため情報交換会は中止)

プログラム

13:00 会社概要と事業領域の紹介
 株式会社内田洋行の会社概要・事業等について
13:20 未来の教育を体験〜ICTを活用した2先進事例の紹介
 「アクティブ・ラーニングスペース」の事例紹介とともに、ICTを活用したこれからの「未来の教育」の紹介と見学、体験
13:50 「内田洋行」が求める人材像について〜採用基準と社員教育プログラム等の紹介〜
 内田洋行の社員教育プログラムを通じて、「情報の価値化と知の協創をデザインする企業」を目指して取組んでいる人材育成の考え方や仕組みの紹介と意見交換
14:40 Society5.0 時代の教育を支える先端技術と教育ビックデータ活用に向けた取組み
 未来の日本を支える子どもたちに、個別に最適化された教育をどのように届けていくか。当社が取組む教育現場でのICT先端技術の利活用と教育ビッグデータ活用の可能性の紹介と意見交換
15:30 システムエンジニア・営業業務の紹介と若手社員との意見交換
 システムエンジニア及び営業若手社員から業務内容、必要なスキル、ICT 企業の最新の課題や実態を発表し、求めるシステムエンジニアに関する人材像、キャリアアップについての考え方などを紹介、その後若手社員との意見交換
16:30 終了
  1. 実施結果
    〔若手社員との意見交換〕
     配属部門の責任者から新人教育制度の説明を行った後、入社2年から3年目の3名の若手社員が社会人として必要と感じたことや大学時代の学びを振り返り発表した。
    〔大学教員のアンケート結果〕
     参加者の9割強が「他の教員にも紹介したい」、全員が「授業に役立つ」と回答している。以下に特徴的な意見を紹介する。

第4回 富士通株式会社

  1. 研修テーマ:DX(デジタル・トランスフォーメーション)時代のICT活用
  2. 研修目的:DX(デジタル・トランスフォーメーション)をキーワードにAI、ビッグデータ、IoTなど最新技術が進展し社会に急速に浸透してきています。このような社会において、現実の課題を解決しながら活躍できる人材育成を企業の実例をもとに考える機会にします。また、ICT業界で高い専門性もって活躍する人材育成に向けた社員教育制度の紹介や、若手社員との交流も交えて、企業の求める人材と大学に求められる教育について意見交換を行い、改めて人材育成を考えるきっかけづくりとします。
  3. 研修企業:富士通株式会社
  4. 開催日時:令和2年3月5日(木)13:00〜17:00
  5. 開催場所:デジタル・トランスフォーメーション・センター
  6. 参加者数:14名(新型コロナウィルスの感染防止のため情報交換会は中止)

プログラム

13:00 富士通における人材育成への取組み
 富士通の事業概要をはじめ、社会の変化に対応可能な人材育成体系の紹介と、大学で身につけて欲しい基礎知識、能力等について意見交換
14:00 ICT 先進活用事例の紹介と意見交換(1)「信頼でデータ利活用を支えるデータプラットフォーム」
 信頼できるデータ利活用のためのプラットフォームでブロックチェーンをベースとしたテクノロジーで支えようとしており、ヤフーとLINE が経営統合するなど、デジタルデータをめぐる動きが活発になる中「パーソナルデータの活用」VS「プライバシーの侵害」という課題に対し、社会実装の事例や未来予測を交えて最適解を紹介
15:10 ICT 先進活用事例の紹介と意見交換(2)「自動採点システムから拡がるスポーツの未来」
 国際体操連盟と共同で 3Dセンシング/AI による体操プロジェクトを推進しており、独自の技術を活用し、「する」「観る」「支える」の観点からスポーツの新たな世界の実現を目指した取組の状況を紹介
16:10 若手社員との意見交換(大学での学びについて)
 社会人になってから今までの経験を通じて、大学時代に役立った経験・授業や大学に対して望みたいことなどについて発表と意見交換
17:00 終了
  1. 実施結果
    〔若手社員との意見交換〕
     入社2年から3年目の4名の若手社員が、社会人として必要と感じたことや大学時代の学びを振り返り発表した。
    〔大学教員のアンケート結果〕
     参加者の8割が「他の教員にも紹介したい」、9割が「授業に役立つ」と回答している。以下に特徴的な意見を紹介する。

社会スタディ

 「情報通信技術を活用して新しい価値の創出の重要性に気づいていただき、早い段階から発展的な学びが展開できることを支援する」ことを目的に地方の学生も参加しやすいようにネット参加を可能にして全国の国・公・私立大学の1・2年生に参加を呼びかけたところ、会場参加42名、ネット参加30名の合計72名が参加した。以下に概要を報告する。

1.開催目的

 社会スタディで、情報通信技術を活用して新しい価値の創出の重要性に気づいていただき、早い段階から発展的な学びが展開できることを目指している。

2.開催日時・場所

 日時:令和2年2月12日(水)12時30分、場所:株式会社内田洋行 ユビキタス協創広場 CANVAS

3.参加者

 会場参加18大学42名 ネット参加12大学37名

4.参加者の内容

(1)会場参加
 1年生45%、2年生55%、男性51%、女性49%、学部別では情報・理工系学部33%、経済・経営10%、メディア系24%、家政系5%、人文社会系7%、法学系21%などであった。
(2)ネット参加
 1年生48%、2年生52%、男性63%、女性37%、学部別では情報・理工系学部40%、経済・経営20%、家政系7%、人文社会系30%などであった。

5.プログラム概要

12:00 12:00〜12:30 受付開始
12:30 開会挨拶
12:35 社会スタディの進め方について
12:50 1.有識者からの情報提供、質疑応答、補足説明
(1)さあチャレンジを始めよう“未来は君たちの手にある”-AIと社会イノベーション-
 須藤 修 氏 (東京大学大学院情報学環教授)

※ IoTやAIなどデジタル技術をベースに産業や社会の在り方は大きく変わろうとしている。インド、中国、米国などでは新しい発想によるイノベーションやスタートアップ(起業)が桁違いの生産性向上や新たな消費をもたらしている。これからの社会を変えていく主役は従来にとらわれないイノベーションにチャレンジする君たちである。
13:45 (休憩) 13:45〜13:55(10分)
13:55 (2)価値を創り出すイノベーションとは
 小西 一有 氏 (合同会社タッチコア代表九州工業大学客員教授)

※ デジタル革命が進展していく中で成功するには新たな価値を生み出す様々なイノベーションが求められている。今まで日本が得意としてきた「問題解決のイノベーション」だけでなく、「モノからコト」へのような人々の生活の豊かさや幸せ感をもたらす「意味のイノベーション」が避けられなくなっている。
14:50 (3)AIを活用する力
 永井 浩史 氏 (富士通株式会社Data×AI事業本部ディレクター)

※ 10年先・20年先の社会を予測し、そこから現在を考えてイノベーションに取組む考え方と現場を見て、デザインし、コンセプトを検証する思考方法を身に付けてほしい。「未来洞察力」と「場のデザイン力」を組み合わせることが「AIを活用した価値創造に必要な思考のフレームワーク」である。
15:45 (休憩) 15:45〜15:55(10分)
15:55 2.気づきの整理と発展
(1)気づきの整理と発展のためのグループ討議

※ グループで「情報通信技術を活を活用して未来社会にどのように向きあうか」について考える。
17:15 (2)気づきの発表
※ グループごとにまとめた結果を代表者が発表する。
17:30 閉会挨拶

6.有識者からの情報提供の概要

(1)「さあチャレンジを始めよう“未来は君たちの手にある”-AIと社会イノベーション-」
   須藤 修 氏 (東京大学大学院情報学環教授)

 世界では、IBM、Google、中国研究機関などが非常に高度な競争を展開しており、地球的規模で大変動が起きようとしている。AIの利用は自由、尊厳、平等、安全性及び持続可能性の向上など「人間中心の社会原則」を尊厳することが極めて重要である。これからの社会に必要なのは、AIを正しく利用できる素養・知識・倫理を持つことである。未来は若い君たちの手にあるので、文理の境界を超え、新しい社会の創造に向けたスキル習得や社会的実践を通じて「AIに負けない叡智」を培ってほしいことが紹介された。

(2)「価値を創り出すイノベーションとは」
   小西 一有 氏 (合同会社タッチコア代表九州工業大学客員教授)

 今まで日本が得意としてきた「問題解決のイノベーション」だけでなく「モノからコト」へのような人々の生活の豊かさや幸せ感をもたらす「意味のイノベーション」が避けられなくなっている。例えば、ロウソクは「暗いところを明るくする」ものであったが、Yankee Candleは「癒し」、「疲労回復」、「明日への活力」など全く新しい価値を創造した。これが「意味のイノベーション」である。また、写真は、過去を偲ぶモノから、時間の共有やメッセージを送るツールに変化しているが、これに対応できなかった米国のイーストマン・コダック社は倒産した。新しい価値を創り出し、成功していくには、経験するという価値に気づき、永く愛される商品やサービスの創造にチャレンジしてほしいことが紹介された。

(3)「AIを活用する力」
   永井 浩史 氏 (富士通株式会社Data×AI事業本部ディレクター)

 北米・欧州・中国などを中心にグローバルなAIの社会実装と巨額な投資、DX(デジタル・トランスフォーメーション)による大規模な変革が進んでいるが、日本の取組みは遅れている。これに打ち勝つにはAI、IoT、ビッグデータ、量子コンピュータなどの開発や実装の加速が不可欠であり、これからが勝負である。AI活用には、観察・試作・検証の「場をデザインする力」と未来を考えて今を考える「未来洞察力」が必要であり、AIに苦手意識を持たないで活用する素養を身に付けてほしいことが紹介された。

7.気づきの整理と発展

 質疑応答では、自分の意見をもって批判的に捉える学生の質問も多く見られ、参加学生の高い意識が確認された。また、気づきの整理と発展では、情報提供を受けて何が重要であったかを3名1組のグループで整理した後、5〜6名のグループに拡大し「未来社会にどのように向き合うか」について、個々の学生がイメージする考えや夢を意見交換した。どのグループも熱心に議論が交わされており、最後に各グループから3分程度発表させたところ、ICTを活用した「ドローン宅配」、「空き家対策としての古民家カフェ」、「高齢化社会の問題解決」などにイノベーションの課題があることが報告された。他方、アンケートの感想として、「AIやICTは道具であり意思をもって使いこなす必要性を理解した」、「目的意識をもって未来を想定し、今を考える問題解決思考の重要性を感じた」、「イノベーションは技術革新と考えていた今までの認識の誤りに気づき、新たな価値創造の可能性を感じた」などの感想が寄せられた。

8.学びの成果の確認

 参加者から2月末までに提出された「学びの成果報告書」(A4サイズ1枚程度)は会場参加者32名、ネット加者5名であった。報告された成果物を本協会の産学連携プロジェクト推進小委員会で審査した結果、会場参加者32名には修了証、ネット参加者5名にはネット参加修了証を発行した。また、特に優秀と認められた会場参加者6名には「優秀証」を発行し所属大学長に報告した。


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