政府関係機関事業紹介
笹山 浩二(国立情報学研究所 学術ネットワーク研究開発センター)
国立情報学研究所(以下「NII」)では、大学や研究機関の研究活動を支援する学術情報基盤の整備事業を進めており、その一環として学術情報ネットワーク(Science Information NETwork:SINET[1])を構築・運用しています。SINETでは、従来主として高速広帯域性を重視した有線サービスを提供してきましたが、将来のIoT系研究の推進を目的として初めてモバイル機能の導入を行いました。
広域エリアの各種センサ等からモバイル網を介してデータを収集し、SINETに接続されている任意の大学や任意のクラウドに転送して、高度な解析を行う研究環境を効率的に提供することを目的とします。研究グループごとに閉域網を構成して、センサ等からのデータ収集からデータ解析までをセキュアに実行可能とします。
本稿では、上記モバイル機能である広域データ収集基盤の概要、実証実験成果総括、今後の展開について紹介します。
まずSINETについて紹介します。SINETはNIIが構築・運用している情報通信ネットワークであり、日本全国の大学・研究機関等に対して先進的なネットワークを提供するとともに、国際間の研究情報流通を円滑に進められるよう海外研究ネットワークとも相互接続しています。2016年4月から運用しているSINET5は、全都道府県に設置されたSINETノード間を100Gbpsの超高速ネットワークで接続し、フルメッシュで低遅延なネットワークをSINET加入機関に提供しています。加入機関数は、2020年7月1日現在で938機関に上ります。
急速に拡大するIoT関連の研究や事業を支援することを目的として、SINETにモバイル機能を取り入れた広域データ収集基盤[2]を構築し運用しています。
図1に示すように、これまでSINETでカバーできていなかった遠隔地、広範囲エリアなどに対して、セキュアなモバイル通信環境を提供します。モバイル通信キャリア3社のネットワークの中にインターネットとは切り離されたSINET専用の仮想ネットワークを形成し、これをSINETに直結することでセキュアなデータ転送を実現します。結合点からは、研究プロジェクト毎に仮想専用網(VPN)を形成して、セキュアかつ高性能に大学や商用クラウドの計算機環境に接続します。これら既存計算機環境への接続だけではなく、協力事業者が提供するデータ処理環境への接続も提供し、データ収集、解析を包括的かつOpenに提供して研究活動活性化を支援しています。
図1 広域データ収集基盤の概要
広域データ収集基盤は、大学等における一般利用サービスではなく、まずは実証実験として利用者からの研究テーマ提案を公募する形態で研究環境を提供しました。実証実験期間は、2018年12月21日〜2020年3月31日であり、サービス開始記者会見を皮切りに利用者からの特別講演、活動事例報告会等のイベントや、PRビデオ制作、広報誌掲載等の広報活動を実施しました。
図2に示すように、農林水産研究から情報系研究に至る幅広い分野にわたって、大学等25の研究機関から42件の独創的な研究テーマが提案、採択されました。このうち10件は企業等と連携して取組む産学連携案件であります。事情に因り実施に至らなかった案件を除く、30件の研究テーマの推進に貢献しました。成果報告書やアンケートによる利用者の実際の声から、モバイル・ワイヤレスとしての特性のみならず、閉域網に因るセキュア・安全性の観点で、従来の研究環境では得られなかった多くのメリットをアピールできました。以下、具体的な実際の利用事例・メリットを紹介します。
図2 広域データ収集基盤の利用メリット
第1期に引き続き、2020年度より2年間の期間で広域データ収集基盤第2期の実証実験公募[2]を実施しています。研究テーマ提案書は現在随時受け付け中であり、早期実験着手に対応するため、応募から2週間程度の選定期間を経て迅速に選定結果を通知します。データ収集用のモバイル通信環境のみならず、民間の通信キャリア、クラウドベンダー等協力事業者が提供するデータ処理環境も低コストで利用可能であります。
第1期の成果を基に、29件の研究グループが継続して第2期に参加提案している。7月1日現在、今年度新規提案8件を含め、計37件の独創的な研究テーマが提案され、研究推進に貢献しています。
現行SINET5の後継として、2022年度よりサービス提供予定の次期ネットワークにおいて、広域データ収集基盤を次期モバイル基盤として拡充する計画概要を図3に示します。モバイル基盤拡充の最重要ポイントは5G技術の導入であります。
5G導入シナリオとして2つの方式を検討しています。図3の左側は、現在の4G対応構成を5G対応に拡張する商用モバイルキャリア網活用方式を示します。適用領域の拡大として、大学等を介したインターネット接続に関しても検討中であります。一方図3の右側は、大学等が構築するローカル5G基地局とSINETが構築するローカル5Gコア網が連携する、自営モバイル方式を示します。ローカル5Gの性能を最大限に引き出し、超高速のエンドツーエンドモバイル通信の実現を目指します。
図3 次期モバイル基盤拡充計画の概要
2018年よりSINETに初めて導入されたモバイル機能であります広域データ収集基盤の概要、第1期実証実験成果総括、第2期公募案内、次期モバイル基盤拡充について紹介しました。広域データ収集基盤は、従来の有線サービスでは実現困難でありましたIoT系研究推進に大きく貢献しており、第1期から継続して第2期の実証実験環境を提供しています。
2022年度より提供予定の次期ネットワークでは、モバイル基盤の拡充として5G導入を検討しており、現行の商用キャリア網活用型に加え、自営モバイルであるローカル5Gの導入も検討を進めます。
参考文献および関連URL | |
[1] | 学術情報ネットワークSINET:https://www.sinet.ad.jp/ |
[2] | 広域データ収集基盤:https://www.sinet.ad.jp/wadci/ |