特集 対面と遠隔(オンライン)を組み合せたハイブリッド型授業の進展と教育改革
山田 剛史(関西大学 教育推進部教授)
コロナ禍における緊急対応型遠隔授業への挑戦から、遠隔授業の可能性や対面授業の価値について発見・再考することとなりました。各大学は、この未曾有の状況下で、地域や規模、分野などそれぞれが置かれる文脈を考慮しつつ、遠隔授業と対面授業を駆使した大学教育を展開しています。コロナ禍2年目に入った2021年度は、1年目の挑戦から得た実践知を踏まえて、コロナ後の大学教育に関する検討が始まっています。
コロナ禍直後に迎えた2020年度春学期は、まずは「学びを止めない」を共通のスローガンに、Zoomなどのオンライン会議システムを活用した同時双方向型の遠隔授業や大学独自のLMSをプラットフォームとしたオンデマンド型の遠隔授業を軌道に乗せることに注力しました。学期中盤以降は、遠隔授業における学生の学習評価をどのように行えばよいかという問題に直面しました。その解決方法は単純ではなく、現在も様々な工夫や探究が続いています。本稿では、この学習評価の問題に焦点を置いて、ニューノーマルの学習評価をどう考え、実践するかについて取り上げます。
そもそも学習評価とはどのようなものなのでしょうか。学習評価とは、「学習実態を把握し、適切なフィードバックを行い、学習活動の成果を学習目標に照らして判断する営み」を指します[1]。また、学習評価には、授業開始前・開始時に行う診断的評価、授業期間中に行う形成的評価、授業終了時・終了後に行う総括的評価の3種類があります。学習評価とは、最終的な成績をつける、そのための最終試験や最終レポートを課すといった役割以外にも、授業が始まってから終わるまですべての過程において、学生の学習活動を促す上で重要な役割を果たしうるものだということです。
この定義と役割を押さえた上で、遠隔授業と対面授業における学習評価の差異について考えます。唯一異なる点は、客観試験のあり方です。とりわけ正誤が明確な客観試験については、同時双方向型であろうとオンデマンド型であろうと、完全に不正行為を取り除くことはできません。防止するための監督者ツールの開発なども進んでいますが、このスタンスは取らない立場で言及します。逆に、それ以外の評価については対面も遠隔も、対面下で行うかICTを活用するかの違いはあれど、基本的に考え方は同じです。以降では、どのように学習評価を実践していけばいいのかについて取り上げます。
遠隔授業において客観試験の実施が最も難しいと上述しましたが、実際には理工系、医療系分野など多く取り入れられている方法であることは事実です。遠隔形態において、専門知識の獲得有無を問う場合、最も取りやすいのは試験方法の工夫です。具体的には、LMSを活用するケースが大半かと思います。例えば、「予め問題群をプールしておいて、試験問題のパターンを複数用意する」、「試験問題の提示順をランダムにする」、「小問ごとや一問ごとなど、解答時間を細かく区切る」といった方法です。それぞれメリット・デメリットはありますが、学生同士が相談・閲覧・共有等の不正行為をできる限り生じさせないようにするためにはこうした工夫が必要になります。
次に、試験問題を工夫するというものです。分野によってそれは難しいという意見もあると思いますが、そもそも正誤問題や暗記型の問題を減らすあるいは無くすという方向性です。現在の大学教育は社会との接続・移行の観点からも、知識の有無・多寡ではなく、知識・概念に対する思考や理解の深さ、それらの活用・表現による汎用的能力の獲得が重視されています。その意味でも、これを機に試験問題のあり方を問い直すことが、ニューノーマルの学習評価ひいては大学教育において求められるのではないでしょうか。具体的には、「問題自体を資料参照やネット検索にも耐えられるものにする」、「解答に加えて、解答手順や使用した法則・原理も記述させる」、「学習した概念やキーワードの関係性を図示(コンセプトマップ)し、説明させる」などがあげられます。理工系分野などでは、解答およびプロセスを紙に手書きさせ、写真を撮り、LMSにアップロードさせるといった方法を取っているケースも多く見られます。
客観試験そのものをどう考え、実践するかという観点でいくつの方法を紹介しましたが、もう一つの方向性として、それ以外の多様な評価方法を検討するということも考えられます。具体的には、授業内外での小テストや論述・レポート、振り返り、アンケート、自己評価・相互評価等の提出や内容などがあげられます。併せて、評価の配分比率を検討します(例えば、小テスト2割、論述・レポート2割、振り返り2割、自己評価1割、最終試験3割など)。最終試験など一発勝負になれば、それほど厳格かつ厳重に実施する必要が生じ、リスクも大きくなります。多様な方法を用い、配分比率を変えることで、一つ一つの評価指標の重みを分散させ一発勝負のリスクを回避しつつ、多面的な側面を評価することも可能になります。
この点と関連して、形成的評価を活用するということも効果的です。遠隔授業になると、それだけ学生の顔が見えなくなります。学生がきちんと理解できているかどうか、授業について来ているかどうか、学習評価の定義で述べた最初の段階である「学習実態の把握」が困難になります。そのため、通常以上に形成的評価を取り入れることが学習の継続性において重要となります。そのことが、数々の実態調査からも示される「課題の多さ」につながっているわけです。いみじくも、遠隔授業の導入によって形成的評価が加速化したとも言えます。反面、学習評価の定義の2つ目のポイントである「適切なフィードバックを行う」という点において、課題提出のみをさせて、フィードバックが十分に行われていないことも様々な調査から見えています。課題が学習を促す評価として機能するためには、フィードバックが不可欠です。ただし、形成的評価の実施には一定の負荷が伴うため、より効率的・効果的な形成的評価を行うためのICTツールの活用について紹介します。
まずは、大学独自のLMSの機能を活用するというのが最初のステップになります。機能が複雑で分かりにくいことも多いため、研修動画やFDの機会を利用したり、いきなりすべての機能を使おうとせず、少しずつ選択肢を増やしたりしていくと良いと思います。大半のLMSには「課題」「レポート」「テスト」に関するツールが用意されています。開始・終了期間を設定したり、自動採点の機能が備わっていたり、問題群からランダムに提示したり、個別の学生に連絡・通知を行ったりと、LMS上で課題の設定から採点・フィードバックまで可能になっています。テストの形式も、正誤問題や穴埋め問題、数値入力や短文入力など、様々なテンプレートが用意されています。対面時の紙媒体での提出・収集・分類・採点・返却業務に比べて、大幅な時間削減が可能になるため、コロナ後の活用も大いに期待できます。
オンライン会議ツールによる同時双方向型の遠隔授業においても、対面時より学生の学習活動や履歴を収集しやすくなっています。例えば、Zoomの場合、投票機能やチャット機能を活用すれば、どの学生がどのような回答・反応をしたのかを把握することが可能です。レコーディング機能を使えば、学習活動全体を把握し、多面的な評価情報を収集することができます。また、学生は自身のデバイスから受講しているため、チャット等で予め作成しておいたウェブアンケートのURLを送付し、即座に回答を求めること、それらを即座に可視化することも可能です。そうすることで、学生の理解状況を適宜把握しながら授業を進めることができ、評価情報の収集とフィードバックを同時に行うこと、ひいては学生の学習の継続性を促すことにつながります。
客観試験には、扱った範囲全体から重要な知識を選択し、効果的・効率的にその理解度を把握し、公平に評価することができるという最大のメリットがあります。他方、そこで捉えられる側面には限りがあることも確かです。これまで取り上げてきた学習活動の多くは単純に正誤で判断できるものではなく、様々な「正解」が存在します。また、一つの学習活動を見ても、そこには多数の能力が含まれています。例えば、ミニッツペーパーやレポートなど文章による産出物には、語彙力や文章作成力、批判的思考力などが含まれています。ペアワークやグループワークなどの活動には、コミュニケーション能力や協調性、リーダーシップなどが、面接やプレゼンテーションなどの活動には、情報リテラシーや論理構成力、表現力などがそれぞれ含まれます。このように複数の能力が含まれる学習活動や学生によって産出された成果物を評価する方法・ツールとして、ルーブリックの活用が推奨され、多くの大学で取り入れられています。
ルーブリックは、課題、観点(評価規準)、評価尺度、記述後(評価基準)で構成される評価基準表(マトリクス)になります。もともと客観的に評価することが難しい側面を捉えようというツールであるため、当然限界はありますが、教員の中にある暗黙の評価基準を外化し、学生との間の共通言語にすることで、評価と指導が一体となった本質的な評価を可能とします。ルーブリックに関する実践例は多く存在していますので、関心に応じて近いものを選び、自分なりにカスタマイズすることで作成負担を軽減することができます。
オンデマンド型(LMS)にせよ、同時双方向型にせよ、必ず生じる問題が通信トラブルです。特に、重要度の高い課題や一度きりの試験の場合、通信トラブルにより提出できなかった、途中で切れてしまった、どうすればよいかなどの連絡が多く寄せられることになります。その真偽を確かめる術はないではないのですが、ITセンターへの負荷が高くなり現実的ではありません。そうしたトラブルをできる限り回避するためにも、課題等を提出する際には、提出した証拠となるものを残しておくよう伝える(例えば、データのバックアップを取る、スクリーンショットで画面を記録・保存する)、TA等を活用し、事前にリハーサルを行う、複数の提出方法を準備・告知しておく、トラブルが発生した場合の連絡先や対応方法等を予め伝えておく、などがあげられます。加えて、不正行為が生じた場合の対応を検討し、学生に伝えることや、剽窃ツールなどを活用してレポートの剽窃に対応するといったことも考えられます。
不正行為をいかに防ぐか、管理強化という方向性もありますが、より本質的には、学生にもっと学問的誠実性(Academic Integrity)の重要性について伝えることではないでしょうか。学術のコミュニティに関わる一員として、学問的誠実性を大切にしようとする大学文化を学生と共有したり、学問的に望ましい行いとは何か、不誠実な行いとは何か、なぜ学問的誠実性が重要なのかについて学生と話をする機会を設けたりすることなどです。現実はそう簡単ではありませんが、このような大学文化、評価文化が育まれることを願っています。
本稿は、筆者が京都大学高等教育研究開発推進センター在職時に執筆し、オンライン授業支援サイト「Teaching Online@京大」内の「オンライン授業で、学習をどう評価するか」に掲載されている内容を元に作成しています。同センタースタッフに、この場を借りて御礼申し上げます。
参考文献および関連URL | |
[1] | 山田剛史 (2018).「学習評価の意義と課題を理解する」中島英博編『学習評価』玉川大学出版部, pp.2-9. |