事業活動報告 No.4

2020年度 FDのための情報技術研究講習会
開催報告

1.はじめに

 私立大学情報教育協会が主催する本講習会は、大学教員の教育技術力向上を目的とした学外FD活動事業の一つとして位置づけられ、多くの参加者を集めて毎年開催されている。
 昨年度の講習会開催は、新型コロナ感染拡大の直前で影響は最小限に抑えることができたが、今年度はコロナ禍収束の兆しが引き続き不透明なため、第1回および第2回の運営委員会において、本講習会実施可否について慎重に議論を重ねた。研究教育機関における関連事業の実施形態等の実情を参考に、社会全体の動向を勘案しつつ、河合儀昌担当理事ならびに各委員の意見を集約した結果、本年度の研究講習会はオンラインで開催するという結論に至った。また、例年開催日数は2日間であったが、今年度は、2月25日(木)の1日間の設定とした。
 大学教育に携わるほとんど全員の先生方が、これまでの対面を中心とした授業から、ICT(情報通信技術)を活用した授業への可能性について見つめ直す機会に直面し、オンライン授業を如何に効果的に進めるか、実際にどのように自分の授業の中で展開していけば良いのか、その具体的方法を模索していると想定した。
 そのような現状に鑑みて、今年度の研究講習会では、どの分野でも必要となるICTの活用方法および教育改善手法の習得を目的として、オンライン授業の進め方、オンライン授業の教材作成、対話型PBL、ルーブリック作成、データサイエンス・AI活用教育、著作権問題などについて、基礎的な理解を深めるとともに具体的に即応・実践できるようにとの意図を持って「全体会」と「ワークショップ」を企画した。
 「全体会」の内容は、オンライン授業に関する2つのテーマと、著作権に関する講演で構成した。他方、3年前から踏襲しているアラカルト方式の「ワークショップ」は、開催日数を考慮して、テーマを6つに絞ることとした。
 参加者数は86名・49大学1短期大学(前年度34名・24大学)であった。受講された先生方はどなたも参加意欲が高く、オンラインながら活発な討論が繰り広げられた。

2.講習内容と結果

全体会(共通講義)

(1)オンライン授業の進め方(オンデマンド型・リアルタイム型など、学修評価方法を含む)

岩ア 千晶 氏(関西大学教育推進部准教授)

山田 剛史 氏(関西大学教育推進部教授)

(2)ライブ配信型オンライン授業の進め方

二瓶 裕之 氏(北海道医療大学薬学部教授、情報センター長)

 オンライン授業の基本的な方法と問題点や評価について講演を行った。
 今年度はほとんどの先生方がオンライン授業を実施されていることもあり、体験に即した実質的な質疑が多数行われ、そのための時間が若干足りなかった。
 参加者からは、「オンライン授業で学生がストレスを抱えている場合があり、配慮が必要なことが分かった」、「一年間分からないことだらけで行ってきたことを整理できた」、「新学期に向けてあれこれ試してみたい意欲が湧いた」、「オンライン授業を今後どのように発展・深化させるかヒントをもらった」等々の意見が寄せられた。また、委員から、「参加者全員が経験者であるため、例えば、フリースタイルのディスカッション方式も今後の検討として考えられる」との意見があった。

(3)ICTを活用した著作権処理のポイントと補償金の対応

中村 壽宏 氏(神奈川大学法学部教授)

 例年好評を得ている著作権に関する講演を行った。第三者の著作物の権利を保護する著作権の対応と、著作権法改正の意義と補償金問題について認識の共有を図った。基本的な概念や、昨年から今年にかけて変わってきた法令などの分かりやすい解説があり、初参加の先生方は言うに及ばず、リピーターの先生方にとっても満足度の高い内容であった。「著作権の話は毎年更新されるので今後も取入れて欲しい」などの高い評価の感想が寄せられた。

ワークショップ

(1)ワークショップ1

「ルーブリック入門」

 近年、ルーブリックの活用が広まっていることから、ルーブリックの初心者を主な対象として、ルーブリックの作成をテーマとしたワークショップを企画した。ワークショップの参加要件としては、ルーブリックを作成する対象の課題を事前に準備しておくこととした。ワークショップでは最初にルーブリックについて講義形式で解説した後に、参加者が準備した課題に対するルーブリックを実際に作成する活動を行った。
 ルーブリックの講義では、量的評価と質的評価の観点からのルーブリックの位置づけ、ルーブリックの表現方法、ルーブリックの活用場面、ルーブリックの作成方法について具体例を交えて解説した。特に、ルーブリックが教員と学生のコミュニケーションツールとしての役割を持つことの意味を強調し、ルーブリックを作成する際に参考となる「ICEモデル」を紹介した。
 次にブレイクアウトルーム機能でグループに分かれ、グループ内で自己紹介と自分が対象としている課題の紹介を行った。その上で、個別活動に入り、各自が対象とする課題を評価するためのルーブリックを作成した。この時間帯はZoomに接続した状態で作業をしてもよいし、一旦、Zoomを抜けて作業をした後に再接続してもよいということにした。その後、最初のグループと同じメンバーで2回目のグループ活動を行い、グループ内で各参加者が作成したルーブリックを紹介し合い、意見交換を行った。最後に各グループからグループ内の主な話題を発表して頂き、全体でシェアをする予定であったが、その時間はとれなかった。
 アンケート結果では、2名の参加者が「達成できた」、10名が「見通しがたった」、1名が「達成できなかった」としていた。「達成できなかった」とした参加者には易しすぎたようであった。自由記述では、他の参加者の意見交換が参考になり、刺激を受けたといったコメントがあった。一方で、時間が足りないという指摘が複数あった。今年度は2時間であったので、個別作業やグループ活動に十分な時間がとれなかったことが「達成できた」とする参加者が少ない要因だと思われる。また、オンラインでのワークショップでは、グループ活動や個別活動での参加者の状況を把握することが難しく、ワークショップ担当者が参加者と個別のインタラクションをとることができなかった。

(2)ワークショップ2

「パワーポイントで作るオンライン教材」

 昨年来、大学における授業が対面型からオンライン主体に変化したことおよびオンライン授業で用いる教材の作成支援体制に大学間で温度差があることなどから、オンライン授業への対応に困難や不安を感じている大学教員が少なくないと推測される。そこで、オンライン授業の実施にあたって教員が特にハードルが高いと感じることが多い動画教材の作成について、対面授業で用いていたパワーポイント教材から簡単に動画を作成・配信してオンライン授業で利用できるようにするためのワークショップを企画した。
 ワークショップでは、受講者は音声付きパワーポイントファイルの作成法とそれを動画に変換する方法、および作成した動画のYouTubeへのアップロード・配信手法の説明を受けた後、受講者各自のパワーポイント教材から動画を作成するプロセスを体験した。ワークショップがオンライン開催となったため、受講者のデバイス、通信環境、進捗状況などが把握しにくく、ネットワーク越しに受講者を支援するための工夫が重要となった。そこで、操作画面の映像に人工音声ナレーションと字幕解説を加えた動画を事前にYouTubeに公開するとともに、OS、バージョンごとの解説ファイルおよびリンク集を作成してWebに公開した。ワークショップ実施中は、受講者に理解できたかどうかを適宜Zoomで問いかけ、担当委員全員が連携しつつ問題を抱えた受講者とともに症状や環境について双方向で検討することによって的確な支援を提供するように努めた。
 本ワークショップへの受講申し込みは24名、Zoomで接続してきた受講者は19名であった。アンケートに回答した15名のうち4名から「達成できた」、11名から「見通しが立った」との回答を得た。「達成できた」と答えた受講者からは「YouTubeへの抵抗がなくなった」、「すぐに授業に反映できます」、また、「見通しが立った」と答えた受講者からは「講義動画作成のコツが分かった」、「目標とした画像付きの長い教材作成が分かった」などの肯定的な感想を得た。また、「説明が丁寧」、「手取り足取りであった」旨の記載が散見されたことから、オンライン環境下でも必要最小限のサポートができたと思われる。なお、「動画と動画の間のつなぎの授業構成が難しいと感じた」という感想があったことから、動画教材を用いた授業の設計に関する企画についても今後の検討としたい。

(3)ワークショップ3

「フォーラム型PBLの進め方」

 ひとつの授業を担当する教員の知識にはその専門性ゆえに限界があり、多分野・多方面の専門知識や技能を結集しなければ解決することができない現代社会の複雑な問題に取組むためには、その能力はまったく不十分である。そのため、このフォーラム型PBLの目的は、あるひとつの社会的課題について法政策的な解決案を模索するところにあるが、これをひとつの法律学のゼミナール内において完結させるのではなく、他大学の同種・異種のゼミナール、他分野の研究者、さらには社会において現に問題解決にあたっている専門家や市民の意見を結集する形で、ゼミを担当する教員の知識や技能を超える学修環境を構築する点にある。
 フォーラム型PBLは、基本的にインターネット上に開設された電子掲示板において、複数の大学のゼミナールの学生、他分野の研究者および社会で活動する専門家等が意見や質問を投稿する方法で行う。また、各大学のゼミナールにおいては、いくつかのWebサービスを活用して、掲示板に投稿された意見を理解し、それらに対してどのように自分の見解をまとめるべきかを考えさせる。最終的には、学生が現代社会に存在する問題を独力で発見し、その解決案を探究する能力を磨くことを目指す。
 このワークショップでは、まず、このフォーラム型PBLの基本的な構造を説明し、過去4年間にわたって実施してきたフォーラム型PBLである「分野横断フォーラム型授業」の方法、実施の過程で露呈してきた問題点およびそれに対する改善策などを説明した。
 その後、実際にこのフォーラム型PBLの電子掲示板に招待し、学生たちが展開した議論を俯瞰してもらった。また、ゼミナールにおいて議論の整理をするため活用したWebサービスとしての「coggle」を体験してもらい、ゼミナール内における簡単な集合知の形成方法も紹介した。
 最後に、ワークショップ参加者からの質問や意見を募り、このフォーラム型PBLの利点やさらなる発展形態について簡単に議論した。フォーラム型PBLの方法論自体に対する否定的意見はとくに出されなかった。
 アンケートの結果(19名)を見ると、やはりかなり特殊な授業運営方法であるため、自分の授業では実現できないとして期待外れとの回答もあった(1名)。一方、74%(14名)の参加者がかかえていた課題の解決について「見通しはたった」と回答し、課題の解決について「達成できた」と回答した者も21%(4名)となった。この結果から、このワークショップは概ね成功したものと考えている。

(4)ワークショップ4

「Zoomを用いた授業の工夫」

 遠隔型授業の方法としてビデオチャットシステムが活用されるようになってきた。ここでは、ビデオチャットシステムのうち、利用教員数の多いZoomを取り上げて、遠隔授業で利用するための基本設定や操作、グループディスカッションの方法について、解説、体験実習を行った。
 ワークショップでは、まずZoomの授業における利用パターンについて解説を行った。また、管理者としてZoomを設定した経験のない教員を想定し、Zoomのライセンス取得方法を含めた、Zoom上でオンラインミーティングをセッティングする方法について、解説、演示を行なった。
 次に、遠隔型の授業では、映像の見やすさや、聞き取りやすさが重要な要因であることから、マイクの設定、ビデオ画像や背景の設定など、機器の設定を変更した場合の効果について、解説、実習を行った。
 遠隔型の授業では、学生が孤立しがちであり、教員から学生への一方向の情報伝達に陥りやすい。そこで本ワークショップでは、Zoomのブレイクアウトルームというグループチャット機能の授業利用方法についても解説を行い、受講者には、本機能が学生からどのように見えているのかを学生の立場から体験していただいた。また、この体験の際、他の共有システムと連動したディスカッションの方法、進捗状況の把握方法についても体験を行った。最後に、演示で利用している機材について、実際の配信の様子を映像で共有しながら、概要を説明した。
 事後アンケートの結果から、課題の解決が達成できたかとの問いに対して、受講者21名中、「達成できた」が5名、「見通しがたった」が16名、また、難易度についての問いに対しては「易しい」が5名、「普通」が15名、「難しい」が1名回答しており、ワークショップの内容は適切であったと考えられる。自由記述のアンケートでも、活用できる機能や方法を体験できたことに対する好意的な意見が多かった。一方で、より実践的、応用的な内容を望む意見も見られた。
 本ワークショップでは、ビデオチャットを用いた同期配信型の遠隔授業を想定して解説、体験を行ったが、遠隔授業にはハイフレックス型など様々なタイプがあり、継続的に利用されていく可能性が高い。通信環境や、機材の準備など、実施にあたっては検討すべき課題も多いが、今後も、遠隔型の授業を扱う講習は、継続して実施する必要があると思われる。

(5)ワークショップ5

「画面操作を録画する教材作成」

 PC画面を収録する方法を、無償で利用できるソフトなどでWindowsを中心に3種類紹介した。①ブラウザGoogle ChromeにアドオンするツールScreencastifyを使う方法。②Windows10のゲーム収録用機能Windows GameDVRを使う方法、③無償で利用できる収録ソフトBandicamの利用である。①と②は実際に試していただいた。
 Screencastifyは、インストールから紹介して、各自にインストールしてもらった。Screencastifyでの収録には、ブラウザ画面、デスクトップ、ビデオのみの3種類の方法がある。それぞれの使用方法を紹介し、実際に試していただいた。作成したビデオの前後の不要な部分をカットする機能もある。具体的に教材を作成する実習時間は確保できなかったが、使用方法は理解していただいた。無償版では記録時間5分の制約がある。しかし、ビデオ教材は一時停止や、巻き戻し再生できるため、密度が濃い内容でも視聴者が調整できる。
 Windows GameDVRはWindows専用である。ゲームで遊ぶ様子を記録するための機能だが、画面操作を記録できる。マイクを併用してナレーションも加えることができる。プログラム操作を収録するため、デスクトップ画面全体の収録はできない。アクティブ画面でもメニューなどのプルダウン部分は記録されないため注意が必要である。この操作についても受講者に実際に試していただいた。
 Bandicamは紹介のみであった。このソフトの無償版は記録時間10分の制約がある。ビデオ中に「Bandicam」のロゴが表示されるが、設定で変更可能である。編集はこのソフト会社から提供されている無償版の「Bandicut」を利用できる。
 これら3種類の方法にはそれぞれの特徴があるため、表にまとめて紹介した。ワークショップ2のパワーポイント収録ビデオも含めて、作成する教材の性格に合う方法を組み合わせて活用することが賢明である。
 参加者の様子を確認しながら進めたが、個人差があり、一部の方には待っていただくことになり今後の検討課題としたい。

(6)ワークショップ6

「データサイエンス・AI活用授業の実践事例」

巳波 弘佳 氏(関西学院大学学長補佐)

辻   智 氏(成城大学データサイエンス教育センター特任教授)

 本ワークショップのテーマ設定は、「数理・データサイエンス・AI」教育のリテラシレベルでの実施を目指すという大学教育の新しい動きを背景としている。そのため、本ワークショップは、従来の実習中心のワークショップ形式とは異なり、講演と質疑応答による構成とした。文系・理系を問わず、数理・データサイエンス・AI関連の知識を持ち、それらを活用して現実社会の課題を解決できる人材育成を目指している2大学の事例を紹介した。
 参加者から、「私立大学文系の広範な取組みを学ぶことができて良かった」、「データサイエンス・AI活用人材の養成が重要であることが理解できた」、「文系の学生に如何に興味を持たせ学ばせるかの工夫が参考になった」、「タイムリーな内容で今後のAI活用授業の検討に役立つと思う」などの感想が寄せられた。いち早くデータサイエンス・AI活用教育を実践している2大学の講演に、参加された先生方は大きな刺激を受けたことと思われる。先生方が本ワークショップで得られた問題意識を各大学へ持ち帰り、当該教育の準備が早期に始まるよう期待する。

3.おわりに

 本講習会に対する参加者の事後アンケートの集計によれば、参加者個人が抱えている課題の達成について、「見通しがたった」との回答がほとんどであることから、本講習会の目的は達成されていると見られる(以下のアンケート集計表を参照)。

ワークショップ名 達成できた 見通しがたった 達成できなかった
①ルーブリック 2割 7割 1割(1人)
②パワーポイントのオンライン教材作成 3割 7割  
③フォーラム型PBL 2割 7割 1割(1人)
④Zoom 2割 8割  
⑤画面録画の教材作成 2割 6割 2割(2人)
⑥データサイエンス・AI活用授業 4割 6割  

 参加者にはリピーターも多く、その方々の声を聞くと、本講習会の開催がいかに有意義であるかを窺い知ることができた。また、本報告の冒頭でも触れたように、今般、新型コロナウィルス感染拡大の影響でほとんどの大学はオンライン授業となり、その意味では、ネット上でチームワークを実現する教育用ツールの紹介や教育用動画作成・配信の体験など本講習会が提供したテーマすべてが、まさに今、各大学において即戦力としてのニーズに応える内容であった。
 今後も、様々な場面でのICT支援教育をテーマとした先導的取組みである本事業を、これまで私情協が永年実践し積み上げてきたノウハウと、教育界の趨勢・最新のニーズを見極めつつ、立案・推進していかなければならない。次年度も、今回の実績を精査し、より実りある講習会を企画したい。

文責:FD情報技術講習会運営委員会


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