特集 社会人の学び直しDX化〜大学でのリカレント教育の積極化とオンライン化〜

 新型コロナ禍時代にあって、Society5.0社会の到来を見据え、世界では新たな経済成長に向けた人材の学び直しが急伸している。社会の変化に対応し、一人ひとりが新しい価値創出に向け、生涯を再設計する能力とスキルを学ぶリカレント教育は、労働生産力を高める国の成長戦略として捉えられ、国際競争力を左右する一つの指標ともなりつつある。DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速するなか、成長分野を支え生産性向上に必須の情報技術、知的財産、介護、地域創生などのキャリアアップの再教育が喫緊の課題となっている。経済協力開発機構(OECD)の中でも、25歳以上の大学入学は各国平均で18.1%に対し、日本の学士課程入学者は1.9%と加盟国中下から2番目に低い水準と、かなり出遅れている。
 日本政府でも来年度から新制度でリカレント教育に国費を投じて、高等教育機関の積極的な参加を要請することになった。しかしながら、費用負担、時間的制約、通学による学修形態、有益な教育プログラムの提供など課題も多い。そのような中、大学教育の遠隔・オンライン授業の体験を通じて、通学と通信のハイブリッド型のリカレント教育に対する期待は高くなっている。大学にとっても新たな経営資源、知的資源を得る可能性に期待が持てることから、社会人の学び直しを大学の機能として定着できるよう、国の政策動向と先導的に試みている大学に取組みの工夫・課題をたずねてみた。

ポストコロナに向けた
大学リカレント教育の役割と国の支援

香西 健次(文部科学省総合教育政策局 生涯学習推進課課長補佐)

1.はじめに

 近年の我が国におけるリカレント教育については、平成29年に行われた「人生100年時代構想会議」に端を発しています。
 これまでの教育・雇用・退職後の3ステージのモデルから多様な人生を歩むマルチステージに移行する人生100年時代の到来、AIやIoTの発展に伴うサイバー空間・フィジカル空間の高度な融合による経済発展と社会的課題の解決を両立するSociety5.0の到来、新型コロナウイルス感染症拡大による新たな働き方や生活様式が求められる社会の大きな変化に対応するため、一人ひとりが人生を再設計し、社会人が学びを通じて、キャリアアップやキャリアチェンジが可能となるような能力・スキルを身に付けていくことがより一層重要になっています。

2.リカレント教育の現状と課題

 このようにリカレント教育の重要性と、それを通じて学び直した人材の活躍への期待はますます高まっていますが、残念なことに、未だ我が国におけるリカレント教育は十分に広まっているとは言えない現状があります。
 この背景について、社会人が大学などで学び直しを行うに当たっては、

 等の課題があげられているほか、雇用体系や労働市場に課題があると認識しています。

3.政府におけるリカレント教育の取組み

 このような課題に対応し、リカレント教育のさらなる充実を図るため、政府全体として主に3省庁が連携しながら取組んでいます。
 厚生労働省は、労働者・求職者の職業能力開発の観点から、職業訓練や教育訓練給付制度、企業の行う研修への支援を担当し、経済産業省は、国の競争力強化の観点から、IT人材の育成などを担当しています。これに対し、文部科学省では、大学や専門学校等における教育プログラムの充実の観点から、産学連携による実践的なプログラムの開発支援等に取組んでいます。

4.文部科学省におけるリカレント教育の取組み

 文部科学省では、予算事業として、大学・専門学校等における実践的なプログラムの開発・拡充や、リカレント教育を支える専門人材の育成、リカレント教育推進のための学習基盤の整備などに取組んでいます。

(1)就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業

 具体的なプログラム開発の事業として、令和3年度より実施している「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」について紹介します。
 新型コロナウイルス感染症の影響により、雇用構造の転換が進展する中で、新たな能力を身に付け、自己のキャリアアップに繋げるための失業者や非正規雇用労働者等への支援が重要です。
 このため、非正規雇用労働者・失業者等に対し、デジタル分野を中心に大学においてハローワーク等と連携し、即効性があり、かつ質の高いリカレントプログラムを実施し、受講者の円滑な就職・転職に繋げるための事業を実施することとしました。
 今年度は、22都道府県、40大学63プログラムを採択したところです。その内容は、デジタル、医療・介護、地方創生、女性活躍など多岐にわたっており、各大学において順次プログラムを実施しております。
 本事業は受講料が無料となっているほか、厚生労働省と連携して、要件を満たす受講生は、職業訓練受講給付金(月10万円の生活支援の給付金)を受給しながら、受講できる仕組みとなっています。

(2)職業実践力育成プログラム(BP)

 予算事業以外では、社会人や企業等のニーズに応じて大学等が行う実践的・専門的な教育プログラムを文部科学大臣が認定する「職業実践力育成プログラム」(BP)に取組んでいます。

 平成27年度の開始以来、毎年30〜50件程度の新規の認定を行っており、現在314課程を認定しています。実務家教員による授業や、企業等と連携した授業、インターシップの実施などを要件としており、BP認定されると、厚生労働省の教育訓練給付制度の対象となり、受講生の負担軽減となるメリットもあります。
 テーマについては、これまで女性活躍、非正規労働者のキャリアアップ、中小企業活性化、地方創生(地域活性化)の4テーマを設定しておりましたが、昨今の社会の変化に合わせ、令和3年度の認定より、DX(AI・IoT等)や医療・介護などを追加し、新たに10テーマを設定したところです。

(3)社会人の学びに関する総合的なポータルサイト「マナパス」

 最後に、情報発信の取組みについて紹介します。リカレント教育に関する課題のうち、学習に関する情報が不足しているという課題に対応するため、令和元年度より総合的なポータルサイト「マナパス」(https://manapass.jp/)を運営しています。
 現在、大学、専門学校合計約5,000以上の講座が掲載され、「分野」「資格」「給付金や奨学金等の支援」「土日・夜間開講」など自分の希望に沿って講座を検索できる機能や、「Society5.0に必要な学び直し」「女性のための学び直し」など、社会的に注目されている話題についての特集ページ、学びのロールモデルを見つけるための修了生インタビューなどのコンテンツを掲載しています。大学や専門学校等の教育機関の方は無料で社会人向けの講座情報を掲載いただくことができますので、ぜひご検討ください。

5.おわりに

 大学等のリカレント教育は、政府や産業界からも大きな期待が寄せられています。文部科学省としても、予算事業等を通じてリカレント教育の一層の推進に取組んで参ります。各大学におかれても、社会の変化に対応できる人材育成に資するリカレント教育のさらなる充実に向けて、具体的な取組みが進んでいくことを期待しています。


【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】