特集 社会人の学び直しDX化〜大学でのリカレント教育の積極化とオンライン化〜

アントレプレナーシップ・起業家人材を育成する
『WASEDA-EDGE人材育成プログラム』

島岡 未来子(早稲田大学研究戦略センター教授 WASEDA-EDGE人材育成プログラム事務局長)

1.はじめに

 アントレプレナーシップ(起業家精神)という言葉は、単なる起業に向けた活動にとどまらず「コントロール可能な資源を超越して機会を追求すること」[1]と広義に定義されることが多くなってきました。限られた資源を超えて、新たな製品/ビジネス/サービスなどを創造する姿勢、活動全般を指します。これはあらゆる職業に必要な精神とも言え、外部環境が激変する現代を生き抜く際に個人が持つべき、重要な素養と考えられます。
 WASEDA-EDGE人材育成プログラム(以下WASEDA-EDGE)は、本学で2014年度から始まったアントレプレナーシップ養成の教育プログラムです[2]。ビジョンとして、研究成果やアイデアを自ら創出するだけでなく、地球規模の視点でビジネス創造し、地球市民一人ひとりの幸せの実現に貢献できる人材の育成を掲げ、全学の学生を対象としています。WASEDA-EDGEは、文部科学省グローバルアントレプレナー育成促進事業(EDGEプログラム(2014年度−2016年度)に続き、次世代アントレプレナー育成事業(EDGE-NEXT)に採択されました(2017年度−2021年度)。本学を主幹機関とし、滋賀医科大学、東京理科大学、山形大学、多摩美術大学を協働機関とするコンソーシアム「EDGE-NEXT人材育成のための共創エコシステムの形成」をSkyward EDGEの名称で実施中です。
 WASEDA-EDGEにおけるアントレプレナーシップの定義は冒頭に述べた広義のものを採用しています。すなわち、起業を志す学生のみならず、社会で活躍するための資質として必要なマインド、スキルを提供しています。正規科目としては、全学の学生向け授業を提供するグローバルエデュケーションセンター(GEC)に設置したビジネスクリエーションコース(BCC)です。BCCは、意識醸成、アイデア創造、ビジネスモデル仮説検証の3ステージで構成し、2021年度には25名の教員が年間33科目を提供しています。非正規プログラムは、スタンフォード大学d.schoolの講師を招いたデザイン思考ワークショップ、バブソン大学やUCSDとの共同プログラム、イスラエルとの海外武者修行プログラムなどがあります。さらにコンソーシアム大学群や自治体等と連携した特徴あるプログラムを複数提供しています。コーチングやリーダーシップといった社会感情スキルの醸成も積極的に取り入れていることも特徴です。
 現在、WASEDA-EDGEには年間約3,000人が参加しています。現在は大部分は学生ですが、アントレプレナーシップ教育プログラムはリカレント教育としても非常に有用と考えており、社会人が参加可能なプログラムも提供しています。本稿では社会人が参加する代表的なプログラムを紹介します。

2.富山県新規事業創造インターンシップ・プログラム

 本プログラムは、富山県との共同事業として、2018年度より実施しています。富山県の地域価値、WASEDA-EDGEの教育手法とノウハウを活用/融合し、本学の学生と富山県の企業人がチームを組み、新規事業/地域イノベーション創出に向けたビジネスアイデアの創出を行うことを目的としています。2020年度、2021年度は「With/afterコロナ時代におけるイノベーション」をテーマにすべてオンラインで実施しています。
 プログラムの特徴は、次の5つです①ワークショップと実践(インターンシップ)の組合わせ、②学生と企業人がチームを組み一緒に新規事業創造に取り組む、③著名な講師陣による高品質の教育提供、④アイデア創出からビジネスモデルの検証までを理論に基づいた手法により実践的に学習、⑤リーダーシップ研修の平行導入、です。プログラムはこれらの特徴を重層的に織り込み、フェーズTからVで構成しています(図1)。

図1 富山県新規事業創造インターンシッププログラムの構成

 2020年度は、早大生15名と、富山県下3企業ならびに富山県庁から参加した9名の企業社員・行政担当者が4つのチームを編成しました[3]。各チームはワークショップで学んだ理論とインターンシップで共有した現場の課題を組み合わせ、ビジネスプランを作成しました。ビジネスプランは最終日の成果報告会で各企業・富山県庁の幹部に対して提案を行い、講評を受けました。
 参加した企業社員からは次の感想がありました。「企業側、学生側とも今後の即戦力及び個人の大きな成長のきっかけとなる良いきっかけだと実感した。個人の評価・損得は関係なく、学生も企業人も真剣に考え、意見をぶつけ合う、そして、共に学び成長できる絶好のチャンスだと思う。」「オンラインで当初は不安でしたが、ここまでの成果を出せることが分かり良かったです。学生と交流することにより、自身の頭がこっているなと実感しました。」
 対面とオンラインの対比については、参加者からは“オンライン開催の利便性”を評価する回答が多く見られました。もちろん「現地で対面でやりたかった」という声はありました。しかし、終了後のアンケートにおいて、参加者の83%が内容に「満足」と回答し、「やや満足」を合わせると100%でした。
 本プログラムに限らずWASEDA-EDGEは、オンライン・プログラム実施にあたっては、電子付箋ツール、SLACKといったグループワークを促進するオンラインツールを積極的に導入しています(図2)。起業家教育の肝はグループによるアクティブラーニングにあるからです。最初はオンラインでのワークショップ参加に躊躇する人もいます。その場合には、「習うより慣れよ」の精神(これは、経験学習を重んじるアントレプレナーシップ教育の精神でもあります)で、オンラインでの打ち合わせや説明会の機会を活用して、ツールを実際に使っていただき、安心して参加いただけるように工夫しました。

図2 電子付箋ツール(Apisnote)を活用したグループでのアイデア創出の様子(イメージ)

3.まとめ

 アントレプレナーシップ教育プログラムはリカレント教育としても非常に有用です。その理由は次の3点です。①起業は学んで始める時代です。デザイン思考によるアイデアの発想法、リーンローンチパッドによる顧客開発など、起業を志す方は起業の成功確率を高める手法を実践的に学ぶことができます。②学生との学びの機会となります。例えば前述の富山プログラムなど、大学でのプログラムは学生と一緒の学びの場を提供する機会があります。多世代、多様な人材との切磋琢磨はまさに、「共に学び、成長する」チャンスです。③広義のアントレプレナーシップは、どんな方にも有用です。新しいことに挑戦したい、生涯学習者を志す社会人の方にとって絶好の学習機会を提供することができます。これからもWASEDA-EDGEは社会人の皆さんが参加できる機会を提供したいと考えています。

関連URL
[1] ハーバード・ビジネススクールにおける「アントレプレナーシップ」の定義
https://www.dhbr.net/articles/-/1947
[2] WASEDA-EDGE人材育成プログラムホームページ
https://waseda-edge.jp/
[3] 2020年度富山県新規事業創造インターンシップ実施報告
https://waseda-edge.jp/event_report_2020?id=20200819

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