特集 社会人の学び直しDX化〜大学でのリカレント教育の積極化とオンライン化〜
坂本 清恵(日本女子大学生涯学習センター所長現代女性キャリア研究所所長)
2020年度は、コロナ禍によって、多くの大学がインターネットを利用した遠隔教育を余儀なくされましたが、本学のリカレント教育課程についても同様で、昨年一年間で、オンライン教育が一気に進みました。
昨年度は、オンライン対応のために、開講を一月遅らせ、すべて遠隔授業に切り替えて実施しました。これには、2020年度から、LMS(学習管理システム)manabaを学部同様に使用することを決めていたことが功を奏し、Zoom・Teamsでの講義やグループワークを行い、manabaでの確認テストや課題に取組むなど、充実した授業を展開しました。受講生はリモート環境でも互いにネットワークを構築して、ともに学んで再就職を目指すという仲間意識が持てたようです。
これまでリカレント教育の推進拡大には、オンラインによる講座提供が求められてはいましたが、再就職のためには、対面授業によるコミュニケーションが必要という認識でしたので、オンライン授業への転換は視野に入れていませんでした。それが、昨年のコロナ感染拡大防止のため、オンライン授業対応を行ったことにより、本年度、自信を持ってオンラインのみによる夜間と土曜開講の新コースを立ち上げることになりました。
まさにコロナの奇貨ともいえる、オンラインによるリカレント教育の新たな展開となりました。ここでは、女性のためのリカレント教育についてその現状とオンライン教育について紹介します。
これまで日本では、リカレント教育が生涯教育と同義に捉えられるなど曖昧になっていました。現在ようやく、その定義は、本来の意味に近づいてきています。平成30(2018)年11月に中央教育審議会が「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」の「用語集」に掲載した「リカレント教育」は次のようなものです。
職業人を中心とした社会人に対して、学校教育の修了後、一旦社会に出てから行われる教育であり、職場から離れて行われるフルタイムの再教育のみならず、職業に就きながら行われるパートタイムの教育も含む。
これは、海外のリカレント教育と異なり、日本独自の離職することなく働きながら再教育を受ける形も含んだ、職業人の再教育全体をリカレント教育と定めたことになります。就労と直結しない生涯学習とリカレント教育とは別ということですが、生涯を通して学ぶことに変わりはなく、なかなかこの切り分けが難しいのも現状です。文部科学省主導で設置された社会人の学びのためのポータルサイト「マナパス」も両者が混在しています。
さらに、日本経済団体連合会と大学のトップが直接の対話を始め、2019年4月には、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の中間とりまとめの共同提言において、リカレント教育の強化が取り上げられました。これは、Society 5.0時代の急激な経済社会変化への対応のためのもの、さらに重要性の高まるAIやデータサイエンスなど先端技術にかかわる領域における社会人教育についてであり、女性活躍に関わるリカレント教育はその対象には含まれてないように思えました。
大学における「リカレント」を冠する社会人の就労を目的とした教育課程は、2007年9月に、本学が文部科学省「社会人の学び直しニーズ対応教育事業委託」(GP)に採択されたものが最初です。女性活躍のためにも、リカレント教育の重要性の理解を促す普及啓発活動の必要性から、2019年12月に女性のためのリカレント教育プログラムを運営する、本学、関西学院大学、明治大学、福岡女子大学、京都女子大学、京都光華女子大学(設置順)で、「女性のためのリカレント教育推進協議会(FRE)」を設立し、その普及啓発活動に取組むことにいたしました。2020年12月に山梨大学が加わり、現在は7校での活動中で、令和2年、3年と文部科学省「女性の多様なチャレンジに寄り添う学びと社会参画支援事業」のうち「女性の学びサポートフォーラムによる普及啓発事業の実施」に採択され、オンラインによるシンポジウムや公開講座の開催などを行っています[1]。
FREでは2019年度の時点で、関西学院大学が、東北公益文科大学に対して独自開講の難しい講座を同時双方向のオンラインで展開していました。FRE参加校で、授業運営を参観し、リカレント教育の多様なニーズへの対応には、オンラインが不可欠であることを確認しました。コロナ禍でのオンライン授業への移行を円滑に進める一助になったと思います。
2021年度、本学リカレント教育課程は2007年からの継続している再教育と再就職を目的とした「再就職のためのキャリアアップコース(再就職コース)」と、6月に新設した「働く女性のためのライフロングキャリアコース(働く女性コース)」の二つのプログラムを運営しています。
「再就職コース」は、開設当初は卒業生をはじめとする四年制大学を卒業して就職したものの、結婚や出産などで離職を余儀なくされた、仕事でのブランクのある女性対象のエンプロイアビリティと就労に対する意識を高める再教育と再就職のためのプログラムという色合いが強いものでした。
通学課程であることが、学びの効果を最大限に発揮できる1年間のコースであり、再就職を目指す女性がともに切磋琢磨しながら学ぶことで、修了後も互いに支えあえるネットワークを構築できる学びの場を提供しています。2015年の文部科学省の「職業実践力育成プログラム」BP認定前後から、正規、非正規で仕事を持っている女性が、様々な理由で離職、休職して学ぶ比率が徐々に増えています。2021年4月までに161大学・大学院の卒業生679名を受け入れてきました。
リカレント教育課程受講直前の属性
これまで、姉妹で遠方から上京など、富山、福井、大阪、高知、鳥取、山形、宮城などから、さらには、モロッコ王国やメキシコからという、転居をともなう受講生も受け入れてきました。また、名古屋地域には女性のためのリカレント教育課程を設置する大学がなく、本学のサテライトを設置してほしいという声もありました。
それが、2020年度はコロナ禍により、対面での授業が提供できなくなり、オンラインでの講座運営を迫られ、山形からの受講生は地元からの受講をしました。すなわち、居住地域にはリカレント教育を提供する大学がない、自分にあったプログラムが近隣にはないという課題が一挙に解決してしまったと言えます。
このコースは、BP認定120時間に対して、280時間を修了要件としています。前期はすべてがオンラインによる授業となりました。
manaba上での動画配信によるものは、担当教員とやり取りをしながら設定された学習到達目標まで、繰り返し確認を行うことができ、学習内容が定着しやすいものです。Zoomでのリアルタイムでの配信では、直に質疑応答が行え、ブレークアウトルームを利用した受講生間の意見交換や、共同作業を行うことにより、ともに学びながらネットワーク作りができました。後期は、少し学内へ受講生を入れての対面とオンラインを同時に行うハイブリッドの授業展開となりました。
写真 「時事英語」のハイブリッド授業
オンラインでの学びの利点は、どこからでも学べることです。受講時間数平均は、280時間の修了要件に対して、2019年度は325時間でしたが、2020年度は376時間に急増しました。通学時間が学びに充てられたことによるものです。
受講生からは、オンラインだからこそ積極的に発言し、他の人の発言を傾聴する姿勢が自然に身に付き、効率の良いやり取りをするができるようになった、Zoomで自分が他人からどう見られているのかを意識することで、プレゼンテーションの方法も理解できたという効果も聞かれました。
一方、教員側としては、リカレント教育課程は実務家教員によるため、LMSの利用は初めて、Zoomの利用も初めてなど、準備にかなりの負担をお掛けしましたし、担当職員によるサポートも通常以上に必要でした。
先に述べた「再就職コース」の入学者の変化に伴い、働きながら学ぶコースの設置を計画してきました。2020年度の「再就職コース」のオンライン授業の成果を踏まえ、この6月にすべてオンラインによる夜間、土曜を利用した「働く女性コース」の開講に踏み切りました。
半年で60時間を修了条件とするショートBPの教育課程です。初年度の受講生13名は、20代後半から30代のこれからキャリアアップを目指そうとする層と、40代、50代のマネジメント職に就いている層の受講になりました。オンラインのみの授業であることから、愛媛や群馬など遠隔地からの受講者を迎えています。
学んだことをすぐに実践しながらの受講になり、職種、業種も様々な新たなネットワークを広げる貴重な体験を提供しています。
表 働く女性コースのカリキュラム
なお、このコースにおいても職員による受講生に対するITスキルサポートが必要な状況です。
「再就職コース」では、1年をとおして再就職の支援をしています。通年で「キャリアマネジメント」の授業、職員による面談とサポートをしつつ、後期には、キャリアカウセンラーを配置し、個人対応とグループワークにより、就職後の働き方についてもシミュレーションを行います。東京商工会議所、東京都労働局、文京区の支援を受け、個別の企業説明会を開催してきました。
2016年の女性活躍推進法施行以降、企業からは多様な働き方の求人が提供され、修了生の被社会保険者比率は8割を超えるようになりました。
コロナ禍の2020年はオンラインによる企業説明会を開催して、対応をしました。
通学が有効であった「再就職コース」ですが、2020年度のオンライン授業の経験を活かし、2021年度は、それぞれの授業が対面とオンラインとどちらが効果的なのかを勘案して、両者をとりいれた授業編成を行っています。
女性のためのリカレント教育においても、すでにリカレント教育を終えたあとも、就労と学びを繰り返す、本来のリカレント教育時代が到来しています。新たなニーズに柔軟に対応できるカリキュラムの充実を目指す必要があります。オンラインを利用することで、FRE参加校での単位互換制度などの検討を行いながら、リカレント教育のさらなる推進を行う必要を感じています。
関連URL | |
[1] | https://www5.jwu.ac.jp/gp/kyogikai/ |