特集 社会人の学び直しDX化〜大学でのリカレント教育の積極化とオンライン化〜

ハイブリッド型教育による次世代ケアワーカーの育成

加藤 千恵(京都光華女子大学 副学長・女性キャリア開発研究センター長)

吉田 咲子(京都光華女子大学 キャリア形成学部教授・地域連携推進センター長)

1.はじめに

 2020年冬に広がり始めた新型コロナウイルス感染症の影響によって労働環境は悪化し、非正規雇用労働者や失業者への支援がより一層求められるようになりました。2021年の春、文部科学省が厚生労働省と連携し、全国の大学に向けて、「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」の募集を開始したのを機に、本学では、「多様な知識で貢献する次世代ケアワーカー育成プログラム」という、新たなリカレント教育に取組むことにしました[1]
 本学がリカレント教育をスタートさせたのは、2019年度のことですが、翌年の2020年に感染症が拡大し、学部の授業もリカレント教育もオンライン化が余儀なくされました。本稿では、コロナ禍における本学のリカレント教育の取組みについて紹介いたします。

2.ビジネス系リカレントからのスタート

 本学では2019年、女性キャリア開発研究センターと地域連携推進センターが協働でリカレント教育をスタートさせました。女性キャリア開発研究センターでは、その3年前より、在学生や卒業生を対象にしたキャリア意識調査を毎年実施しており、それらの調査結果から、学び直しの機会を提供することは、生涯にわたって女性たちのキャリアを支援していくために不可欠な要素であると考えていました。
 当時のプログラムの内容は、リカレント生のみを対象とした「基礎講座」(キャリアデザイン、ITリテラシー等の短期集中科目)、学部生と一緒に受講するビジネス・社会系の科目(30科目から選択)と専門職向けの科目(10科目から選択)を組み合わせたもので、子育て等で退職した女性が、再就職に向けてスキルと自信をつけることができるよう、特にキャリアカウンセリングと就職支援に力を入れました。
 そして2年目の2020年、新型コロナウイルス感染症が広がり始めます。リカレントプログラムの開講は9月であったため、当初はキャンパスでの対面授業を考えていましたが、学部の対面授業とキャンパス内の施設利用が制限されていくなかで、やむなくリカレントプログラムもオンラインに切り替えました。その結果、予期せぬことが起こります。東京からの受講申し込みでした。まさに、遠隔によるリカレント教育のメリットを実感する出来事でした。
 3年目となる今年度は、対面とオンラインを組み合わせた形で実施しますが、こうした経験は、本稿のテーマである「多様な知識で貢献する次世代ケアワーカー育成プログラム」の企画に大いに生かされることになりました。

3.ケアワーカー育成のためのリカレント教育

 本学には4つの学部があり、最も学生数が多い「健康科学部」では、看護師、言語聴覚士、管理栄養士、社会福祉士などの専門職を養成しています。1つの学部のなかで専門職間の連携を図りながら、「健康創造キャンパス」の実現を目指しており、ここに本学の社会科学系学部の教育を融合させたのが今回のケアワーカー育成プログラムです。

図1 「多様な知識で貢献する次世代ケアワーカー育成プログラム」の概要
図1 「多様な知識で貢献する次世代ケアワーカー育成プログラム」の概要

 介護の分野は慢性的に人手不足の状態にあるうえに、高齢社会の進展に伴い、さらに多くの人材が必要とされています。介護職は仕事が厳しく労働条件が低いという先入観をもつ人が多いと思いますが、技術革新や地位向上のための取組みによって環境変化が著しい分野でもあります。
 こういった現状を求職者に広く知ってもらうとともに、様々な場面での対応能力が期待される介護職員の職務内容を鑑み、多様な知識やスキルを体系的に学ぶことができるカリキュラムを提供し、就業やキャリアアップにつなげることにしました(図1)。
 開講科目は5つのグループに分けられます(表1)。介護職育成の講座は通常、介護スキルの習得が中心になりますが、本学のプログラムは、タイトルが示すように、職務の遂行にあたって身につけておいた方がよい「多様な知識とスキル」の獲得を目標としています。

表1 「多様な知識で貢献する次世代ケアワーカー育成プログラム」講座一覧
表1 「多様な知識で貢献する次世代ケアワーカー育成プログラム」講座一覧

 例えば「専門職連携」では、在宅ケアに関わる多彩な専門職の方々より、それぞれの立場からみた在宅ケアを学ぶことで、介護の仕事を立体的にとらえてもらいます。また、「スキルアップ」では、介護の現場で発生する困りごとへの対処能力を高めるために、自分の考えを上手に表現するアサーティブネス、怒りのコントロール、批判的な言動をとる相手から自分を守るための方法などを用意しています。これは介護職の現場の声を受けたもので、プログラムの特色の一つと言えます。ただ、実践的な方法を身につける講座の場合、オンラインでの開講が難しいことが課題としてあげられます。
 そして「ビジネススキル」では、これからの時代の介護職に求められるITやスマホのリテラシー、情報収集・活用力を身につけるための講座を取り入れました。
 「専門知識・職場実習」の「インターンシップ」は、このプログラムの最大の特徴といってよいでしょう。京都府は、人材育成や職場への定着支援に積極的に取組む福祉・介護事業所を京都府が定める基準に沿って認証するという「福祉人材育成認証制度」を全国に先駆けて創設しています[2]。認証された福祉法人の中でも、特に優良とされた「上位認証法人」において複数のインターンシップを体験し、自分に合った働き続けやすい職場を探すことが可能です。介護職場のインターンシップは対面で行うことになりますが、ITはもちろん、AIが導入されている職場もあり、最新のケアシステムを学ぶことができます。
 講座は概ね1回2時間(または2回4時間)の短時間集中型にしていますが、「インターンシップ」は1日または3〜5日、「専門職資格対策」はそれぞれの資格取得に必要な時間数を設定しています。
 リカレント生の場合、オンライン授業を受けるための環境が整っていないこともあるため、基本的に対面授業となりますが、「対面・遠隔」と明記した講座はオンデマンド配信(ビデオカメラまたはZoomによる録画)で受講することができます。希望者にはタブレットを貸与し、オンライン受講のサポートも行います。こうした手厚い支援体制が構築されている背景には、コロナ禍で本学が進めてきた様々な取組みがあります。

4.臨機応変な切り替えを実現

 対人スキルが求められる専門職の授業をオンラインに切り替えるのは多くの困難を伴います。本学では昨年来、感染拡大状況に応じて学内の議論を積み重ね、以下のような方針で授業運営を行ってきました。

 授業の形態を臨機応変に切り替えることを実現するには学生と教員へのサポート体制が不可欠であるため、教務担当の教職員とICT担当の教職員による「感染拡大防止のための授業支援チーム」を組織し、学生のネット環境調査・受講支援、教員のためのオンラインセミナー・授業支援、学科の特性に応じた柔軟な開講、情報発信などを行いました。
 さらに、図書館は電子書籍や記事検索サービスの学外利用を促進し、就職支援センターは動画配信・オンライン相談を進めました。今回のケアワーカー育成プログラムは、コロナ禍における本学の丁寧な対応の積み重ねの上に実現できた取組みと言えるでしょう。

参考文献および関連URL
[1] 京都光華女子大学「リカレントプログラム」
https://www.koka.ac.jp/recurrent/
[2] 京都府「きょうと福祉人材育成認証制度」
https://kyoto294.net/welfare/seido/

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