特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その1)

 コロナ禍を契機に新しい生活様式や働き方・教育などが見直され、デジタル技術を駆使した変化への対応が加速する中、個人と社会全体の幸せ・豊かさを実現するウエルビーイングに向けた対応の理解が進んでいます。本年6月、教育再生実行会議(第十二次提言)では、ポストコロナ期における新たな学びの在り方を考えるに当たって、学生一人ひとりが他者や社会の問題に関心を寄せ、自ら主体的に考え、行動がとれるようになることが大切とし、教育をより一層学生主体の視点に転換するとともに、オンライン授業などのデジタル化の流れを後戻りさせないという意識の下、教育活動を適切に進めていくことが必要としています。
 また、文部科学省では、デジタル活用に対する教育現場の意識が高まっているこの機を捉え、教育環境にデジタルを大胆に取り入れることで、大学等のデジタルトランスフォーメーション(DX)を迅速かつ強力に推進することで、「学修者本位の教育の実現」、「学びの質の向上」に資する環境整備を目的に、令和2年度の3次補正予算で「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」として54の事業を選定しました。これを受けて、大学教育のDX推進を計画し、実現に向けて着実に行動を開始した大学等に構想の一端を本号と次号に亘り紹介いただくことにしました。

LMSの高度化と学修データ統合システムによる
学修者本位の教育の実現
―神戸大学Plus-DX取組みの紹介―

大月 一弘(神戸大学 国際教養教育院長)

齋藤 政彦(神戸大学 数理・データサイエンスセンター長)

熊本 悦子(神戸大学 情報基盤センター教授)

殷  成久(神戸大学 情報基盤センター准教授)

1.はじめに

 本学は10学部、15研究科を擁する大規模総合大学であり、学士課程・大学院課程において、多様な人材を輩出してきました。
 教育のICT化については、教務情報の管理に加えて、2014年度よりMoodleをベースにした学修管理システム(LMS BEEF)を導入、また2019年度にはパソコン必携化を実施し、学生のBYOD環境を整備してきました。コロナ禍の2020年度前期には、LMSの増強や、G-Suite for Education、Zoom、WebEXなどの導入を行い、遠隔授業を全学的に実施する体制を整えてきました。一方で、対面・遠隔を同時に行うハイブリッド型授業導入のための教室整備が遅れており、また教育に関するシステム間のデータ連携ができていないという問題点も指摘されています。
 本取組みでは、LMSの高度化とハイブリッド型授業実現のための設備の充実、また、教務情報やLMS、クローバル教育管理など学内の教育に関するシステムのデータを一元管理し、収集されたデータを分析できる環境を整えることを目指しています。

2.取組みの内容

(1)ハイブリッド型授業のための教室整備

 2021年度より対面授業の良さを活かしつつ、教員が対面授業を同時中継するハイブリッド型授業を実施するために、本学のそれぞれのキャンパスの主要な教室への基盤整備を進めて行っています。例えば、カメラ、マイクスピーカー、モニター等を設置し、HDMI、USB等で教員のノートパソコンに接続し、Web会議システムを用いて配信する形式の簡易型スマート教室を設置しています。

(2)LMSの高度化

 現在、対面・遠隔授業とも、LMS BEEFを活用して、講義資料配布、理解度確認テスト、レポート提出、授業フィードバック等を行っています。このLMSの機能を拡張し、電子教材配信システムを試験的に導入し、教材の提供履歴や学生の利用履歴が簡易に取り扱えるようにします。このシステムでは、閲覧履歴のログより、学生のアクティビティ、授業活動履歴、理解度・満足度把握のデータを取得できます。

(3)学修データ統合管理システムの構築

 本学では、教務情報システム、LMS BEEF、グローバル教育管理システムなどにおいて様々な学生のデータを管理していますが、システム間のデータ連携が十分にとれていない状態です。そこで、学修データ統合管理システム(Kobe Data Ware House, KDWH)を構築し、教育に関するシステムの多様なデータを統合する基盤を構築します。このシステムで、教務情報システムやLMSのデータを連携し、データ分析による教育の個別化・高度化のための学生の履修情報・成績情報や学修履歴を一元的に管理できるようにします。

(4)学修データの分析と可視化

 KDWHに蓄積されたデータを利用し、学修ビッグデータの分析・解析手法を開発し、ノウハウを蓄積します。並行して、学生の許諾(オプトイン)を得た上でKDWH上の学修ビッグデータを分析、可視化し、学生へフィードバックするしくみを開発・導入します。また、KDWHに収集された学修データの利活用について学生・教職員の課題やニーズをくみ上げ、サービスを検討し、試行します。例えば、学生の学修活動記録を集約し、能力を分析し、レーダーチャートで可視化します。教員からは、視覚的に学生のステイタスを確認することができます。この仕組みにより、学生の成績、出席状況、様々な学修活動情報を共有し、学生指導の充実化を図ります。また、学生の学修活動と進路との関係についてAIを用いて分析、学生の適性を推測し、キャリア指導を支援します。

3.取組みの目標と目指す成果

 図1に取組みの概要を示します。学生や教員の個人情報や、情報セキュリティに十分配慮しつつ、他システムとの連携を進め、KDWHに収集されたデータの連携による学生・教職員へのサービスの開発、学修ビッグデータの分析・可視化を通じて、学生へのフィードバックを高度化し、エビデンスに基づいた質の高い履修指導の実現を目指します。将来的には学生自身も蓄積された自身のデータを参照でき、分析されたデータを基に個別最適化された学修指導、留学指導、キャリア指導、健康指導等の実現を目指します。

図1 取組みの概要

4.終わりに

 本学のDX推進においては、教育憲章に鑑みて、次を目標としてあげています。
 「with/after コロナ禍において最先端のデジタル技術によって、質の高い授業や実習・実験を安全に実現するための教育環境・教育システムを構築し、学修者本位の質の高い教育を実現するとともに、課題設定・課題解決型人材を育成する。」
 これを達成するために、今後は蓄積されたデータを分析し、質の高い授業や実習・実験を安全に実現するための教育環境・教育システムを構築し、学修者本位の質の高い教育を実現することを目指します。また、将来的には、政府のデジタル化の方針、AI戦略2019などにも呼応して、小中高のGIGAスクール計画、各自治体のスマートシティ戦略とも連携し、学生の生涯に亘る学修ヒストリーの提供の可能性も検討したいと考えております。

謝辞

 本取組みのプロジェクトチームに参画されているすべての教職員、関係者の皆様にこの場を借りて、御礼を申し上げます。


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