特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その1)
井手本 康(東京理科大学 副学長)
本学では教育のICT化に向け、2014年度採択の「大学教育再生加速プログラム」を始めとした各種取組みを推進していました。その中で、2020年の新型コロナウイルス感染症のパンデミック発生により、本学の教育はICT化からDX化を念頭にした取組みに加速度的に転換することが急務となりました。本稿では、本学の教育DX化に向けた取組みとして、「DX推進計画策定の経緯」、「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(以下、「Plus-DX事業」という。)の取組み概要」を説明します。
前述のとおり、2020年度においては教育のICT化からDX化に向けた加速度的転換が求められました。その中で本学では「学びの継続性の維持」と「感染状況の変化に対応できる柔軟性のある授業実施」をキーワードに、オンライン授業実施方針の策定、全授業担当教員・学生へのZoom導入、LMSの増強等、デジタル学習環境の充実に向けた取組みを推進しました。
これらの取組みは、学長の下に設置した3つの臨時WGで推進しましたが、その推進を行う過程で「教育のDX化の全学的な位置づけの設定」が喫緊の課題として浮き彫りになりました。
以上の経緯により、2020年度授業の検証結果等を基に全学的に検討を重ね、2021年1月に「DX推進計画」を策定することとなりました。
DX推進計画では、2019年度以前から推進を進めていた「教育プログラム改革」に加え、「教育手法の開発」、「教育環境整備」の3つを重点目標としています。これらの取組みが相互に関与することで学修活動の効果を最大化し、「理工系総合大学の卓越した専門知識や教養をもとに、デジタル化時代に求められる21世紀型スキルを活用できる人材の育成」を実現する計画としています。
本学のPlus-DX事業の取組み概要は図1のとおりとなります。Plus-DX事業の取組みは前述したDX推進計画のうち、「教育手法の開発」、「教育環境整備」に焦点を当てた取組みで、同計画策定時に課題として明らかになったものです。これらの取組みをPlus-DX事業で推進し、本学における教育のDX化を加速度的に推進することを目的に、同事業への申請を行うことにしました。
図1 本学のPlus-DX事業取組み概要
本取組みでは、従来の入学時の学修到達度測定を発展し、全学年の学修到達度測定を実現するWebテストを開発します。学生の学修到達度測定方法の一つとして、入学時にアセスメントテストを実施していましたが、同テストと卒業時GPAには相関が低いこと(学内分析結果)が明らかになっており、反復学修ができず、学修効果が低いこと等の課題がありました。そこで、理数教科の学力測定調査を長年実施していた本学理数教育研究センターと連携し、同センターで試行を重ねてきたWebテスト(数学)をもとに、項目反応理論(IRT)を用いた「学修到達度測定Webテスト」を開発することにしました。
同テストは従来のテストと比較して高い学修効果、汎用性が見込まれるため、2022年度に数学の入学時テストを導入した後、他科目への拡大を予定しています。また、2年次以降の学修到達度測定ツールとして、学年終了時の専門分野に係る学修到達度測定にも活用することを想定しています(図2)。
図2 学修到達度測定Webテストの特徴
本取組みでは、個別最適化した学修支援を実現するため、「全教学データの統合」、「統合したデータに基づく分析」、「分析結果のフィードバック」を自動で行うシステムを開発します。
本学では、以前から教学データを踏まえた分析・改善を行っていましたが、「統合」、「分析」、「フィードバック」の一連の流れが自動化されていないことで、大学全体の傾向分析、一部の学生に対する分析・改善に留まっており、個別最適化した分析・改善が十分にできていない、という課題がありました。そこで、これらを実現するシステムを新規開発することで、個別最適化した学生指導を実現するとともに、学修の質向上を図ることを目的としています。2021年度は、「過去の卒業生のうち、高パフォーマンスで卒業した学生の学修特性を把握し、現在の在学生がその学修特性に近づくようにするための支援を行う」モデルの新規開発を進めており、今後はさらなる拡大に向けた検討を行う予定です(図3)。
図3 学修支援システムの概要
前述のとおり、デジタル学習環境はDX推進計画策定前から全学的に整備を進めていましたが、2020年度に実施した実証実験の結果、さらなる増強を要することとなった「無線LAN・ネットワーク回線」について、2021年度に増強することにしました。
2020年度授業を検証した結果、「A.オンライン授業の成績評価の精緻化」、「B.学生一人ひとりの学修特性に即した支援」がLMSに関係する課題として明らかになりました。Aの課題を解消するため、2021年度から全学的に剽窃チェックシステム「Turnitin Feedback Studio」を導入しています。同システムはLMS(Moodle)プラグインとして導入しており、全学において182授業(活用見込含む)で活用しています。また、Bの課題を解消するため、2021年度から全学的にオンラインアンケートシステム「Qualtrics」を導入しています。同システムを活用して、全学で「学修状況アンケート」を10月から実施しており、同アンケートにより「学生の学修特性の早期かつ定期的な把握」、「学生一人ひとりの学修特性に応じたきめ細やかな支援」を実現しています。
昨今の新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、教育のICT化からDX化への加速度的な転換に向けた契機となっただけでなく、今後の大学教育のあるべき姿を再検討する契機となったと言うこともできます。本学では、2022年度から教育DXを全学的に推進する組織を新設する予定ですが、今後は同組織においてPlus-DX事業を始めとした各種課題に、全学的かつ恒常的に取り組む予定です。