特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その1)
松野 浩嗣(山口大学 理事・副学長(教育学生・情報化推進担当))
本学においても、コロナ禍での講義継続の必要性に迫られ、令和2年度当初にオンライン授業の体制を整えました。同時に、学生と教員へのアンケートにより、デジタルで教育効果を高めることができることが確認できています。
そこで、デジタル技術により学修者本位の教育と学びの質の向上による教育の高度化を加速させることを方針とし、令和2年秋には各学部へ意見聴取も行い、教育DX推進計画の策定を開始しました。
令和2年度補正予算公募の「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」の取組み①と取組み②に申請し、両方とも採択されました。本稿では、取組み①の内容について紹介し、取組み②は佐藤の稿(本誌p.10-11『デジタル技術を活用した「知の教授と技の伝承による智の育成」』山口大学・佐藤晃一著:以下、佐藤の稿)で紹介します。
教育DX推進計画は、以下の7項目からなります。
本稿は項目②と③を対象とする事業であり、佐藤の稿は項目⑤と⑥を実施するものです。
「カリキュラムを通した学生の習熟度等の把握」「学生個人に最適化された教育の提供」「入口から出口までの一括管理」「AI活用による学修行動・学修成果の解析と可視化」を相互に関連付けながら“学びの好循環”を創出します。
成績データ、授業データ、学生データを連携させ、AI解析により学修支援をするシステムの設計を行いました(図1)。
図1 成績・授業・学生データを連携させてAI解析し学修者支援に役立たせる
上記①②③をエンロールマネジメントの観点からプラットフォーム化してデータを蓄積し、入口から出口まで一括管理することで、AI技術によって学修診断や可視化を行い、教学IRを活用した自己主導型学修支援を促進します。
「ディプロマポリシー(DP)達成度データに基づく学修者の類型化の実現」「LMSに蓄積される量的データ(授業、成績、入試、就職などのデータ)を用いた機械学習」「マイシラバスの学修ノート機能で蓄積される質的データ(学生の授業コメント、授業外学修等)のテキストマイニング処理」によって、正課・正課外を含めた学生個人のパーソナリティに応じた評価が可能になります。
これまでは、局所的な観点でしか評価基準を持てませんでしたが、AI技術活用により大局的な視点での評価が併用できるようになります。これを学生個人に応じた学修目標設定と自己調整に役立たせます。
本学の教育・学生支援機構を構成する各センターにより開発が進められています。
教学マネジメント室及び教育支援センターは、ラーニングマップとマイシラバスに関わり、現在運用中のLMSと並行利用可のシステムとし、教職員・学生の利便性を確保します。
学生支援センターは、学修ポートフォリオに関わり、教職員と学生の閲覧権限を設定できるようにし、適切な情報管理ができるようにします。学生特別支援においては、支援情報を学部等の部署とも共有するようにし、スムーズな支援ができるようにします。就職支援においては、進路情報や卒業生の情報管理に加えて、学生による報告機能、イベント参加申し込み機能などを付加します。
留学生センターは、日本語レベルチェックテストの結果により、学生が履修登録する際に受講できる日本語科目が表示できる機能を加えます。
保健管理センターは、健康診断データの取得と共有がスムーズに行えるシステムを構築するための設計を行いました。
以下の2つについて開発を行っています。
AI技術を活用して、学生自身がジブンの学びをデザインする力を身に付けることができる自己学修主導型学修を実現し、学生が大学から提供される教育の付加価値を確実に得ることができるようにすることが目標です。
そのために、デジタルにより教育・学生支援力を向上させるFD・SDを実施し、遠隔講義・実習システムの導入や改善を進め、全学的な教育内容を高度化し、学びの質をより向上させていきます。