特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その1)
赤井 昭二(女子栄養大学 栄養学部准教授 情報教育システム委員会遠隔授業推進グループ長)
女子栄養大学は、食を通して疾病を予防し、人々の健康保持・増進のために貢献できる専門家の養成を教育研究上の目的としています。卒業後は、管理栄養士・栄養士はもちろん、フードスペシャリストなど、食を通した健康づくりに精通した各分野の専門職となって活躍しています。一昨年からの世界的な新型コロナウィルス感染症の拡大は、日常の行動様式に大きな変化をもたらしました。そのため、本学でも大学全体のDXを加速して授業のあり方や方法を変革し、対面とオンライン授業の良さを融合した、ニューノーマルな教育を進展していく必要が生じています。
本稿では、2020年度に採択頂いた文科省「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」の概要について簡単に紹介します。
テーラーメイド教育の実現を目指したDX推進に係る統合型基幹システムの構築
科学技術の進歩でデジタル化とグローバル化が飛躍的に進み、社会は激変しています。そのため、未来の社会の変化を見据えて、LMSの導入やe-ポートフォリオなど、中長期的に様々なデジタル化に取り組んでICT教育を実践し、学生に必要な資質と能力の育成に努めてきました。しかし取組みを進める中で、それらのデータが独立しているために活用しきれず、データを統合する必要性を感じていました。さらに一昨年末からの新型コロナウィルス感染症の流行で、高等教育におけるオンライン授業が急速に広がり、デジタル環境下での新たな教育システムの構築が必要となっています。そこで本学では、文科省による教育DX補助金の採択を受け、デジタル技術のさらなる活用により教育の質を高める取組みに挑戦します。すなわち、既存の膨大な学生の情報を連結し可視化することで、学生一人ひとりの学びをリアルタイムで把握して最適指導(アダプティブ・ラーニング)へと導くものです。このようなテーラーメイド型の教育は、多様化する学生の学士力を高めるために必要な施策と位置付けられ、今後、本学の教育理念を下支えすると考えています。
「実践力」育成のための学生個々へのきめ細やかな指導を目標にして、既に様々なデジタル化に取り組んでいます。単なるデジタル化の推進にとどまらず、コロナ後をさらに見据え、学生の入口から出口までの学修データを一元管理・分析するシステムを構築して、カリキュラム編成や教育内容の見直しに活かすことが、機関全体としての最終的なDX推進計画です。
DXの推進は、特に学生の学修状況をリアルタイムで把握して可視化を可能にするとともに、基礎的な技術習得のプログラムの開発も容易にすると考えます。即時解析された学修状況に加え、学生の志向、意欲、吸収力、理解度に応じて、次の学修目標やプログラム、科目等を選択して、個々の学生に合わせて学修を進める『テーラーメイド教育』の実現を目指します。すなわち、食と保健・医療・福祉に関わる専門分野で学修意欲の高い人材を養成することに活用できる本学のシステムは、全国で資格取得を目指す他の高等教育機関全体に対しても広く普及できるものと考えられます。
図1 DXを活用したテーラーメイド教育
図2 具体的な5つの取組み
入学前から卒業までの学生の様々な情報を、自動集約・連結して一元管理することで、学生の学びを即時に把握できるようになると考えます。データの可視化・数値化を継続的に行い、縦断的かつ多角的に解析して、LMSから学生および教職員が適宜確認できるようにします。国家試験対策、教育・研究、進路指導など、多岐にわたって個々の学生の能力・進捗に合わせたアダプティブ・ラーニングが実現できるようになり、最大の目的である『テーラーメイド教育』の基盤を構築できると考えます。また、対面式を凌駕する学修効果をもつ高度なデジタル教材の開発に取組み、自学自修に有用な学修システムを作り上げるように発展させていく予定です。
教育改善に向け、以下の施策に取り組んでいます。
テーラーメイド教育の実現に向け、ICT機器の活用だけでなく、従来のアナログ要素を見直して、より良い教育改善を目指します。