特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その1)
宇佐川 毅(熊本大学 理事・副学長)
中野 裕司(熊本大学 総合情報統括センター教授)
大学等におけるデジタル技術を積極的にとり入れた取組みを支援する「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」(以下、Plus-DX)に、熊本大学から取組み①「学修者本位の教育の実現」及び取組み②「学びの質の向上」各1件を申請し、両者を採択いただきました。本稿では、取組み①に申請しました「LA(Learning Analytics)、AI(Artificial Intelligence)による学生に寄り添ったフィードバックが可能な総合的オンライン学修環境の高度化」について紹介させていただきます。
Plus-DXへの申請に際し、大学等全体でDX推進に取り組むことが前提となっておりました。本学では2001年度以降「情報環構想」を概ね6年ごとに策定し、この構想に基づきDX化を推進してきました。現在、「総合情報環構想2016」[1]の最終年度として大学全体で取組みを進めております。この構想ではDX化を、図1に示すように、情報サービスの環、インフラ基盤の環、IR(Institutional Research)データベースの環、セキュリティ基盤の環、組織連携の環という5つの「環」を高度に連携させるという概念でまとめております。コロナ禍の影響で教育の在り方は大きく変わり、「学修者本位の教育」を実現するために新たな課題を抱えることとなり、その解決に向け図2に示す「総合的オンライン学修環境」の構築を進めています。
図1「総合情報環構想2016」の5つの環
図2 学生に寄り添ったフィードバックが可能な総合的オンライン学修環境の高度化構想の概要
情報サービスの環を中核として、総合的オンライン学修支援環境を構築しております。具体的には、学務情報、LMS、ラーニング/ティーチングポートフォリオ等を連携し、学修データの総合的な蓄積場所としてLRS(Learning Record Store)をIRデータベースにおける熊本大学ビッグデータの一部として構築を進めています。さらに、データ分析にLA、AIを活用することで、学生の抱える問題を事前に予測し、熊大ポータルのダッシュボードを通じてパーソナルでリアルタイムなPUSH型のフィードバックを可能とするシステムの構築を進めています。また、2016年の熊本地震の際に構築したオンライン安否確認システムを利用して毎年訓練を実施してきおり、この実績をもとにコロナ禍での学生支援機能の強化を予定しています。活用するデータには、コロナ禍での対面授業を実施するために導入した「QRコードとSSO(Single Sign-On)を利用した出席登録システム」[2]で得られた講義室単位・学生単位での着座情報(図3参照)や、LMS、Zoom、VOD(Video on Demand)サーバーのアクセス記録などが含まれています。
図3 出席登録履歴(2020/4/1-2021/6/1)
インフラ基盤の環としては、全学無線LANの拡充とプライベートIP化によるセキュリティ強化、パブリッククラウドの利用によるシステム運用の安定化、BCP (Business Continuity Plan)等に、グリーンITの原則に沿って取り組んでいます。
IRデータベースの環では、大規模な情報収集を継続することで熊本大学ビッグデータを構築するともに、IRやLAへの活用を推進しています。
セキュリティ基盤の環では、ファイアーウォール等インフラ面の強化、情報セキュリティポリシーの整備、熊本大学情報セキュリティインシデント対応チームの強化等を行うとともに、セキュリティ教育に力を入れています。全学生・教職員へ必須化を推進するため、学修履歴をリアルタイムに参照した未実施者への熊大ポータルによるアラート通知等を予定しています。
本学では2001年より定期的に総合情報環構想を制定し、綿密な計画に基づき全学のDX化を推進してきました。本取組みは、これまでの実績に基づき、コロナ禍で生じた学修環境としての課題を克服することで、本学に入学したすべての学生に十分な学びを提供するとともに、コロナ禍固有の課題への対応を含めた形で従前同様の学生支援を実現することを目指しています。
大学改革推進等補助金(デジタル活用教育高度化事業)という形で、厳しい環境を克服するための補助金を申請する機会いただきましたことに感謝します。加えて、本学でのこれまでの取組みを支えていただきました文部科学省の大学ICT推進協議会をはじめとするコミュニテイーに心より感謝いたします。
参考文献および関連URL | |
[1] | 熊本大学総合情報環構想2016、https://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/katudou/johokankoso(参照2021/12/10) |
[2] | 中野 裕司、喜多 敏博、“QRコードとSSOを利用した出席登録システムの開発と運用”、第34回教育学習支援情報システム(CLE)研究会(2021/5/28開催) |