事業活動報告 No.2
本大会は、「新しい学びの創出に向けたDX化と人材の育成」をテーマに、対面授業と遠隔授業を組み合わせたハイブリッド型授業やデジタル技術を活用した授業価値の最大化を目指す授業の方略と課題、オンラインによる大学間・産学連携教育やインターンシップ、リカレント教育への対応、リテラシーレベルと応用基礎レベルのデータサイエンス・AI教育の対応、著作権法改正に伴う権利処理の対応、DXによる学修達成度の個別最適化への対応、データ活用力の強化を目指した教育実践の考察を行うとともに、ICT利活用による授業改善の研究や学修成果可視化などの実践又は研究事例の発表などを通じて理解の促進を図ることにした。
1日目の「全体会」では、向殿政男会長(明治大学)から、「新しい学びの創出に向けたDX化と人材の育成を効果的に実現していくにはどうすればよいのか、教育内容と方法、教育の質保証、卒業後のリカレント教育などを多面的に探求し、改革行動につなげられる場となることを期待している」との挨拶の後、9月6日から8日に亘るプログラムがオンラインで実施された。
文部科学省高等教育局専門教育課企画官 中澤 恵太 氏
文科省は、昨年度第3次補正予算において約60億円を確保し「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)」という事業を進めた。この事業の目的は、デジタル技術の積極的な導入を通して、「学修者本位の教育の実現」、「学びの質の向上」に資するための取組における環境の整備を支援し、ポストコロナ時代の高等教育における教育手法の具体化とその成果の普及を図ることにしている。この事業の背景として、新型コロナウィルス感染症の拡大により、対面形式が当たり前だった大学・高等専門学校の教育に遠隔授業が必須になった。遠隔授業の実施について当初はいろいろな問題があったが、デジタル活用によるメリットも多く見出された。そこで、教育環境にデジタルを大胆に取り入れ、質の高い教育手法の開発を加速させることが重要と考えた。
重複を含めて252件の申請があり、54件を採択した。今後採択の取組状況や成果をフォローアップし、情報共有を進めていく予定である。また、予算の都合で不採択になってしまった取組もあるが、遠隔授業の実施にかかる設備や技術面・教育面のサポートなどの経費の予算措置を進めている。
採択された取組事例の一部を紹介すると、金沢工業大学では、学生一人ひとりの学びに応じた教育の実践ということで、AIによる学習アドバイスが可能な支援システムを構築し、教育効果を公表いただく。次に、関西大学の取組は、日本でまだ少ないスマートキャンパスのトータルデザインを実現するもので、先導性があると思われる。さらに、東洋大学は5つの教育のDX推進基本計画を策定し、学生の学習スタイルの高度化と多様化、教職員のFD、SDプログラムの体系化、学内業務の全学的な体制構築を行う。法政大学の取組は、学修データを一元管理するポートフォリオシステムの構築やVR/AR技術を用いたリアルタイムオンライン授業の実践による実現困難であった多様な学部教育の高度化が特徴である。
他方、文科省では、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(リテラシーレベル)」を創設した。閣議決定されているAI戦略2019の教育改革の一つで、2025年までに全べての大学・高等専門学校卒業生(年間約50万人)が数理・データサイエンス・AIに関する初級レベルを修得できるよう、大学の正課科目に対して認定を行うものである。認定プログラムは専用のロゴを用いることができ、経産省と連携して企業への周知を検討している。認定は毎年公募して進められる。今年度は78件の申請があり、すべてが認定された。また、その中の11件は先導的で独自の工夫・特色を有するものとして、「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)プラス」に選定された。認定を受けていない大学・高等専門学校は申請を検討してほしい。その際、国立6大学を拠点としたコンソーシアムが策定・展開しているモデルカリキュラムがあるので、参考にしてほしい。また、今後、応用基礎レベルの教育プログラムに対する認定制度を新たに創設し、来年度募集を行う準備を進めている。
最後に、現在進めている取組の中に、新しい高等教育への挑戦の促進として、「スキームD(Student-centered higher education ecosystem through Digitalization)」がある。旧来の補助金事業ではなく、企業や投資家を巻き込み、大学教育の高度化や学生の社会実践、研究成果の社会実装を目指すもので、デジタル技術を活用した新しい取組であり、興味があればスキームDのWebページを確認してほしい。
【質疑応答】
[質問1] | ||
Plus-DXの中でAIを活用すると書かれているが、AIが応用できると想定されるような具体的な内容は何かあるのか。 | ||
[回答] | ||
具体的に想定しているような活用方法はない。むしろ、いろいろ挑戦することで見えてくるのではないかと思う。特に、ブラックボックス化されているAIの判断に対する説明可能性を検討するのが難しいと思うが、試行錯誤が必要であると考えている。 | ||
[質問2] | ||
数理・データサイエンス・AI教育プログラムの認定にあたって、具体的にどのようなことができる学生を養成するのか、統計学の数理レベルを自分で理解して扱えるようなレベルやデータサイエンスの考え方にしたがってデータを数量的に正しく扱い判断できるようなレベルというように、いろいろなレベルを想定できると思われる。 | ||
[回答] | ||
数理モデルを利用して分析するような内容は応用基礎レベルとして考えている。各学問領域の専門課程に寄り添った応用基礎レベルもプログラムとして認定する方針である。一方で、データとはそもそもどういうものなのか、どうやって収集するのか、どういう見方ができるのかといったデータの扱い方や利活用のような基礎的な内容は初級レベルであり、全学年で学んでほしいと考えている。リテラシーレベルの内容については、今後もモデルカリキュラムやグッドプラクティスを共有できるようにしていきたいと思っている。 |
慶應義塾大学大学院特任教授、前芝浦工業大学副学長 井上 雅裕 氏
どのような状況であっても、学生の学修機会を保証し、学生の満足度を向上させることが重要なポイントとなる。コロナの状況で大学教育は、オンライン授業、ブレンディッド学修、ハイブリッド教室(ハイフレックス、ハイブレッドフレキシブルとも呼ばれる)などが導入され、大きく変わってきている。コロナが収束した後も、教育の形態が以前のように戻ることはなく、対面の良いところとオンラインの良いところを組み合わせて新しい大学教育ができ上がっていくと考えられる。
ブレンディッド学修は、一般にオンライン等でオンデマンドのコンテンツを使用し、時間と空間の制約を受けずに知識の習得を行い、その後対面で学習意欲の維持、受講者間のコミュニケーション、スキルの習得を行うというものである。一人の学生が2つの学習形態で学び、良いとこ取りをすることになる。ハイブリッド教室は、対面とオンラインの学生が同時に授業を受けることができる教室の形態で、海外の学生や社会人などを交えて授業を行うことができる。ブレンディッド学修は学修成果をあげていくという形態、ハイブリッド教室は対面に近づけるという形態で、両者の位置づけには大きな差がある。前任校の芝浦工業大学における事例として、反転授業とPBL:Project Based Learningの2つ事例をあげる。
最初の反転授業は、160人の必修科目でオンデマンド型のコンテンツにより事前に知識の習得を行い、授業中学生は4人の班に分かれ、教え合うというアクティブラーニングである。反転授業で重要なのは予習であり、学生がしっかりと予習してこないとアクティブラーニングが成立しない。課題を授業の開始直前にできるところまでプレ提出させ、授業中教員は細かい指示を出すなど工夫が必要となる。結果として予習時間は平均すると100分の授業に対し150分となった。成績上位者と下位者の間には予習時間に統計的に有意な差があり、能動的な自律的学修ができているか、できていないかというところがかなり大きいと言える。一方的な講義に比べて、役に立ったという肯定的な学生の声が多かった。
次の事例のPBLは、学生500人教員15名という学部の必修科目である。対面授業のときは小教室15人に分かれてグループ学習をするという形態だったが、昨年度はすべてオンラインで行った。各班の共同作業、教員が学生に指示を出し学修活動を見る全体、そして教員間の協働作業という3つを同時にオンラインできる仕組みが必要であり、最終的にTeamsとoffice 365を使った。事前の準備と教員間の連携を十分に行ったので運営はスムーズであった。学生は、授業時間だけでなく夜に集まり、プロジェクト活動をしていた。成果物のレポートやプレゼンテーションは、対面だけの昨年度よりもむしろよかったと教員全体が評価している。この仕組みは、国内だけでなく国際PBLにも使用している。
経済産業省のガイドラインによるデジタライゼーションとデジタルトランスフォーメーション(DX)の定義はビジネス寄りの定義だが、それを高等教育に読み替える。VR/AR実験等を使い新しい学修体験による教育の質や学修成果の向上、学修プロセスの把握と学修の最適化というラーニングアナリティクス、学生の多様性、進度に合わせて学修を行うアクティブラーニング等がデジタライゼーションと言える。一方、オンラインを活用することにより、リカレント教育、大学間、国際、産学連携での新しい教育モデルができあがるのが典型的なDXと言える。これを教学マネジメントにマッピングすると、デジタライゼーションはどちらかというと科目レベル、学位レベルの内容が多く、DXは組織としての変革、教育を提供するモデルの変革という上位階層の程度が多い。
国際連携で大学院が教育とリカレント教育をしていくということを想定し、複数の大学が相互に科目の群を持ち合い、学生だけでなく企業の社員が参加し、企業のエキスパートも講師となり、これを対面とオンラインを活用し科目を積み上げる形で生涯教育を作り上げることがDXの一例と言える。
実例をあげると、アジアの工科系大学の連携において、エンジニアリングと異文化理解という内容で、100人の学生が参加して実施した。次は社会人も参加して起業家に対する授業、ビジネスの問題とかスタートアップに関する内容など、リカレント教育を強化した内容を6大学が連携して行う予定である。
ポストコロナの高等教育では、オンライン化と対面でのリアルな体験をうまく組み合わせることが重要である。高等教育のDXを推進し、次世代の高等教育を作り上げていくというのが、われわれの役目と考えている。
[質問1] | ||
100分の授業に対して150分程度の予習時間は、他の授業に影響し学生から不満がでないのか。 | ||
[回答] | ||
一番コアになる必修科目なので、比較的重めの予習を課している。教育のプログラム全体として、どの科目でどのくらいの課題を出しているのかを把握し、最適化することが重要となる。 | ||
[質問2] | ||
学習時間が短いからといって成績が悪いわけではないという学生が一定割合いるが、エビデンスとして何か使える工夫はあるのか。 | ||
[回答] | ||
LMSで蓄積された学生のデータは、成績の予測、特にこのままでは単位が取れない学生を見つけることには役立つと考える。学生の状況を把握して指導に役立て教員の負担を下げることがスタートと考える。 |
デロイト トーマツグループCSO:戦略担当執行役員 松江 英夫 氏
デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していくため、決定的にデジタル人材が不足している。
IMD(国際経営開発研究所:International Institute for Management Development)による調査において、デジタルの競争力ランキングは27位、デジタルテクノロジー、デジタルスキル、データ等の分析能力およびそれらの教育に対する公的な支出でランクが低く、他の国に比べ課題が非常に深刻なことが明らかになった。この競争力と人財としてのデジタル力をどう高めていくかが非常に重要である。
2000年のE-ジャパン戦略以降、政府官民あげてデジタル化、IT化を促進してきたが、なぜここまでランキングが下がったかの理由として、日本の社会のシステム、組織、運営の在り方が根底にあると考えられる。デジタル化を推進するにあたり、個別のシステムを別の業者が作製するという個別最適が進み、標準化やオープン型と真逆、悪く言えば「蛸壺的な構造」を自ら作ってきたと言える。この部分を変えていく上でデジタルの力を利用していく必要がある。デジタルが持っている大きな魅力は、それぞれデータで繋ぐとスピードが加速度的に増大し、地理的にも時間的にも広がっていくことで、それにより日本の組織のあり方、システムのあり方を破壊する力を持っている。
日本は今までアナログや自分流のやり方をしてきた。つまり、内向きで蛸壺化と言えるが、既存の物がことさらに優れているがために、壊すのに多大なエネルギーが必要になる。であるならば、より優れた物を先に作り、自ずと既存の物が変わっていくというアプローチが必要ではないか。実は日本にはかなり成熟して優れたものがたくさんある。それをデータ化し、データ空間あるいはサイバー空間の中でシミュレーションし、実際の世界に落とし込んでいくといった価値創造のサイクルが必要となる。
「在るものを活かし無きものを創る」において、在るものとは人財である。2013年のOECDの調査によると、基本的な学力、特に読解力、数的思考力を年代別に見ると、45歳以上もしくは55歳以上では他の国に比べて非常に高い。これは、終身雇用もしくは企業内教育のためと考えられる。一方でIMDのデジタル競争力ランキングにおけるtalentが46位とかなり低い。talent力と競争力に相関があり、これが大きな課題であると言える。
デジタル人材において、データやAIをテクニカルに扱うことが重要なことは言うまでもないが、それだけで良いかというとそうではない。ビジネスの知見と学力がある上に、デジタルの力を融合させて両方ができる人財こそ価値がある。学生というよりも社会人の実務家になるが、デジタに関心がある、必要性の理解といったレベルをレベル1(経済産業省の定義における1エントリーレベル)、DXを推進することに理解し、一定の専門知識を持ち自分の仕事の中に活かしていくという人材をレベル2(同2専門知識レベル)、DXそのものを自らの仕事に結びつけて考え、けん引し、事業の競争力を高めていくところをレベル3、デジタルコア人材と呼ぶ。最終的には、最高位のレベル4をデジタルリーダーと呼び、ビジネスをプロデュースあるいはアーキテクトできる人材(レベル3、4は同③高度人材レベル)と階層化できる。 コア人材はさらに、ビジネスの知見と相まって新しい価値を生み出せるビジネスプランナー、UI/UXデザイナー、デジタルの世界をデザインしていくデジタルアーキテクト、データサイエンスとかAIエンジニアそしてサイバーセキュリティと定義することができる。この階層において、レベル3以上をいかに増やし育成していくのかが重要な課題となる。
デジタル教育を受ける機会が実は極めて少なく、その機会があることを知っている人は5,000人以上の規模の会社であっても2割程度しかいないのが実態である。
シンガポールでは非常にユニークな形でのデジタル人材の育成プラットフォームを10年近く前から実装している。単に教育の入り口だけではうまくいかず、出口すなわちある種の雇用や実務との結びつきのインセンティブがないと教育が進まない。つまりこのプラットフォームというのは入口と出口がワンセットである必要がある。ADXO(Area Digital Transformation Organization)すなわち、地域の中でDXを通じた産業を作っていきながら、そこを賄える人財をデジタル人財もしっかりと育成する。この両輪を回していくことを、国をあげてやっていくべきではないか。人財教育・育成が正に産業の競争力にも直結する。
【質疑応答】
[質問1] | ||
理工系学部では理系の知識を与えることはできるがビジネスについてはどうしたらよいか。 | ||
[回答] | ||
いかに実際に事業化していくかという起業の発想を学ばせたり、実業家の接点をあらかじめ早い段階から持たせたら良いのではないか。 | ||
[質問2] | ||
古い伝統的大学ほど蛸壺的なのですが。 | ||
[回答] | ||
結果が出始めるとルールも変わっていったという例がある。無きものに対して新たなものを作る、民を活用するという発想もあるのではないか。 |
東海大学学長補佐 中嶋 卓雄 氏
近畿大学、帝京大学、さらに本学とのアライアンスにおける「オンライン大学間の連携による学びの質向上への取組み」を紹介する。コロナ禍によりオンラインの活用が進み、地理的な制約が取り払われ、より広範囲の連携の可能性が出てきた。
私立大学は、それぞれが建学の理念を持ち、学生教育に対する考え方、研究分野の特化の仕方など大きく異なる。それにもかかわらず、同規模の大学間での連携により、新しい学びの質の向上を考え、オンラインを基礎として、共通要素を持つ大学間で連携するのが今回のアライアンスである。
本年4月16日に文科省記者会見室において、近畿大学の世耕弘成理事長、帝京大学の冲永佳史理事長・学長、および本学の山田清志学長によって、「私立総合3大学アライアンス」の調印式が行われた。世耕理事長は、学生への授業支援だけではなく、3大学とも病院と医学部があるので、病院の患者の受け入れ体制および3大学の連携を通した、大学界のフロントランナーを目指すとした。冲永理事長は、独自に培ったリソースを出し合うことで補完できる。そのような効果以上に、人材育成にとってプラスになる。さらにはグローバルな視点を活かしながら、社会に活力をもたらす活動をしていきたいと表明した。本学の山田学長は、この3大学で学生数8万4千人となり、私立大学全体の5%にもなる。単位互換や授業の相互乗り入れという従来の枠組みを超えて、ウィズコロナやアフターコロナを見据えた形での新しい私立大学の3本の矢になるような活動の展開を表明した。全体として、新しい時代に対する新しい次元の教育・研究成果を社会に還元していくことを目指すとした。3大学の基本的な考え方については、現状、方向性や可能性の話であり、完全に実現できていないが、各大学の取組みを良い形で繋げてくという試みである。
取組みの方向性として、共通ブランドの構築などが考えられる。ブランド、これは評価する主体によって色々な評価手法がある。大学ランキングにしても、Times Higher Education(THE)の世界大学ランキング、およびQuacquarelli Symonds (QS)の世界大学ランキングがある。QSは、リピテーションを重視し、THEは論文の参照頻度が大きな割合になっている。このような対外的な評価指標で評価される評価手法も徐々に変化しており、THEに関しては3年前にSDGsを取り入れた。さらに研究教育に対する対外的評価だけなく、学生の評価もある。評価指標を単に取り入れるのではなく、共通の目的、そして共通のブランドを作り、切磋琢磨しながら、単独では踏み切れない新制度へ挑戦する。最終的には、世界への標準化に挑戦する。そのための指標、方向性を作ることがこのアライアンスの大きな目的になる。具体的な施策の方向性としては、コロナ対応を議論する必要がある。特にデジタルコンテンツの在り方に関して今後検討していきたい。さらには施設や本のような資産の共有化が今後必要になってくると考える。
新しい時代のグローバル化における人材形成において、その意義をどのように学生に伝えるべきであろうか。本学では文明論という講義を必須にしており、新しい文明を作ってきたことを一貫的に講義している。また世界標準という意味では、SDGsのような世界共通の目標に加え、持続可能性の大きな要因として、本学はQuality life(QL)を考えている。QLの向上を大学の一つ大きなゴールとしている。本来QLは、単に幸福感(happiness)の話ではなく、ウェルビーイングという、個人の何らかの達成感も含めた感情や生きる感情である。それを持つことができる学生生活、そこで得たものを外の社会に広げていくことを積極的に進める。
教育活動の連携では、各大学の独自の施設や設備等を利用することを考えている。本学は、海洋調査研修船「希美征丸」を所有しており、4,000人近い学生が参加して、主に太平洋上を6か月以上にわたり航海している。
研究・国際化の方向性としては、施設の共同利用、共通の国際的広報戦略の立案、さらには海外キャンパスの共通利用についても検討課題になっている。本学は、アジア太平洋地域での多様な国際的な視野を培うことができるゲートウエイ施設としてHawaii Tokai International College(HTIC)を運営している。
大学の管理運営については、3大学で共通化できることについて検討作業を行っている。FD・SDは、リモートワークが前提となる。ワークフローを中心としたインフラの話や電話などの通信のIP化等が検討されるべきである。デジタル化の積極的な推進により業務の並列的な運用が可能になってくる。さらにはAIの利用には、学習用のモデルが重要になるため、モデル化に関する知識の共有も行いたい。
今年度から具体化できたのが、NHKエンタープライスの「NHKライブラリー」の共同利用である。GakuNinの認証後に、NHK特集、プロジェクトX、プロフェッショナル、およびNHKスペシャル等の111のコンテンツが利用できる。例えば、本学では、シリーズである経済史、アインシュタインの相対性理論など、ソーシャルサイエンスの番組を約2・3千人の学生が常時使っている。本学だけでなく近畿大学、帝京大学におかれても同等の学生が利用されていると聞いている。このように最初の試みに入ったばかりであるが、このアライアンスをより強固なものにすることによって、新しいスタンダードを模索する活動を今後とも強化していきたい。
東京外国語大学副学長 青山 亨 氏
多文化共生教育コンソーシアムは、青森の弘前大学、宇都宮大学、東京外国語大学、長崎大学の4大学で構成されたコンソーシアムである。本年3月17日に協定が締結されたばかりである。同協定では、「我が国の多文化共生に取り組む大学等が、情報共有を図り、教育分野を中心とし、各大学の特色を生かしながら相互に連携・補完することで、国内外の多言語多文化社会の抱える問題を解決し、異なる言語、習慣、文化を持つ人々が安心して暮らすことのできる社会を実現することを目的とする。」ことが示されている。コンソーシアムの英語名は、Consortium for Intercultural Educationであり、COINEが略称である。開かれたコンソーシアムであり、仲間を増やしたい。教育プログラムは、本年10月からの開始になるため構想をお伝えする。
まず、多文化共生教育の背景について東京外大の視点から説明する。2020年末、在留外国人の数が289万人、現役で働いている外国人労働者の数は、172万人になる。しかも、出身国や地域が非常に多様で、様々な背景を持つ人たちが、日本に在住しているが、言語・文化、制度の違いを乗り越えてもらうためのリソースが不足しており、ここに多文化共生社会に向けての取組みとして大学間の連携が必要である。
4大学はいずれも多文化共生に関わっている。弘前大学は、人文社会学部多文化共生コース、宇都宮大学は、多文化共生にかかわっている国際学部、長崎大学は多文化社会学部がかかわっている。東京外国語大学は、言語文化学部、国際社会学部、国際日本学部の3学部がかかわっている。
授業内容は、4大学で行う初めての学部生を対象とした連携授業であり、タイトルは「多文化共生社会への誘い」である。4大学が連携して、それぞれの地域の特性、あるいは大学の専門性を活かしたオンラインによるリレー講義として実施する。したがって、本授業は、各大学がそれぞれ自前で開講している科目に、他大学の先生方、そして学生がゲストとしてオンラインで参加する形態になる。秋学期15回の内、13回は各大学が2〜3回の授業を担当する。また、13回の内、3回はオリエンテーションおよび交流型授業として実施する。各大学が担当する授業の内容を紹介する。弘前大学は、例えばニュージーランドのマオリ、文化人類学、LGBTについての授業である。宇都宮大学は、多様な学びの場について、例えばドイツにおける移民のケースといった、外国での参考事例をとり上げる。長崎大学は、熱帯学が非常に特徴的であり、熱帯という環境での健康について、あるいは移民についてとり上げる。東京外国語大学は、日本に住む外国人に対して、ホスト社会である日本がどのように取組むべきかをとり上げる。全体で300人前後の受講を想定している。基本的に、同期型のオンライン授業はZoomを使う予定である。Zoomの操作についてはTAを1名配置し、サポートする。東京外国語大学がZoomのホストになり、ZoomのURLを各大学の教員と学生に送付する。資料の事前配布は予定していない。各回で内容を完結させるため、資料については授業の中で配布する。あるいは別途教員を通じて配布することも考えている。大学によってはハイフレックス型の授業を予定している。連携授業の場合、どうしても異なる学年歴への対応が必要である。連携授業としての開催は13回として、それ以外の回については、大学ごとの独自授業を行う。大学の学事日程の都合で連携授業に参加できない回がある場合には、その回の授業は録画し、オンデマンド型で学生に視聴させる。
成績評価については、各大学それぞれが開講した授業であるため、大学ごとに評価を行う。毎回の授業では、Google Formを用いて振り返りを提出させ、出欠確認にも用いる。また、授業参加への姿勢も評価できる。また2回の交流型授業は、中間と最後に実施する。中間で、課題を提示し、そして最後の回で発表をさせる。合わせて学期末にはレポートを提出させる。交流授業の意義と課題を最後にまとめる。
コロナ禍の対応で普及したオンライン授業については、コロナが終息したからと言ってなくならない。ここでは、ポストコロナを見据えて、オンラインによる連携授業を挑戦している。「多文化共生」というテーマで緩やかなまとまりを作ったことで、各大学の先生方の関心、専門性に沿って、授業を提供できる。オンラインの連携授業は、物理的な距離を超えたネットワークが可能であり、地域の特性を生かせる。課題も多い。授業科目として見た場合のまとまりに課題が残っている。資料の配布、レポートの提出を各大学に任せているという課題もある。授業が終わってからの質問をどの様に対応するかも課題である。今後、仕組みとして、大学共通で使えるLMSを考えている。地域が離れているが故にオンラインで実施するが、やはり何らかのリアルな交流の場も必要であろう。
大阪教育大学理数情報教育系准教授 尾崎 拓郎 氏
ハイフレックス型の授業に関する大阪教育大学の取組みについて報告する。ハイフレックス型授業は、3つのサービスで成り立っている。まずは、バーチャル講義室の土台となる学修管理システムのMoodle、そして、クラウドストレージのマイクロソフトのOneDriveである。ここに、動画などの容量の大きいサイズのファイルを保存するように案内をした。リアルタイムの授業をする場合はZoomを使用し、大きなトラブルなく過ごすことができた。この中でも、特にハイブリット型に焦点をあてて紹介する。
1年前、緊急事態宣言も終わり、学生の登校が始まったが、100人以上の授業の場合は大学に来させない。中間の人数であれば半数の学生が登校し、30人以下であれば全員登校してもよいと割り振りをするなど、人数規模に応じた様々な授業形態を提案した。前期はMoodle等を活用したオンデマンド型を主に進めていたが、語学であったり実験系であったりなど、演習や発話をしなければならない授業に関しては、Web会議システムを使うこととした。しかし、場所の問題など教務が苦慮したこともあった。半数の学生が登校する場合には、学籍番号が奇数組と偶数組で半分に分けて、大学に登校する人数を抑制した。
現在は、ハイブリット型の授業は広く実施さており、知見も蓄積されているが、当初は不明なことも多く、教務と協力しながら、昨年の7月に実験的に希望する人を募ってトラブルシューティングをした。その中で、教員以外にもサポーターの必要性を感じ、サポーターをどうやって育成するか、何人くらいの規模であるのか、などを決める必要があった。教室では、対面で目前にいる学生に講義をするとともに、Zoomを通して自宅等にいる学生にも講義を提供しなければならない。そこで、サポーターを募って準備を行った。例えば、教員用マニュアルの作成、Zoomサポーター用の学生側マニュアルの作成、さらに、講習会の実施などの段取りを決めて「Zoomサポーター」の支援体制を構築した。
Zoomサポーターは、ITを得意とする研究室の学生10名程度であり、ハイブリッド関係の運用を任せた。CiscoのWebex Teamsを使って定期報告や情報共有も行った。10月には、ハイブリッド型授業の接続練習会も実施した。
教室についても、全てではないが、講義室のマイクの音声をそのままZoomに取り入れることができるようにした。また、教室後方にあるIPカメラの映像を、そのままカメラリソースとして使うことができるようにした。語学の授業では、サポーターのパソコンのWebカメラを講義室側に向けることによって、受講生側の様子が分かるようにした。したがって、ディスカッションが必要な授業では、後方のカメラと前方のカメラと2方向から撮影をした。それ以外にも、カメラワークが重要となる実技の授業では、サポーターの支援を受けながら、手元を映すことなどもした。
次に、サポーターとのコミュニケーションの方法について紹介する。本学では、Cisco Webex Teamをコミュニケーションツールとして活用した。Webex Teamsであれば、電話もでき、Web会議も開催することができるので、すぐに職員と連絡することができる。これにより、どこで、どのような作業しているのかなどといった情報をリアルタイムに共有できるような工夫をした。
サポーターのサービスを利用する頻度は、考えていたよりも少なかった。1つの講義室には、2名を配置したが、同時に開講される講義は最大でも3コマであり、稼働していたのは全体で40コース程度であった。さらに、支援の回数は、時間の経過とともに減少した。最終的には、教員だけでできるようになることが望ましいと考えている。
最後に、事業継続について紹介する。今年度はハイブリッド形式を行っていない。また、サポーターは、当時の最上級生ばかりであり、その中で、現在大学に残っているのは大学院生となった1名だけである。しかし、当時のナレッジは、教務の資産として残しており、今も活用はされている。活用頻度は高くはないが、資料を残しておくことは重要であると考える。今後も、ITの支援に関しては、ノウハウを継続し継承していきたい。
【質疑応答】
[質問1] | ||
サポーターとして活躍した学生の感想は、どのようなものであったか。 | ||
[回答] | ||
チャットツールなどを活用して、支援やトラブルシューティングの記録を残して、引継ぎをできるようにするということが大事との感想があった。 | ||
[質問2] | ||
学生の提出物により保存データ量が増えていると思うが、データ削減の工夫があれば伺いたい。 | ||
[回答] | ||
ファイルサイズの大きな提出物については、Moodleではなく、クラウド(OneDrive)に提出させるなど、提出先の切り分けをさせている。 | ||
[質問3] | ||
組織的な調整はいつから始めたのか。 | ||
[回答] | ||
前期に関しては、2020年の3月31日にFDを開催して、組織全体にアナウンスした。後期に関しては、8月から9月上旬に教務や役員との意見交換などをした。 |
文部科学省総合教育政策局 生涯学習推進課課長補佐 香西 健次 氏
リカレント教育は、平成29年度に行われた「人生100年時代構想会議」を端に発し、政府の中で重要視されてきた。社会を取り巻く環境の急速な変化も大きく影響している。例えば、人生100年時代やSociety5.0の到来に加えて、個人や個人の仕事やスキルに影響を与えるような大きな変化が起こっている。新型コロナウィルス感染症による変化もある。失業者は200万人を超え、雇用等見込み労働者数は10万人を超えている。この中で特に2,000万人を超える非正規労働者は、働く場も収入も減少している。政府は関係閣僚会議を立ち上あげた。この中で、人材育成、リカレント教育が重要であると指摘し、短期的には非正規雇用労働者のスキルアップのための教育訓練の提供、そして中長期的には、より成長性の高い分野への円滑な移動を目指し、リカレント教育の強化について関係省庁が取組むことになった。
リカレント教育、学び直しの実施状況を6月発表の調査でみると、リカレント教育への実施状況は20代が一番高い。コロナ禍で希望する職種につけない若者が増え、20代が今後の社会に危機感をもって自らスキルアップに取組んでいる。今後の施策を考える上で20代をターゲットと位置づける必要がある。政府は主に、厚労省、経産省、文科省の3省庁が役割分担をしつつ、連携して取組んでいる。文科省は、リカレント教育の充実に取組んでおり、特に大学や専門学校等において、仕事に役立つ能力やスキルを習得するための実践的なプログラムを増やしていく。非正規雇用対策についても、大学でより社会のニーズに対応したプログラムを提供していく必要がある。
文科省は、大学のリカレント教育が抜本的に充実できるよう取組んでいるが、現状では十分に広まっていない。大学で自己啓発を行っている会社員は正社員で2%、非正社員で3.8%と少ない。企業が社員の研修などで外部の教育機関を使う場合も、大学を活用しているケースは1割で、民間の教育機関を活用する割合と比べかなり少ない。
社会人が大学で学ぶ上での課題として、時間、費用、実践カリキュラム、情報の問題があげられている他、社内の評価、費用や休暇等の支援などの処遇等、職場環境も必要と考えられる。さらに、リカレント教育を実施している大学は全体の25%程度と少ない。実施していない75%においても、今後実施する見込みのある大学は10%弱である。大学側も社会人の受講生や企業の活用が見込めないとリカレントプログラムを始めにくい。
社会人と企業の状況が連動していることから、社会人や企業の活用を促す面と、大学のプログラムを増やす両面からのアプローチが必要である。
政府の骨太の方針を見てみると「産学官連携の下、時代や企業のニーズに合ったリカレントプログラムを大学・大学院・専門学校等において積極的に提供する」としている。また、デジタル化の産業構造の変革に対応できる人材をリカレント教育で育成すると言及している。
本年4月発表の採用と大学教育の未来に関する産学協議会の報告書では、企業の従業員が自身のキャリアチェンジのために、スキルや専門性を高めるべく大学等で学ぶこと、企業や企業側が人材育成戦略や競争力強化の一環として従業員を大学に派遣することを明言している。大学のリカレント教育には、資格取得やスキル向上を目指す応用レベルから社会課題の解決などを目指すエキスパートのレベルを期待している。
大学のリカレント教育は、他と比べてより大きな効果がある。内閣府が今年の1月に発表した調査では、リカレント教育を、①公的職業訓練、②OJT、③Off-JT、④自己啓発、⑤主業以外の職務経験の5つの分野に分け、その効果を分析している。大学等の講座受講は④になる。その効果は、収入の増加、転職を伴う収入増加、正社員以外から正社員化の3つである。
大学がリカレント教育に取組む際のポイントを整理した。一つは、社会人が学び直しを行う上での課題の解決である。社会人が学びやすい工夫として、時間帯への配慮やオンラインで受講できる環境整備、費用の支援などの工夫、企業に評価される実践的プログラムを工夫することが重要であり、リカレントプログラム実施の前提条件になっている。二つは、企業のニーズを踏まえることである。企業が大学に期待することは、専門知識や技術の習得、最先端の知識技術の修得など実務に役立つ実践的なプログラムである。若手もシニアも全階層共通してIT関連、情報・数理・データサイエンス・統計について学ぶことが強く期待されている。階層が上がるにつれ、経営マネジメント関係など、広範かつ高度な専門的知識の習得も期待されている。社員の階層によって、分野やニーズのレベルが異なるため、ターゲットにあった内容の提供が重要になる。三つは連携、産学連携の強化である。企業ニーズを踏まえたプログラム開発には産学連携が必須になる。
コロナ禍での失業者、非正規雇用労働者への対応として、就職・転職に繋がる短期のプログラム開発を行う大学に研究的に支援を行う「就職・転職支援のための大学における教育プログラム開発・実施事業」を紹介する。各大学は、地域の産業界のニーズも踏まえながら、実践的なプログラムを開発し、無料の講座を提供している。コロナ禍において、失業者や非正規雇用労働者向けのプログラム開発を大学で取組むという観点や、就職までつなげるための就職支援をしている点が新しい。また失業者も対象とし、厚労省と連携して求職中の受講者には生活費10万円の支援を行う仕組みも整備している。本事業は、本年6月に40大学63のプログラムを採択し7月から順次実施されている。テーマはDX関係が一番多く、その他、女性活躍、地方創生、医療・介護などのプログラムが採択されている。
令和4年度概算要求では、就職・転職支援のためのリカレント教育推進事業、5億2,000万円、地域活性化人材育成事業、28億円が新規の事業となっている。当課が担当の「就職・転職支援のためのリカレント教育推進事業」では、DX人材の育成に焦点を絞ったプログラム開発と、今年度実施している取組みで成果の上がったものをさらに改良するプログラム開発を想定している。
大学のリカレント支援をする方策として、BP「職業実践力育成プログラム」という取組みがある。実務家教員の活用や企業等と連携した事業を行うことなどを要件として、企業のニーズを踏まえた社会人向けの実践的なプログラムを文部科学大臣が認定する。平成27年度の開始以来、毎年30〜50程度の申請があり、現在314課程を認定している。テーマは、女性活躍、地方創生、ビジネス、医療・介護などの他、本年度の認定からDX、医療・介護、就労支援、ビジネス等、新しいテーマも設定している。
最後に情報発信の取組みについて紹介する。大学のリカレントプログラムが充実している中で、その情報が社会人や企業に届いていない、講座を探すときの情報が少ないという声に応えるため、文部科学省では「マナパス」というポータルサイトを運営し、学びの関心を高める工夫をしている。
「グローバルフェローの導入」
東京大学本部国際戦略課長 八木橋 麻美 氏
東京大学では今年度から「グローバルフェロー」という称号付与制度を本格導入した。これにより、教員等の物理的移動を伴わずに、国内外から世界最先端の教育・研究を取り入れることが可能となる。例えば、外国に在住している海外大学の教員が、外国に居住しながら、東京大学の教員としてリモートで教育研究活動に参画できる。この制度は、世界第一線の教員、研究者をリモート(デジタル)で結集し、世界最先端の教育・研究を展開していく手段の一つとして期待される。グローバルフェロー制度に伴う契約形態については、雇用ではなく、業務委託またはバイアウト(講義をそのまま一つ購入して東京大学の講義として提供する制度)を採用している。現段階では、雇用は居住国の労働法制との調整が必要であるということで、かなりハードルが高いと考えらえるため上記の契約形態を採用している。
グローバルフェロー制度の先行事例としてすでに2例があるが、今後より多くの部局がグローバルフェロー制度へ参画することが期待される。
「医療系大学における学生参加型AI開発による学修者本位の教育の実現と普及」
北海道医療大学薬学部教授、情報センター長 二瓶 裕之 氏
北海道医療大学では、DX推進として、15年以上使用している教育支援システムのビッグデータを利用するため、機動性の高いAIを学生参加型で構築していくことを計画している。そこでは、「AI活用の全学展開」、「データスキルサイエンスの醸成」、「学生参加型AI開発への動機づけ」を課題としている。「AI活用の全学展開」へ向けた取組みでは、学生誰もが、いつでもAI、学修ログ活用システムを使える環境を作ることを目指している。「データサイエンススキルの醸成」へ向けた取組みでは、様々なAIの中からAIを正しく使いこなすためのプログラムを全学的に展開する。AIの概要を理解し、正しく利用できる素養を身に付け、AIを有効かつ安全に使えるスキルを醸成していくことを目的としている。「学生参加型AI開発への動機づけ」では、講義の一環として、学生の意見も聞きながら様々なAIを作るという取組みである。
そしてこれらの取組みにおいて構築されたシステムの内、オープンソース化が可能なモジュールについては、教育機関へ広く公開していくことを考えている。
「企業の学修プラットフォームを活用したDX人材育成教育」
東洋大学就職・キャリア支援課長 腰山 雅基 氏
今までの企業の採用は、将来花開くかもしれない人を採用する、いわゆるポテンシャル採用が主流であった。しかしながら、現在では、すでにスキルを持っている人材の採用を望む企業が増えてきており、採用の考え方が転換してきていると言える。そのスキルとは、Society5.0社会で活躍し続けるために、学力や知識だけでなくて、データを活用しながら課題を生み出す力、あるいは試行錯誤しながらその課題の解決策に近づく力、変化を察知して自らをアップデートしながら試行し続ける力等の学力プラスアルファの新しいスキルであろう。そのような学生を育てるための大学でのプログラムの一環として「キャリア・オーナーズプログラム」を導入した。
このプログラムは、学部学科問わず1年生対象で、全20回の完全オンラインライブ配信である。5月にスタートし、翌年の1月まで実施し、原則週1回程度のベースで行っている。講義内容としては、前半は「キャリア・オーナーシップ講座」、後半が「ビジネスコラボレーション講座」という構成で成り立っている。本講座の特徴として、受講者には、世界最大級のeラーニングコンテンツUdemyを年度内利用できることがあげげられる。講座では、講義内容と絡めてUdemyの動画の内容についてのディスカッションなどを行っている。
「金沢工業大学におけるDXの取組みと学生の学びに応じた教育の試み」
金沢工業大学工学部教授 山本 知仁 氏
金沢工業大学では、教育DXの一環として、「学生一人ひとりの学びに応じた教育」、「VRやARを用いた時間と場所の制約を超えた学びの創出」の実現に向け、文科省の補助金(Plus-DX)を活用して進めている。本稿では、「学生一人一人の学びに応じた教育」を報告する。
学内にあるデータを統合し、それらデータを活用して、場合によってはAIが学生を指導していくというシステムの構築を自前で進めている。本学では独自のラーニングマネジメントシステムとして「e-シラバス」があり、それに付随する形で「KITナビ」や「自己成長シート」が構築されている。それらに学生のあらゆる就学のデータが蓄積されている。「KITナビ」は、各学科のカリキュラムフローに基づいた学生個人の履修の状況を表示するシステムである。「自己成長シート」は、学生の大学でのあらゆる情報をすべて1枚のWebページにまとめたものであり、各自の単位取得状況、講義出席率、課外活動や資格の情報、インターンシップまでが一つにまとめられていている。これら蓄積されたデータを、自前で構築したAIシステムを用いて解析し、説明可能な形で提供している。
「統合プラットフォーム構築とAI-ティーチングアシスタントの導入による学修者本位の教育の実現」
追手門学院大学では、2016年度にはICT教育の全面展開、2019年度にBYODの実施、IRのためのAI導入など早い時期からICT教育の推進を進めるとともに、2020年6月頃から、ICTを含めたあらゆる手法を駆使し、教育内容に合った方法で教育を最大化する独自の教育手法の取組み(MAximized-TeaCHing)を開始した。そのような取組みもあり、コロナ禍にあっても比較的スムーズに授業運営が開始できた。
文科省のPlus-DXにおいて申請したDX推進計画の一つとして、ラーニングアナリティクスを行う環境を整備し、各種成果の可視化を行い、大学教育改革や、個別最適化された学修環境を学生に提供する仕組みを構想し進めようとしている。
ラーニングアナリティクスを行う環境整備のために、データ連携、データ統合を行い、様々なデータを取得できる環境の整備を行っている。さらに、これらの取組みを推進するにあたって、教員の授業運営の負担を少しでも軽減するため、共通インフラとして、教員の授業運営を支えて、学生の学習支援に役立つような複数のAIツールを整備することを考えている。それらを実行するためのシステム整備の一環として、「BYODによる教育ICT環境の整備及びキャンパス全体のネットワーク環境整備」にすでに取り組んでいる。現在では3年生までのBYODが完了しており、ICTを活用した学修高度化の前準備が完了している。
令和3年度「全国学生調査(第2回試行実施)」の目的、調査内容、調査結果の活用
文部科学省高等教育局高等教育企画課課長補佐 橋 浩太朗 氏
「全国学生調査(第2回試行実施)」は、1回目の各大学の教育改善、社会への情報公表、国の基礎資料の3点に加え、学生一人一人が学びの振り返りを行うことで、今後の学修や大学生活をより充実したものにしてもらうことを目的としている。
調査対象は、大学は2年生と最終学年の学生全員、短期大学は最終学年の学生全員とする。実施時期は11月下旬から12月頃とし、本格実施移行までは原則毎年度試行することになると考えている。回答方法は、匿名によるインターネット(Web)調査とし、外国人留学生向けに英語表記を考えている。公表方法は、試行実施の間は大学・学部単位での公表は行わず、全体集計、学部規模別、学部分野別などの結果を考えているが、本格実施では方向性として、大学・学部単位で調査結果を公表することを考えている。その際、結果の数値の羅列だけでなく各大学の取組を記載することで、各大学の強み・特色の発信につながるような見せ方が必要になってくると思う。質問項目では、新規に「大学での学び全体を振り返り、どのように思いますか」を追加した。調査結果の取扱いについては、各大学で教育の改善に使っていただくことがメインになると思う。調査の実施主体は、試行実施の間は文部科学省が主体となって行うとしている。
また、参考調査としてコロナ禍での学生生活についての調査結果からは、大学側からの情報発信を目にする学生は6〜7割にとどまっており、さらなる工夫、強化が必要であること、悩みを抱えて学生に相談体制の強化を図っていくことの必要性、オンラインによる授業料見直しに対する学生への説明要求の声などが報告された。
学修成果のDX化への取組み
「学修システム・学修情報・学修成果のDX化によるエビデンスベースの教学マネジメントの取組みと課題」
芝浦工業大学工学部教授 角田 和巳 氏
デジタル化について、教材のデジタル化をさすDigitization、学修管理システムを用いた教材配布、反転授業のためのビデオ配信、学修時間の可視化などのDigitalization、デジタル技術とデータを活用し、教育を提供するモデルの変革と組織・意思決定のプロセスを変革するDX(Digital Transformation)化の3段階がある。本学は、「“学生の学びの心に火をともす”ラーニングアナリティクスによる教育改革」を掲げ、DXを利用して、「理工学教育日本一」を目指している。
具体的には、一つは学修システムのDXとして、学修支援システムにMoodleやZoom、デジタル教材配信システムのBookRollによる学修履歴情報をシームレスに構築する。二つは学修情報のDXとして、学修データ分析の展開に欠かせない学修ログを蓄積するラーニングレコードストアに学生の様子を写すカメラ、教室内の環境情報を記録できるセンサーシステムを導入し、統合的に分析・可視化して学生の習熟度に合わせた授業運営に活用することで、アダプティブラーニング(適応学習)を実行する。三つは学修成果のDXとして、既存のポートフォリオで学修成果を可視化し、個々の授業レベルと学位プログラムレベルとのマッチングを図りながら大学全体としての教育改善を目指す計画を進めていく。その結果、授業科目・教育課程の編成と実施、学修成果・教育成果の可視化、それをラーニングアナリティクスに基づいて授業レベルと学位レベルの整合をとりながら教育改善を展開していくことを目指している。
そのような中で学修履歴、学修到達状況が明確化されてくれば、デジタル証明書、デジタルバッジを大学が責任をもって発行することになり、本当の意味のDXにつながることになる。
【質疑応答】
[質問1] | ||
デジタル認定書と単位認定との違いは何か。 | ||
[回答] | ||
一つの科目の認定ではなく、いくつかの科目を履修してコースを修了したということで認定の証明書を発行する。個々の科目の単位認定があってこそのデジタル証明に繋がっていくと捉えていただいてもいいのかと思う。 |
「DX化によるシームレスな学習環境の構築と個別最適化の教育支援に向けた取組み」
関西大学学長補佐 岡田 忠克 氏
DX化を推進することで、学修履歴を把握できる授業動画配信機能による教育の高度化と、キャリアを支援するポートフォリオを構築することにより、初年次から卒業までの教育支援・キャリア支援をLMSに集約してその機能を大幅に強化し、学生生活を総合的に支援することを目標としている。
学修成果の可視化は、LMSに動画と資料の配信を同時に行い、視聴ログが確認できる機能を付加したシームレスな学習環境の確立と、学習者へのきめ細やかなケアを可能とする支援システムの構築を予定している。さらに、資料動画を一括して配信することで自動の字幕化が可能になり、全ての学生が効果的、効率的に学ぶことができるインクルーシブな教育環境の構築を考えている。
具体的には、大学全体として「関西大学DX推進計画」の実施体制の整備を行い、シームレスな学習環境として、クラウド型動画プラットフォーム(Panopto)を全学導入し、関西大学のLMSと連関させてLMSの各科目コースに自動配信する仕組みを考えている。Panopto の強みは、LMSのデータ保存容量の制限を受けずに動画配信が可能なことと、大人数での同時視聴が可能で視聴履歴を教員側からも確認ができる。さらにはZoom録画、教室録画など場所やファイル形式に左右されないなど、LMSの弱点が解消される。これにより、学生の学びは、資料動画と教員動画を同時に見れる、動画にメモを残せる、字幕による学修補助ができるようになる等、学生側での学びの様々な問題点が解消される。また、教員側では学生の学修状況の把握が容易になり、教育改善が容易になるのではないかと考えている。
今後のDX展開について、全学生・教員に最大40,000 IDを運用し、オンラインでも対面でも学生が学びやすい環境を追求していく。また、図書館の契約電子コンテンツへのリモートアクセスを可能とすること、さらには、キャリア支援システムの拡充や全学的キャリア教育プログラム(関大版ハタチのとびら)の開発、ハイブリッド型キャリア・就職支援体制に向けたオンラインソロワークブースの設置を進めることにしている。
【質疑応答】
[質問1] | ||
関大LMSという壮大なシステム何年かかっていたか。反転学習に受講生がどのくらい利用したかをどうやって確認するのか。 | ||
[回答] | ||
1年半くらい前かなと思う。反転授業は今のLMSではドロップボックスのリンクを見て確認ができてないのが課題であったが、Panoptoを使うことで確認できるので学修成果が可視化されていくのではないか。 | ||
[質問2] | ||
Panoptoのシステムはスマホでも実用可能か。 | ||
[回答] | ||
Panoptoはスマホ画面でもきれいに見られるようになっている。 |
「授業コンテンツの著作権処理と補償金の徴収・分配問題」
神奈川大学教育支援センター副所長法学部教授 中村 壽宏 氏
著作権法は平成30年に改正され、その中の35条で大学から一定の資金を収集し、大学が授業で第三者著作物を利用するのは原則自由とする。それによって損失を被る権利者には、補償金の形で利益を調整する補償金制度が、国会で成立している。一方で、補償金の額の決定に時間を要して施行が遅れていたが、コロナ感染症の蔓延で大学がオンライン授業等を実施することが後押しになり、令和2年度は無償で施行開始され、令和3年度から多くの大学で補償金の支出が行われている。
35条は「著作権の制限」というセクションに含まれているが、この「制限」とは、著作者や著作権者が大学に対して著作権を主張することを制限するという意味で、大学が著作物を自由に使用できるという点で、教育機関に対して重要な規程である。条文中の「学校その他の教育機関」は大学で、「営利を目的として設置されているものを除く」で、塾や予備校を外すという意味で、学納金は営利には当たらないため、大学は株式会社立も含めてここに含まれる。「教育を担任する者」は教員、「及び授業を受けるもの」は学生・生徒で、「その授業の過程における利用に供することを目的とする場合」は教員が授業をすることにおいて使うことを目的とするときは、「その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製する」、つまりコピーをする、これは別の条文で、コピーしたものを学生に配布することも当然許されている。「若しくは公衆送信」はインターネットなどで配布するという意味であり、「又は公表された著作物であって公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達すること」、すなわちインターネット経由で送信されたものを受け取って公に伝達することができる。教室内で見せることも公の伝達で、それにインターネット上の情報を受信装置、パソコン等によって受け取り、それを学生たちに見せるということもできる。したがって、授業の中で、教員が行うインターネット経由等の第三者著作物、他人の著作物概ね可能であると考えられる。制限事項としては、「著作物の種類、用途並びに当該複製の部数」など「著作者の利益を不当に害することとなる場合には、この限りではない。」とされている。
公衆送信をする場合には、教育機関を設置する者が相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならないということが、平成30年改正で2項として導入された。ここで、相当な額とは大規模な額という意味ではなく、適切な額という意味である。
3項はこの2項に対する規定で、「当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業が行われる場所」の「以外の場所において」、すなわち教室以外の場所で、その教室で授業を行っている様子を、「授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行う時には、適用しない。」とされている。
35条全体では、教室の中で第三者の著作物を利用することは今まで通り、基本的には不当な使い方でない限り許されており、配信する場合には補償金の支払いが基本的に必要であるが、リアルタイムに別の場所で学生が授業を受けているというケースに限っては、補償金の対象とはならないということになる。したがって、サーバー等を使って授業コンテンツを授業時間外に見せるときには補償金支払いが必要となる。
補償金制度の仕組みとして、今回の改正では、SARTRASという機関が設置され、教育機関と著作権者を仲介して著作権管理を行うこととしている。SARTRASが大学から補償金を収集し、これを権利者に配分する。従来も可能であった第三者著作物を授業内で使うことおよび同時授業公衆送信に加え、補償金を支払うことにより、異時授業公衆送信、いわゆるオンデマンド授業が実施可能となる。一方で、補償金を支払っても、機関管理(第三者著作物は大学ではなく、教員の責任で管理する)、経年利用(コンテンツは毎年新たに取得する)、共同利用(コンテンツは各教員が個別に取得し、複数の教員が共有できない)は範囲外であるため、基本ライセンス契約を別途著作権者と締結する必要がある。
現時点での問題として、「35条の適用を拒否する」著作権者が存在することで、補償金の支払いで可能となる行為については、教育機関は当該著作権者と直接契約を締結しなくてはならない事案が発生するオーバーライド問題が存在している。
補償金の金額としては、当該年度の5月1日の在籍者数を基準として、1人当たり年間720円プラス消費税と設定されている。小規模な大学であれば、1コンテンツごとに、その授業の履修者総数×10円という支払い方法もある。補償金を支払っている大学であれば、著作物を自由に使用できるが、注意点として、同一性保持権がある。著作部の使用は許されるが、「著作物の性質並びにその利用の目的及び対応に照らしやむを得ないと認められる改変」を除き、改変はできない。
分配がどのように行われるか、SARTRASのホームページにTSUCAOという仕組みが置かれてあり、第三者のコンテンツをどれだけ使ったかをサンプル調査している。SARTRASから大学の学部、学科に、例えば4月から5月までの間にどの授業で、どのコンテンツがどのように使われたかを教えていただけませんかという調査が行われる。そこから、SARTRASが書籍、新聞、テレビ番組がこのくらいのパーセンテージ使われていることを調べ、分配額を決める。次に分配業務受託団体、例えば新聞社の団体、出版社の団体などにサンプル調査の結果を踏まえ、例えば補償金の10%を受託団体に渡す。そして、受託団体が受け取ったお金を現実に権利者に分配する。実際に受諾団体が権利者にどうやって配るかは知らないが、仕組みとしてそうなっている。問題となるのが、どの団体にも属さないコンテンツホルダーは補償金もらえないことになる。ネット上の独立コンテンツホルダー団体というのが今後作られていくとしている。それをSARTRASは支援しますよと言っている。
【質疑応答】
[質問1] | ||
「これから救う予定である」ネットのイラスト公開など、個人のコンテンツを授業で見せる場合に、どのような注意が必要か。 | ||
[回答] | ||
これらの著作権者への対応は、SARTRASの責任となるため、補償金を支払っている大学であれば、このような著作物の利用は問題ない。 |
「学内オンライン就活応援講座による講話や実践対策等の取組みと学生の反応・展望」
長崎大学キャリアセンターコーディネーター 境 宗徳 氏
2020年4月下旬にキャリアセンター内のシステム環境の整備を行い、オンライン個別相談を実施するとともに、キャリア教育の講義についてもオンラインまたはオンデマンド型に切り替えた。12月には、「お役立ちキヤリア動画」として「オンラインコミュニケーション実践講座〜オンラインでの伝え方〜」を提供した。2021年5月には、オンラインによる支援を充実すべく「学内オンライン就活応援講座」を立ち上げた。学生たちの要望を受け、「オンラインでグループディスカッション実践講座」を、「商品の企画開発の仕事を知ろう」!石文行堂・宮崎さん」、「一次産業の課題と取組を知ろう!日本未来農業研究会・前田さん」を展開した。
お役立ちキャリア動画で、こうすれば相手に伝わるなどのノウハウをしっかり伝えた。また、就活応援講座では、対面よりもオンラインの方が学生の表情がしっかり見えるので、企業側から学生の態度が見やすいことを伝えた。さらに、オンラインで業界の人と接続することで、例えば「商品の企画開発の仕事を知ろう!」という機会を作ることができるようになった。
オンラインへの反応は、オンラインによる個別面談は県外でも大学の支援を受けられるので学生の安心感につながった。また、就活応援講座は1、2年生の参加もあり、仕事理解、業界研究の意識づけにつながった。お役立ちキャリア動画はキャリア教育に対する理解が深まった。オンラインの利点は、チャットは質問力の向上につながるが、リアル感に欠ける、反応が分かりづらいなどであった。今後の展望として、オンラインの利点を生かしつつ対面も行うハイブリット型を実施し、今後も活動の幅を広げ、学生の支援に繋げたい。
【質疑応答】
[質問] | ||
社会体験が困難な中、オンラインでの体験などを履歴書に書き加える指導をしているか。 | ||
[回答] | ||
オンラインでの体験が学生の経験値や発想力の向上にも繋がることから、履歴書にしっかり書くよう指導している。 |
「進路・就職相談チャットボット、就活準備講座や各種セミナーを動画配信する取組みと学生の反応・展望」
関西学院大学キャリアセンター課長補佐 那須 博樹 氏
関西学院大学キャリアセンターでは、キャリアガイダンス、学内企業説明会などのイベントへの参加者が減少する一方、個人面談でのカウンター利用状況は年々増大の傾向にある。このことから、学生は「このサポート」を希望していると認識し、2018年7月、個への支援第一弾として「AIの導入」を行い、進路・就職相談チャットボット、「KGキャリアChatbot」を日本IBMと共同開発し、約600のQ&Aを搭載した。2021年7月4日の時点で学生4,537名、延べ39,566件の質問があり、88.9%と高い割合で返答してくれている。24時間365日利用できるので、時間外の利用が約半数となっている。導入の効果として、簡易な相談はAIが対応することにより、直接的な支援、イベントやプログラムを通じた支援などの強化が図られた。
さらに個への支援第二弾として、就活準備講座や各種セミナーを動画配信する「KGキャリアチャンネル」を2019年10月に立ち上げた。PCやスマホを使ってスキマ時間に「いつでも、どこからでも」視聴可能とし、キャリアガイダンスセミナーのライブ配信、就活のイロハ的なもの、先輩の体験談など約80のオンデマンドコンテンツを収録、累計再生回数は20,000回を超えた(2021年7月時点)。
今後の課題として、「KGキャリアChatbot」では、これまでキヤリアセンターと接点を持てなかった学生層のデータ分析(テキストマイニング)ができればいい。「KGキャリアチャンネル」では、学外サービスとの差別化として、大学ならではのコンテンツに特化すべきか否か葛藤している。参加学生の把握が難しく、対面時のように正確な学生情報を収集できない。個への支援強化ということで、オンライン個人面談の拡充を考えている。
【質疑応答】
[質問] | ||
「KGキャリアチャンネル」を設け、減少傾向にあったマス型の説明会への力の入れ方はどのように変化したか。 | ||
[回答] | ||
オンラインでのマス型のイベントへ3,000人を超えて学生が集まり、これが浸透してきたので引き続き行うこととし、もっと学生に寄り添えるようなスモールマス型の対面でのイベントについても、棲み分けて考えていきたい。 |
「4女子大(東京女子大学、学習院女子大学、実践女子大学、津田塾大学)による合同就活対策オンラインゼミの取組みと学生の反応・展望」
新型コロナウィルス感染拡大によって、学内外を問わず学生の交流する機会が減少し、就活に行き詰まる学生が増大してきたとの認識のもと、4大学では学生の安全確保を最優先に学生同士の横のつながりを作るとともに、さらには他大学との学生と相互に刺激を受け・高め合う環境を整えること等を目的に「4大学合同就活ゼミ」を開催した。
合同就活ゼミは、移動を伴わないオンライン、かつゼミ形式の連続開催だったからこそ実現が可能であった。オンライン開催で工夫したこととして、一つは、1コマ90分の内、半分以上をワーク、数回ブレイクアウトルームでもワークを行い、双方向性を確保した。二つは、ブレイクアウトルームをリフレッシュし、様々な学生と意見交換できるように努めた。三つは、夏休み中は各大学のリーダーが率先して課題解決に向けて取組むよう自主性を持たせた。
今後の展望は、オンラインを最大限に活かしていきたい。性別や地域を超えて繋がっていくネットワークを拡大し、社会人力と自走できる力を伸ばしていける環境を整えたい。2年目以降ゼミの先輩と後輩という縦の繋がりができ、3年目に社会人1年目と学生という繋がりもでき、他大学と斜めの繋がりを実現することが可能で、自ら支援し、支援されるという仕組みを構築して複数年継続開催することが大事と考える。
【質疑応答】
[質問] | ||
学生の企業、業界志望や希望をどのように調査しているか。 | ||
[回答] | ||
始まる前に、各大学において調査をしている。一方、エントリーシート作成段階においても志望動機を作成させているが、これはあくまでも自分のことをしっかり学んで語れるようになることを目的に行っている。 |
「NECアカデミー Online for AI」開講の紹介
モデルカリキュラムの全国展開に関する特別委員会委員、日本電気株式会社AI人材育成センター長 孝忠 大輔 氏
現在、産業界の側から、オンライン教育によるAI人材育成に取り組んでいる。AI人材、AI研究者、AIプランナー等の計6種類の人材を定義し、特にAIを実装できる人材やAIを活用できる人材の育成に取り組んでいる。AI人材の育成にあたっては、「知る」、「わかる」、「使える」、「応用できる」の4つの段階が想定される。各段階へのステップアップには壁があるが、この壁を乗り越えるため、研修プログラム、模擬演習プログラム、実践プログラムの3プログラムを準備している。まず研修プログラムでは、座学やグループワークによる学習を実施し、次に模擬演習プログラムでは、ケーススタディによる模擬的な課題解決について、一連の体験ができるようにして、PBLやプロトタイプ開発に加え、分析コンテストも利用している。実践プログラムでは、OJT等でサバイバルスキルを身に付けることを狙いとしている。
プログラムでは、メジャーなケースを扱いつつ、イレギュラーなものをどう扱うかを考慮している。現在、共通スキルを中心にeラーニング教材として展開し、クラウド環境での演習が可能になっている。特に、Web会議システムを活用した遠隔教育や遠隔指導を併用している。研修プログラムに関しては、オンライン教育との親和性が高く、座学であればeラーニング形式でこまめに学ぶ環境が整う。模擬演習プログラムでは、共同作業的な要素があり、コミュニケーション面で難点もあるが、プレイクアウトルームがよく機能している。最も難しいのは、AIプロジェクトを共有する空気感であり、特に新入社員に先輩達がどのような点に苦労して案件を進めているかといった点は伝わりづらい。社会人は改めてリテラシーを学ぶ機会を得るのが難しいが、このプログラムは新入社員や若手社員にも受講してもらい、教材の活用が図られている。
「JMOOC等3団体による「AI講座」制作の紹介」
日本オープンオンライン教育推進協議会理事 大谷 紀子 氏
一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)は、2013年11月に設立され、「良質な講義を誰もが無料で学べる機会を提供することで、様々な分野における知識レベルの共通化・標準化を推進し、個人が意欲的に学ぶことを支援するとともに、個人の知識やスキルを社会的な評価へつなげる」ということをミッションとして、会員企業や団体と共に活動している。
2020年度に経済産業省が「未来の教室」STEAMライブラリ事業で募集を行い、AI活用人材育成講座として採択され、JMOOC に加えてドコモgacco、ネットラーニングの連携により制作した。特徴は、AIの理論から実践までを網羅しており、「活用講座事例集」、「活用・理論講座」としている。プログラミングの知識が不可欠なのではないかという思いがあるが、不要で受講できるのが大前提となっている。
AIを利活用する上で大切なこととして、「AIはどのような問題解決に使えるのか、AIをどのように使えばいいのか、AIはどのような原理で働くのか」が習得可能になっている。「活用講座事例集」では、ビジネス現場や社会の中でAIが実際に活用されている事例を現場への取材や開発者インタビューを交え、貴重な動画になっている。「活用・理論講座」は、AIをビジネス導入するにあたって知っておくべき知識や、AIを実装するために必要な知識を段階的に取得可能になっている。「理論講座1、2」の基礎では、ビッグデータの説明から数学の基礎、プログラミングをしたことのない人がはじめの一歩を踏み出す実習なども含まれている。それを踏まえて概論では、主要な手法や技術理論の概論を学ぶというような流れになっている。「理論講座3、4」では、より具体的な専門的な内容を扱い、最後の「活用講座1」というところではデータサイエンティストの基礎知識を学ぶことができる。全学的に授業を揃えることが難しい大学にもプログラムの運用が可能になるので、ぜひ活用頂きたいと考えている。
AI人材育成支援のプログラム提供「AI活用人材育成プログラム バーチャルラーニング版」の紹介
関西学院大学副学長、情報化推進機構長 巳波 弘佳 氏
関西学院大学で行われているAI活用人材育成プログラムとバーチャルラーニングについて紹介する。関西学院大学では、AIに長けた人間だけを育成するのではなく、AIを使いこなす人材や課題解決ができる人材を育成しなければならないという問題意識を持ち、文系理系を問わず、AIデータサイエンス関連の知識を有し、それを活用して現実のビジネス課題や社会課題を解決する能力を有する人材を「AI活用人材」と定義し、AI活用人材の育成にフォーカスしたプログラムを開発した。
プログラムは、全10科目からなり、AI関連知識やスキルを身につけることを狙いとしている。特に、実務の視点を取り入れており、初学者を念頭に前提知識を必要とせず、文系理系を問わないプログラムである点に特徴がある。通常、このようなプログラムを大学で作る場合、既存の科目をアセンブリして作ることが多いが、これはゼロから10科目を構築し、それぞれの科目間の相互関係も考慮しながら、体系的かつ実践的なスキルが学べる科目体系とした。
また、バーチャルラーニングとして、デモ動画やオンラインテスト、TAチャットボットなどを含む教材を提供し、コミュニケーション基盤として機能させている。考え方としては、知識習得や基本的な演習はバーチャルラーニングで行い、高度なPBLは直接指導を組み合わせる学習プログラムを提供している。2021年春学期のバーチャルラーニング一期生の合格率は87%であった。学生の満足度は高く、オープンバッチの付与によるデジタル修了証も発行している。プログラムは学内だけでなく、学外にも広く提供している。国をあげて進んでいるAI人材育成に寄与すべく貢献していきたいと考えている。
本協会情報教育研究委員会、情報リテラシー・情報倫理分科会、分野別情報教育分科会による合同
「データ活用力育成に向けたモデル授業の推進〜情報活用教育コンソーシアムでの意見交流を目指して〜」
江戸川大学情報教育研究所長、メディアコミュニケーション学部教授 玉田 和恵 氏
本分科会では、AI時代に求められるデータ活用力等の教育を推進するため、参考教材の見直し、ビデオによる授業の運営ガイドの解説などを行い、本協会のプラットフォーム(「情報活用教育コンソーシアム」)に掲載し、現在40名程度の参加を得て、議論を始めている。とりわけ、2022年度から高校で「情報T」が必修になることを受けて、「アルゴリズムとプログラミング」を文系でも行えるよう参考となる教材を掲載するとともに、「モデル化とシミュレーションの関連教材」、「実課題との関連でデータサイエンスの活用体験をさせる教材の例」を作成し、情報提供している。また、初年次教育と専門科目を連携した情報活用教育の授業事例として、社会科学分野(経営学、経済学)、薬学分野、理系(機械工学)分野、医療系分野のモデルを紹介している。
以下に、活動の概要を紹介する。
「社会で求められる情報活用能力育成の方向性」
東海大学名誉教授 大原 茂之 氏
「ガイドライン」の到達目標Cの一部を追加修正した。ここ1、2年の変化のキーワードはデジタルトランスフォーメーション(DX)であり、これを大学教育にいかに取り込むかが修正のポイントとなっている。到達点3の2番目、到達点評価の考え方の4番目で、想像を超えて変化する未来社会のモデルを発想し、変革をもたらす力の修得を求めている。
「アルゴリズムとプログラミング」
追手門学院大学経営学部教授 中西 通雄 氏
高校の「情報T」との接続を前提に「アルゴリズムとプログラミング」の学習指導案を作成した。言語はPythonを使用し、「問題解決のためのアルゴリズム修得」を目標に5回の授業内容案を提案している。データ活用力育成について、文科省が数理・データサイエンス・AIというキーワードを示しているが、その内容を理解して使えるようにする必要がある。
「モデル化とシミュレーション関連教材」
上智大学理工学部教授 高岡 詠子 氏
「Society5.0におけるモデル化とシミュレーション」の授業で使用した教材を拡張したものを紹介する。3日間の構成ですべて事前学修ビデオの視聴が含まれ、2日目のシミュレーションを体験する授業では、プログラミング言語にViscuitを用いている。3日目にはデジタルツインを用いたシミュレーションの実例を調査し、プレゼン資料としてまとめる。
「実課題との関連でデータサイエンスの活用体験をさせる教材の例―キャリア教育と関連づけたピープル・アナリティクスの活用―
江戸川大学メディアコミュニケーション学部講師 松尾 由美 氏
到達目標Cに設定されている数理・データサイエンス教育を、文理を問わずすべての学生を対象として行うことを想定し、就職活動に関連するピープル・アナリティクス、すなわち採用に関わる人事のデータ分析を題材とする授業モデルを考案した。3回の授業案では、1回目に良い人材を採用するための目標設定、2回目には考えた予測モデルに基づく分析の実施、3回目に分析結果の報告と説明という構成になっている。
「社会科学(経営学分野)における情報活用能力育成教育の授業モデル案」
山梨学院大学経営学部教授 金子 勝一 氏
初年次教育と連携した専門教育による情報活用教育モデルの一つとして、「身の回りの社会的な問題の発見と解決策の検討」というテーマで実施する授業案を紹介する。学生には、身の回りで気になる社会的な問題を発見・選定し、専門科目で学んだ知識やICT教育で得たデータ分析の手法を活用して、解決のためのビジネスモデルや事業計画を提案してもらう。
「初年次教育と専門科目を連携した情報活用教育:薬学分野」授業例
慶應義塾大学薬学部准教授 石川 さと子 氏
薬学分野の初年次教育では、情報源の種類とその活用法、その情報をどのように提供するかといった実践までが行われるが、今回は「医療人として信ぴょう性が高くかつ的確な情報を発信する」というテーマでの授業例を紹介する。グループワークでの意見交換と発表を基本としており、薬学教育のコアカリキュラムを念頭に置いた授業実践を目指している。
「理系(機械工学)の社会で求められる情報活用能力育成教育のオンライン授業モデル案」
芝浦工業大学工学部教授 角田 和巳 氏
「SDGsを手がかりに2030年の日本のエネルギービジョンを提案する」というテーマで実施してきた授業を紹介する。学部3年生を対象に4回の授業を、昨年度はZoomを用いて同時双方向型の完全オンライン形式で行った。ブレイクアウトルームやGoogleドキュメント、Jamboard、スプレッドシート、スライド等を利用して、授業時間外の協調学修も含め効果的にグループワークを行うことができた。
「初年次教育と専門科目を連携した情報活用教育:オンライン授業と対面授業を組み合わせた授業運営の例(医療系)」
関西医科大学元大学情報センター准教授 渡辺 淳 氏
新型コロナウイルス感染症を題材として、感染症数理モデルの基本を学び、患者隔離策の有用性と問題点を考え、拡大防止策の立案を行うという3コマの授業を、オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド方式で行った例を紹介する。この授業では、計算機や複雑なプログラミングは必須とせず、初年次科目と専門科目に分散させたり、分野横断型の学修や社会に開かれた授業などに発展させることが可能である。
「初年次教育と専門科目を連携した情報活用教育:オンライン授業と対面授業を組み合わせた授業運営の例:文系(経済学)」
名古屋学院大学経済学部教授 児島 完二 氏
「新型コロナによるテレワークの普及とネット時代の新しい働き方の提案」というテーマで、事前学修とグループワークを中心にしながら、授業後にミニレクチャー動画を視聴させることを含めて実施する4回の授業を紹介する。テレワーク、労働生産性、政府の行っている「働き方改革」について調べて報告し合い、ディスカッションを進めるという授業スタイルとなっている。
【意見交流】
[質問1] | ||
授業を設計する際に、テーマの選び方についてのコツや注意点があれば教えてほしい。 | ||
[回答] | ||
(石川氏)薬学部の学生は低学年で基礎を学ぶが、現場での問題点との繋がりが意識されないことが多いので、社会的にニュースに載るような情報を課題に落とし込んで、根拠の有無も含めて調べさせることを考えている。 | ||
[質問2] | ||
実践的な課題を解かせる場合に、仮想データセットをどのように作るのかを教えてほしい。 | ||
[回答] | ||
(松尾氏)企業から人材データを提供していただくのは困難なので、いくつかの指標で結果が出るように乱数を用いて作っている。実データと対応しているかどうかという点は課題である。 | ||
[回答] | ||
(渡辺氏)今回のデータについては、自治体や国から提供される実データセットを使っている。仮想データを使うかどうか、その作り方などはケースバイケースなので、そのようなデータを共有できる場所があればよいと思っている。 | ||
[司会] | ||
(玉田氏)私情協のホームページにある「情報活用教育コンソーシアム」の意見交流では、Google Classroomの掲示板機能を活用したいと考えているが、利用開始にあたっては大学のアカウントではなく個人のGmailアカウントで登録する必要があるので、そちらのアカウントから利用開始の手続きをしていただきたい。それぞれの大学の状況等を発信しながら情報交換や教材の共有を進めていきたいのでご協力をお願いする。 |
日本女子大学「リカレント教育課程」の状況と展望
日本女子大学生涯学習センター所長 坂本 清恵 氏
日本女子大学生涯学習センターでは、現在「再就職のためのキャリアアップコース」の再就職コースと「働く女性のためのライフロングキャリアコース」の働く女性コース2つのリカレントのプログラムを運営している。昨年度はコロナのために、すべての授業を遠隔授業に切り替えて実施した。2020年度当初からmanaba(LMS)を利用して指導していくことが決まっていたので、それが功を奏した。
再就職コースは15年目を迎え、161大学・大学院の卒業生679名を受け入れている。オンライン授業を行う前は、地方や国外から転居を伴う受講生もいた。文部科学省の職業実践力育成プログラムでは120時間以上とされているが、修了要件は280時間であり、キャリアマネジメント、ビジネス英語、ITスキル、日本語コミュニケーションの必修科目をはじめ多くのプログラムを提供している。対面の時は、平均325時間であったところ、昨年度は376時間になり、通学時間を学びに充てたような形になった。
新しく開講した「働く女性コース」は、すべてオンラインで開講している。地方からの方、マネジメント職にある方、これからキャリアアップを目指す方など年代もいろいろで、働きながら充実した学びを行っている。本職員によるITサポートは必要で大変なところもある。
2018年中教審で、就労のための学びの繰り返しをリカレント教育とするという、本来の意味でのリカレント教育がしっかりと理解されるようになった。しかし、女性のためのリカレントというものが、対象に含まれていなかった。そこで同じようなプログラムを持つ7大学で「女性のためのリカレント教育推進協議会」を設立した。これらの取組みに対して令和2年度「東京都女性活躍推進大賞」を受賞した。
女性の取り巻くリカレント教育の普及啓発の強化はこれかも一番重要である。オンラインで地域的な問題は解決できたが、受講生に対しての啓発活動、受け入れ先企業あるいは大学の内外の方にリカレント教育の理解を進めていく必要がある。協議会それぞれの大学が持っている講座の単位互換ができるシステムの検討、企業との連携によるPBL的なプログラムの構築、インターンシップ受け入れ企業の開拓などの必要がある。
【質疑応答】
[質問1] | ||
必修科目130時間、280時間以上で修了とはかなり厳しいのではないか。 | ||
[回答] | ||
中には400時間くらい学ぶ受講生もいる。大学時代はこんなに学ばなかっただろうというくらい予習復習に取り組んでいる。 | ||
[質問2] | ||
企業との連携が欠かせない。その開拓はどうか。 | ||
[回答] | ||
とても大変で、商工会議所の名刺交換会や説明会に出向いたりしている。 | ||
[質問3] | ||
企業側のニーズに合わせる必要があるのではないか。 | ||
[回答] | ||
修了生の就職先の企業にステイクホルダーになってもらうなど、カリキュラム改編はいつもやっている状況である。 | ||
[質問4] | ||
今後もオンライン授業を継続していくのか。 | ||
[回答] | ||
オンラインの良さ、対面でなければならない科目が確認できたので、「再就職コース」ではそれらを交えてやっていく。「働く女性コース」はオンラインのみで行う。 |
「5大学連携でAIやロボット等情報技術のリカレント教育の状況と展望」
北九州市立大学環境技術研究所長、国際環境工学部教授 中武 繁寿 氏
文部科学省の社会人向けのリカレント授業「成長分野を支える情報技術人材の育成拠点の形成(enPiT)」の九州・中国地域の5大学、5年間の取組みについて紹介する。5大学が同じプログラムを実施するというめずらしい形式で、場所的な問題があり、VOD:Video On Demandの講義中心にプログラムを開発した。社会人対象なので、通常の講義の前には動機付けという意味合いで事例講義を企業に協力してもらい行っている。36時間程度の実践的ラボ演習を行い、合計120時間で修了認定を行っている。働きながら半年で120時間は厳しく、60時間のコースも設定し、その場合は準を付けた形で修了認定を行っている。
1コースの受講料は半年で14万8千円だが、数科目単位で受けたいという要望もあり、1科目からの価格設定も行っている。仕事の関係から半年で修了できない場合は、1年まで延長できるように柔軟性を持った運営を行っている。大学の15週の授業と異なり、社会人に配慮し4コマから12コマ程度で科目設定をしている。そのためすべての科目を新規に設計した。5大学4拠点あるので、各拠点で同じ講義を受けられるように努めた。VODの講師との繋ぎにはchatworkというツールを利用している。受講生同士の横の繋がりができるような仕組みとして、Zoomの機能で分科会を作ったり、土曜日に実際に集まって話をするような取組みも行っている。
コース修了につなげる取組みは苦慮するところがあり、途中でドロップアウトしないようにうまく伴走するというのがポイントとなる。本来は、中堅企業・中小企業に多く受けてほしいのだが、大企業からの受講生が多い。中小企業を取り込むために、リーディングカンパニーの事例を紹介し、社内講師の育成の取組みも行っている。最初から300時間も申請する人もいて、履修マネジメントは丁寧に行っている。働きながらでは120時間も厳しいことを説明し、本当に必要な科目だけ最初に受講し、2〜3年続けてください、というコーディネイトをしている。
課題としては、修了生を増やす、企業ニーズを拾い上げる、活用事例を増やす、教員がきちんと伴走できる仕組みなどがあげられる。また、中小企業にうまく展開するために経営者にもアピールをしていきたいと考えている。
【質疑応答】
[質問1] | ||
大学にしかできないリカレント教育はどんなことか。 | ||
[回答] | ||
幅広く体系立って教えることが大学でしかできないと考える。大学の中立性を活かして、企業同士・地域を結ぶことも1つの役割ではないか。 | ||
[質問2] | ||
修了の合否はどのように決めているのか。 | ||
[回答] | ||
最終的な修了認定は、5大学の委員会を設置して判断する。科目ごとでは、講師が進捗や経緯を含めて判断している。 | ||
[質問3] | ||
商用ソフトなどは実習時にライセンス的に使えるのか。 | ||
[回答] | ||
最初に誓約書を書いてもらい、受講の範囲内に限り利用してもらっている。 | ||
[質問4] | ||
文部科学省の補助金が終了してからの持続性は。 | ||
[回答] | ||
財政的に自立するためには現行の3倍くらいの価格になる。価格を上げないで何か工夫する必要があり、苦戦している。 | ||
[質問5] | ||
必要に応じて対面での実習などに戻す予定か。 | ||
[回答] | ||
VODは5大学で共用し、対面型で個別の事情を組める形式がよいと考えている。 |
「企業・団体と連携したオンラインインターンシッププログラムの開発と受け入れ企業等の反応・展望」
追手門学院大学教務部長、キャリア開発センター長、基盤教育機構教授 伊藤 文男 氏
コロナ禍で従来のインターンシップが中止となる中、これまで学生を受け入れていた企業に呼びかけて開発検討会を作り、産学連携でオンラインによるインターンシッププログラムの開発を行った。2018年に発表した新教育コンセプト(Work is Learning)として、「社会課題をテーマに実践を通じて学びを深める」の下、18社20名の参加で検討を始め、企業と学生(3年生)のニーズをすり合わせ、最終的に10のオンライン・インターンシッププログラム(実践型9、体験型1)が開発され、22名の学生が参加した。中でも「完全オンラインで実在のアプリの海外展開に挑む真のグローバルビジネス経験『Global Marketing Online』」というプログラムでは、目標の15倍という成果が得られた。
環境整備としては、slackで企業、学生、大学担当者とコミュニケーションをとった。受け入れ企業との振り返り検討会で学生の成果に対して企業が高く評価したことから、インターンシップは成功であったと評価できる。また、受け入れ企業のインタビュー調査から、オンラインで行う長所として、実習内容が明確になること、移動する距離制約からの解放、実施経費や業務負担の軽減、危機管理の容易さなどがあげられた。一方、問題点として、時間管理が厳格にできないことがあげられた。
課題協働型インターンシップの課題として、チームで行動するため、生産性や効率性などを成果によって評価できないか、問題提起された。展望としては、社員、地元住民等との交流によって深まることも多く、対面を組み合わせたハイブリッド型を今後考えていくことにした。
【質疑応答】
[質問1] | ||
オンライン・インターンシップで学生の学びに何か変化はあったか。 | ||
[回答] | ||
社会人基礎力をベースとした本学の自己評価結果では、対面型と比較して大きな差はほとんどなかった。但し、ストレスコントロール力が身についたという実感はオンライン型の方が低くなった。これは対面型に比べて対面時間が短かったためだと思われる。 | ||
[質問2] | ||
Zoomで話をしてから直接対面するのと、最初に対面してからその後Zoomで話を進めるのでは、どちらが有効か。 | ||
[回答] | ||
プログラムの性質によると思うが、インターンシップ先が近くである場合は対面が先の方がよいように思う。一方、最後に1度だけ現地で発表を行うというような場合には、発表のときだけ対面でよいと思う。 |
「職場体験実務型、課題解決プロジェクト型オンライン・インターンシップの取組みと学生の反応・展望」
立教大学キャリアセンター課長 阿部 通明 氏
学部2・3年次生、大学院1年次生を対象に、学生自身の成長と企業等の理解を促す就業体験を重視したキャリア支援として、「立教型インターンシップ(オンライン版)」を受入企業等18団体の協力を得て、学生54名が参加した。インターンシップの期間は、対面の5日以上より、日程の短い3日以上15時間などとなっている。就業体験はプログラム全体の4割以上を組み込んでいただくよう企業に依頼した。2020年度は「課題解決プロジェクト型」がほとんど、2021年度は「課題解決型」が依然多いが、併用型ではオンラインでの打ち合わせ場面に学生が同席する「職場体験型」が増えてきた。学生の反応を実習報告書に書かれていたコメントから見ると、移動コスト、時間、費用の少なさ、緊張感の少なさをメリットに感じていることが分かった。企業には、オンライン形式に対応することが重要になるだろう。リモートワークの実態や職場の雰囲気を伝えることや、積極的にオンラインコミュニケーションを行うことに工夫が必要であると思われる。一方で、対面形式の良さもあるので、今後はオンラインと対面の良いとこ取りが進むだろう。オンラインのみでインターンシップを実施する場合は、対面の良さをいかにオンラインで実現するかが課題になると思われる。
【質疑応答】
[質問1] | ||
大学院生(博士前期課程1年生)に対しても立教型インターンシップを実施しているが、学部生との違いはあるのか。また、企業からの反応はどうか。 | ||
[回答] | ||
文系の学生についてはレベルの違いは多少あるものの、基本的には同じ内容で実施している。また、優秀な院生は多いが、院生だからといって企業から必ずしも高評価を受けるとは限らない。 | ||
[質問2] | ||
事前研修・事後研修はどの程度の時間をかけて行っているのか。 | ||
[回答] | ||
事前研修も事後研修も1日から2日間かけて行っている。事前研修は、実習期間の7月31日から8月27日の間受け入れ企業のスケジュールに合わせて適宜学生を集めて実施し、参加できなかった学生は個別にフォローしている。学生には事前提出物を出してもらい、企業訪問のマナーなど基本的なことを学んでもらっている。事後研修は、学生に実習報告書を提出してもらい、振り返りなどを行ってもらっている。 |
※以下の発表者は、発表代表者のみ掲載。
A-1 | PC演習におけるオンライン授業の調査報告−テキストデータ分析結果から− | ||
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2020年度オンライン同期型のPC演習で行ったアンケート調査の中から、オンライン授業に対する印象、評価(よかったこと・わるかったこと)の自由記述をテキストマイニングにより分析したところ、学生の意見や意識の変化を捉えることができた。この方法によって埋もれがちな意見を吸い上げる効果が期待できると考察された。
A-2 | 遠隔授業開始2年目の取り組み〜遠隔授業は最低か?〜 | ||
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遠隔授業の可能性を 2020年度と2021年度に美しい字を書くことをテーマとする基礎教養の授業を通して検討した。遠隔授業には学生・教員に対し、それぞれメリットとデメリットがあることを示した。また、教員がチームで戦略を立てて授業を計画することの必要性が指摘された。
A-3 | オンライン時代の大学満足度向上のための全学的取組み | ||
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オンライン授業への切り替えにあたって、「学生ファースト」という理念を掲げて学生の満足度を下げない取組みを行った結果、学生の満足度を高めることができた。大学の組織的な意思決定とそれに伴う全学的な取組みへの拡がりに関する過程についても報告された。
A-4 | 「時刻同時コメント」アプリを用いたリアルタイム型遠隔授業「双方向化」への取り組み | ||
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“CommentScreen”というソフトウェアと動画配信システムを組み合わせることで、オンライン授業における学生の参加意識を高め、集中力を切らさない工夫が報告された。学生の聞き取り調査から、その工夫が支持されていることも報告され、学生の特徴を捉えたからではないかと考察された。
A-5 | FD活動の危機管理機能と戦略展開:コロナ禍での昭和女子大学の遠隔授業導入プロセス | ||
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オンラインによる遠隔授業運営への転換に際して、FD活動をどのように展開したかが報告された。導入初期とそれ以降で変化する教員の心理や実感を捉え、適切なFDを実施することで、学びを止めることなく遠隔授業を展開できた。ITスキルや経験知の情報共有が今後の課題とされた。
A-6 | 遠隔授業による被服構成学実習の実践報告−オンデマンド形式を中心として− | ||
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コロナ禍で被服構成学の実習授業をどのように遠隔で実施したか報告された。動画教材を作成し、チャットを使って学生の指導を行ったところ、動画教材は遠隔授業に限らず有効であること、チャットを用いることで対面授業と同様な指導ができることが報告された。
A-7 | アンケート結果から考えるニューノーマル時代に対応する授業デザイン | ||
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「学びのユニバーサルデザイン」の理論に基づき、学生の多様性やニューノーマル時代に対応した柔軟な授業デザインの提案が報告された。遠隔授業と対面授業の利点・問題点を質問紙調査の結果から明らかにし、学生の学び方・特徴に合わせて授業の視聴や課題への取り組みができるような授業デザインが提案された。
A-8 | ハイフレックス型授業におけるアクティブラーニングに向けたカメラ他システムの検討 | ||
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ハイフレックス型授業でアクティブラーニングを行った実践内容が報告された。遠隔受講の学生と教室受講の学生の間で、ディベートやグループワークを行うために、対象者自動追尾型カメラや音声自動追尾カメラなどを用いたところ、音声の不具合が見られたが、学生の感想から教室の雰囲気を共有することにある程度成功した。
A-9 | 模擬患者参加型遠隔授業の実践報告:研究のインフォームド・コンセントの演習 | ||
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医学部6年生の演習科目「倫理・プロフェッショナリズム」において、臨床研究参加のためのインフォームド・コンセントを取得するシミュレーション演習をZoomで遠隔授業したところ、学生からも概ね好評で、教員や模擬患者が参加しやすくなったが、授業設計の難しさなどが報告された。
A-10 | Zoom/miroを活用したアクティブラーニング授業 | ||
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1年生に4つの授業科目でZoomとmiroを活用したアクティブラーニングを実施した。Miroでは、電子付箋紙によりKJ法に類似した形式を実現でき、グループ化などがしやすく、利便性も高い。今後は、日本語マニュアルなどを整備し、対面授業でもZoom とmiroを活用したアクティブラーニングを実施したいとの報告がされた。
A-11 | よりFLEXIBLEでSUPPORTIVEかつEFFECTIVEなCOIL型教育プログラムの提案 | ||
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独自の留学プログラムであるハイブリッド留学のためのCOIL型教育(オンラインを活用した国際的な双方向の教育手法)が紹介された。事前学習で、COIL型授業を取り入れて、留学先との協働的な交流を行うことで、円滑に現地での学修に取組める環境が作れたとの報告がされた。
A-12 | 機械学習によるGPA予測を用いたeポートフォリオ活用の試み | ||
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機械学習によるGPA予測を用いたeポートフォリオ活用の試みが紹介された。在学中の各種データを用いることで、高い精度で将来のGPA予測が可能であり、3か年計画でGPA予測をeポートフォリオへ還元する試みを継続している。次の課題は、eポートフォリオによるGPA予測結果や学修アドバイスを反映させることにしている。
A-13 | 学生の学修行動をLMSの動画視聴履歴から全学的に把握する試み | ||
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学生の動画視聴ログを基に学修行動を全学的な視点から把握できるかを検討した。動画の長さは25分で100回程度のアクセスが主流であった。アクセス数は、期初に高くその後低下する傾向にあること、視聴が授業時間帯に合わせて行われていた等の傾向を把握できた。学修成果や学修履歴を用いた分析を今後進めることなどが報告された。
A-14 | ディプロマ・ポリシー対応ルーブリックのICTによる学生自己評価の実施(2) | ||
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学修成果の可視化に向けて、「学生自己評価ディプロマ・ポリシー対応ルーブリック」を作成し、ポータルサイトのアンケート機能で自己評価を実施した。ICTの活用により高い登録率で自己評価が行われ、IR活動や学生の振り返り、教員へのフィードバックが容易になったことが報告された。
A-15 | 学習成果の測定・評価と改善活動 | ||
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短期大学生が獲得した学修成果を6年間、学科教育と汎用的能力の観点から測定・評価した。学科教育では実務処理能力が高く、汎用的能力では「他の人と協力して物事を推敲する能力」等が相対的に高かった。これを受けて、獲得できる能力をシラバスで明確にするため、「OGU実務力の養成専門部会」を立ち上げ、改善活動を展開した。
A-16 | 大学基礎数学における実験計画法を用いた正答・誤答例の分析と、学習支援への展開 | ||
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「学生の誤答例」から「どのような誤解をしているのか」を推定し、「望ましい理解の状態」へ向け、ステップ分けした問題群を設定する計画を進めることで、学生の状態に寄り添った指導プランの提供がしやすくなる。今後は、解答・誤答のセットを処理するフォーマットや系統的な誤りと偶発的誤りの分離等の手法を検討することが報告された。
B-1 | アクティブ・ラーニング型授業(CDP)をハイブリッド型授業で実施した実践報告 | ||
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「キャリア・ディベロップメント・プログラム(CDP)」科目の目標である「汎用的能力」向上を目指したハイブリッド型教育の教育効果について、対面型教育と比較した結果、対面教育とほぼ同様で授業の質は保たれた。なお、今後の課題として「論理的発信力」の向上に向け、ハイブリッドによるPBL授業運営の工夫が必要としている。
B-2 | 内容言語統合型学習理論を用いた国際共修のキャリア教育の試み | ||
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日本人学生と留学生が混在するクラスのキャリア教育として、翻訳ツールを用いて日本人学生と就職の情報を共有し、日本語で意見交換する学び合いを通じて、異文化交流が促進され、各グループで議論が活発化した。今後は、翻訳アプリの精度の吟味、他の共修授業への活用を検討したい。
B-3 | 対話型キャリア教育イベントの対面・オンラインハイブリッド開催事例について | ||
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学生と社会人が働く目的について対話するキャリア教育イベント(「ハタモク」)のハイブリッドを開催した。Zoomによる対話の質を上げるため、会議用スピーカーホーンや超広角カメラを用いることで、対面と遠隔の参加者に有効であった。
B-4 | 情報活用に着目しジェネリックスキル向上を狙うキャリア教育とリフレクション分析 | ||
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キャリア形成で必要なジェネリックスキルを育成するため、アクティブラーニングを用いた教育効果の向上と、リフレクションシート(「チバイチバン」)を用いた振り返りの行動変容を分析した。データによる振り返りで、学生の取組み姿勢が変化し視野拡大を促す効果が見られ、他大学等とのコンピテンシーモデルの共同研究を模索している。
B-5 | コロナ禍における地域志向型PBLの授業デザインと学修成果 | ||
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10の特定地域を対象とするPBLを実践するために、地域住民の協力が得られるよう、校外活動ガイドラインを策定した上で、対面、オンライン、現地調査のハイブリッド型授業を実践した。ICT活用は、オンライン型ホワイトボードを活用し、Web上でのワークショップ等行った。学修の取組み姿勢、スキル修得の効果が対面と比較された。
B-6 | 臨床検査技師教育における生化学系実習へのPBL導入による効果 | ||
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臨地実習前に行う臨床生化学実習のPBL型教育で、分析手技と試薬作製の実習をした後、検査現場で使用する検討項目を課題にプレゼンテーションとそれへの評価をLMSで実施した。教育成果として、作製した試薬が想定したものと違っていた場合への原因と解決案の探究力が向上した。
B-7 | オンラインによる東京女子医科大学PBLテュートリアル | ||
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問題発見では、課題シートをGooglスライドにテュータが適時掲載して提示した。問題解決ではGooglスライドで図表の共有も可能になったが、議論にはテュータの介入が必要であった。遠隔テュートリアルは、複数人が話せないので、話が途切れた時の切り出し方など、対面よりテュータの補助・介入が必要であった。
B-8 | 課題発見・問題解決指導において統計的なものの考え方を体得するための方策の提案 | ||
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課題発見・問題解決のためにTBL型を取り入れた教育が報告された。事前に設定したテーマから、グループで課題を発見、データを収集し、プレゼンテーションを行う形態で実施した。統計データの理解とデータ分析能力の向上、「統計検定4・3・2級」レベルの講義科目の設置と、遠隔でのMOOC等の活用が必要との報告がなされた。
B-9 | アパレルCAD教育におけるオンデマンド型遠隔授業の実践とその効果 | ||
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アパレルCAD教育は、CAD操作の習得だけでなく、パターンメイキングの知識とCAD操作を結びつける道具として自在に活用できるようにしている。遠隔授業では授業内容を整理し、10回分をCAD操作に替え、Google Meetで質問に対応したオンデマンド型としたところ、対面とほぼ同程度の教育効果を得ることができた。
B-10 | 学習者オートノミーを育むICT双方向授業活用と日本語教員養成―学生へのフィードバックを中心に― | ||
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日本語教員養成の遠隔授業モデルの構築を目指し、日本と海外の大学で「ICTによる双方向授業」を中心に「学修者オートノミー」の育成に焦点を当てたオンライン上の双方向授業の実践である。eポートフォリオや発表を活用することで、学生が自律的に学習する学習者オートノミーを育てる授業プログラムの構築に寄与できると考えられる。
B-11 | AI技術を活用したVR授業「Virtual Classroom」の実証実験 | ||
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ミーティングアプリやオンデマンド配信で、教室講義の代替はある程度可能になっているが、実習授業をオンラインで実施することは難しい。これを解消する方法として、VR(仮想現実)授業の実証実験を3回行った。学生からは「想像していた以上にリアルで驚いた」などの感想が多くあり、一定の成功を収めていると言える。
B-12 | オンライン授業におけるグループワーク実施の試み | ||
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オンライン授業下でもアクティブラーニングを行うため、オンライン会議システムTeamsのプライベートチャンネルを用いた1年生のグループワークで、プレゼンテーションと相互評価を行った。対面と遜色ない内容及び質で学修でき、対話が苦手学生でも対応できる可能性が示唆された。
B-13 | 教室授業での外部講師リモート登壇におけるICTサポートの成果と課題 | ||
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キャリア形成科目の一つである「キャリアプラン」では、就活対策として就活支援企業等の外部講師による支援講座を遠隔オンラインで行うため、リアルタイムで教室内の様子を教室の前方・後方から撮影・配信し、事後には振り返り内容をフィードバックした。講師からは、臨場感や教室の反応が効果的に伝わった等好意的な意見が得られた。
B-14 | 遠隔ポスター発表システムの構築と活用 | ||
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ポスターセッションは一同に会した多人数に対して、近距離で発表者が口頭説明する形式で、コロナ禍では実現が難しい。そこで、遠隔でポスターセッションを行えるWebアプリケーションの形で実装したシステムを開発し、卒業研究中間発表に使用して無事実行でき、教員による評価の共有もできた。
B-15 | Moodleにおける検定試験対策コースの構築とその運用―HSK中国語検定試験の事例として | ||
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中国語検定試験1級対策コースをオンラインで行うためMoodle上に構築し、実際にコース運用した。パソコン、タブレット端末及びスマートフォンを利用して学生が隙間時間に学ぶことができるコンテンツの提供を目的としている。本コースは初学者に継続可能な学習機会のツール提供で、今後広く学生に浸透していくことが期待される。
B-16 | 機械翻訳から自分のことばへ−スピーチ作成ストラテジー修正支援の試み− | ||
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留学生対象の「日本語会話UA」の話題提供スピーチの課題に対して、機械翻訳を用いた表現が見られたため、自己表現に近づく学習方法として、スピーチの発表動画を提出させることにした。動画作成ツール(Flipgrid)による試みは、スピーチ時間を制限しやり直しができることから、自身の言葉で語られたものであった。
B-17 | ハイフレックス型授業を活用した観光通訳のクラスでの取組み | ||
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観光通訳の授業を2021年度は対面とWeb会議ツールによるリアルタイムのハイフレックス形式、昨年度はオンライン形式、それ以前は対面形式で行った。3形式の達成度を学期初めと学期最後の試験で比較の結果、大きな差がなくLMSで毎週練習することで学習者の力の底上げができた。
C-1 | 教職科目「情報通信技術を活用した教育の理論と方法(仮称)」の授業計画試案 | ||
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小学校教諭免許取得の教職課程科目として通知された「情報通信技術を活用した教育の理論及び方法」のコアカリキュラムに準拠した新科目の設置に当たり、「教員のICT活用指導力のチェックリスト」に示された4つの資質・能力の育成につながる授業構想の試案が紹介され、授業の到達目標、概要、授業計画案が報告された。
C-2 | ビジュアル型プログラミング言語からテキスト型言語へのスムーズな移行を目指した取組 | ||
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プログラミング経験の少ない初年次学生を対象に、最初はビジュアル型プログラミング言語でスマホのアプリ開発を行い、その後で作成したアプリの一部をJavaScriptのコードで実行させることにより、後続科目でのテキスト型言語のプログラミングへの移行に有用であることが、学生へのアンケート調査で示唆された。
C-3 | 学生参加型AI開発を目指した「医療データサイエンス入門」の開講に向けた取組み | ||
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DXの一環として開講の「医療データサイエンス入門」では、教育用ロボットと直観的なビジュアルプログラミングで基本的なプログラミングの考え方を少人数対話で学んだ後、pythonで段階的に複雑なプログラミングに進み、学生参加型のAIシステムの開発実践を通じて、数理・データサイエンス・AIの知識・技能の獲得を行う。
C-4 | 私立文系総合短大におけるAI・データサイエンス教育の取組み | ||
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AI・データサイエンスの基礎知識を短期集中的に導入する取組みとして、1年次必修の教養科目(「大学教育と教養」)で、Zoomで専任教員がオムニバス方式の講義を担当した。筆者は「AI・データサイエンスリテラシー」担当した。講義後のアンケート評価は、授業の理解度が高く、AIやデータサイエンスの必要性も肯定的であった。
C-5 | 数理・データサイエンス・AI教育の共通教育としての全学必修化の取り組み | ||
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数理・データサイエンス・AI教育を全学必修科目として開講する経緯と体制構築について、従来の情報リテラシー科目からの移行に伴うDPやCPとの整合性、担当教員の確保、e-Learning教材の作成など多様な課題がある中、共通教育の必修科目として合意形成された。学生の質問窓口としてデータサイエンス学習支援ルームを開設した。
C-6 | オンデマンド化を活かした学年を超えた予習・復習環境の構築 | ||
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学習管理システムを用いた医学科の講義すべてをオンデマンド形式に移行したことにより、学生はいつでもどこでも必要な時に受講可能となり、他学年の授業も閲覧でき、学年を超えて予習・復習できる垂直統合環境が構築された。教員も他教員の授業閲覧を通じて、授業連携が容易になることが期待される。
C-7 | 主体的学修を促すLMS上授業外課題の工夫と効果の検証 | ||
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遠隔授業が増える中、学修状況を観察する機会が減少したことから、Learning Management System上の課題実施状況を解説動画の視聴、小テスト・提出課題振り返りに学習者ログデータを活用し、授業課題設定の効果を主体的学修分類尺度で分析の結果、完了指向、防衛指向の学生も一定数以上の課題に取組んでいることが判明した。
C-8 | 反転授業における予習動画に関する一考察−留学生対象日本語科目での実践を通して− | ||
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留学生対象の必修科目「日本語」の反転授業における予習動画の視聴ログを分析して、視聴率の高い予習動画の特徴について報告された。動画の内容については、既有知識のスキル系より論証や仮説検証の方法論に関する内容の視聴率が高く、動画時間の長さは9分以内が視聴率の観点から適切であること分かった。
C-9 | レポート作成・ICTスキル・課題発見解決の統合的リテラシーの開発 | ||
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「Wikipediaの記事を執筆する」「チェックリストとメールのネチケットを学ぶ」という内容で、学生が有用性と妥当性を理解するような授業をZoomで実施した。Zoomの評価は高く、学習時間や有用性の理解、気づきでも成果が認められたが、顔出ししない学生への対応や建学の精神と教学理念の理解が不十分という改善点も見出された。
C-10 | バーチャル体験と看図アプローチを用いた手術後患者の観察の展開の試み | ||
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ビジュアルテキストを用いた看図アプローチにより、術後観察の基本的知識を習得する学習展開を試みた。学生は、2回の学習を通してビジュアルテキストの観察項目が増し、観察の視点を理解し、自分の知識不足を客観視しながらアセスメントの知識を身に付ける必要性を学んでいった。ビジュアルテキストによるバーチャル体験や仲間との話し合いが、学習の動機づけを高めた。
C-11 | コロナ禍の看護師国家試験対策におけるICTを用いた学習支援の検討 | ||
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ICTを用いた看護師国家試験対策講座をライブ配信とオンデマンド配信で実施し、国試を終えた卒業生を対象にアンケート調査を行った。身体的不調や集中力の維持が困難などの問題点も指摘されたものの、学習計画や振り返りへの教員からのコメントや学力に応じた対策など、個別の指導への評価が高く、総合的満足度も高かった。
C-12 | 創造的探究心を育むオンライングラフィックデザインツールCanvaの活用実践 | ||
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全学的に推進している環境活動プロジェクト「ECOアクション」を題材に、企画書の作成とデジタルポスター作成を課題とするオンデマンド型授業を実施した。ポスターの作成にはCanva for Educationを使用し、Google Classroomと連携して作品の提出や学生同士の相互鑑賞を可能にした。Canvaの利用法は容易に修得でき、学生の探究心を深めるのに有効な成果をあげることができた。
C-13 | ICTツールを活用した栄養士養成学修への肯定感向上のためのイベント型教育 | ||
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栄養士の業務である給食管理には、栄養管理に加えて調理技術、衛生管理技術、経済・経営的な感覚と技術、コミュニケーション力などが含まれる。そのような教育を、ICTツールを活用したPBLとして実践するために、ゼミ対抗の料理対決のイベントを開催した。チームごとに調理班、連絡係、調整班の役割分担でクッキングを行い、審査を受けたが、協働型PBLとしての成果が得られたことが報告された。
C-14 | LMSを用いた授業準備状況の記録 | ||
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授業での学生の出欠や教科書持参の有無の調査と記録は、教員にとって必要な作業であるが、学生の不正行為を防ぎ、かつ短時間で済ませるには工夫が必要である。そこで、6桁の乱数を記載した出席表を出席学生や教科書持参の学生に配布し、Moodleの「小テスト」機能を利用することで、所定の場所にその数値を入力させる方法を採用した。
C-15 | 2020年度学内LMS・動画配信システム利用状況等に関する報告 | ||
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LMSのWebClassと動画配信システムのMediasiteについて、2020年度の利用状況を分析した。WebClassは年々利用率が増加して90%以上となり、レポート提出締切りに関わる深夜に利用が集中していた。Mediasiteは10〜20分程度の動画が多く、動画1本当たりの平均視聴回数は約1.5回で、いずれも学部間の偏りはなく、全学的に広く利用されていることが確認された。
C-16 | LMSを活用した授業の学習履歴および学習意欲と学習効果の分析 | ||
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LMSを活用してアクティブラーニング(AL)を促進する取組みを実践した成果を、学習行動と学習効果、およびLMSを活用した授業に対する評価と意識の関係を中心に調査・分析した。成績を指標とする学習効果には、練習問題や復習テスト、課題提出へのアクセス数の効果が認められ、また授業に対する学習意欲、取組み、参加意識、ALへの評価との相関が見られた。