事業活動報告 No.4
例年、本協会では私立大学における職員の職務能力の開発・強化を支援するため、教育の質向上を目指した企画・提案及び学修成果の可視化、全学的教学マネジメントの確立に向けた指針の実施、業務改革に求められるICTの利活用等について、知識・理解の獲得と実践的な考察力の促進を支援することを目的に幾つかの研究講習を実施している。その中でも本研究講習では、ICTの利活用の可能性や工夫について基礎的な理解を深め、大学の管理運営や教育活動の充実に向けて主体的に取組む考察力の獲得を目標としている。
今年度もコロナ禍が終息しておらず緊急事態宣言も続いていたことから、集合型研修の開催は困難であると判断し、9月28日〜29日の2日間にわたりZoomを利用したオンラインで実施した。オンライン開催は2年目ということもあり大きな混乱もなく、加盟校24大学から44名(昨年度比19%減)の参加者を集め、開催するに至った。
参加者の所属部門内訳は、情報センター部門が30%、学事・教務部門が27%と全体の50%超を占め、人事・企画部門がそれぞれ7%、会計・管財・就職がそれぞれ5%、その他オンライン開催という利便性もあってか入試・総務・広報等、幅広い部署からの参加があった。年齢別では20代が48%、30代が27%、40代以上が25%、男女比は男性59%、女性41%であった。(図1・2参照)
図1 参加者所属部門
図2 年代・男女比
本コースでは、1日目の全体会において、職員の役割を共有した上で、①教育改革に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)、②学生支援改革に向けたDX、③業務改革に向けたDXについて、それらを考察するためのICT利活用の意義・好事例について情報提供を受け、デジタル技術を駆使して大学改革を進める上での課題認識を深めること、1日目の後半および2日目のグループ討議・発表において、本研修のテーマとして設定した①から③の観点から、具体的な課題を絞り込み、自らがどのように関与すべきか、ICTを道具として利活用した望ましい改善案の提言作りを行い、グループ発表・相互評価を通じて、主体的な考察力、イノベーションに取組む姿勢の獲得することを目指している。
今年度は、あらかじめ、①「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(中教審第211号)②「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」(中教審第213号)③「教学マネジメント指針」(令和2年1月中教審大学分科会)④「大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ(Scheem-D)〜Withコロナ/Afterコロナ時代の大学教育の創造〜」の実施について(令和2年6月文部科学省)⑤「文部科学省によるデジタル化推進プラン」(概要)等を参照し、大学の抱える今日的課題について理解することを事前学修として課した。また、参加者自身の目標設定を明確にするため、自大学の活動を振り返り、他大学に紹介する自己紹介シートを作成させ、同じグループのメンバー間で事前にメールで共有させることで、当日のグループ討議がスムーズに進行するように配慮した。
冒頭、本運営委員会の担当理事である福岡大学CIO補佐の末次先生が協会を代表して挨拶した。末次先生は参加者、情報提供者への謝辞、協会の目的および開催の趣旨について語られた。
「大学改革に向けた職員の役割」と題して上智学院理事である本運営委員会の木村委員長から、本コースのねらい、大学職員として主体的に取り組むための心構えとして、①環境の変化を知る、②社会に目を向ける、そして③「見える化」、「はかる化、データ化」から「見せる化」について紹介するとともに、大学職員が果たす役割について理解と共有化を図り、理想とする職員像について語られた。
1)「大学データの前処理・分析・共有の勘所:そして価値創造へ」
鎌田 浩史 氏(上智学院IR推進室専任職員/上智大学基盤教育センター非常勤講師)
文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度リテラシーレベル」(MDASH-literacy)に認定された同大学の「データサイエンス概論」内で教育される内容を用い、大学の経営・教育データの取り扱いの勘所が説明された。
大学においては、KKD(勘と経験と度胸)があれば安定的に運営できていた時代から、経営的発想が求められる時代になり、KDD(Knowledge-Discovery in Databases データに基づく意思決定)、つまり単なる統計ではなく最終的に価値を創造することを目的としたデータサイエンス的発想が必要となっている。
データサイエンスを用いた科学的な説明とは、原因と結果に関する因果的な説明のことを指すが、相関関係があっても因果関係があるとは限らない。例えば「受講科目数xが増加すれば課題負担感yが増える」相関関係が見られたとしても、因果関係があるかはわからない。因果関係を調べるにはxとyの関連の強さ・時間的先行性(どちらが先か)・関連の普遍性(すべての大学で同じか)・関連の整合性など、さまざまな観点から考察する必要がある。
因果関係を検証するための質の高いエビデンスとしてはオックスフォード大学のEBMIがあげられるが、最も質の高い検証方法は、複数のしっかりした検証結果から総合判断をすることとされている。反対に、最も質の低い検証方法は「批判的検討を伴わない、または基礎実験や第一原理(こうに違いない・こうあるべきだ)に基づく専門家の意見」とされている。なお、仮想空間での実験ではなく実務を伴う大学経営では、有効性以外にも評価すべき事項があることを忘れてはならない。例えばDAC評価(OECD開発援助委員会)では有効性に加え、妥当性・効率性・影響力・持続可能性があげられている。
これら説明の後、講師からデータを扱う上で必要となる前処理・分析・共有フェィズの基礎について、説明が行われた。
説明の最後に、データによる根拠や裏付けをもって業務改善に繋げ、最終的には大学のミッション、建学の理念の実現に繋げていただけると幸いであるとのメッセージが参加者に伝えられた。
2)「学生の相互支援による履修相談等の助言システム紹介」
内藤 永 氏(北海学園大学経営学部教授)
2020年4月当初コロナ禍のためオンライン授業に移行したが、LMSへの負荷集中を避けるため、教員にはLMS以外のプラットフォーム利用を依頼した。ところが学生側は多様なプラットフォームに対応できず「利用することができない」という混乱が生じた。北海学園大学では教職員による支援体制を組んでいたが、多様なプラットフォームに起因する学生からの問い合わせが多発し、オーバーフローしてしまった。教員も事務局も飽和した状況下で、「手が空いているのは学生である」ということで、コールセンターのような「学生自身による学生テクニカルサポート」(SOS=Student Omoiyari Support)を4月26日〜5月7日という短期間で立ち上げた。問い合わせの入り口には学生が慣れているLINEを用い、後ろ側ではGoogleフォームに接続する。さらに相談内容に応じZoomを使って個別に対応した。このSOSは学生同士が対等な立場で相談できるので好評であった。通常、スタッフ側学生はZoomの待機室でスタンバイし、回答案を討議したり、対応事例を整理してマニュアルを作成したりすることで待機時間を有効活用した。学生だけでは解決不能な質問には、教職員組織と情報共有し、各々の役割に応じて解決を図った。
2021年度は質問を類型化し、43種類の質問にはBotによる自動応答で対応するように変更した。スタッフ側の学生はやりがいを感じ非常に好意的であった。「日頃、事務職員がこのような業務に追われていることは、SOS業務に携わるまで全く想像ができなかった。」と、学生自身が大学の内側を知るということでも貴重な学びの機会になった。2022年度にはガイダンス動画を作ることが決まっている。
SOSに関する告知方法での工夫は、配布物のガイダンス資料の中にQRコードを入れて周知を図った。
組織創りでの工夫は、概して日本語の敬語が妨げの要因であるので、本プロジェクトではスタッフ学生全員が(苗字抜きの)名前で呼び合い、学年・年齢を教えないという約束でスタートし、全員対等な立場での“タメ口”で対話することにした。普段通りの言葉遣いをするということが心を開く入り口になっている。
3)「ニューノーマル社会を見据えた組織的なDXへの取組み」
藤原 昭二 氏(福岡工業大学情報基盤センター・情報企画課長))
福岡工業大学では、DXを推進することで教育・研究・働き方を高度化し、教育効果を最大化することを目的として、ニューノーマル社会に適応する改革を深化させている。具体的な取組みとしては①教育DX②研究DX③働き方DX④IR活動⑤情報セキュリティ対策の5つを柱としており、以下の内容について説明、紹介があった。①の教育DXでは、学修支援システム、学修ポートフォリオの導入により、学生との双方向コミュニケーションを強化し、学修成果の可視化を実現していること、学生のBYODを進め、場所を問わずに有用なソフトウェアを利用できる環境を提供していることが紹介された。図書館においては、能動的学修や研究に適した設備やICT機器を備え、図書館3要素(資料・空間・人)を高度化したサービスを提供しているとのことである。②の研究DXでは、研究データの管理に注力し、学術機関リポジトリ、文献データベース、クラウドストレージを活用し、研究成果の保存、公開、可視化を進めていること、③の働き方DXでは、会議体のペーパーレス化や、業務のオンライン化を進め、業務効率化とコスト削減を実現していることが紹介された。④のIR活動では、2つのIR(調査分析、情報公表)、EM、教学マネジメントを連関させ、戦略的大学経営の指針としていること、⑤の情報セキュリティ対策では、基本方針、対策基準、実施手順に体系化し、ガバナンス強化、物理的・人的対策を実施していることが紹介された。
上記の多様なDXの取組みは、今後もより一層深化、高度化し、経営計画に採り入れられるとのことである。福岡工業大学のDX化へ向けた先進的な取組みは、今回参加大学の多くの職員に有益な情報提供になり、DX推進の一つの指針となった。
4)「サイバー攻撃のリスクとセキュリティ対策の基礎知識」
松坂 志 氏(情報処理推進機構セキュリティ対策推進部標的型攻撃対策グループリーダー)
IPAでは、2006年から対象を個人・組織に分けて「情報セキュリティ10大脅威」を発表している。今回は、2021年組織向けで初めて1位となったランサムウェアによる被害について採り上げる。
大学に関連するランサムウェア攻撃被害としては、2020年6月の米国の大学で最終的に1億円を超える身代金を支払われたという事例がある。また、2020年11月には日本の大手ゲーム会社、2021年5月には米国でエネルギー・パイプライン事業を手掛ける企業がランサムウェア攻撃を受けたことが報道されるなど、大規模な被害が継続している。
ランサムウェアとは、まず攻撃者自身が様々な攻撃手法を駆使し、企業や組織のネットワークに侵入し、内部で侵害範囲を拡大、事業継続にかかわるシステムや、機微情報が保存されている端末やサーバを探し出して、ランサムウェアへの感染や情報の窃取を行う。次に、ランサムウェアにより暗号化したデータを復旧(事業継続)するための身代金要求に加え、支払いに応じなければデータを公開するという二重の脅迫を行うという手法である。
従来は不特定多数に攻撃を仕掛けていたが、2018年以降は企業や組織を標的としている事例が増えており、この手法で要求される身代金は数千万円から数億円という規模であり、被害企業・組織は1,000を超えると推定される。
攻撃者は事業継続を人質に身代金をとれることを認知しており、あらゆる企業・組織が標的となりうる。事業者はこのようなランサムウェア攻撃の手口を理解し、対策を講じることが必要である。
特別に新しい攻撃手法が出てきているという状況ではなく、基本的な対策をしっかり行えば防ぐことができる。不審なメールを誤って開き、そこから組織に入り込まれるケースが非常に多い。基本的な対策を隅から隅まで継続的に実践していくことは容易ではないが、それでも徹底することが重要である。
今年度は、あらかじめ、①「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン(答申)」(中教審第211号)②「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」(中教審第213号)③「教学マネジメント指針」(令和2年1月中教審大学分科会)④「大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ(Scheem-D)〜Withコロナ/Afterコロナ時代の大学教育の創造〜」の実施について(令和2年6月文部科学省)⑤「文部科学省によるデジタル化推進プラン」(概要)等を参照し、大学の抱える今日的課題について理解することを事前学修として課した。また、参加者自身の目標設定を明確にするため、自大学の活動を振り返り、他大学に紹介する自己紹介シートを作成させ、同じグループのメンバー間で事前にメールで共有させることで、当日のグループ討議がスムーズに進行するように配慮した。
(1)グループ討議1日目は、前半に行われた情報提供や参加者が調べてきた課題等について情報共有しながら、グループ単位で「教育改革DX」、「学生支援改革DX」、「業務改革DX」の3テーマを一つに絞り込み、解決すべき課題を設定の上、具体的課題解決提案をまとめ中間報告としてメールで提出することにした。
集合研修時に比べて開催期間が短く、かつオンライン講習ということで、時間配分やコミュニケーションの難しさに配慮し、参加者には事前に研修用ワークシートを配付し、「タイムスケジュール」や「今、検討すべきこと」が明確になるようにして進めた。また、各グループには運営委員がファシリテーターとして参加し、議論が煮詰まらないように適宜アドヴァイス等を行った。
(2)グループ討議のプログラム内容2日目は、前日に提出された各グループの中間報告をWebに掲載し、相互に他のグループへの感想や意見を掲示板に書き込み共有する中で、それを参考に最終提案を作成した。
(3)各グループの発表は、7グループ中5グループが「業務改革DX」、2グループが「学生支援改革DX」をテーマとして選定し、「教育改革DX」をテーマとしたグループはなかった。具体的には、コロナ禍を経験している参加者の多くが、業務のデジタル化が進んでいない現状を日常的に感じているようで、「既存のICTを組み合わせることによって業務の効率化を図る」提案やそれに加えて、「RPAやAI等を組み合わせることによってDXを実現する」という提案が多く見られた。そのほか、「マッチングアプリを利用して他大学や企業を巻き込んだプラットフォームの構築をする」、「学生のライフデザインに対する支援を、AIを活用し行う」、「トップダウンによるDX推進チームを組成し、教職員の意識を共有しながら理解を深め、DXを推進する」という提案もあった。
(4)グループの発表後には都度、質疑を行い、参加者全員で相互評価をし、発表内容についての具体的事例の共有や実際に導入する際の問題点等の深堀りを図った。最後の講評では、木村委員長が、「本講習で得た成果をそれぞれの大学や部局で共有し、新たな価値を創造し、大学改革を推進してほしい」と総括して閉会となった。
図3 アンケート結果
参加者には、本講習会終了後、3週間程度の期間をとり研修事後レポート・アンケートを提出してもらった。
講習会全体を通して「課題解決力」は、発揮・伸長した27%、ヒントを得た73%と参加者全員が、何らかの“気づき”を得ている結果となった。自由記述では「他大学職員と意見交換しながら一つの提案を導き出すことができ有意義だった。」「課題解決のための考え方を学ぶことができた。」等の声が寄せられた。
「創造的思考力」については、発揮・伸長した25%、ヒントを得た73%と全体の98%を占め、参加者が研修の成果を感じている結果となった。グループの発表の中にもRPA・AI・マッチングアプリ等の今日的なキーワードが複数見られた。
「ICT・データ活用意識」については発揮・伸長した29%、ヒントを得た69%と全体の98%を占め、参加者はほぼICTを意識できているという結果となった。昨年同様、情報システム部門と学事・教務部門の参加者の割合が多かったが、他の部門であってもコロナ禍の影響もありICTを意識する場面が増加していると思われる。
グループ討議においての「発言」については、積極的だった46%、発言はした49%、あまりしなかった5%という結果になった。昨年度の反省を踏まえ、1グループの人数を6〜7人(昨年は10〜11人)にしたことにより、より積極的に参加することができたと思われる。また、対面に比べてオンラインでコミュニケーションをとることが難しかったという声がある一方、それ以上にオンライン開催で良かった、今後もオンラインが良いという声もあり、オンライン開催の今後につながる結果となった。「交流と人脈形成」については、積極的だった20%、対応はした49%、あまり広がらなかった31%と、ある程度対応はしたものの画面越しでは満足にできないという結果となり、オンライン開催の課題は交流が深まらないことにあることが浮き彫りになった。
一方で「課題・企画の検討」については、積極的だった51%、発言はした44%、周りに頼っていた5%であり、昨年以上にZoomの操作に慣れている参加者も多いようでオンラインでも十分に対応できることが判明した。
また、討議時間も集合研修時に比べて短いため、課題解決に対して一定の成果は見たものの深堀りには至らない面もあった。
講習会全体として事後アンケートの評価は概ね良好にもかかわらず、参加者数については毎年減少傾向にあり、本講習会の良さを加盟大学にしっかりと伝えていく必要性があるという意見も出された。次年度以降の課題としたい。
最後に、長く続くコロナ禍というこれまで経験をしたことがない難局であるにも関わらず、全国から多数の参加者が、2日間にわたり真剣な討議をしてくれたこと、また、職場に戻ってからの力強い行動計画を示してくれたことに対して、運営委員一同から感謝とエールを送り、本講習会への参加が、少しでも日々の業務に役立つことを期待したい。
文責:大学職員情報化研究講習会運営委員会 |