巻頭言

小規模大学に適合できる情報教育とは

小尾 敏夫(西武文理大学学長)

 本学が属する学校法人文理佐藤学園は、小中高大・専門学校を擁する総合学園で、1966年に専門学校からスタートして55年の歴史がある。本学は1999年に前身の文理情報短期大学を改組して設立されてから22年になり、埼玉県狭山市と川越市にまたがる入間川沿いのキャンパスにサービス経営学部と看護学部の2学部を置く収容定員1,480名の小規模大学である。
 本学の基本方針は、学園共通の建学の精神である「学識と技術の錬磨」「報恩の精神」「不撓不屈の精神」に則って、「新しい知の創造」および「時代の要請に応える人材育成」の拠点であり続けることであるが、大学の英文表記を、「Bunri University of Hospitality」としていることからもわかるように、サービス業の原点ともいえるホスピタリティ精神を教育の基本にしていることに特徴があり、この精神は2009年に開設した看護学部の教育の基本としても踏襲されている。
 私は4年前、学長に就任した際に、イノベーション教育を徹底し創造性豊かな学生を社会に送り出すという目標を立てたが、サービス経営学部の学生の主たる就職先であるサービス業界や福祉現場はもちろん、看護学部の学生の就職先である医療現場でも、AIをはじめとした情報活用が急速に進化しており、そのような現場の将来を担う学生にとって、情報教育は不可欠であると判断した。この考えに基づいてデジタルを活用した教育の推進に主眼を置き、具体的には、・ICT技術を活用した遠隔講義、・ひとり1台のタブレット配備、・Wi-Fi環境の整備、・デジタル教材によるリテラシー向上、などを目標に定めた。投資余力が小さい小規模大学ができることには限界があるが、カリキュラムにおいては、一般教育科目として「AI・データサイエンス入門」、専門科目として「情報処理・・・」「統計・定量分析手法」「情報産業論」「イノベーション・マネジメント論」等を2〜4年次に配当し、これらを情報科学系科目群としてまとめることで学生目線でも分かりやすい形で情報教育の充実を目指している。こうした科目群を設けたことで、サービス経営学部の学生にとっては情報系科目を主体的に学ぶことが可能となったが、看護学部では実習や多くの専門科目群の学修が必要であることから、十分な情報教育の時間がとれないことが課題である。コロナ禍で私たちの生活は急激なデジタル化が進んだが、医療業界においてはそれ以上で、病院経営も電子カルテに代表されるようにデジタル化が進み、技術面では各種医療ロボット、さらに遠隔医療を含めたICTの利活用は目覚ましく、在宅看護の比率が高まる高齢化社会への対応も含めて、看護学部生にとってもデジタル分野の教育は必須のものとなっていることは間違いない。
 小中高校では既にギガスクール構想によりプログラミングやタブレットを使用したインターネット教育が始まっており、大学ではそのような初等・中等教育で培われたデジタル・スキルを活用した教育が求められている。
 本学も他の多くの大学と同様に、コロナ禍以前はオンライン教育が十分とは言えない状況であったが、コロナ対策として、否応なくデジタル化の必要に迫られたことをきっかけに、様々な設備を導入した。教職員が一丸となってさらなる充実に向けて全力投球しており、システムの構築と教育内容のデジタル化にふさわしいコンテンツの構築が実現できつつあり、現在はこのコンテンツをより良いものへとブラッシュアップしているところである。
 また、情報教育分野はDXによって、知識に加え判断力・表現力・思考力などの修得が重要な意味を持ち、新しい教育モデルを実現できる機会も増えている。
 私自身は、永年デジタル・ガバメント(電子政府)分野の研究教育をしてきたが、特に行政のデジタル化に関して様々な場面での貢献が認められ、総務大臣賞を2回受賞した。その研究を通じて大学におけるICT教育・学修環境をより充実させ、単にインターネットなどのツールを使いこなすだけではなく、デジタル・イノベーションを実現できるような情報教育が必要不可欠と考えており、それにより先に述べた創造性豊かな学生の輩出が可能になる。
 私は、人類が直面する「情報化、高齢化、国際化」の3大社会課題の融合パラダイムシフトを実現し、将来の多様な危機を克服できる創造性豊かな人材育成の実現についても研究しているが、最近の傾向としては、AI・データサイエンスなどが脚光を浴び、日本政府が推進するsociety5.0に合致する大学教育のDXの在り方が注目されている。早稲田大学の研究所長時代に国連のICT専門機関(ITU)の事務総長特別代表として、国連AIサミットなどにアカデミア代表として参加したが、世界のAI専門家が一同に会する会合で、AI・デジタル技術に関しては、グローバルな標準化が必要であることを痛感する一方、日本の出遅れが気になった。この遅れを取り戻していくためにも、これからの社会を担う学生たちへの情報教育の必要性を実感したことも小規模とはいえそれなりに本学の学生へのデジタル教育を充実させていきたいと考えた背景にある。
 昨今はサイバーセキュリティ問題がかなり深刻化しており、セキュリティ分野の教育も必要不可欠である。大学の規模に応じて、できることに制約があるにしても、教職員・学生を含めた誰一人取り残さない、SDGsと情報教育の融合という観点が重要な課題だと感じている。


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