特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その2)
岡田 忠克(関西大学 学長補佐・人間健康学部教授)
植田 光雄(関西大学 学長室学長課課長)
本学は、大阪府の吹田市に本部を置き、府内に5つのキャンパスを有しております。学部生・院生合わせて3万人規模の総合大学です。このように複数キャンパスで教育を展開するなか、常にキャンパス間のネットワークをどのように強化していくのか、また、ICT技術が進展していくなか、教育の質を維持しつつ、すべてのキャンパスに共通のプラットホームを構築し授業を展開するためにはどうあるべきかについて検討してきました。
本学ではDXの推進に先立ち、2018年度より学生の主体的な学びを促すためにBYODを推奨しています。BYOD推奨の背景には、学生の多くが高等学校で一定の情報処理教育は受けているものの、大学では、レポートやプレゼンテーション資料の作成、LMSを活用した予復習、e-Learningを用いた自学自習など、授業内外の学習活動においてパソコン等を活用することになるためです。BYODにより、情報処理教室に限らず、いつでも、どこでも学び続ける環境の整備は重要であり、情報リテラシーを兼ね備え、自律的に学ぶ力は、大学での学びにとどまらず、卒業して社会で活躍していくために必要な力であると考えています。
図1 関西大学DX推進計画
このように従前からICT教育をすすめてきましたが、さらにDXを進展させるために、学長より「関西大学DX推進構想」が示されました。本構想をベースに策定した関西大学DX推進計画では、①学生の学修機会の制限・制約・バリアを軽減・除去する取組み、②学修成果の可視化への取組み、③DX推進に対応したインフラ、環境整備への取組み、④学内業務の効率化への取組みを4つの柱として、これらを具体化するために5つのプロジェクトを設置しています。DXの推進は、これまでの様々な課題を乗り越えるブレイクスルーになると考えています。例えば、現代的な課題やテーマであるSDGsやAIデータサイエンス科目、また、本学の学生としてのアイデンティティを育む教育については、ひとしくどのキャンパスでも開講されることが望ましく、ICT技術を活用しつつ教育の質を担保した遠隔授業の可能性を検討しています。
また、このコロナ禍で多くの大学は、遠隔授業への移行を余儀なくされたかと思います。教員と学生との双方向性、インタラクティブな環境をどう担保していくのか、という課題が出てきました。
今回、本学が文部科学省の「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に採択された「取組①」(関大LMSで繋がる「今の学び」と「未来の自分」−学習環境の再構築とキャリア支援−図2)及び、「取組②」(越える・広がる・交り合う−関西大学グローバルスマートキャンパス構想−図3)とも、これまでのICT教育の推進とともに、それらの課題の軽減、解消を目指すものとして計画しています。
図2 「取組①」
「取組①」は、初年次から卒業までの教育支援、キャリア支援をLMSに集約させ、その機能を大幅に強化、連携させることによって、学生生活を総合的に支援することを最大の目標としています。関大LMSの機能強化・学修成果の可視化については、LMSに動画と資料の配信が同時に行え、視聴ログが確認できる機能を付加し、シームレスな学習環境を確立します。これは、自動の字幕化機能を有し、資料、動画を一括して配信するシステムを導入し、障がいの有無や国籍など関係なく全ての学生が効果的、効率的に学ぶことができるインクルーシブな教育環境を構築するものです。具体的には、動画編集配信ソフトPanoptoを関大LMSに連環させ、Panoptoを経由してLMSの各科目コースに自動配信する仕組みを構築します。これにより、学生は、関大LMSにログインし履修科目のコースを開くと、講義動画と配信された資料や字幕を見ながら受講する環境が構築されます。また、教員は学生が、どこでつまずいたか、教員が重要と思うポイントを重点的に学んでいるのかといった視聴ログを確認することで、学生の学びを可視化し、形成的評価や授業改善への活用、視聴していない学生や学習補完が必要な学生への個別支援を行うことができます。
そのほか「取組①」では、図書館の契約電子コンテンツへのリモートアクセスを可能にするクラウド版Proxy ServerサービスであるEZ proxyを導入しています。授業のオンライン化が進み、自宅で研究・学習している現状において有効なサービスであると位置づけています。
また、「今の学び」の充実のみならず、「未来の自分」に向けた学びの支援も必要です。キャリア支援ポートフォリオの構築では、LMSと連関させたポートフォリオ機能を活用し、入学初年度から学生がどのような事象に興味・関心があるのかを探ることで、学生の「学び」や「各種課外活動」を可視化し、これらと連環した将来や進路の自己実現を支えるプログラムの実施、個別最適化された情報の提供、「未来の自分」に向けたきめ細やかな個別支援を行います。学生は、キャリア支援システム(通称KICSS)を介して学生自らの学習内容や活動履歴を記録することで、キャリアデザインや就職・進路決定においての振り返りへの活用が可能となります。さらに、全学的キャリア教育プログラム『関大版ハタチのとびら』では、低年次を中心にオンライン上でワークシートを用いた自らの興味や関心を可視化する基礎的なプログラムの実施や、そこから導き出される学生ごとのトレンドに合わせた個々人に適したオリジナル動画の配信を行います。
図3 「取組②」
前述したように本学は府内に、千里山・高槻・高槻ミューズ・堺・梅田キャンパスの5つのキャンバスを設置しています。今まで抱えていた課題の一つにどのキャンパスの学生にも同じ教育機会を提供することができないかということがありました。この課題に向き合うなか、新型コロナウィルス感染拡大の影響で学生のモビリティが制限され、思うように留学や実体験学習ができなくなる状況が生じました。しかし、本学では、全国に先駆けて2014年から進めてきた海外の大学生と一緒に学ぶオンライン協働学習「COIL(Collaborative Online International Learning)」のノウハウを生かし、オンライン留学プログラムへの対応等を迅速に行うことができました。オンライン協働学習「COIL」では、諸外国の大学教員やスタッフと互いに協力しあい、双方の学生チームが画面を通して相手国の学生とリアルタイムでディスカッションしたり、時差がある国とは録画を活用したりして交流や学びを深めあうといった、プロジェクト型の学習等を行っています。
本学ではその成果と経験をもとに、どこからでも臨場感と一体感をもって教育を受けることができる「GSC(Global Smart Classroom)」を各キャンパスに設置する構想を計画し、「取組②」として「越える・広がる・交り合う−関西大学グローバルスマートキャンパス構想−」を推進しています。本取組みを進めることにより、学生が自身の所属する学部に関係なく、所属キャンパス以外で開講される授業にも、バーチャルでありながら臨場感を失うことなく積極的に参加できる環境が実現します。GSCでは本学各キャンパスや海外の教育機関等をリアルタイムで結んで授業ができる上に、アバターを用いたVR型対話アプリや社交アプリを活用し、オンライン上で学生たちに声を掛けたり、各学生の授業への参加度合いを把握したり、今までのオンライン環境では難しかったことが実現します。さらに、話者の言語を自動翻訳し、字幕で表示するシステムも取り入れ、空間的・時間的隔たり、文化・言語の違いなどを問題としない、ボーダーレスでインクルーシブな学びの環境を提供します。また、個別学習スペース(GSC-Self Learning Space)を設置し、学生の時間割において対面授業とオンライン授業が混在しても大学内で両方の授業に対応できる環境を整備しています。