特集 学修者本位の教育の実現、学びの質の向上を目指した大学教育のDX構想(その2)
寺澤 武(桜美林大学 学長室)
本学は、東京都町田市を中心に、6キャンパス・6学群(他大学における学部)・1研究科を擁し、約1万人の学生が学ぶ、文系学部を中心とした私立大学です。
本学では、コロナ禍以前から、「デジタルを活用した学生のキャンパス体験の向上」を目標にDX推進の取組みを行ってきました。本稿では、本学における文部科学省「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」の概要を紹介させていただきます。
図1 本学における取組みの概念図
新型コロナウイルスの影響により、大学入学以降、一度もキャンパスで授業を受ける機会がなく、友人を作ることもできない、などといった学生の声も聞かれるようになりました。本学では、学生生活全般に対する満足度は、卒業生の人生における大学の生涯価値(Life Time Value)の向上へと繋がる重要な指標であると考えており、本取組みを通じて「学修」と「コミュニティ」という大学の役割のモデル化を目指しています。
主な取組み内容は以下のとおりです。
各部署で独自のフォーマットで保有していた学生データを一元化することを目的として、新たなEAIを導入し、入学時から卒業後までの学生データの一元化と分析を推し進めます。
在学生・卒業生へのアンケートを通じ、「桜美林大学生」がどのような価値観を有しているか、またどのような帰属意識を有しているか、という点を分析するとともに、(1)の結果と合わせ、学生の考え方、価値観といった定性的指標の分析結果に基づく、学生に寄り添った施策立案を進めていきます。
本学では、2019年度から、ビーコンシステムと連動した本学独自のスマートフォン用学修支援アプリ「OBICON」を導入し、出席管理、学修量の可視化に加え、位置情報と連動した学内施設の混雑状況確認等を行っています。
また、本学では様々な学内データを用いて、学生の翌学期のGPAを予測し、その成果を履修指導等に利用する試みを行ってきました。本取組みでは、OBICONを利用して得られる、自習用施設等の学内施設の利用状況のログも変数に組みこみ、学生のGPA予測の高精度化を図るとともに、成績不良者だけでなく、一見順調であっても、成績の低下の兆候が見られる学生の抽出と、先取り型の履修指導を行うことのできる体制を構築するとともに、ポートフォリオシステムの改修等を通じ、学生自身にもわかりやすく示すことを目指しています。
図2 独自アプリ「OBICON」の画面
将来的には、学生が卒業後も自律的に「目標設定―学修―振り返り」のサイクルを回し、「計画的・主体的に学び続ける姿勢」の修得に繋がるシステムの構築を目指します。
本学では、キャンパスの分散化と拠点化を推し進めてきたことで、学群の個性を尊重した教育研究活動を行うことができるようになってきたものの、一方で、長い間謳ってきた、「ホームライクスクール」、すなわち、家族のような学校、お互いの顔が見える小さなコミュニティという特徴が少し失われつつあります。加えて、新型コロナウイルスの影響により、学生同士の関係性が希薄化していることは否めません。そこで、オンキャンパスでの諸活動を補完するための、オンライン学生コミュニティツールを導入し、学修活動だけでない、様々なコミュニティへの参加を促すことを目指しています。
本取組みの申請にあたり、本学では学生にとっての“キャンパス体験”を、概括的に以下の2点に分類しました。
①カリキュラムを通じた専門性の獲得
②コミュニティでの人とのかかわりを通じた人間性の涵養
①については、大学は、もちろん高等教育機関として深く専門的な知識を学ぶ機会を設けることが、授業の形態、学校の設置者に関わらず普遍的に求められているものと思います。
②については、各大学の建学の精神や、校風といったものが大きく関係してくるものと思われます。本学は建学の理念として、「キリスト教精神に基づく国際人の育成」を掲げています。それは、創立者清水安三の開設当初からの「隣人に寄り添える心を持つ国際人を育てたい」という願いでもあります。新型コロナウイルスの影響が未だ落ち着かない昨今では、今まで以上に、隣人、すなわち同じ立場の学生や、教職員等とかかわる機会及び場の創出が大学に求められていると感じます。
先述の通り、学生生活全般に対する満足度は、卒業生の人生における大学の生涯価値の向上へと繋がる重要な指標と考えています。本学では、各種のデジタルツールや、様々なデータの分析を基にした施策を通じて、学生がオンライン・オフラインを問わず、大学の提供するコミュニティに参加する時間を増やしていきたいと考えています。学生が、大学の提供するコミュニティに参加する時間が増加するということは、教育・学生生活に満足しているということであり、本学の提供する「大学体験価値モデル」が魅力的であるということを表すとともに、本取組みを通じた大学改革の成果が十分なものだったという定量的な指標であるとも考えられます。
新型コロナウイルスは未だに猛威を振るっており、来年度以降の授業や学生生活がどのような形態となるかは想像がつきません。そんな中でも、学生が「桜美林大学で学ぶことができてよかった」と言える学修環境並びにコミュニティの構築と改善に向けて、引き続き今回の成果を基盤として取り組んでいきたいと思います。
様々な調査に協力いただいた本学の在学生・卒業生の皆様、本事業の推進にご尽力いただいている関係者の皆様に、この場を借りて御礼を申し上げたいと思います。