事業活動報告 4
令和3年9月9日(木)にオンラインテレビ会議形式により、配信会場のアルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)から、「短期大学生による地域貢献活動を考える」をテーマに開催し、7短期大学4大学、2自治体、1民間団体の総勢54名が参集した。
本会議の開催趣旨は、教育研究を通じて短期大学と自治体等が協働する地域貢献支援活動の効果的な在り方を探求するため、私立の参加短期大学間で試行している支援事業の取組みを踏まえ、支援事業のニーズ及び教育効果、運営上の課題を共有し、推進の可能性等について協議するとともに、遠隔授業の体験を振り返り、学生の満足度を高める教育の工夫・改善について、理解の促進を目指している。以下にプログラムに沿って詳細を報告する。
武庫川女子大学教授、教務部次長、遠隔授業 推進特別チーム代表
蓬田 健太郎 氏
2020年8月の調査によると、遠隔授業で必要とされる支援は、課題の増加を受けて「レポートの書き方」65%、「パソコン操作のサポート」33.6%であった。また、学生が受けやすい授業形態は、時間と場所の制約がなく繰り返し学習ができる「オンデマンド型授業」48.5%、「対面授業」32.7%、「ライブ配信型授業」10.8%などであった。
コロナ禍による新たな課題としては、新学部学科の開設による短期大学から大学へのシフトの加速、大学での地域連携強化による短期大学教育の特色が目立たなくなることなどにより、短期大学離れが進むという大きな問題がある。また、コロナが長引いており、地域や学生同士のコミュニケーションを如何に確保すべきか苦慮しているが、大学、短期大学のDX化を進めなければいけない。具体的には、2021年度よりeラーニングシステムを利用したオンデマンドによる「データサイエンス・AI教育」の全学必修科目の開始、ペーパレス化による新入生Welcomeサイトの構築、入学手続きのWeb化の促進、LINEのFAQシステムによる自動回答、学友会活動のリアルタイム配信によるオンライン化を進めている。
今後の展望としては、遠隔授業による入学前・入学後のリメディアル教育の充実、教育の質を担保した遠隔教育の活用、遠隔手法を活した正課外教育の充実、DXを促進するために縦割りから横断型組織への再構築を目指した準備を進めている。
発表者:
2020年度に「短期大学による地域貢献支援事業コンソーシアム」が発足し、その一つとして「高齢者との交流を促進し、課題解決策を導き出す支援事業」の試行に両短期大学が参加することになり、協働事業がスタートした。
2020年度は、前期も後期も火曜日の昼休み12時半から20分間実施した。両学期とも実践と山野の学生同士の交流が2回、異世代者との交流が3回、合わせて5回実施した。活動方法はZoomのブレイクアウトルームに分かれ、3人から5人で話すというもので、ミニプレゼンテーションを学生、高齢者が行った後で、交流する形になっていた。異世代者のICTの利用は、両校の教職員がサポートした。コロナ禍の副産物として学生がオンライン授業でZoomに習熟していたため、学生の多くは自宅からこの活動に参加することができた。学生たちは他の短期大学の学生と話せるという喜びと、異世代者との交流により、コミュニケーションやプレゼンテーションのスキル、社会人基礎力が向上していることが確認された。その時の課題として、テーマ選びの難しさ、機器の操作に不慣れな異世代者のサポート体制の維持があった。そうした中、シニア向けに生涯学習の機会を提供しているNPO法人BABA labを新聞記事で知り、協力を打診した。この団体の高齢者はICTに精通し、YouTubeで動画を数多く発信していた。
2021年度は、学生も異世代者も参加人数が増えた一方、昼休みの活動時間が両校のスケジュール変更で15分となった。ブレイクアウトルームを15部屋用意して、1部屋に学生2〜3名に異世代者1〜3名で実施した。時間が短くなった分、すぐに話題が盛り上がるようテーマをあらかじめ用意して準備させた。例えば、学生同士の場合は「自分がはまっているもの」、異世代者との交流では、学生が「小さいころから大好きな料理メニュー」、異世代者は「若い友達ができたら、一緒にどこに行って何をしたいか」というテーマで1分間プレゼンをした後、交流を行った。
活動の前後に行った調査では、学生は初対面の人とでも恥ずかしがらずに話せるようになりたいという希望が多く、実際に「会話力を向上させる」が一番伸びていた。また、最初は期待していなかったが、「メンバー間のチームワーク」も大きく伸びていた。これは異世代者と話す際に、学生同士で協力して何とか会話を続けようと努めた結果のようであった。異世代者の参加動機は「家族や知り合いに頼まれたから」の他に「機器やアプリの使い方を覚えたい」、「自分が話すことで若い人にも役立つことがあるかもしれない」といったものが多かった。
活動後の振り返りのインタビュー映像では、異世代者がこの活動を若者が社会に出た後に役立つ有意義な活動としていることが紹介された。さらに、教職員・自治体職員からは、地域・企業・社会が学び合いの「場」を作ることが、大事であることが確認された。
課題としては、プレゼンや司会の事前練習の必要性を確認した。成果としては、プレゼン・コミュニケーションスキルの獲得、異世代から多くの学び・気づきを得た。例えば、コミュニケーションが苦手な学生を高齢者が励ましており、一方通行の貢献ではなく双方で得る活動になっていた。
高齢者との交流活動を続けていくには、一つの短期大学で完結するのではなく、複数の教育機関と異世代組織、自治体が連携することで、可能性がより一層広がっていくことを感じた。今後も大学間・異世代者間・自治体や民間団体の連携を強化し、SDGsの「パートナーシップで目標を達成しよう」の実現を目指していきたい。
最後にNPO法人BABA lab代表の桑原静氏の話として、若い世代とシニアはコミュニケーション不足から分断が進みつつあるが、今回参加したシニアから、若者と共通の話題で話せて楽しかったこと、この活動を通して自分たちにも貢献できることがあると感じたことについての報告があった。
発表者:
大阪夕陽丘学園短期大学は、志摩市と「文化・教育・学術・まちづくり等の分野の推進に関する連携協定」を行い、真珠の魅力をPRするため、キャリア創造学科の学生、教職員が参加し、志摩スペイン村でアコヤ真珠をアクセサリーにしたオリジナルファッションショー、真珠製作体験、ネイル体験などを企画・演出する「パールズコレクション」2020年2月に実施し、遠隔でショーの様子を大阪天神橋筋商店街にパブリックビューイングで同時中継した。
2021年2月の「パールズコレクション」では、ファッションショーに加えて、SDGsの企画として再使用生地の無償提供による「シルバニアファミリー人形」の着せ替えなどの準備をしていたが、急遽、コロナ感染症の拡大による緊急事態宣言が延長され中止となった。なお、パールズコレクション以外では、志摩市市民講座において、志摩市オリジナルマスクの製作行い、高い評価を得た。現在、2022年大阪開催のパールズコレクションに向けて学生主体の企画チームを結成し、市民講座の継続開催、地産地消のアオサ海苔の佃煮イベントのPRなどの準備を始めている。コンソーシアム連携体制の展望としては、プラットフォームの構築、海苔を入れた地産地消のイノベーションとSDGs、フレームワークとしての利用が考えられるとの報告があった。
続いて、志摩市役所水産課の担当者から、海水温上昇で真珠水揚げ量の減少、コロナ禍による観光客の減少等も重なり、真珠業界は非常に厳しい。真珠の素晴らしさを、県内外に広く発信する事業を進めているが、志摩市内に短期大学や大学がなく、若い人材の視点や考えが不足している。そこで、若い方々に英虞湾のアコヤ真珠を知っていただき、その活用方法を考えていただくことがPR効果があると考え、大阪夕陽丘学園短期大学と連携し、若い人材やノウハウを提供いただくことに、非常に大きな期待をしていることが紹介された。
続いて、別府大学短期大学部食物栄養科から、2020年度に三つの事業を実施した取組みが報告された。一つは津久見市観光協会、地元企業などが協力し、津久見産の海産物と米こうじを使った発酵調味料「ととのみそ」を開発し、2021年度中に商品化までこぎつけたいとしている。二つは、大分の新聞社と協力し郷土料理の伝承を目的とした郷土料理のレシピを学生が作成し、YouTube上で公開した。三つは、県下の高校と連携し、郷土料理の減塩レシピをメールとZoomで打ち合わせを行い、コンテストに応募した。新聞社から、改めて大分県の価値を発見できたという反応があった。今後の展望としては、学生のアイディアを生かし、県下の自治体・企業等と協力し、新しい地域価値として、物品や食品などを作成すること、他地域の短期大学・大学とも交流を拡大しながら、学生同士、教員同士の情報交換でさらに新しい価値の発見に結び付けていきたい。
続いて、和泉短期大学児童福祉学科からの取組みが報告された。2020年度新型コロナウイルスに翻弄され、「子育てひろば」など地域の親子を招いての活動ができなかった。児童虐待防止運動への参加は、毎年オレンジリボン2千個作成し相模原市に届けていたが、去年は千個に減らし、街頭での配布活動も行うことができなかった。今後の展望としては、他大学の知見を取り入れ、地域の課題解決に、学生のアイディア活かして取組む方策を考えていきたい。
発表者:
※ コンソーシアムにおけるWebサイトの紹介と提案
※ プラットフォームの現状
1.コンソーシアムにおけるWebサイトの紹介と提案
志學館大学の大重運営委員から、コンソーシアムにおけるWebサイトの紹介について、次のような報告が行われた。複数の短期大学と自治体等関係機関が参加し、教育を通じて地域貢献支援事業を推進するため、関係者間の情報共有を目的にWebサイトを構築した。今回のWebサイトで取り上げた私立短期大学は、文部科学省「令和2年度私立大学開革総合支円事業(タイプ3)」に採択された短期大学からの抜粋で、13校のホームページから地域貢献等に関わる部分のURLを列挙した。連携する短期大学各校や地方公共団体、企業とで形成するプラットフォームで、共有するデータをアップロードして閲覧することができるようになっている。掲載する情報のタイトルも、自由につけることができ、活動情報をコンソーシアムのメンバーと共有することができる。また、すでに公開している情報のURLなどをプラットフォームに載せれば、コンソーシアムのメンバーがプラットフォーム経由で参照することができる。さらに、他の短期大学の活動を参照して、活動の参考とする、あるいは直接コミュニケーションを行い、活動の連携を実現することもできる。
今後の地域課題への取組みの活性化、場合によっては短期大学の連携の糸口として、コンソーシアムに参加いただき、プラットフォームを活用いただくことを提案する。
2.プラットフォームの現状
清和大学の西岡運営委員から、プラットフォームの現状について、次のような報告が行われた。
プラットフォームは、各短期大学の地域課題の解決に向けた取組みの共有、支援事業の内容・成果、教育活動のノウハウ・評価等の掲載を通じて地域貢献支援への理解促進と推進普及を目指している。Webツールは「Google Classroom」を使用している。特徴としては、動画・音声付レポートなどを容易に登録・整理でき、登録情報は会員間の中で容易に参照できる。また、公開する情報の総量に制限がなく、登録した情報のセキュリティは確保されており、会員短期大学ではサーバなど設備の準備が不要で、一切お金がかからない。私立大学情報教育協会(以下「私情協」と言う)から非営利団体向けのアカウントとが提供されており、会員(無償)になれば簡単にClassroomにアクセスすることができる。
各短期大学は、地域貢献活動の作業過程で発生するインタビューの生情報、学生のレポート・論文などを管理する作業環境は個別に用意する必要があるが、公開可能な活動結果(レポート、論文、資料)はコンソーシアムのプラットフォームであるClassroomに登録・保存・公開することができる。これらの情報は参加する各短期大学が自由に閲覧し、共有することができる。また、プラットフォームに会員のアカウントを作成するなどの管理は私情協が行い、利用マニュアルの整備などの運用支援は、「域課題取組み情報共有の支援事業」が活動の一環として担当している。
コンソーシアムに参加する短期大学は、メンバーごとに私情協が発行するアカウントを使ってGoogle Chromeにログインし、サービスのメニューからClassroomを選択して容易にプラットフォームの画面を表示することができる。各短期大学は活動ごと、事業ごとに、Classroomの情報の分類項目である「クラス」を新設することができ、クラスの情報項目(トピック)に、公開できる活動の状況や成果を任意のファイル形式で複数登録することができる。「地域課題取組み情報共有の支援事業」がクラス名となり、「私立短期大学による地域貢献・地域課題取組事例紹」がトピックにあたる。トピックには複数の記事を登録できるが、登録例では、トピックと同名の記事1個で構成される。このように、プラットフォームでは活動の成果などの公開情報を無償で、分かりやすく、簡便に登録でき、他の短期大学からの参照も容易に行うことができる。
はじめに戸高運営委員長から、「教室で学んだことを、社会の実践の場で他の大学生とともに地域課題への解決策を提案するチャレンジが極めて大事になる。それには、インタネットを最大限に活用して、思考をめぐらし、社会実践につなげていく訓練が必要になる。授業や課外活動レベルでできるところから、他の大学・短期大学と知見を共有し、地域貢献活動を効果的に進められるよう、問題提起を踏まえて短期大学間による地域貢献支援事業のコンソーシアム活動を考えることにした」との全体討議の趣旨について説明があった。続いて、2つの問題提起が行われた。
「問題提起1」として、大重委員から「短期大学間による地域貢献支援事業のコンソーシアム活動プラットフォーム活用への課題・対応策」について、「2040年に向けた高等教育のグランドデザイン答申」に具体的な地域連携プラットフォーム(仮称)の考え方が出ている。令和2年には「地域連携プラットフォーム構築に関するガイドライン」において、大学は地域社会に対してどのような貢献ができるのか、地域社会は大学の教育研究機能に何を求めているのか、恒常的な議論の場を設けることを認識した上で、コンソーシアム活動におけるプラットフォーム活用への課題・対応策が次のように提起された。
①プラットフォームは、単位化された授業科目又は課外活動等、共通的な目標・方針を確認しておくことが大事である。②その運営に当たっては、セキュリティ等のシステム管理、情報メンテナンス等が必要だが、私情協のプラットフォームシステムで対応できる。コンソーシアムの維持費用等の課題が出てくる。対応としては、共通的な負担経費の分担、地域創生推進交付金等補助金の活用、関係事業者からの経費支援、クラウドファンディングを利用する等の選択が考えられる。③コロナ禍での地域連携活動をどのように考えていくべきかが課題である。不特定多数の接触を避けるため、ICTを駆使したリモート環境が必須である。正課外の地域貢献活動にも私情協のプラットフォームを活用いただきたい。④地方公共団体との連携の内容・方法をどのように考えるべきかについては、私情協のサポートを得て、地域課題の共有と支援活動のノウハウを共有し、短期大学の教科に役立てる。⑤コンソーシアムへの参加短期大学は、プラットフォームに蓄積される地域課題解決のプロセスをPBL等の教育上のロールモデルに是非活用してもらいたい。
「問題提起2」として、日野市役所の中平氏から「自治体から見た短期大学又は短期大学間との連携協力の有用性と推進方策」について、日野市は「生活課題産業化」として、住民・企業・大学等と行政が対話を通じて社会課題の解決とイノベーションの創出に取組んでおり、社会的な学びを共有する場としての「リビングラボ」で住民・企業・大学・学生も社会実証に参加している。また、内閣府の「SDGs未来都市」に選定され、地元の高校とのSDGsをテーマにした探求学習を推進したところ、リビングラボの出会いをきっかけに触発され、大人の姿勢に変化が生じてきている。短期大学には、より社会に近い視点、短い期間での効果的な学習という面で、SDGs、リビングラボ、ソーシャルラーニングにおいてニーズがあるので連携に大いに期待している。
以上の問題提起を踏まえて、意見交換した。
① 地域貢献活動に対する短期大学教育としての有用性について、参加者から意見がなかったが、戸高委員長から、「教育プログラムが過重のため、全員の訓練には限界がある。希望学生を対象に、課外活動の一環として学生の興味・関心の高いテーマをとりあげ、自分達の問題として捉えて行動を起こせる仕掛けがあるのではないか。例えば、Instagramなどの映像やデザイン等を用いた地域価値の発見、高齢者の生きがいを高める体験談の紹介など、短期大学生特有の支援が発揮できると思う。」との発言があった。
② 地域貢献支援事業の教育上の位置づけについて、単位化した授業の実施が理想と思うが、学内の合意形成、支援体制の準備に時間がかかり、費用負担等の問題が生じるので、できるところから試行し、希望学生による課外活動を実施する考えに、意思表示を求めたところ、参加者の3分の2から賛同を得た。
③ 参加校の存在意義を高め合う私情協のプラットフォームを活用して行動を起こす考えに、意思表示を求めたところ、3分の2から賛同を得た。
④ 自治体等と連携を進める上で考えておくべき課題について、特に配慮すべきは、自分たちの幸せと社会の幸せを追求しながら問題提起し、課題解決に向けた支援事業を考えることが大事とする考えに、意思表示を求めたところ、4割から賛同を得た。
⑤ コンソーシアムで解決策を発信、情報共有するプラットフォームの維持管理費の負担について、自治体等の財源(地域創生推進交付金等)の活用、クラウドファンディングを中心として不足分を参加短期大学間での分担などがあるが、地域貢献支援事業の公共性に鑑み、自治体の財源を積極的に確保することを基本とする考えに、意思表示を求めたところ、3分の2から賛同を得た。
その上で、委員から、公的補助を検討する過程で地域課題を見直す機会となる。短期大学間、教員同士の連携強化が自治体との様々な交渉で、非常に重要な要素になるとのコメントがあった。
続いて、戸高委員長から、地域の役に立ちたいという短期大学生の純真な心に訴えて、個人と社会全体の幸せを考えるウェルビーイングの価値観の醸成、地域価値掘り起こしの魅力を、参加校が共有し、連携を強化できればと考えているとの総括が行われ、終了した。