特集 オンライン授業の学修評価と試験方法
ニューノーマルな教育として、対面と遠隔を組み合わせたハイブリッド型授業が模索され、普及しつつあります。全て対面で授業しなくても、遠隔・オンライン授業を効果的に導入することで、学修効果の向上が見られるようになり、学修者一人ひとりの能力の伸長が期待できるようになってきました。
学修者本位の教育の実現と学びの質向上に向けて教育のDXが後戻りすることのないよう、授業改善の研究が進められていますが、他方、学びの質保証の観点から、遠隔・オンライン授業による学修評価の方法と測定の方法について、教員一人ひとりが授業形態に応じて評価の客観性を限りなく確保する中で、適切な学修評価を行えることが望まれます。
そのような観点から、オンライン授業の学修評価とその試験方法の在り方について考える場としました。
山田 剛史(関西大学 教育推進部教授)
コロナ禍も3年目に入り、オンライン授業に関する試行錯誤から、私たち大学人は多くの学びや気づき、実践上のスキルを得ることとなりました。オンライン授業のために、相当の時間をかけて教材制作や動画制作などの準備を行い、オンライン会議ツールや大学独自のLMS、汎用的なICTツールなどを駆使しながら、授業に臨んできました。各大学では、オンライン授業に関する各種調査や教学データの分析も行われ、そのメリットやデメリットなどが議論されてきました。オンライン授業の利点を集約すると、「時間的・物理的制約を超えて受講でき、自分のペースで学習できる」ところにあります。
一方、自分のペースで学習するためには、対面時以上に学びに対するモチベーションの喚起・維持が必要になります。若い学習者にとって、誘惑の多い自由度の高い環境で、独力で自主的に学びに向かい続けることは容易ではありません。教員も学生の理解度が把握しづらくなるため、あの手この手で学生の学習状況を把握し、学習成果を高めようとします。その方策の1つとして、対面時以上に多くの課題を課すこととなります。その結果、「学生が勉強するようになった」という声も聞きますが、ベネッセ教育総合研究所が2021年12月に行った「第4回大学生の学習・生活実態調査」によると、学生の授業外学習時間はコロナ禍以前と比べてほとんど増えていないという結果も出ています。
このたびのコロナ禍の経験、とりわけオンライン授業の意義や可能性をどう捉え、これからの大学教育にいかすことができるでしょうか。様々な観点がありますが、「授業をどう提供するか」といった点については、リアルタイムやオンデマンドなど提供方式によって使用ツールの違いはありますが、使っていれば慣れていきます。自分のやりやすいスタイルも見えてきます。対面と比べて、できることとできないこと、やりやすいこととやりにくいことの違いはありますが、授業(主に知識)を提供すること自体にそう大きな変化はないように感じます(当然、実験・実習・実技などは大きく異なります)。
他方、大学人を最も悩ませたのが学習評価だと言えます。授業の締め括りとして、教員は学生の学習活動・成果について評価を行い、成績をつける(単位を付与する)という営みを行います。多くの場合、知識の多寡を問うための客観テストや、知識理解の深さを見るための論述テストといった方法を採用し、教員による監督の下、教室内で一斉に実施し、その結果をもとに評価を行います。コロナ禍でこれができなくなったのです。実施自体は可能ですが、学生の状況が見えないため、不正行為を検出することが困難になりました。オンライン試験において不正行為を行うことを防ぐためのツールやルール、操作上の工夫なども様々出てきていますが、本稿ではそうしたアプローチとは異なる視点から、オンライン授業による学習評価の可能性について探究していきたいと思います[1]。
まずは、前提となる学習評価の考え方について共有しておきたいと思います。学習評価とは、「学習実態を把握し、適切なフィードバックを行い、学習活動の成果を学習目標に照らして判断する営み」を指します[2]。ここには、実態把握、フィードバック、判断という3つの機能が内包されています。そして、学習評価には、診断的評価(授業開始前・開始時に行う評価)、形成的評価(授業の途中段階で行う評価)、総括的評価(授業終了時・終了後に行う評価)の3つのタイミングで行う評価が含まれます。学習評価とは、上記3つの機能と3つのタイミングとを組み合わせながら、学生が授業の最初から最後まで離脱することなく、主体的に学びの過程に関与(エンゲージメント)し、期待される学習成果を獲得することを実現するために行うものです。授業の最後に試験やレポートで成績をつけるという営みは、一部の「実態把握」に基づき「判断する」(「総括的評価」)という組み合わせになります。これ自体はもちろん重要なのですが、学習評価本来の目的からすれば、一側面でしかありません。私たち大学人が重視すべきは、学生の関心を「単位が取れたか否か」(結果)から「主体的に学びに関与できたか否か」(過程)へと向けられるか否かだと考えます。当然、この過程は結果にも繋がります。結果のみを重視する評価のあり方は、学生の主体的な学びを奪いかねない(教員による評価が学生の学びを大きく左右する)という点を押さえておくことが重要だと考えます。
上記の前提に立つと、重要な問いは「いかに学習者が主体的に学びの過程に関与するか」であり、その実現のためにはどのような学習評価が効果的なのか、そして、この営みをオンライン授業においてどう実践するのか(できうるのか)について検討することが求められます。
ここで少しデータを見てみたいと思います。筆者の所属する関西大学(以降、本学)ではコロナ禍に入って以降、半期に一度全学学生調査を実施してきました。これまで計4回実施し、その結果については本学教学IRプロジェクトのHPに掲載しています。毎回の調査では、その時期に最も必要と思われる項目を吟味・精選し、授業の実施方針等に繋げてきました。本学では、2020年春学期は遠隔授業、秋学期は対面授業、2021年春学期は対面授業を原則としつつ、実際には緊急事態宣言などもあり、遠隔授業と対面授業を行ったり来たりしながら授業が実施されました。このような中、遠隔授業と対面授業双方を経験してきた学生を対象に、学習意欲や学習効果を高める方法は何かという質問に対して得られた結果が図1の通りです。いわゆるアクティブラーニングに相当する取組みの中でも、特に高い値を示したのが「質問に対する教員からのフィードバック」(78.1%)と「ふりかえりや課題に対する教員からのフィードバック」(77.2%)の2項目でした。先の学習評価の定義においても、フィードバックは含まれていましたが、改めて学生にとって教員からのフィードバックの多寡が学びの質を高める上で重要だということが示されました。
2021年春学期の調査(図1)では、遠隔か対面かの別による検討は行っていませんでしたが、2021年秋学期の調査では少し踏み込んだ検討を行いました。この調査では、遠隔授業と対面授業それぞれの履修科目数を聞いており、両者から対面割合を抽出しました。その対面割合とフィードバックの経験頻度が学生の学びの充実度にどのような影響を及ぼすのかを検討したのが図2になります[3]。
図1 学習意欲や学習効果を高めるための方法
結果を見ると、対面割合が高いほど学びの充実度は高いという点に加えて、遠隔・対面の形態に関わらず、フィードバックの経験(の多さ)が学びの充実度(の高さ)につながるということが示されました。どのような授業形態を取るにせよ、学生から寄せられた質問や学生から提出されたアウトプット(課題や振り返り等)に対してフィードバックを行うことが、学生の学びの質の向上にとって重要であるということを示唆しています。先に、コロナ禍に入り、課題を出す教員が多くなったと書きましたが、学生が提出してきた課題等に対してどの程度、どのようにフィードバックを行ってきているでしょうか。学生は自分が行った学びの成果(ミニテストやミニッツペーパー、小論文、プレゼンテーションなど)に対して、それがどうだったのか、合っていたのか間違っていたのか、きちんと書けていたか、そもそもどう書けばいいのか、他の学生はどうだったのかなどの不安を抱えています。その不安が解消されないと、課題に取り組む意欲が低下し(学習性無力感が生じ)、とりあえず何か書いて出すという消極的な学びへと移行します。複数の科目で同様のことが重なると、学ぶこと自体への意欲が低下していきます。学生たちはこのことを日々経験していて、その結果が図1や図2のフィードバックの重要性に現れているのだと推察されます。
図2 フィードバック経験と対面割合による学びの充実度の差異
ここまで読んでいただく中で、様々な疑問や考えが湧いてきていると思います。例えば、「Q1.フィードバックが大事ということは分かったけど、どうすればいいのか」、「Q2.大規模科目(例えば150名以上)でそんなことができるのか」、「Q3.たとえできたとしても、負担が大きすぎる(多くの科目を担当しており、そこまでできない)」といったことが挙げられます。これまで、学習評価に関する講演・研修を多く経験してきましたが、多くの教員からこのような声を聞いてきました。まずこの疑問に対して簡潔に答えたいと思います。
Q1.フィードバックが大事ということは分かったけど、どうすればいいのか
正解のある課題であれば、次週冒頭に解答・解説をする、LMS上で予めセットしておいて学生が解答後に自分で確認するといった方法があります。
ミニッツペーパー等の場合、最も効果が高いのは個別に書き込んでのフィードバックかと思いますが、負荷も高く現実的ではありません。いくつかのコメントを拾って、次週冒頭に紹介する。その際、何故このコメントを取り上げたのか(内容面・書き方等)、コメントから何を考えて欲しいのかを伝えると効果的です。授業内容を補完したり視野を広げたり、授業で扱うトピックに絡めたりしていくと良質なフィードバックとなります。LMSの掲示板機能等を使うことで効率的に行うことも可能です。
Q2.大規模科目(例えば150名以上)でそんなことができるのか
可能です。ただし、それだけ多いと一人ひとりの内容を精読していてはきりがありません。ざっと見て、目についたものを拾うのでも十分だと思いますし、それもなかなか大変ということであれば、質問欄を設けておき、次週冒頭でその中のいくつかにリプライするというのでも良いかと思います。いずれにせよ、学生に「先生は見てくれていないんじゃないか」と思わせないことが大事です。ICTを活用することで振り返りを効果的に実施し(印刷・配布・回収なし)、効率的に情報を集約し(ソート等)、簡便に活用する(コピペ等)ことができます。
Q3.たとえできたとしても、負担が大きすぎる(多くの科目を担当しており、そこまでできない)
負担という意味では、やらないのが一番楽なわけですが、学生の学びの質向上のためには、どうすれば負担を軽減しつつ持続的に実施できるか、を考えていくことが肝要です。1つは、そもそも全ての科目で、毎回課すことはしないという考え方です。課すだけであればいくらでもできますが、フィードバックまで組み込むことを前提として、学生に課す頻度やボリュームをコントロールするということが大切です。いま1つは、ICTを活用するということです。活用した方がいいというより、活用しないといけないくらいだと思っています。
最後に、共通して言えることは、評価を厳密にしようとしすぎないこと、完璧にしようとしすぎないこと、絶対視しないことだと考えます。評価が自己目的化し、学生の学習活動・内容が軽視されては元も子もありません。常に問い続けるべきは、「学習者が主体的に学びの過程に関与できているか」であって、評価はそのための潤滑油であるということです。
ここからは筆者の実践例、特に、毎回の授業後の振り返りとそれに対するフィードバックを中心に取り上げたいと思います。ここで紹介する取組みは、遠隔・対面に関わらず、基本どの授業でも実践していますが、遠隔・対面が混在していた2021年度(春学期・秋学期)の授業を例に取り上げます。
授業の振り返りを入力するためのフォームを予め用意し(筆者は「REAS」というフリーのツールを使っています)、授業の配布資料にURLとQRコードを掲載しておきます。学生は授業終了後から3日後の23時59分までにアクセスして、振り返りを入力します。振り返りは、授業の「感想」と「質問」が基本です。2022年度からは、この2つに加えて、興味を持てたか、主体的に参加したか、深く考えられたかに関する質問(いずれも4件法)と、振り返りに要した時間についても聞いています。回答期限後、データをダウンロードし、学籍番号順にソートし、学生名簿(Excelシート)にマージします。
データセットが整ったら、全体に目を通して、フィードバックシート(“TsuyoTube”と命名)を作成します。構成は、特に共有するに値すると思われる感想(ベスト・コメント)を3つ、面白い視点だと思われる感想(グッド・コメント)をいくつか、質問の3点です。それぞれに対して簡単なリプライを付けますが、紙面に限りがあること、次回授業時に口頭でフィードバックすることから、シンプルにしています。これらを含めてA4で2ページに収めるようにしています(図3)。データの取り込みから内容の読み込み、シートの作成、LMSへのアップロードまで、1回の授業に対して90分〜120分以内に収まるように意識しています。
図3 フィードバックシート(“TsuyoTube”)の構成とポイント
当該資料は次回授業冒頭でフィードバックします。コメントを紹介しながら、興味深かったところやその理由など内容に関するリプライに加え、良い書き方や思考の深め方・広げ方、他の知識や経験との関連づけ方など書き方・深め方に関するリプライも行います。また、学生のコメントを受けてみんながどう考えるか問いかけを行ったり、ディスカッションをしてもらったり、簡単なアンケートを取ってみたりと、対話的な学びとしても活用します。授業の復習や補足説明、今回の授業への導入といった要素があるものの、全体の時間の関係上、できる限り30分以内に収まるように意識しています。
フィードバックに30分も使うのか、と思われる先生も少なくないかもしれませんが、大事なことは学生の学びの質が向上することです。筆者の場合、基本どのような授業でも、学校から社会への移行(トランジション)という文脈の中で、学びと経験の往還・接続や、主体的な学びと自己形成の深化を促し、思考力や表現力といった力を涵養することを重視しています。そのため、授業全体において、この振り返りは重要な営みとして位置づけています。
実際にこの振り返りとフィードバックの効果の一部について見ていきます。ここでは2021年度に開講された種類の異なる2つの科目を取り上げます。1つは3年生以上対象の教職科目(春学期)、もう1つは1年生対象の共通教養科目(少人数PBL)(秋学期)です。前者は第3回〜第10回がオンライン、後者は第1回〜第3回がオンラインで実施となりました。前者は雰囲気ができる前にオンラインに入り、授業の半分以上がオンラインとなりました。後者は初年次生にとって特に重要な初回から3回目までがオンラインとなりました。こうした状況下で、上述した振り返りとフィードバックを実施してきましたが、オンライン授業下であっても総文字数や一人あたりの文字数は増加あるいはそれなりの水準で推移する結果となりました(図4)。量的な文字数の増加と内容の質の高さは関連しており、学生はオンライン下であっても、モチベーションを下げることなく、学びに向かっていたことがうかがえます。
図4 授業後の振り返りに関する文字数の推移
次に、フィードバックツールTsuyoTubeについて、学生からのコメントを取り上げます。特段、TsuyoTubeについて書いてもらうよう指示をしていたわけではないこともあり、通常の振り返りの中で学生が書いてくれたコメントの抜粋となります。
以上は一例ですが、他にも「匿名かつその問題について皆で意見を出し合えるtsuyotubeは一つのコミュニケーションツールとして素晴らしいものだなと感じました」、「授業の感想や質問のフィードバックの時間は、復習ができて、コミュニケーションもとれるためやはりどの授業でも行うべきだと思います」など多数のコメントが寄せられており、学生の学びと成長に寄与していることが窺えます。
また、TsuyoTubeで取り上げたコメントに対してさらに他の学生からコメントが来て、それをまた授業で紹介してといった形で展開することもしばしばあります。このツールを介して間接的に学生同士が繋がり、お互いの学びと成長を促し合っていますし、それが遠隔であれ対面であれ授業の中でのディスカッションやグループワークなどの場面でも直接的に影響を及ぼし合っています。
蛇足ですが、フィードバックはオンライン(リアルタイム配信型)でラジオのDJ風にやっていた時の方が、対面時よりも聞きやすかったという感想も多数あって、これは新しい発見でした。
最後に、授業形態に関わらず、学生の学びと成長を成功に導くための学習評価の1つとして、振り返りとフィードバックの重要性を痛感しました。
参考文献及び関連URL | |
[1] | 山田剛史 (2021).「ニューノーマルの学習評価をどう考え,実践するか」『大学教育と情報』2021年度No.1, 16-18. |
[2] | 山田剛史 (2018).「学習評価の意義と課題を理解する」中島英博編『学習評価』玉川大学出版部, pp.2-9. |
[3] | 山田剛史・矢田尚也 (2022).「コロナ禍における授業・学生生活に関するレポート」関西大学教学IRプロジェクト, 1-4. (https://www.kansai-u.ac.jp/ir/ir_corona_report.pdf) |