特集 オンライン授業の学修評価と試験方法

LMS依存の試験とアンケートフォーム型試験への挑戦

小川  健(専修大学 経済学部准教授)

1.はじめに

 コロナ禍で遠隔化を余儀なくされたものは講義だけではありません。対面筆記試験も中止を余儀なくされ、レポート評価やオンラインテストに移りました。この背景にはオンラインテストの機能を兼ね備えたLMS(Learning Management System)の各大学への普及と、LMSに依らないオンラインテストを実現する(Google FormsやMicrosoft Forms等の)アンケートフォーム型試験の普及がありました。また、遠隔の記述式試験の中には文章を打ち込む形式の他にも数学答案など紙面に答案を書き、スキャンやスマホ写真でデータを送信させる場合もあります。
 ところで、試験会場に集めてコンピュータを使って試験を実施するCBT(Computer Based Test)とは異なり、コロナ禍で求められたオンラインテストは自宅や自宅近くのWi-Fiが繋がる店舗らからの受験も許容した遠隔試験でした。但し、ネット環境の問題もあり、大学での用意された講義室での受験や、大学には来ても用意された講義室以外での受験も後に認められ、自宅にネット環境が充分に備わっていない受講生は大学に来て受験する形になりました。
 受験する環境にも大きな想定の変化が出て来ました。当初会場でのCBTではネット環境に制限の付いたPCでの受験で、その監視のために持ち込み制限をかけ、コンピュータを利用しての受験とは言えできるだけ同じ環境の媒体で充分に監視ができる体制を前提とした試験となっていました。しかし、CBTには導入費用が高く付き、会場に人を集めるのも緊急事態宣言等では難しい場合もありました。そこでコロナ禍での遠隔試験では自宅での受験が中心で、特に設定しなければ監視体制も十分とは言えないものとなります。そのため、十分な能力の確認をオンラインテストで行うための方策が求められます。他にも、コロナ禍は急にやってきたこともあり、PCの中でもOS(基本ソフト)はWindows、MacOS、ChromeOSと様々あり、他にもタブレットやスマホ(iPhoneやAndroid)等で受験する例もあります。特に、スマホネイティブ世代からするとスマホは10年近く慣れ親しんできた媒体であり、PCが使い易い媒体とは必ずしもなっていない中、特に指示しないとスマホでの受験の可能性も充分考えられます。
 本稿では、スマホはほぼ有している前提で、自宅等での受験の可能性も考えての遠隔試験の監視と、監視以外の能力担保の方策について考察します。
 初めに、答案を準備しての遠隔試験とそのビデオ会議による監視、データ提出について扱います。全ての受講生が同じ環境ではない、自宅受験と端末室受験とが混在するハイブリッド環境の中でできるだけ公平性を確保することを目標にした取組みの事例とその課題・問題点等について取り上げます。この取組みはLMSでのオンラインテストを実施する上で、そのオンラインテストに必ずしも監視機能がない中での実施や、LMSを利用したデータ提出等を想定した遠隔試験にも応用されます。
 次に、システムを利用した監視の1つとして、アンケートフォーム型試験の1つであるGoogle Formsに付けるタイマー機能アドオンであるQuilgoの監視機能を利用した監視体制を取り上げます。Quilgoではカメラ機能を利用したスナップショットによる顔監視と、スナップショットによる画面監視の2種類があります。この実施事例とその課題も取り上げます。
 LMS依存型の試験にはmoodleのように多くの大学で利用されているLMSもありますが、全てではありません。対してGoogle FormsやMicrosoft Forms等のアンケートフォーム型試験については、内部アカウント制限やファイル提出を諦める場合は、個人のアカウントでも作成・実施できる特性があり、導入したLMSによらずに遠隔試験を行えます。加えて多くの大学でメールアカウントをGoogle系やMicrosoft系にしているため、多くの大学で本人確認の内部アカウント制限をかけ易くなっています。
 今回は本学・経済学部・国際経済学科での数学補充科目「国際経済とデータ分析」の2021年度上級クラス(登録69名)の事例を基に説明致します。

2.答案用紙をデータ送信するビデオ会議での監視

 まずは答案用紙をデータ送信するビデオ会議での監視を取り上げます。コロナ禍は急にやってきたので不統一なBYOD(Bring Your Own Device)を利用しての実施となる可能性が高く、PCを持っていない受講生、PCにカメラの付いていない受講生、スマホではビデオ会議を利用できない受講生など様々います。そのため、全ての回で監視有の遠隔試験ができる訳では必ずしもありません。その中で図1のように微分の公式等を書かせる場合には、監視なしでは微分の公式を見て書かれる危険性があるため、ビデオ会議等での遠隔監視が必要になります。

図1 使用した解答用紙(微分の公式など知識問題)

 紙に書かせる遠隔試験では先に(少なくとも数日前に)答案用紙をデータ提供しておく必要があります。
 但し自宅等で印刷するにはコンビニ等へ行く必要がある受講生もいるため、今回は白紙答案と同じ内容を白紙に書いてスタートすることも認めました。
 ビデオ会議で開始前に机や壁等をぐるりと映して余計なものを置いたり貼ったりしていないことを確認してから、学生証を顔の横に持ってビデオ会議に映り、本人であることを示してから、イメージ写真としての写真1のように手元をビデオ会議付けたスマホ等で映しながら答えます。スマホをビデオ会議に繋げない受講生には端末室に来てもらい、答案用紙を配って教員の監視下で実施します。

写真1 ビデオ会議で手元を監視し解くイメージ写真

 手元を映させるのは亀田氏の実践報告[1]を参考にしたのですが、データ提出のため、答案を差し替えられる危険性があるからです。答え終わった後、学生証を答案指定部に置いて学生証が入る形で写真2のように答案をスマホ写真で撮り、データ提出させます。LMSでもデータ提出は可能ですし、内部アカウント限定でアンケートフォームでもファイル提出は可能となります。スキャナーのない受講生も多いため、スマホ写真によるスマホ提出を想定して設定はします。

写真2 スマホで学生証とともに答案を撮るイメージ

 スマホ写真ではファイルサイズが大きくなる危険性、光の反射などで肝心な所が不鮮明な可能性、周囲など不要部まで写る可能性もあり、Microsoft Lens等スマホ写真の軽量化・トリミングのできるアプリも合わせて紹介します。特にiPhoneでスマホ写真を撮るとWindowsでは開封困難なHEIC画像形式で提出される危険性も高いが、ファイル形式の対応は説明しても難しい受講生もいるため、アプリ強制しない場合でも写真のアプリ紹介は有益です。
 ビデオ会議では、一度に同時に映せる人数に限りがあることから、人数が多い場合には区分ごとに順番を決めた後、開始時に名乗らせて当人を画角に入れてから行わせます。ZoomやGoogle Meetだと最大49分割まで1モニターで可能ですが、PCの性能次第でこの人数が少なくなるため、開始前に何人まで同時に映せるかの確認が求められます(筆者の体験例だと49分割を設定してもZoomでは35分割、Google Meetでは21分割が限度だったPCがあります)。実施時間が長くかかる場合は、繋ぐビデオ会議を分けることも必要です。また、対面とのハイブリッドの場合、対面での監視は直で行うことから同じ時間に行う場合には録画を想定する訳ですが、そのビデオ会議での録画機能だと画角の区分が必ずしも撮れない場合もあり、その分割された画角を映しているモニター自体を別の方法で録画します。
 同じ時間で行う必要がないオンデマンド受験の場合にはZoomの自動録画機能が有益です。
 なお問題用紙を別途提示する場合にはパスワードをかけて事前公開しておき、そのパスワードを指定時刻で自動投稿するとともに、ビデオ会議で画面提示することが知られています。全員同じビデオ会議に入れられる場合は画面提示だけで構いませんが、人数が多いと一度に監視できる人数は画角に入る人数に限られるため、監視用とは異なるビデオ会議に全員集める必要がある一方で、自動投稿だとその反映が人によって時間差を生む可能性もあり、出遅れた受講生が確認できる手段との位置付けです。パスワードは短過ぎるとパス解析される反面、長過ぎると打ち込みエラーなどトラブルの原因となります。
 ファイルの提出ですが、指定時刻で閉鎖したい場合にはGoogle Classroomを使うと延長受付が認められてしまうため、その場合はGoogle Formsにアドレス収集機能等を付けてファイル提出させます。

3.システムの機能を用いた監視:Quilgo監視編

 続いて、システムの機能を利用した監視の例としてGoogle Formsのタイマー機能アドオンQuilgoの監視機能を利用した監視方法を取り上げます。
 Quilgoは有料機能として(カメラ有を前提とした)顔カメラによるスナップショット監視と、(PC限定で)1スクリーンのスナップショット監視の機能があります。スクリーン監視はAndroidスマホ等では機能しないこともあり、筆者も指摘のようにPCでの受験を徹底させる必要があります[2]。スマホ受験などの中にはスクリーン監視の設定をしてもすり抜けてしまう事例もある一方で、スマホネイティブ世代にとっては禁止が徹底されていないとスマホ受験は当然可能と判断するため、1スクリーンでのPCによる受験を徹底する必要があります。また、自宅受験では他に色々目移りしないか顔カメラ監視も大事になるので、内蔵カメラないしWebカメラを用意した形でのPC受験が求められます。そのため、単独での実施の場合には先ほど同様、ビデオ会議等で机・壁等をぐるりと回して余計なものがないかの確認を先に行ってからの実施となります。したがって、これら条件を満たした場合のみ自宅受験を認めるとともに、満たさない受講生には端末室に来ての受験となります。
 但し、端末室の多くがカメラ監視を想定した作りになっていない関係で、端末室受験の場合には監視は1スクリーンのみとし、後ろなどから目視での監視を加えて対処します。カメラ監視有の設定でもカメラが付いていない場合にはすり抜けてしまう場合がありますが、ないカメラを探して不具合を起こす危険性もありますので、設定上問題は分けます。
 QuilgoアドオンはGoogle Forms用なので、数式入力が限定的でも可能なMicrosoft Formsと違い、選択式以外は語句や数値・短文入力、長文入力等が答え方となります。したがって、図2のような微分の計算等では答える箇所を指定して数値限定とします。

図2 問題例(番号を指定して半角数値で解答)

 数値のみの解答のため、解答設定を組んでおき、その場で正誤判定をしようと思えば設定できます。
 Quilgoでの監視は写真3のようなスナップショットを並べての形で表示されるので、怪しげな箇所を見て選んで確認できます。例えば写真3ではカメラでのスナップショットからスマホを勝手に見ている様子を再現したイメージ写真ですが、他にも横を向いたりカメラから見切れたり、スクリーンにLINEやカンニングペーパーなど他のものを映したりした場合も定期的かつ頻繁に撮る写真で確認できます。

写真3 スナップショットによる監視のイメージ写真
 全て動画で撮って残す場合と違い、スナップショットでは怪しい行動の確認がし易いので、人数が増えた場合にも検証がし易くなります。動画だとファイルサイズも大きくなりますが、写真を撮り続けるのであればファイルサイズも動画程大きくはなりません。開始時に学生証を顔の横に持ってスタートさせることで、その人が本当の受講生かも判断できます。
 スナップショットの技術的な問題点としては、たまたま決定的瞬間を撮り損ねるという可能性がある、という部分があります。また、顔カメラの部分はカメラ有が前提で、スクリーン監視は1スクリーンのPCが前提なので、受講生全員が内蔵カメラを持ったPCを有しているとは限りません。端末室での目視による監視とハイブリッドでの試験実施となります。
 LMSによるオンラインテストでも類似の機能を持つ事例もあり得ますが、QuilgoアドオンはGoogle Formsの中で内部アカウントログイン制限等の機能を一部無効化するので、個人のアカウントでも(有料料金で)機能遜色なく利用できるので、導入したLMSに依存することなく実施できます。最近、Force Trackingという設定したスナップショット監視をスルーできない設定も組めるようになりました。

4.まとめと残された問題

 本来、遠隔試験での実力評価には本人確認のための内部アカウント制限と時間制限、問題のランダム化が使われてきました。筆者は、選択肢のランダム化と出題順のランダム化はできても問題群のランダム化ができないGoogle Formsで問題群のランダム化を行う方法として(Microsoft Formsを間に噛ませた)「運命の扉」方式の改良版を紹介しています[2]。しかし、内部アカウント制限では本人がアカウントを貸し出す替え玉受験を完全には防げませんし、参照や相談の危険性は依然として残ります。
 そこで、自宅受験の可能性を含めた遠隔試験における監視の可能性を検討する必要がありますが、カメラ付き1スクリーンのPCを必ずしも持っていない場合や、スマホ等でビデオ会議を繋ぐことが(技術的にできないだけでなくパケット上限や当人の能力的に)できない場合もあります。全員が自宅等で条件を満たした受験が可能とは限りません。そのため、端末室PCを借りた上でのハイブリッドでの遠隔試験実施が必要になる事態も考えられます。しかし、技術的には遠隔試験の監視は可能と考えられます。後は監視可能な人数規模等の問題や、接続が切れた場合等における追試の確保等が考えられます。
 議論を終えるに当たり、同僚や関係のFacebookグループ等各方面から御指摘頂いた法的な問題点も検討が必要です。今回、本稿執筆で倫理審査を受けられていないので、写真等は筆者の再現を利用しました。顔写真等を記録する観点では個人情報保護等との整合性が求められます。特に、監視記録が必ず残る形でしか受験できず、その遠隔試験が単位認定上必須である場合等に、受講生への記録されることへの拒否権が保障されない等の問題が残されます。その意味でも、端末室等での対面受験を含むハイブリッド実施も(記録を残す同意が取れない受講生のため)行う必要が出てき得ます。

謝辞

 本稿は大学改革支援・学位授与機構での2022年2月14日の報告を基にしています。土屋俊様をはじめ関係の皆様にお礼申し上げます。また、本稿の執筆に際し、専修大学経済学部の松井暁教授のコメントを参考にした部分、およびGoogle for Economics Facebookグループと、「新型コロナのインパクトを受け、大学教員は何をすべきか、何をしたいかについて知恵と情報を共有するグループ」内のコメントを参考にした部分があります。ここに記して御礼申し上げます。なお、あり得るべき誤りは全て筆者に帰します。

参考文献
[1] 亀田真澄(2021)「話題提供: 大学初年次科目のCBTの実践報告」日本数式処理学会第15期第2回教育分科会報告
[2] 小川健(2022)「アンケートフォームを用いたオンラインテストとその特性比較」専修大学 情報科学研究所 情報科学研究 第42巻 pp.1-26.

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