事業活動報告 No.2
大学職員情報化研究講習のICT活用コースは、「ニューノーマル社会を見据えたDX化に向けた取組みの考え方」をメインテーマとして掲げ、2021年12月22日(水)、Zoom会議室によるオンラインで開催し、38大学、1短期大学、5賛助会員から68名の参加があった。冒頭に、木村増夫運営委員長(上智学院)から、開会の挨拶とイントロダクションを兼ねて、本協会の役割や講習会開催の趣旨が説明された。
文部科学省 高等教育局 高等教育企画課 課長補佐 橋 浩太朗 氏
令和3年度「全国学生調査」は、「学修者本位の教育への転換を目指す取組の一環」として行うものであり、特に、「各大学が自大学の学生の実態や意識を踏まえた教育改善に活用すること」や「学生一人ひとりにとって、これまでの学びを振り返ることで今後の学修や大学生活をより充実したものにしてもらうこと」を目的として実施することにしている。今回は、調査対象を大学学部2年生と最終学年、短期大学は最終学年のみとしてWeb調査を行うことにした。
調査結果については、全体の集計結果や分野別・規模別の集計を文部科学省のホームページで公表するほか、参加した各大学には当該大学に在籍する学生の回答一覧と集計結果をフィードバックする。
設問項目では、今回の試行調査では学部2年生と最終学年の学生を対象としているため、「これまでの大学での学び全体を振り返って」の設問を新規に設け、「大学での学びによる自分自身の成長の実感」や「卒業後も主体的に学び続けていくことの大切さ」をヒアリングする項目を設定していること、コロナ禍において行われた『同時双方向型』の授業や『オンデマンド型』の授業の良い点をヒアリングできるように検討している。
最後に、前回の試行実施(令和元年度全国学生調査)の調査結果の説明があり、有用な教育上の経験としては、「研究室・ゼミの少人数教育」が69%、「図書館等の大学施設を活用した学修」が73%と高評価を得る一方、「大学教育は役に立っているのか」の設問については、「専門分野に関する知識、理解」「将来の仕事に関連しうる知識・技能」「幅広い知識、ものの見方」などが8割以上の学生が役に立っていると回答しているのに対し、「外国語を使う力(30%)」「統計数理の知識、技能(45%)」などが低い結果となり、各大学の教育改善やカリキュラム改革への課題が指摘された。
福岡工業大学 情報基盤センター・情報企画課 課長 藤原 昭二 氏
コロナ禍により、2020年度にあらゆる面でのDXが急加速し、ニューノーマル社会への変容を見据え、福岡工業大学DX(FIT−DX)に取り組むことになった。さらに、2022年度からの第9次マスタープラン(中期経営計画)では、イノベーション・コモンズ(共創拠点)への進化を目指し、DXをコアに「多様な学生・研究者や異なる研究分野の『共創』、地域・産業界との『共創』の促進等により、教育研究の高度化・多様化・国際化、地域連携による地方創成や新事業・新産業の創出に貢献することを目指す」ことになった。具体的には、「教育DX」による遠隔授業の知見を活かした授業のデジタル化による授業運営の効率化、(Web型学修支援システム、双方向型学習ポートフォリオ、学生用スマートフォンアプリ、授業動画配信システム、オンラインライブ講義・会議システムの整備)、「研究DX」による研究データの管理・利活用(学術機関リポジトリ、文献データベース、クラウドストレージ)、「働き方DX」によるペーパレス、業務のオンライン化、クラウド活用を目指して、デジタイゼーション⇒デジタライゼーション⇒デジタルトランスフォーメーションの3段階で進めている。その推進には理事長自ら学修者本位の教育の転換にDXが必要との主張を展開し、組織内の共感を得るように努めている。
成果としては、DXにより教育・研究・働き方を高度化し、「教育効果を最大化」するために必要なエナジーが生み出され、それが大学改革とその改善をなす原動力となり、教職員一人ひとりが自分事として動いた結果の積み重ねが、高水準の外部評価と就職実績につながっている。
関西大学 学長補佐 岡田 忠克 氏
関西大学では、中長期的ビジョン「Kandai Vision 150」に示した「考動力」や「革新力」を備えた人材を育成するため、・学修者が主体的に学ぶ教育方法への転換と・大学が学生の能動的な学修を促進する場となるよう学修環境の充実が必要とのことから、BYOD(Bring Your Own Device)の導入を決定している。
2018年度からは、学生がノートパソコンを学内に持参して学ぶBYODを推奨し、Wi-Fi等の学習環境を整備している。全教室への無線LAN拡充に伴って、学内の情報処理教室等に配備されているパソコンの縮小を段階的に実施して経費削減を図り、経費の一部分を学生が無償で利用できるソフトウェアの充実等に活用している。
文部科学省「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」に採択されたことを契機に、「関西大学DX推進計画」を策定、「学生の学習機会の制限・制約バリアの軽減・除去」「学修成果の可視化」「DX推進に対応したインフラ、環境整備」「学内業務の効率化」の4点を中心に全学推進体制で実現に取り組んでいる。
コロナ渦でのオンラインによる学びについては、授業運営上の課題分析後、関大LMS(Learning Management System)の大幅な機能強化を図り、「学修成果の可視化」に力を入れ、学生一人ひとりが学習履歴・習熟度をつぶさに把握できる仕組みを構築した。従来に比較して動画容量や視聴者数制限が緩和された講義収録・配信システム「Panopto(パノプト)」も導入した。このシステムは、様々なメリットがあり、AIを利用した自動字幕機能もその一つである。関大LMSと連携して視聴ログを収集し、学生別やシーン別の再生回数を集計解析できるので、教員は授業改善や反転授業への活用も可能となり、学生は資料の画面と教員の授業画面を同時に見ることができ、自分のペースで効果的に学べるようなった。また、図書館の契約電子コンテンツへのリモートアクセスを可能とするクラウド版Proxy ServerサービスEzproxyも導入した旨の報告があった。
さらに、キャリアポートフォリオの構築として、・キャリア支援システム「KICSS」を拡充しLMSと連携、・関大オリジナルの全学的キャリア教育プログラム『関大版ハタチのトビラ』の開発、・ハイブリッド型キャリア・就職支援体制の構築に向けたオンラインソロワークブースの設置等の取組みにより、入試から卒業・就職までのキャリア・ディベロップメント・システムを構築し、学生一人ひとりに最適化したキャリアサポートが可能としている。
東京女子医科大学 統合教育学修センター 佐藤 梓 氏
東京女子医科大学では、中長期ビジョン「ビジョン2020」の基本方針に沿って、全学的にDXを推進している。新校舎棟を含めた教育環境(収録システム等)を整備するとともに、・LMSの全学導入・DX統合教育プラットフォーム(DXプラットフォーム)の構築・Learning Analyticsプラットフォーム(LAプラットフォーム)の開発の3点を実現することによって、医学・看護学教育の高度化を図る事業を、令和2年度大学改革推進等補助金「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン(Plus-DX)」に申請し、採択されている。
コロナ禍で、全学生がオンデマンドで学修できる環境や教務システム、アンケートシステム、Web会議システムは整備していたものの、学修を管理するLMSシステムが未導入だった。そこで、LMSの導入を機に、上述の各種機能を一元化し、学修支援の強化を図っている。
まずは、LMSと連携し、「教育・研究・臨床」の各データ・コンテンツを統合・活用した「三位一体」のDXプラットフォームを構築し、全学的なアクセスを可能とすることにより、研究・学会・臨床の各活動における活用やフィードバック、教職員のFD・SDへの活用などを実現する。また、アバターロボットやメタバースを用いた遠隔国際交流システムや手術手技評価システムも構築し、DX基盤として活用している。
さらに、LMS及びDXプラットフォームの学修者データや学修行動履歴を収集し、統合解析することによって、一人ひとりの学修成果を可視化し、得られた結果を学生・教職員に一元的に提示するLAプラットフォームも構築する。これにより、学生には振り返りによる主体性の向上、目標設定への活用、ディプロマポリシーの確認、ディプロマサプリメントの出力等が可能となり、また、教員には授業支援・教育改善に資する情報の提示が可能となる旨の報告があった。
上記の取組みの事業評価(教育効果)は、学長や学部長、教育の関連部門の担当者に加え、教学IRやFD・SDの担当者から構成される「DX推進チーム」によって教職協働体制で行われる。上述の・〜・の3つの取組みと事業評価により、学生と教員が相互に各種情報への一元的・網羅的なアクセス・フィードバックが可能となり、学修スキル・教育スキルの向上や継続した授業改善のPDCAの確立に資することで、持続可能な教育の高度化に繋げていく、とのことだった。解析事例の紹介もあり、今後の事業展開に注目が集まっている旨の報告があった。
京都産業大学 学長室 課長 奥村 靖之 氏
コロナ対応を進める中で、遠隔授業を始めとした教育におけるデジタル化の有効性を全構成員が認識する機会を得て、学内には、「新しく備えたデジタル機器をさらに有効活用したい」、「デジタル技術の利点を踏まえた新しい授業を行いたい」という挑戦的な意識が芽生えつつあることが調査から判明した。大学改革の視点からも、急速な社会変革に対応すべく国家レベルで教育の質向上を目指したDX化への機運が高まる中、社会の期待に応え続ける大学となるためには、過去(コロナ前)に戻るのではなく、デジタルを教育に積極活用する未来へ進むべきであるとの考えがあった。そこで、教学マネジメント会議のもと、教職協働で検討と検証を重ね、学生の成長に結びつく学習者本位の教育の実現を目指し、全学体制でDX推進計画を進めることとなった。このようにして策定された計画は単なるDXに留まらず「本学の教育の在り方そのもの」と読み替えてもよい旨の報告があった。
計画の中で大きな課題となったのは、如何に教育効果を可視化し、検証するかであった。学内には膨大な量のデータが存在するが、当時、これらは主管部署作業ベースに最適化された形で点在し、分析者は手作業によるデータ収集やクロス集計等に四苦八苦していた。そのため統合型データベースとBIツールの導入、講習等が不可欠な状況であったが、同校の方向性に一致したDX補助事業の前倒し実施が公募され、幸いにも採択を受けたことから、実現に向けて拍車をかけることができ、同校のDXは山をやっと、登り始めた段階にある。今後も「デジタル本位」に陥ることなく、「学生が成長を実感できる大学」「学生の成長を最大化できる大学」を実現するためのDXという考えのもと、弛まぬ努力を続けたい、とのことであった。
東京理科大学学術情報システム部情報システム課 課長 松田 大 氏
東京理科大学におけるこれまでの学修環境整備と学生の個々の状況に応じたフィードバックシステムに関して報告があった。
コロナ禍以前から対面授業を前提としながらも、アクティブ・ラーニングや反転授業を実施していた。これは2014年度に採択されたAP事業(大学教育再生加速プログラム)に基づいた「学修ポートフォリオシステム」による学修成果の可視化、「授業収録配信システム」によるアクティブ・ラーニングの促進に即した授業である。2020年度にコロナ禍でオンラインを前提とした授業が必要となり、リアルタイム授業はZoomで、オンデマンド授業はLETUS(同校のLMS)・Boxで実施した。「予習・復習が容易である」などの効果がある一方で、「教員からのフィードバックが十分でない」「質問がしにくい」などの改善点が見つかり、LETUS機能の活用や無線LANの整備などを続けている。LMSも同時アクセス数の上限を1,200から10,000まで増強しており、現在は安定的に運用できている。また、教室には固定のカメラ・マイクを設置するとともに、可搬型のカメラ・マイクも併せて用意することで2021年度からの全授業を、原則「ハイフレックス型」授業へと発展させた。
教育DXの柱は、「教育プログラム改革」、「教育手法の開発」、「ハイフレックス型授業の実現に向けた環境整備」としている。「教育手法の開発」では、個別最適化分析をするために、学修到達度測定Webテストと学修支援システムを新規開発している。学生はLMSを通じて学修到達度測定Webテストを受験し、大学は受験データと全教学データ(教務関連情報、学修ポートフォリオ、留学の有無、進路等)とを統合し、学修支援システムで機械学習による分析を行い、学生個々の状況に応じたフィードバック・アドバイスをする仕組みである。
今後は、従来のタスクフォースチームから組織化を図り、教育とテクノロジーを組み合わせて、教育DX・研究DX・管理DXに取り組むことで学修活動の効果の最大化を図るとのことである。
早稲田大学 人事部 業務構造改革担当 副部長 神馬 豊彦 氏
早稲田大学における職員業務構造改革として、「業務のやり方や組織のあり方を見直し、業務の効率化、大学に求められる機能の実現」を目的に、全学的にRPA(ロボット化)を活用した共通業務の集中化ならびに既存組織の再編を進める取組みについて報告があった。2018年度から経理処理部門へのRPA導入を進め、全学への展開を開始した。単にRPAを導入するだけでなく、RPA活用基盤の構築・強化を目的に、RPA運営推進モデルを構築し、RPA推進体制による運用を行っている。(株)早稲田大学アカデミックソリューションとも連携して、RPAの開発を行っている。ガバナンスとして、無秩序にロボットを作成(野良ロボット)させないために、ロボットの新規開発、変更、複製の3パターンを定義し、申請・開発・稼働・廃止までのライフサイクルを定義し、運用している。
また、RPA人材育成においては、教育・管理方針を策定し、利用部門の管理者・ロボット利用者・開発者ごとに必要なRPA知識・スキルを向上させるためのトレーニング・研修を実施している。
さらに、勘定科目類推AIとRPAを連携させることで、支払依頼書作成の一部自動化を2021年度より開始し、記票の効率化を進めている。2018年よりRPAの全学展開を実施し、経理処理の業務の効率化等、54業務(開発チームによる開発)、20業務(利用チームによる開発)に適用して貢献している。
今後は、経理処理における電子申請化を進め、業務担当者自身による電子化・自動化を推進し、スピード感をもって、一人ひとりのニーズや状況にあった情報やサービスの提供を可能とし、教育・研究・学生支援の向上を図る予定である旨の報告があった。
ICT活用コースは、昨年度に引き続き、Zoomによるオンラインで開催された。依然、コロナ禍の収束が見通せない状況下で、私立大学も例外なく社会の変化に即応したDX化が期待されており、今回の先進的な取組みの事例報告は、多くの大学に、重要な視点・気付きを与える貴重な機会となった。
開催後に寄せられたアンケートでは、情報提供の内容について、高い評価をいただき、「時間が短すぎる」「次回も同じテーマでの開催を希望する」など、本テーマに対する関心の高さが示された。オンライン開催については、「参加しやすい」とのメリットの声もあったが、その一方で「他大学や参加者間のネットワーク形成の工夫をして欲しい」旨のご要望もいただいた。他にも、開催時期についてのご要望・ご指摘は、今後の改善に活用させていただきたい。なお、次年度の大学職員情報化研究講習会は11月中旬にオンラインでの開催を計画している。
最後に、今回のICT活用コースに寄せられたアンケートの「声」(抜粋)を紹介し、本報告書のまとめとします。
文責:大学職員情報化研修講習会運営委員会 |